エアコンが売れている。2027年度から省エネ基準が引き上げられ、安い機種が市場から姿を消すとされる「エアコン2027年問題」を前にした駆け込み需要だ。しかし、慌てて買い替える前に、考えてほしいことがある。私たちはこれまでエアコンを選ぶ際、主にエアコンの性能や価格、部屋の広さについての情報のみで決めてきた。その象徴が店頭の「畳数表示」である。この数十年前に定められた基準が、いまも一人歩きしているのはなぜか。知らずに後悔しないために、エアコンと住宅の関係を再考してみたい。

「エアコン2027年問題」で何が変わるのか

02

2027年度から、家庭用の壁掛け型エアコンに新しい省エネ基準が適用される。店頭に並ぶ低価格帯の機種の多くは、この基準を満たしていない。そのため、新基準になる前に低価格モデルを購入する人が増え、2026年上半期のエアコンの国内出荷台数は、全国平均でおよそ2割増になった。中には、例年の2倍の店舗もあったという。

ただし、規制の対象はメーカーであって販売店ではない。2027年3月までに出荷された機種はその後も店頭に残るため、4月からすぐに買えなくなるわけではない。また長く使うエアコンは、初期費用に加えランニングコストも考える必要がある。現在、10畳用(2.8kW級)エアコンの最安クラスは工事費込みで7万円台。ただし省エネ性能は低く、電気代は年間約2万8,000円だ。一方、新省エネ基準に適合した廉価機であれば、電気代は2万5,000円弱に抑えられ、差額は年3,000円から4,000円となる。本体価格が2万円高くても5年から6年、3万円高くても8年前後で価格差を取り返せる計算だ。10年以上使うなら、新基準の適合機を選んでも十分に元は取れる。エアコンを買い替えるかどうかは、いま使っている機器の状態をもとに決めるべきだろう。

【Amazon】エアコンをAmazonで探す

大事なのはここからだ。どの大きさのエアコンを選べばいいのか。ほとんどの人は「6畳用」「14畳用」などの畳数表示を目安に検討している。しかしその表示が、あてにならない。

畳数表示が前提にする「無断熱の家」

01

いまも多くの人が参考にする畳数表示。その基準が定められたのは、前々回の東京五輪が行われ、東海道新幹線が開通した1964年のことである。その後、冷暖房能力の目安に関する部分は、60年以上が経った現在まで変更されていない。当時の住宅は木造平屋建てで、断熱という発想がなかった。いま店頭に並ぶエアコンの能力は、その無断熱の住宅を冷暖房できるよう設定されている。現代の断熱された住宅では、間違いなく過大な設備となる。

エアコンの効果は、機器の能力だけでは決まらない

そもそもエアコンの効果は、機器の能力だけでは決まらない。住宅の断熱・気密性能、間取り、換気、日射コントロールといった様々な条件が影響する。中でも断熱と日射は極めて重要な要素だが、見過ごされてきた。

冬と夏のケースで、具体例を挙げて考えたい。なお、以下の説明では、エアコンの性能に詳しい松尾和也氏(松尾設計室代表)の計算式を参考にしている。
まずは冬からだ。20畳のリビングを暖めたいとき、無断熱の家なら必要な暖房能力は7kW程度で、店頭表示では20畳用だ。しかし、1999年基準にあたる断熱等級4の住宅なら2.5kW前後になり、8畳用から10畳用で十分となる。さらに断熱等級6の住宅であれば、1.5kWを下回るため、6畳用エアコンで20畳のリビングを十分に暖められる。

このように、同じ広さでも必要な能力には5倍近い開きがある。畳数という物差しは、こうした住宅の性能差をまったく無視している。なお、この計算では冬の日射を考慮していないため、日射をよく取り入れられる部屋なら、さらに少ない出力で暖房が可能だ。

