「長期優良住宅」を中古住宅でも。株式会社HRが挑む、性能向上リノベ
長く安心して暮らせる住宅として注目されている「長期優良住宅」。長期にわたり良好な状態で使用できるよう、住宅の性能や維持保全の計画などについて一定の基準を満たし、所管行政庁から認定を受けた住宅である。既存住宅についても、増築・改築によって認定を取得する制度が設けられている。
しかし、実際に中古住宅を改修して長期優良住宅の認定を取得する例は少なく、2026年3月現在、長期優良住宅は累計約190万戸の認定がある中、増築・改築での認定はわずか2,000戸ほどとなっている(国土交通省資料より)。
このような状況の中、中古一戸建を買い取り、リノベーションを行い再販する企業があるというので取材にうかがった。それが、愛媛県の株式会社HR(以下HR)だ。同社が現在取り組んでいるのは、既存住宅を大幅に改修し、長期優良住宅の認定取得を目指すプロジェクトだ。
「結論を言うと、もう最初はノリなんですけど」と笑う同社の三好社長。しかし、取り組みの背景には、中古住宅のリノベーションに対する問題意識があった。
同社はこれまで、500万円程度の予算で住宅設備などを新しくして再販する事業を行ってきた。しかし、「住宅設備は新しくなっているものの、一軒家ベースで言うと、やっぱりちょっと古いところが残ってしまう」と感じていたという。そこで改修予算を徐々に引き上げ、今回の物件では4倍以上を投じる計画となった。
目指すのは、単に“きれいな中古住宅”ではない。断熱や耐震など、目に見えない部分まで新築住宅に近い水準へ引き上げた住宅である。“中古だから古い”というイメージを覆すことが、今回の挑戦の出発点となった。
見た目だけではなく、見えない部分まで新築に近づける
今回の改修では、住宅の見た目だけでなく、性能面にも大きく手を入れる。窓の交換、壁の断熱材の更新、床断熱の強化、屋根断熱などを行い、さらに耐震性や劣化対策についても確認する予定だ。
なぜ、そこまで手をかけるのか。
「中古住宅で、お客様が懸念されるのは、改修した家を見たとしても、『中古だからどうせ家の中はそれなりでしょ』ってことですよね。これは当たり前だと思うんですよ。ただ、これを、見えないところまで新築と同じ基準に持っていく。リノベーションを行う際には、長期優良住宅認定を取得するのがベストだと思います」と三好社長は話す。
HRが目指しているのは、新築住宅を購入しようとしている人にも選択肢に入れてもらえる中古住宅である。「新築と変わらないね。中身を見たら、こっちのほうがいい家だよ」という反応を期待しているという。
もちろん、長期優良住宅の認定だけが高性能住宅の条件ではない。ただ、認定を取得することで、耐震性や省エネ性など一定の基準を満たしていることを客観的に示すことができる。三好社長も「長期優良住宅認定を取得していることは、お客様に対して伝わるポイント。なんとなく安心、安全かと思っていただけるのではないでしょうか」と話す。
では、なぜこうした取り組みは広がっていないのか。実際に認定取得を目指したHRの現場には、いくつもの壁があった。
「前例がない」と、行政も手探り。制度と現場の間にある壁
今回、HRが長期優良住宅の認定取得を目指すうえで、大きな壁となったのが行政とのやり取りだった。
まず押さえておきたいのは、行政がこの取り組みに後ろ向きだったという話ではない。むしろ、前例がほとんどないため、行政側も手探りで対応しているというのが実情だ。
HRが行政に確認・独自調査をしたところ、今回手がける松山市の物件は、事業者が買い取った住宅を改修し、認定を取得したうえで販売するケースとしては市内初になるという。
例えば、必要書類についても「この書類が必要です」と明確に示されるのではなく、「多分この書類が必要なのではないでしょうか」というやり取りが続いたという。行政側も、これまで経験したことのない申請に対応しているためである。
申請は通常1ヶ月半ほどで下りる想定だったが、取材時点では2ヶ月半が経過しても認定が下りていなかった。
今回のプロジェクトの苦労について「行政とのやり取りと、あとは建築士さんとのすり合わせ。もうここに尽きると思います」と三好社長は振り返る。
制度として、既存住宅の認定制度は存在する。一方で、現場で使える事例やノウハウの蓄積がまだ十分ではないということが、三好社長の話から実感できた。
建築士3人が断った理由。「新築より、かなりやることが多い」
行政とのやり取りのほかに、もう一つの大きな壁となったのが、先の三好社長のコメントに出てきた、実務を担う建築士の問題である。
