豊島区の公園のほとんどは目立たない”小規模公園”

日本各地に数多くある公園。市民が自由にくつろぎ遊べるはずのこの場所は、実は今、経年劣化、使い勝手の悪さ、多くの禁止事項など、さまざまな課題を抱えている。東京23区で区民ひとりあたりの公園の面積が最少である豊島区は、これらの課題にどのように取り組んでいるのか。区内に点在する小公園にスポットを当てて取材した。

そもそも東京都豊島区といえば、「南池袋公園」が頭に浮かぶのではないだろうか? 池袋駅近くにありながら、約7,800m2と相当の広さがあり、緑豊かで使い勝手がよく、カフェがあるなどおしゃれ感もある。もはや同区の公園の代名詞といってもいい。

ところが、冒頭で述べたように、意外にも豊島区の公園の区民ひとりあたりの面積は、東京23区では最低ランクだ。また、現時点(2020年1月)では、大きな公園はほとんどなく、1,000m2以下の小さな公園や児童公園が約7割を占めるという。子ども用の遊具もなかったり、消防関連の倉庫のみが置かれたところもある。「区は維持管理はしてきたものの、残念ながら、住民に使われず閑散としている公園が少なくありませんでした」と、豊島区の「わたしらしく、暮らせるまち。」推進アドバイザーの宮田麻子さんは話す。

左上/ある区内の小公園の様子。設備が老朽化し、樹木が育って影をつくり全体に暗いせいか、昼間も人影がまばら。左下/以前の池袋公園の様子。左端に見えるのがトイレ。老朽化して近寄りがたい印象を与えてしまう。右/多くの小公園で「してはいけないこと」の看板が目立ち、何をして遊べるのか分からない(写真提供/いずれも豊島区)左上/ある区内の小公園の様子。設備が老朽化し、樹木が育って影をつくり全体に暗いせいか、昼間も人影がまばら。左下/以前の池袋公園の様子。左端に見えるのがトイレ。老朽化して近寄りがたい印象を与えてしまう。右/多くの小公園で「してはいけないこと」の看板が目立ち、何をして遊べるのか分からない(写真提供/いずれも豊島区)

公園の改善は、明るく楽しいトイレから

小さな公園をどのように活用するか、区が具体的に取り組むことになるきっかけは、2014年に「消滅可能性都市」と名指しされたことにある。その汚名を返上するため、区は女性が暮らしやすく長く住み続けたくなるような「女性にやさしいまちづくり」という方針を打ち出し、宮田さんが民間から女性にやさしいまちづくり推進担当課長に就任。早速、まちづくりに求められているさまざまなニーズを調べ始めたところ、高齢者対応、子育て環境、子どもの遊び場といった社会課題に絡むキーワードが浮かんできた。また、ちょうどそのころ、区は待機児童解消に向けて保育園を積極的に増やしていた。ところが、なんと7割以上に園庭がない状況。「ほとんどの保育園が小さな公園を子どもの遊び場として活用していたんです。その様子を見て、小さな公園は社会課題解決の核になり得るのではないか、と気づきました」

住民にもっと公園に目を向けてもらうにはどうすればいいか。そこで、宮田さんがまず着手したのは、老朽化して近寄りがたくなった公園トイレを改善すること。「としまパブリックトイレプロジェクト」だ。2017年から3年計画、区内133ケ所のうち85ケ所を改修。限られた予算の中で効果的に刷新するため、そのうち24ケ所のトイレの内外の壁に明るくカラフルな絵を描き、「アートトイレ」へと変えていくことにした。多くの住民に親しみを持ってもらえるようにと、住民参加型のアートペイントやアートラッピングを企画。うち12カ所では、区内で活躍するアーティストとともに、近隣の住民や保育園児、小学校の児童などが作品を作った。

上/アートトイレの制作に取り組む、小学校児童とその家族。下/アートが施された後の池袋公園のトイレ。アートトイレは24ケ所ありすべて絵柄が異なる。完成後は周辺が明るい印象に(写真提供/いずれも豊島区)上/アートトイレの制作に取り組む、小学校児童とその家族。下/アートが施された後の池袋公園のトイレ。アートトイレは24ケ所ありすべて絵柄が異なる。完成後は周辺が明るい印象に(写真提供/いずれも豊島区)

並行して小さな公園全体の活用を模索

そして、2018年から取り組んだのが、「小さな公園活用プロジェクト」。コンセプトは「ともに育つ公園」だ。自治体だけでなく住民など関係者全員で地元の公園をもっと使いやすく、過ごしやすいものになるよう、“みんなで考え育てていく”という趣旨である。

「現在、多くの公園では残念ながら『〇〇禁止』が多く、思うように活用できていません。まずは、そういった状況を覆し、『〇〇できる』を増やすことが重要だと考えました。公園の設備や遊具といったハードだけではなく、住民のコミュニティ形成や公園の活用ルールなど、公園に関わるソフトの見直しを通じて、状況を変えていく方針です」(宮田さん)

