「借りて住みたい街“急上昇”ランキング」1位は方南町。その背景とは?
LIFULL HOME'Sが発表した「2026年 LIFULL HOME'S みんなが探した!借りて住みたい街ランキング(首都圏版)」で、前年から最も順位を上げたのは、東京メトロ丸ノ内線の「方南町」であった。例年、160位前後で安定推移していた方南町だが、今回は前年の146位から80位へと66ランクアップし、“急上昇”ランキングの1位となったのだ。
■関連リンク
【LIFULL HOME'S】方南町駅周辺の不動産・住宅を探す
【LIFULL HOME'S】方南町駅周辺の投資用不動産を探す
LIFULL HOME'Sの住みたい街ランキングは、物件への問合せ数から算出された実際に探されている街(駅)のランキングである。そのため、“急上昇”ランキングは、前年からのユーザー動向のリアルな変化を表したものといえる。
■関連記事
みんなが探した!住みたい街ランキング2026
ではなぜ「方南町」の物件への問合せ数が伸びているのだろうか。東京23区の賃貸物件(シングルタイプ)の平均掲載賃料(※1)は、2024年12月には10.4万円だったが、翌年1~3月の引越しシーズンを経て、2025年4月には11.7万円にまで上昇、同年12月には12.1万円と、1年で16.7%上昇した。しかし物価上昇や実質賃金の停滞を背景に、ユーザーが住居費の予算を増やすことは容易でなく、ユーザーの予算を反映した平均反響(問合せ)賃料(※1)は掲載賃料の上昇に追随していない。多くのユーザーは、相対的に安い物件を求めて、条件を妥協して探していると考えられる。
そのようななかで、急上昇1位となった方南町は、2019年に同駅を発着する丸ノ内線分岐線(方南町支線)の電車が本線への直通運転を開始したことで、新宿へ乗り換えなしでアクセスできるようになった。しかし、同じく新宿を発着するJR中央線や京王線、丸ノ内線(本線)沿線の街と比べて、まだまだメジャーではない。賃貸マンション(1K)の賃料相場(※2)は10.5万円と、近隣の中野(中央線・12.6万円)や笹塚(京王線・11.8万円)などと比べて依然安価に抑えられることもあり、そのコストパフォーマンスの高さが注目されているのだ。
今回は、方南町を含む丸ノ内線支線エリアで40年以上にわたって賃貸不動産管理・仲介を行う株式会社吉住ホームの岩田有夏氏に、LIFULL HOME'S総研の渋谷雄大が、ランキング急上昇の背景で起きているユーザーやオーナーの動向の変化など、現場のリアルを聞いた。
※1 LIFULL HOME'S マーケットレポートより
※2 LIFULL HOME'S 家賃相場より(2026年7月23日時点)
方南町の最前線はどうなっている?地元管理会社に聞く変化
渋谷:本日はよろしくお願いします。2026年 借りて住みたい街“急上昇”ランキングで「方南町」がトップになりました。現場での実感はいかがでしょう。
岩田氏:現場の感覚としても、エンドユーザーの動きは明らかに活発になっています。弊社は地場の管理会社として、賃貸物件のオーナーさまから管理の依頼を受け、客付け業務までを一気通貫で行っています。最近はSNSやデジタルサイネージでの広告にも力を入れており、その効果も相まって反響が大きく伸びています。
渋谷:管理会社に客付け力を求めるオーナーが増えている中で、一気通貫のモデルは強みですね。反響が増えているとのことですが、貴社の商圏のうち、中野坂上、西新宿など都心寄りのエリアよりも、方南町や中野新橋などで探す方が増えているのでしょうか。
岩田氏:はい、方南町や中野新橋をご希望される方は特に増えています。通勤先が新宿の方は、もともとまずは中央線沿線で物件を探す方が多いのですが、家賃が高いことから西武新宿線沿線などに流れるケースが多かったんです。そのようななか、2019年に方南町からの丸ノ内線支線の電車が丸ノ内線本線への直通運転を開始しました。それまで新宿へ行くのに必要だった中野坂上駅での乗り換えが不要になったのです。その影響もあって方南町の認知度も上がり、中央線沿線を検討していた層が流れてくるようになりました。