HRでは、今回の計画を進めるにあたり、最初に3人の建築士に相談した。しかし、3人すべてに断られたという。
「『手間が多いからやりたくない』、もしくは『多分やったことがある人はいないのではないか』という理由で断られました」(三好社長)
建築士は、認定を取得できるかどうかも分からないなかで、膨大な作業を担うことになる。そのため、3人から断られたのである。最終的に引き受けてくれたのは、長年付き合いのある4人目に相談した建築士だった。「そこまで言うのだったら、やってみようか」と協力してくれたという。
中古住宅の場合、現在の建物がどのような性能なのかを確認するところから始めなければならない。断熱や耐震について現状を把握し、それを踏まえて改修内容を検討し、必要な計算を行い、書類を整える。新築のように、最初から設計情報がそろっているわけではないからだ。
今回、4人目の建築士が引き受けることができた背景には、建物の構造も関係していた。対象住宅は大手ハウスメーカーのツーバイシックス工法で、建築士自身がツーバイ工法の経験を多数持っていた。「そのハウスメーカーのツーバイ工法であれば、これをこうすればいけるのではないか、という計算が早いタイミングでついた」という。
つまり、技術的に不可能だから進まないのではない。経験者が少なく、手間とリスクが大きいことも、既存住宅の長期優良住宅認定が広がりにくい理由の一つなのである。
「きれいにする」から「新築に近い性能」へ。空き家活用の新たな選択肢
それでもHRが挑戦するのは、中古住宅の可能性をもっと広げたいからである。
一般的な中古住宅の再販では、住宅設備を新しくしたり、内装をきれいにしたりすることで、購入しやすい住宅に再生する方法がある。一方、HRが目指しているのは、そこからさらに一歩踏み込んだ住宅だ。
「既存住宅の再販では、内装や設備をきれいにすることが中心になるケースもあります。私たちはそこからもう一歩踏み込み、断熱性や耐震性など、完成後には見えなくなる部分まで性能を高めたいと考えています。今回手掛ける長期優良住宅の認定取得を目指す家と同じような基準で、今後も家をつくっていこうと予定しています」
まず安心・安全を最大限に担保し、「性能が新築とほぼ変わらないという基準をまずつくって、その上できれいな家をつくる」。これがHRの考え方である。
既存住宅を活用するメリットは、建物の基礎や骨組みを生かせることにもある。三好社長によれば、基礎・骨組みだけでも新築では約500万円かかるという。その部分を既存住宅から生かせれば、高性能な住宅でありながら、新築よりリーズナブルに提供できる可能性がある。
これは空き家問題を考えるうえでも重要な視点だ。立地条件がよく、まだ活用できる住宅を壊してしまうのではなく、性能を高めて次の住み手につなげる。そうした住宅が増えれば、中古住宅の価値そのものを見直すきっかけにもなるだろう。
中古住宅に「新たな基準」を。市場が広がれば、空き家問題の解決にも
今回の取り組みは、HRにとって一棟限りの挑戦ではない。長期優良住宅の認定取得を目指すのは今回が初めてだが、今後も同様の住宅をつくることを考えているという。
もっとも、三好社長は「今後もどんどんやる」と単純に言い切るわけではない。「これはやっぱり、市場の評価を見てどうするかという感じです」と話す。つまり、高性能な中古住宅に対して購入者がどのような価値を感じるのかを見ながら、次の展開を考えていく方針だ。
「手がかかることをやっていますけど、結局は自分が一番楽をしていると思っているんです。リノベーションで長期優良住宅の認定取得を目指すことで、競合が少ない、新たな市場をつくる取り組みをしていると考えています」
新築住宅と、一般的な中古住宅。その間には、これまで十分に選択肢として認識されてこなかった領域がある。既存住宅を活用しながら、新築に近い性能と品質を持つ住宅を提供できれば、住宅購入者にとって新たな選択肢となるだろう。
そのためには、実際に認定取得に取り組む事業者が増え、行政や建築士、性能評価などに関するノウハウが蓄積されていくことが欠かせない。今回のHRの挑戦は、まさにその最初の一歩といえる。
「中古住宅に対する新しい基準」が市場に根付けば、性能の高い住宅を新築だけに求める必要はなくなる。空き家の再活用や既存住宅の流通促進を通じて、住宅ストックを有効に活用できる可能性がある。
まだ道半ばの取り組みではある。しかし、「中古だから仕方がない」から、「中古だからこそ選びたい」へ。HRが挑戦する性能向上リノベーションは、これからの中古住宅市場を変える可能性を秘めているのではないだろうか。
■取材協力/株式会社HR
https://hr-3.co.jp/