プロジェクトの方針として、「公園の特性と立地を生かし、地域のための場になるように見直す」「今あるものを活用し、できることを見いだす」「活用の実験と実践を繰り返す」の3つを明確に掲げた。

まずは、数ケ所の公園を選び、パイロット事業として試験的にプロジェクトをスタート。プロジェクト開始に先立ち、公園情報アプリを運営する株式会社コトラボ(現株式会社パークフル)と協業し、区内全域の公園を調査した。また、事業展開にあたっては、区内に本社を置く株式会社良品計画との協定による協業で進められた。

プロジェクトでは当初、対象の公園で約1年にわたり、周辺住民を対象に「“〇〇公園をみんなで育てよう”井戸端かいぎ」や「“公園でどう過ごしたい”投票」を行って、住民の意見をうまく引き出し、取りまとめていった。聞き方にはコツがあると宮田さんは言う。「“何がほしい?”だと、たくさんの意見があったとしても、一般的な要望だけの幕の内(弁当)的になりがちです。それぞれの地域に合う公園の姿を探るために、私たちは、“〇〇公園でどう過ごしたい?” “この地域にはどんな場が必要?”という聞き方をしました」(宮田さん)

また、本当に地域に求められるものを見極める(民主的で開かれた場をつくる)際には、できる限り多くの人の意見を聞くことが必須だという。そのために行ったひとつが、前述した「“公園でどう過ごしたい”投票」だ。さらに、インターネットなどを利用して住民にアンケートを取った公園もある。意外にも、何を実行するか絞り込む際には多数決ではなく、小さい声でも重要度が高いと考えられるものを客観的に吟味する。

上/住民と区役所職員などが”ともに育つ”公園について意見を交わす通称「井戸端かいぎ」。下/公園でどう過ごしたいかについてシールを貼ってもらい、後にそれに基づいて意見を出し合う(写真/いずれも豊島区)上/住民と区役所職員などが”ともに育つ”公園について意見を交わす通称「井戸端かいぎ」。下/公園でどう過ごしたいかについてシールを貼ってもらい、後にそれに基づいて意見を出し合う(写真/いずれも豊島区)

PARK TRUCK(パークトラック)、組み立て式屋台など”モバイル”でフル活用

2019年12月14日、パイロット事業でまとめてきた「過ごしたい公園」を形にしたイベントが、西巣鴨二丁目公園で開催された。井戸端かいぎで出たアイディアをもとにデザインしたウッドデッキやベンチ、新たなサインを取り入れた看板、本とコーヒーを楽しめる通称「パークトラック」のお披露目のほか、近隣住民の発案で公園の防災かまどでいももちを作って組み立て式の屋台で販売するなど、非常に賑やかな1日となった。看板は「〇〇禁止」という言葉を排除し、新たに、「くつろぐ」「遊ぶ」「集う」など、できることをまとめて示したデザインである。避けてほしいことは、それとは別に「お約束看板」に利用者へのメッセージという形で示してある。

この日、特に注目を集めていたのはパークトラックだ。これは軽トラックにコーヒーショップと図書館を組み込んだ、いわば豊島区オリジナルのキッチンカーである。良品計画がデザイン、ダイハツ工業株式会社が車両開発に関わり、区がリースを受け運営している。軽トラックを活用したのは、住民がより気軽に利用できる雰囲気を演出するためだという。これは、ここだけでなく、区内の小公園を巡る予定だ。「小公園を活用するため、いろいろな仕掛けは“モバイル”を念頭に考えています。屋台もサイズは小さく、組み立て式にし、普段は分解して公園の倉庫にしまっておく。普段は邪魔にならず、近隣の住民が気軽に持ち出して使うこともできます」

続いて12月15日には、西池袋の上り屋敷公園で同様の趣旨のイベントが行われた。今後、「小さな公園プロジェクト」ではこの2公園をモデルにしながら、同様の手法でより多くの公園の活用を促進していきたいとする。

「自治体の協力の有無にかかわらず、住民自身が課題に気づき主体となって動いていくことが重要です。できればこのモデルを見て、パイロット事業の対象ではない公園でも、住民が何らかの発案をしてコミュニティを形成し、一緒にうまく使いこなしていくようなムーブメントが起きてほしいですね」

左上/軽トラックを活用しコーヒーの販売などをする「パークトラック」。自動車メーカーのダイハツが開発に協力。左下/公園入口の看板は「できること」を分かりやすく示すデザインに刷新。右上/白い屋根のコンパクトな屋台はすべて組み立て式。使用後は公園内の倉庫にしまう。右下/公園内にある防災かまどを使用して、周辺の有志の住民グループが販売する食品を調理していた(写真/いずれも介川亜紀)左上/軽トラックを活用しコーヒーの販売などをする「パークトラック」。自動車メーカーのダイハツが開発に協力。左下/公園入口の看板は「できること」を分かりやすく示すデザインに刷新。右上/白い屋根のコンパクトな屋台はすべて組み立て式。使用後は公園内の倉庫にしまう。右下/公園内にある防災かまどを使用して、周辺の有志の住民グループが販売する食品を調理していた(写真/いずれも介川亜紀)

2020年 03月13日 11時05分