畳数表示が前提にする「無断熱の家」

夏はどうか。温度差だけを見れば、冷房の方が楽なはずである。冬は外気0℃の時に室温20℃にすれば、その差は20℃だ。一方、夏は外気35℃でも室温25℃にするなら10℃下げればいい。当然、暖房に比べて必要なエネルギーは少なくなる。

ところが畳数表示では、冷房も暖房もほぼ同じ畳数が示されている。冷房には温度差以外の複数の要素が関係しているからだ。窓から入る日射、天井から伝わる熱、厨房などの内部発熱、さらに隙間から出入りする熱といった影響は、計算が難しい。特に直射日光が入り続ける部屋では、いくらエアコンを動かしても電気代ばかりがかさんでしまう。同じ断熱性能のマンションでも、中住戸より角住戸が、下層階より最上階のほうが暑くなりやすいのは、そうした影響によるものだ。このように、夏の冷房は部屋による差が大きく、計算がしにくい。ではどうすればいいのか。

エアコン1台で全館を冷やす家

夏に暑くなる部屋については、エアコンだけで解決しようとせず、住まいの遮熱と断熱を整えたうえで、エアコンを選ぶことが大切になる。窓の遮熱は、一般的には遮熱カーテンなどが窓の内側に設置されるが、効果は薄い。窓の外で対策をすれば、日射熱の約8割をカットできる。すだれや外付けスクリーンなど、賃貸でも導入できる対策は多いので、ぜひ試してほしい。また、内窓を取り付ければ外の熱気も伝わりにくくなる。こうした遮熱、断熱の対策を行って初めて、エアコンは本来の能力を発揮できる。

外付けオーニングの例外付けオーニングの例

筆者が住む高気密・高断熱住宅の事例

参考までに、筆者が住む高気密・高断熱住宅の夏の事例を紹介する。延床面積は約100m2(30坪、約60畳)の2階建てで、国の断熱等級では等級7にあたる。この家を冷やしているのは、冷房能力2.8kW、店頭表示でいう「10畳用」のエアコン1台だけだ(設置は2階)。吹き抜けが1つあり、その反対側にある階段からサーキュレーターで冷気を1階へ落とす。それだけで、外気温が40℃になっても、ロフトを含む全室が25℃前後に保たれている。

畳数の目安にしつつ、実際の間取りに近い形で配置するなら、リビングに4kW級(14畳用)1台と、各居室に2.5kW級(8畳用)3台の合計4台で、11.5kWが必要となる。しかし、実際のわが家はその4分の1ほどの出力で済んでいる。光熱費が安いだけでなく、台数が少ないので更新(買い替え)時の費用も抑えられる。

もちろんこれは、どの家でもそのまま適用できる例ではない。しかし日射遮蔽と断熱・気密ができている家なら、1台か2台で2階建ての住宅を全館冷房することは、それほど難しいことではない。

外付けオーニングの例内窓を設置した夏のサーモグラフィ画像。内窓を開けた左側だけが熱くなっている(撮影:高橋真樹)

「大きい機種でも効果があるならいいのでは」と思うかもしれない。だが出力が大きすぎると、初期費用が高くなるだけでなく燃費(省エネ性能)も悪くなる。能力に余裕がありすぎると、すぐ設定温度に達して送風・停止を繰り返すか、低い負荷でだらだら動き続けることになり、効率が落ちるからだ。「大は小を兼ねる」という言葉は、空調に関しては当てはまらない。

なぜ、長年放置されてきたのか

では、なぜ私たちは、畳数表示でエアコンを選ばされてきたのか。大きな理由は2つある。ひとつは、出力が小さすぎて効かなければすぐにクレームになるからだ。効きすぎたからといってクレームにはならない。家電量販店などで畳数表示を元に、大きめの機種が勧められやすい背景には、そうした事情がある。

