平成最後に生まれた「尼崎城」、令和に輝く

阪神尼崎駅から徒歩5分にある「尼崎城」。五万石の大名の城としては立派な四重天守を再現している阪神尼崎駅から徒歩5分にある「尼崎城」。五万石の大名の城としては立派な四重天守を再現している

平成最後に築城された「尼崎城」(兵庫県尼崎市)。400年前に建てられた“幻のお城”が、名士の地域愛をきっかけに復活した。そして早くも、新しい尼崎の顔として注目を集めている。平成31(2019)年3月末の一般公開からわずか5ヶ月で来城者10万人を突破。初年度目標の約15万人を上回るペースの人気を博している。

かつての尼崎城は江戸初期に譜代大名・戸田氏鉄(うじかね)が築き、大坂の西の守りとして重要な役割を担った。海辺に美しい姿をたたえ、別名「琴浦城」と呼ばれていた城は、一度も戦に巻き込まれることなく明治維新の廃城令によって250年余りの歴史に幕を閉じた。その後、地上から完全に姿を消してしまったことから「まぼろし」となっていたのだ。そもそも尼崎という地名は、平安時代末頃の文献に登場する。尼(アマ)とは、海の人。つまり、海民や漁民が暮らす海に突き出た地形から名付けられた。豊かな川・海に育まれた地であり、古くは海陸交通の要所として、江戸時代には阪神間唯一の城下町として栄えた。

明治22(1889) 年、尼崎に最初の大工場・尼崎紡績(現:ユニチカ)が生まれ、まちに工場が集まりはじめる。近代以降の尼崎は、工業都市として発展し日本の経済成長を支えてきた。市外局番が「06」なのは、大阪との経済的な結びつきが強かったことから、市や商工会議所が国に働きかけた結果らしい。実際に大阪へのアクセスがよく、JR尼崎駅から大阪駅までの所要時間はわずか5分である。

工業のまちというイメージが強い尼崎だが、駅前の再開発などが進み、住宅地として人気が高まっている。なぜこの時代にお城なのだろうか?これまでの経緯を知るために、尼崎市役所経済活性課を訪れた。

名士の地域愛から、幻の城が復活

尼崎城築城の際に市内に分散する寺を集めてできた「寺町」。現在は11のお寺が軒を連ねている尼崎城築城の際に市内に分散する寺を集めてできた「寺町」。現在は11のお寺が軒を連ねている

尼崎城復活の話が持ち上がったのは、2015年。「創業の地、尼崎に恩返しをしたい」と、大手家電量販店の創業者・安保詮(あぼあきら)氏が私財10億円以上を投じて築城し、完成後は市に寄贈したいと申し出たことからだ。

尼崎にはかつて8つの町からなる尼崎城下町があり、多いときには2万人もの人々が暮らす城下町であった。
「市制100周年を迎えるにあたり、城内地区にある歴史的な資源をいかすことで尼崎のイメージアップをと構想を練っていたところ、お城の再建という願ってもない話が舞い込んできた」。こう振り返る、尼崎市経済環境局経済部経済活性課の課長・西川欣伸さん。尼崎を通り過ぎるまちから、立ち止まりたくなるまちにしたいと続ける。

市政100周年を迎えた翌年の2017年、お城の再建がはじまる。お城自体の建設は安保氏が担当し、市が城址公園の整備や築城後の維持管理を担うことで、計画はスムーズに進んだ。かつての尼崎城は1873年の廃城令によって天守や櫓、石垣が取り壊され、残ったお堀までも次第に埋め立てられてしまったが、新しいお城は豊富に残る江戸時代の絵図などの資料から外観を忠実に再現した。鉄筋コンクリート造であることや、再建場所を300mほど移動したこと、天守の向きを変更したことなどから文化財としての再建にはあたらず、自由に使えるお城として活用の可能性を広げている。

市民が盛り上げる「みんなの尼崎城プロジェクト」

再建プロジェクトには 、多くの市民が参画している。「地域の誰もが愛着をもつ城になってほしい」という安保氏の願いを受け、市が主導で平成28(2016)年秋ごろに『尼崎城プロジェクト』を立ち上げた。

