古くから栄えた中之島地区

大阪市内には淀川を始め、その支流が堂島川、土佐堀川、安治川、道頓堀川などと名を変えて入り組んで流れている。そのためまちには多くの橋がかけられており、古くから「八百八橋」と呼ばれてきた。江戸の八百八町や京都の八百八寺と並んで称されたものだが、この水運の利があったからこそ、商売の町として栄えてきたのだ。
中之島は現在の大阪市北区にあり、堂島川と土佐堀川に挟まれた、約72ヘクタールほどの細長い中州。江戸時代の初め、淀屋常安により開発が始まった。淀屋は主に米を商う豪商で、「淀屋橋」の地名にも名を遺している。
堂島川や土佐堀川は淀川の支流であり、京などの大都市とつながっていたので、中之島は水利に優れ、商売をするに良い場所であった。そのため、各地の大名が年貢米や特産物を販売する「蔵屋敷」をこぞって設置したから、大坂の中心地として栄えたのだ。
明治時代以降になると、蔵屋敷は商人に払い下げられたから、商売の中心地としての役割は変わらなかったが、さらに大阪市中央公会堂や図書館、大阪帝国大学なども建設され、文化の発信地としての様相も呈してくる。

1904年に開館した大阪府立中之島図書館の外観は当時はまだ珍しい、ルネッサンス様式だ1904年に開館した大阪府立中之島図書館の外観は当時はまだ珍しい、ルネッサンス様式だ

毎週土曜日に開催されるガイドツアー

エントランスホールに立つガイドの平井裕梨さん。正面にある銅板が建館寄付記だエントランスホールに立つガイドの平井裕梨さん。正面にある銅板が建館寄付記だ

大阪文化の象徴のひとつといえる大阪府立中之島図書館では、毎週土曜日の11時30分からと14時からの2回、約45分程度のガイドツアーが開催されている。参加費用は一人500円。予約は不要で各回先着15名が参加でき、建物の説明はもちろん、歴史的経緯や開館当時の様子なども教えてくれるというので、参加してきた。
集合場所は本館2階にあるライブラリーショップ。到着は11時20分と開始ぎりぎりだったのだが、まだ新年早々のためもあって見学者の数は少なく、ガイドツアーに参加できた。

中之島図書館が開館したのは1904(明治37)年2月のこと。銅葺き三層で、大阪最古級のステンドグラスが嵌め込まれたドームを有し、外観はルネッサンス様式、内部空間はネオ・バロック様式の石造建造物だ。住友家第15代の住友吉左衛門友純の寄付により、建築家の野口孫市と日高胖が建築した。石は愛媛県伊予市などで産した最高級の花崗岩が使われているそうだ。当時の名前は「大阪図書館」だったが、1906年に「大阪府立図書館」に改称。その後1922(大正11)年には、住友家の寄贈により左右両翼部分も増築され、現在の形になった。このような対称の調和を重んじる建物はパラディアン様式と呼ばれ、イタリアでは官公庁に使われることが多いそうだ。
大阪大空襲からも免れ、1974(昭和49)年には国の重要文化財の指定を受けて「大阪府立中之島図書館」に名称を変更。現在の蔵書は古文書や大阪に関する文献、ビジネス書などに特化しており、約60万冊ある。かつて「天王寺分館」と呼ばれた「大阪府立夕陽丘図書館」の後継である「大阪府立中央図書館」と合わせれば、蔵書はのべ約230万冊以上。幅広い分野の書籍を借り出すことができる。
開館当時は12歳以上の年齢制限があり、普通閲覧券は2銭、現在で言えば400円程で、特別閲覧券は5銭だったというから、当時としては1000円程必要なうえ、回数券を購入せねばならなかった。庶民には痛い出費だが、1日なんと1200人もの来館があったそうで、大阪の人々は、この洋風建築物と書物に、なみなみならぬ関心を持っていたのだろう。閲覧が無料になったのは戦後、GHQの関与によるそうだ。
当時は入り口で荷物を預け、靴も脱いでいたというから、書物がどれほど大切にされていたのかわかる。また開館から10年で一万冊が収集された中、2割が寄贈だったというから、大阪の人々は文化の発展に熱心だったのだろう。

各所に残る歴史の名残

エントランスに展示されている棟札は建物調査の際に発見されたもので、ほぼ完全な姿で残っている。野口孫市とライバル関係だったとも言われる辰野金吾が工事顧問をつとめたことも記されており、建築家たちの人間模様が見て取れるのも面白い。
ホール中央階段の踊り場には住友吉左衛門友純による建館寄付記があり、「大阪府は人口も多く学問も盛んだが、図書館はないので、微力ながら力を尽くしたい」という内容の文章が記されており、学ぶ機会が平等に与えられてほしいという思いが伺える。その両脇立っている北村西望作の文神像(左)と野神像(右)も、住友家の寄付によるものだ。一見図書館に関係がなさそうな野神は、活気にあふれる大阪の人々の様子を表現したとも、人間の両面を表しているとも言われているそうだ。
また、菅原道真、孔子、ソクラテス、アリストテレス、シェイクスピア、カント、ゲーテ、ダーウィンの八哲の名が記された札がぐるりと展示されており、当時の大阪人がどんな哲学者にあこがれを抱いていたのか想像できる。

三階の記念室は、江戸時代中期に設立された大阪商人たちの学問所「懐徳堂」の集まりなど、商人の交流が使われていた場所。家具と什器の一部は当時のままで、面影がそのまま残っている。また、浅井忠の筆によると伝わる、奈良の鹿、京都の牛、大阪の安治川の三幅の絵も飾られている。
見学した場所はガイドツアーに申し込まなくても自由に閲覧できるが、説明を受けながら詳細に見て回ると、明治の大阪人たちの活気あふれる様子が目に浮かぶようだ。

記念室の家具と什器の一部は当時のままに残されていて、タイムスリップしたような雰囲気記念室の家具と什器の一部は当時のままに残されていて、タイムスリップしたような雰囲気

大阪府民以外でも施設の利用は可能

中之島図書館の蔵書は古文書や大阪に関する文献、ビジネス書などに特化している中之島図書館の蔵書は古文書や大阪に関する文献、ビジネス書などに特化している

オフィス街に立地する中之島図書館の休館日は月曜日ではなく日曜と国民の祝日(振替休日も)なので注意が必要。そのほか3月・6月・10月の第2木曜日や年始年末も休館になる。開館時間は、平日は午前9時から午後8時。土曜日は午後5時に閉館する。

数年前には廃止の噂もあったが、松井大阪府知事は存続を表明。耐震工事が行われて、閉鎖されていた中央入口も開放されたから、今後も美しい姿はもちろん、当時の雰囲気までも残されていくだろう。
近畿圏に在住していれば利用者カードを発行してもらえるので、ぜひ利用してほしい。近畿圏以外在住なら借り出しはできないが、資料の閲覧や施設の見学はできるので、機会があれば訪れてみてはいかがだろう。

2017年 02月03日 11時05分