昔はファミリー層や近隣が生活圏のお客さまが中心だったんですが、今は新宿のIT系企業などに勤務する単身の方が増えています。会社から3km圏内であれば家賃手当が出るという企業も多いですが、方南町は新宿西口の高層ビル街から直線距離で約3km。タクシーでも2,000円程度で帰れる距離感が支持されています。
渋谷:これまで「支線」という理由でそもそもターゲットに入っていなかった層が、直通運転や家賃高騰を背景に「利便性のわりに安価だ」「始発駅で便利だ」と気づき始めたわけですね。
岩田氏:まさにその通りです。最初は新宿への利便性や相対的な賃料の安さを入り口に検討する方が多く、始発駅というのは最後の後押しになるケースが多いです。「あ、始発だから座って通勤できるんだ」と。
空室はほとんどない
渋谷:需要の高まりを受けて、空室率や成約スピードにはどのような変化が現れていますか。
岩田氏:弊社の管理物件は約8割が単身者向けですが、単身タイプの物件は非常に動きが早く、引越しシーズンには退去予定が出た段階で次の入居者が決まるケースも珍しくありません。ファミリー層は複数人で相談して決めるため多少時間はかかりますが、全体として空室はほとんどない状態です。
渋谷:退去前に決まるスピード感なんですね。首都圏では、都心を中心に家賃相場の上昇が加速しています。賃料の引き上げについて、オーナーからはどのような反応がありますか。
岩田氏:やはりこの市況を受けて、オーナーさまも賃料アップにチャレンジしたくなる傾向にあります。ただ、ここで難しいのが既存の入居者さまとの兼ね合いです。極端に家賃を上げて新規募集をすると、既存の入居者さまと「同じマンション内なのに家賃格差がある」といった不満に繋がりかねません。そのため、バランスを見ながら慎重に設定する必要があります。
渋谷:現場ならではのジレンマですね。募集賃料が上がる一方で、入居者が支払える金額はそこまで増えていないというデータもあります。その結果、入居者の動きに変化はありますか。
岩田氏:周辺の新規募集家賃が上がっているため、既存の入居者さまが「更新のタイミングで引越そう」と思っても、高くて動けないという現象が起きています。結果として、同じエリア内での引越しが明らかに減りました。転勤や結婚など、ライフステージの変化がない限りは住み続ける方が多いですね。
渋谷:方南町は比較的築浅の物件も多いようですが、新築物件の供給状況やオーナーの売却動向についてお聞かせください。
岩田氏:方南町から中野新橋にかけてのエリアでは現在、ハウスメーカーによる賃貸アパートの新築ラッシュが起きています。ローンの条件の関係で、サブリース契約を前提にしているハウスメーカーでの建築が増えているという背景があります。また、物件価格の上昇を受けて「今が売り時」と判断し、売却を相談されるオーナーさまも増えています。弊社は地元の地主系オーナーさまの一棟ものの管理を受託しているケースが多いので、自分の物件として長期で育てていく方もいらっしゃいますが、資産の組み換えのご相談は確実に増えています。
都心近くでありながら下町情緒が残る方南町
渋谷:街の魅力という点ではいかがでしょうか。都心近くでありながら下町情緒が残っている点も、方南町の特徴かと思います。
岩田氏:おっしゃる通り、この辺りは新宿からすぐの距離なのに、ビルばかりではなく、チェーン店も少ないんです。地元の方が営む個人店や居酒屋が多く、方南銀座商店街などではお年寄りと若者の距離感が非常に近いですね。地方から上京してきた単身者には、その温かさが安心感を与えているようです。弊社でも、入居者さまに地域のお店のクーポンを配るなど、この街で暮らす入居者さまが街に馴染めるよう工夫しています。
また、最近は若者やお店がSNSなどで発信するようになり、若い世代の間で「この街のちっちゃい商店街が流行っている」というトレンド感も生まれています。
