千葉県印西市は「データセンター銀座」と呼ばれる。下総台地の強固な地盤、ニュータウン開発で先行整備された電力と通信のインフラ、都心から約40kmという距離が評価され、2010年代後半以降に国内最大級の集積地となった。市は固定資産税の増収を財源に、学校給食費の無償化などの住民還元を進めてきた。

その印西市で2025年、北総線千葉ニュータウン中央駅前のデータセンター計画に住民が反対し、市長も市議会も否定的な見解を示すという局面が現れた。それでも計画は止まらず、2026年には訴訟と住民監査請求に発展している。

本稿では、市が公表した予算・決算と会見記録、地価公示などを手がかりに、住宅市場への影響を整理する。私たちが住まいを選ぶとき、「税収で潤う街」の裏側で何が起きているかを知る材料としたい。

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固定資産税は8年で2.3倍。市税の6割超を占める

印西市の固定資産税は、2018(平成30)年度の当初予算で約91億円だった。2026(令和8)年度の当初予算では約209億円と、8年で2.3倍に増えている。決算ベースでも2024年度の収入済額は約165億円に達した。

固定資産税は8年で2.3倍。市税の6割超を占める

2026年度の市税は前年度比15.9%増の約332億円で、その6割超を固定資産税が占める。市は当初予算の概要で、市税は「固定資産税を主として増収見込み」と説明している。

市はデータセンターごとの内訳を公表しておらず、当初予算の概要でも土地・家屋・償却資産の別の推移までは示されていない。ただ、藤代健吾市長は2025年4月の記者会見で、固定資産税収入などの財源確保のためデータセンターの進出は「ありがたいことではある」と述べている。市の説明からは、歳入の伸びを企業の設備が支えていることがうかがえる。

給食費無償化と医療費助成。還元は子育て世代に集中する

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増えた税収は、どこに使われているのか。象徴的なのが2024年9月に始まった市立小中学校の給食費無償化である。子ども医療費の助成も、2023年8月から高校3年生相当まで広げている。なお、2026年4月からは国が公立小学校の給食費を支援する制度(児童1人あたり月5,200円を基準)が全国で始まった。印西市の無償化はこれに先行したもので、国の支援の対象外である中学校の給食費も含んでいる。

こうした施策も追い風となり、印西市の人口は増え続け、2026年8月末で11万2,843人となっている。ただし、市の2025年6月の説明会資料では「近年増加率は鈍化傾向」とされ、直近1年の増加数は500人程度だった。市長も2026年5月の記者会見で「12万人を少し超えたぐらいに落ち着くのではないか」と述べており、住宅の適地が限られる中で、人口増は今後さらに鈍化する見通しだ。

市内に住む筆者の知人で、小学生2人を育てる40代の公務員は「毎月、ざっくり1万円近くあった給食費の引き落としが消えたのは嬉しいです。ただ、周りでデータセンターのおかげだと話す人はいません」と語る。千葉ニュータウン中央駅近くのマンションに住む別の知人は「税収が潤っているのは、街の変化より子どもの環境で感じやすい」と言う。

駅前計画への意見の9割が反対。市長も議会も止められず

千葉ニュータウン中央駅前千葉ニュータウン中央駅前

2025年4月3日、千葉ニュータウン中央駅北口にある大型商業施設の東側に、地上6階建て・高さ52.7m・延べ床面積約3万m2のデータセンター建設を知らせる掲示板が立った。敷地は約1万m2、用途地域は商業地域だ。それまでのデータセンターは生活圏から離れた場所に立地することが多かったが、この計画地は駅前の一等地にあり、隣接するマンションと向き合う。

市が同月18日に始めた意見募集には172件(2025年6月17日時点)が寄せられ、駅周辺のデータセンター整備に関する意見の9割超が否定的だった。市長は計画の公表直後からX(旧Twitter)で反対の立場を示し、2025年6月1日に100人以上が集まった住民集会にも出席して「まちづくりの観点からも、やはり違うのではないか」と語った。

同年8月29日には市議会が駅周辺を除いた場所への整備を求める決議を全会一致で可決し、住民団体は同日、署名活動の中間報告として8,455筆の署名を市長に手渡した。署名はその後1万3,000筆を超え、同年10月に改めて市長へ提出されている。