もうひとつの理由は、十分に断熱されていない住宅がまだ相当数残っていることだ。国土交通省の推計によると、既存住宅の約4分の1がいまだに無断熱である(2022年時点)。さらに断熱等級2や3といった、性能の低い住宅も多い。そのため、これまでは畳数表示どおりでも大きな問題が生じてこなかった面もある。

国土交通省の調査を元に作成国土交通省の調査を元に作成

ただしそれは、あくまで日本の住宅の性能が上がらなかった時代の話だ。比較的断熱がされるようになった断熱等級4の基準が定められてから、すでに四半世紀以上が経つ。その間に建てられてきた住宅の住まい手は、大きすぎるエアコンを買わされ不必要なコストを負担してきたことになる。さらに、2025年4月からは新築住宅への断熱等級4の適合が義務化された。現在では断熱等級5や6の家も着実に数を増やしている。国と業界が直ちに対策を講じなければ、実際の住宅性能と畳数表示とのギャップは広がる一方だろう。

資源エネルギー庁が2019年から開催した有識者会議の取りまとめでも、業界に対して畳数表示の見直しを検討するよう求める提言が盛り込まれた。しかし、表示を定めている業界団体の一般社団法人日本電機工業会(JEMA:ジェマ)は、2026年7月の朝日新聞の取材に対し、畳数表示について「今後も見直す予定はない」と回答している。たとえ断熱性能別に複数の目安を設けたとしても、消費者が自宅の性能を把握していなければ適切な商品を選べず、目安の意味をなさない、というのがその理由だ。

だが、この理屈はおかしい。消費者が自宅の断熱性能を簡単に把握できる仕組みこそ、国や業界が率先して作るべきものだ。知識がないことを理由に目安を示さないのは、責任の放棄と言わざるを得ない。

エアコンについては、断熱等級ごとの目安を併記し、住宅の仕様に応じた出力を選べるようにするだけで、消費者の選び方は大きく変わるはずだ。住宅の性能もわからないまま、年間900万台以上のエアコンが販売・購入されている現状は、コスト面でもエネルギー面でもあまりに無駄が大きい。

EUでは、賃貸を含めた住宅のエネルギー性能を示す表示制度が義務づけられている。これにより一般の住まい手にとっても、断熱性能は「駅からの距離」や「間取り」と同様に、明確な経済的価値を有するものと認識されるようになっている。

日本でも2024年4月から「建築物省エネ性能表示制度」が始まった。しかし「努力義務」にとどまり、現状では中古住宅や賃貸住宅でほとんど表示が進んでいない。筆者は、積極的に表示を行えば、物件の性能の低さが浮き彫りになって困る不動産会社が多いからではないかと考えている。この制度を意味のあるものにするためには、国が業界の顔色ばかりうかがうのではなく、消費者の暮らしの質を上げるために「住まいの性能」を、分かりやすく可視化する義務とすることが求められている。

国土交通省の調査を元に作成国土交通省「建築物の省エネ性能ラベル」の例より

制度が動くのを待つ間に、消費者自身にもできることはある。ひとつは、自宅の断熱性能を知ることだ。ここ10年ほどに建てられた住宅なら、施工会社に問い合わせれば、おおむね断熱等級が分かるはずだ。古い住宅であっても築年数と窓の仕様が手がかりになる。電力中央研究所は、こうした条件から適切な能力を割り出せるツール「ASST」を公開している。もうひとつは、先に述べた遮熱や断熱の工夫をすることだ。

「2027年問題」は、業界とメディアによって、さも深刻な問題であるかのように扱われてきたが、消費者にとっては「問題」と言えるほどのことではない。より重要な問題は、選ぶ1台が自宅(自室)に本当に合っているかどうかである。まずは自宅の性能を把握し、DIYでもいいので、できるところから断熱に取り組んでみてほしい。

「エアコン2027年問題」で住宅・賃貸はどう変わる?省エネ新基準と冷媒規制が突きつける選択
【Amazon】エアコンをAmazonで探す