渋谷:貴社もカフェを運営していますね。
岩田氏:3年ほど前に中野新橋店の1階を改装してカフェにしました。最初は入居者さまやオーナーさま向けの会員制サロンのような形でしたが、地域の方からのご要望もあって、今は一般の方も利用できる街のカフェとなっています。
不動産会社というと敷居が高く見られがちですが、カフェがあることで地元の方がお茶のついでに不動産の相談もしてくれるようになり、地域との新しい接点が生まれました。
渋谷:方南町や中野新橋エリアに住む方は、休日はどのように過ごされているのでしょうか。
岩田氏:休日は自転車でお散歩をしてのんびり過ごす方が多いですね。緑も多く、広町みらい公園という大きな公園があったり、神田川沿いをずっと歩けたりします。新宿から少し離れただけでスローな時間が流れており、仕事とプライベートの切り替えがしやすい街だと思います。
渋谷:最後に、今回のランキングを見て方南町を知り、今後このエリアで物件を探す方や投資を検討する方へ、プロ目線でのアドバイスをお願いします。
岩田氏:まずは「決断力」が必要ですね。先ほど申し上げた通り、条件の良い物件は退去予定の段階ですぐに埋まってしまう状態です。覚悟を持って決断することが重要です。また、丸ノ内線支線エリアは駅間の距離が非常に短いため自転車があればどこへでもアクセスしやすく、駅から少し離れていても坂が少なく移動しやすいのも特徴です。そのため、探し方のコツとしては「方南町駅から徒歩〇分」と絞り込みすぎないこと。支線エリア全体で広く探していただくのが、希望に合った物件に出会う近道ですね。
渋谷:駅単体ではなく、支線エリア全体で広く検討することが重要ということですね。本日は、住みたい街ランキングの背景を紐解く非常に有意義なお話を伺えました。ありがとうございました。
急上昇ランキング上位は「ずらし駅」が席巻
LIFULL HOME'Sは、2024年12月に住宅のトレンドワードとして「ずらし駅」を発表した。「ずらし駅」とは、生活利便性・交通利便性が高く人気の主要駅などから数駅離れた駅のことで、それらの駅周辺に住むことは、家賃を安価に抑えつつ、人気駅の交通・生活利便性が享受できるため、経済合理性が高い選択といえる。今回「借りて住みたい街“急上昇”ランキング」1位となった方南町も、中央線や京王線、丸ノ内線の本線といった主要路線からずらした「ずらし駅」の一種といえる。
今回のランキングでは、方南町をはじめとしたトップ10の多くを「ずらし駅」が占めた。2位「不動前」は山手線が発着するターミナル駅である目黒の隣駅であり、3位「新中野」や9位「新高円寺」は地域の拠点となるJR駅から少し離れた小規模駅、5位「元住吉」、6位「祐天寺」、8位「用賀」は人気沿線でありながら急行や特急が通過する駅で、いずれも「ずらし駅」といえる。分かりやすい利便性の追求が予算的に難しくなる中、生活環境を大きく損なわずに固定費を抑えようとするユーザーの生活防衛策が、ランキングに反映された結果だろう。
今後も家賃や物価の上昇が続けば、こうした「ずらし駅」の需要はますます高まっていくと考えられる。予算の都合で条件を“ずらす”際には、どうしても妥協しているようなネガティブな気持ちを抱くかもしれない。しかし、これらの駅はターミナル駅周辺に比べて賃料が手頃なため、個人経営の個性的な店が新規出店しやすい土壌があり、主要駅にはない独自のカルチャーが育ちやすい。「ずらし駅」を妥協ではなく、街の知名度にとらわれず暮らしに合わせた自分らしい街を見つける行為として、ぜひ楽しんでみてほしい。
今回の「方南町」の人気上昇は、そうした「ずらし駅」のコスト面での優位性に加え、丸ノ内線本線への直通運転開始という交通利便性の向上が重なったことで、妥協ではなく実利ある街として改めて評価された結果といえる。
(解説:LIFULL HOME'S総研 研究員 渋谷 雄大)
■取材協力
株式会社吉住ホーム