それでも計画は進んだ。計画地にはタウンセンター地区の地区計画も定められていたが、建てられない建築物として挙げられていたのは工場や倉庫業を営む倉庫などで、データセンターは名指しされていなかった。商業地域では事務所を建てることができ、市はデータセンターを事務所等として扱い、建設を止める法的な権限はなかったとの立場を示している。当初は反対していた市長も、同年12月21日の住民集会で「行政には(判断の)中立性が求められる」「白紙撤回させることはやはり難しい」と説明し、事実上の容認に転じた。

事業者は建築確認の申請で建物の用途を「その他(データセンター)」とし、2026年1月に指定確認検査機関から建築確認を受けた。これに対し、計画地に隣接するマンションの住民10人は同年3月、データセンターは地区計画で建築が禁じられている工場や倉庫に当たるとして、建築確認の取り消しを求める訴訟を千葉地方裁判所に起こした。なお、用途の扱いは係争中である。

約120人の住民は同年5月、計画を容認した市の対応は違法だとして住民監査請求も行った。請求は7月に棄却され、住民7人は8月、市長に損害賠償を請求するよう市に求める住民訴訟を起こしている。

雇用は限定的だが地価は上昇。住宅市場への影響は

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データセンターは、税収の割に雇用をあまり生まない。市の経済振興課は2023年の取材に対し、雇用の創出にはつながりにくいことを認めたうえで、増えた固定資産税を教育や子育て、インフラ整備の財源に充てていると説明していた。

一方、地価は上がっている。2026年の地価公示で、印西市の住宅地は平均48,400円/m2で前年比4.9%上昇し、千葉県平均の4.6%を上回った。商業地は1.6%の上昇にとどまる半面、工業地は13.5%上昇した。

ただし、市内の工業地の標準地は1地点しかない。国土交通省は全国の工業地の上昇について、好調な電子商取引(eコマース)市場による大型物流施設用地などへの需要を背景に挙げている。印西市ではデータセンター用地への需要も背景にあると見られるが、1地点の変動率だけで断定はできない。千葉ニュータウン中央駅周辺の中古マンションは、LIFULL HOME'Sの掲載物件の集計で平均3,046万円(2026年10月時点)である。

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隣接物件では日照・眺望への懸念も。購入時の注意点

とはいえ、駅前の計画地に隣接する住戸では事情が異なる。意見募集には「隣のマンションはほぼ全世帯がDCビルの『影』となる」「景観等の悪化により不動産価値が下がる懸念がある」という声が寄せられた。市全体の地価上昇と、特定の住戸が受ける日照や眺望の影響は分けて考える必要がある。

住まいを選ぶ際は、市全体の地価動向だけでなく、候補物件の周辺にどのような用途地域が指定されているかを確認したい。商業地域や工業地域に隣接する物件では、将来データセンターのような大型施設が建ち、日照や眺望が大きく変わる可能性がある。現地を訪れた際には、近くに空き地や平面駐車場などまとまった未利用地がないかも見ておくとよいだろう。

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地区計画で名指し規制へ。都市計画の書き換えが始まった

市は2025年6月の説明会で、市単独では実現できない国の建築基準法の改正を含め、用途地域の見直し、開発指導要綱の改定、まちづくり条例の制定、地区計画の見直しという5つの選択肢を示した。そのうえで、建築条例に定めれば建築基準法上の制限として効力を持つ地区計画の見直しを軸に据えた。

実際、千葉ニュータウン中央駅の西約400mにある武西学園台商業・業務施設地区の地区計画では、建てられない建築物として「事務所(データセンターの用に供するものに限る。)」を明記している。印西牧の原駅周辺の印西牧の原東地区でも、2026年8月4日に地区計画が変更され、建てられない建築物に同じ「事務所(データセンターの用に供するものに限る。)」が加わった。市は、この制限に建築基準法上の効力を持たせるため、「印西市地区計画の区域内における建築物の制限に関する条例」の改正案(議案第3号)を同年8月28日に市議会へ提出した。9月29日に可決されており、2027年1月1日に施行される。

印西市の例が示すように、用途地域だけでは建てられる施設を十分に制限できない場合がある。物件を検討する際は、自治体の都市計画図で用途地域と併せて地区計画の有無と内容を確認し、データセンターなど特定の用途が制限されているかを見ておきたい。自治体が進めている規制の見直しや、議会に提出された議案にも目を通しておくと、将来の街並みを見通す手がかりになる。