「まず城づくりに関心を持ってもらおうと、市内6ヶ所での説明会や小学校での出前講座をはじめました。『そんな立派なお城があったんや』という反応から、逆に『ずっと復活を待ってた』といった声も。『広く寄付を呼びかけて、みんなにお城を身近に感じてもらわなあかん』という意見もありましたね。どこの地域にいっても意見が活発で、お城復活の期待が高まっているのを感じました」(尼崎市経済環境局経済部経済活性課の係長・斎藤俊一さん)

翌年から「みんなの尼崎城基金」をスタート。城址公園内での「一枚瓦記名会」では、1枚3,000円で実際の屋根瓦に名前や城への思いを書き込める寄付を募ったところ、約3,000枚の瓦が集まった。その他、「一口城主」や「ふるさと納税」などで集まった金額はおよそ2億にのぼる。進ちょく状況をメールマガジンで受け取る「尼崎城プロジェクトサポーター」は、日を追うごとに増え、お城が完成するまでに約1,200人になったという。参画のかたちは多様で、公園の桜植樹から「市民まつり」で築城をPRする巨大なエアー遊具『お城ふわふわ』、おもちゃのブロックをつかった城の模型の寄贈など実にさまざまだ。

「みんなの尼崎城プロジェクトは、尼崎を愛する人たちの思いが共鳴して想像以上に盛り上がりました。まちが誇る名所、そして人々が顔を合わせるコミュニティの場となってほしいという声が多く聞かれたのが印象的でしたね。ありがたいことに、城内にあるすべての展示は市民や企業からの寄付で成り立っています」(斎藤さん)

写真左上:尼崎市経済環境局経済部経済活性課の課長・西川欣伸さん、係長・斎藤俊一さん 
</br>右上:尼崎城プロジェクト説明会募集チラシ 左下:小学校への出張出前講座  右下:一枚瓦記名会写真左上:尼崎市経済環境局経済部経済活性課の課長・西川欣伸さん、係長・斎藤俊一さん 
右上:尼崎城プロジェクト説明会募集チラシ 左下:小学校への出張出前講座  右下:一枚瓦記名会

尼崎は、いろんな『ジョー』がたっぷり詰まった城下町

新生・尼崎城は、鉄筋コンクリートの4層天守の5階建て。近代的でバリアフリー対応も十分なことから、訪れるだれにもやさしい城となっている。1階は「尼崎まちあるきゾーン」で、地元の名産品や一口城主の芳名板。歴史や観光スポットの映像でナビゲート。2階はかつての尼崎城下町のにぎわいをVRで再現するだけでなく、体験型の侍道場もある「尼崎城ゾーン」。3階には畳の間があり、江戸時代の衣装を身につけて、尼崎城主やお姫様、忍者に扮する「なりきり体験ゾーン」。 4階が尼崎にまつわる「ギャラリーゾーン」、そして最上階が天守から見下ろす現在のまちとなる「わがまち展望ゾーン」となる。城内でイベントをしやすいのは、文化財ではない強みと言えるだろう。

築城をきっかけに、尼崎では初の観光を推進する組織として「一般社団法人あまがさき観光局」が発足。情たっぷりの城下町「ジョーのある町 尼崎」 をコンセプトに掲げ、さまざまな観光PRを打ち出す。『尼崎ジョー』をはじめ、『人ジョー』あふれる温かい商店街、『愛ジョー』いっぱいのご当地グルメ、『旅ジョー』にひたる寺町の寺院、『ジョー熱』がぶつかるボートレースといったふれこみだ。

尼崎には伝統野菜の尼いも、近松門左衛門の「近松の里」、工場夜景、人気アニメ「忍たま乱太郎」の聖地、 工場跡地の100年かけた森づくり「尼崎21世紀の森構想」などがあり、まだまだ知られていない文化やユニークな取組みも多い。

港町・城下町・工業都市などさまざまな歴史を経た尼崎。現在、みんなでつくった尼崎城をランドマークに観光都市へとイメージチェンジをはかる。

■尼崎城 https://amagasaki-castle.jp/

写真左上:尼崎城オープニングイベントにて、市立尼崎高校生による吹奏楽演奏 右上:尼崎城2階のVRシアター、侍道場 
</br>左下:尼崎城3階「なりきり体験ゾーン」 右下:尼崎市役所のラッピング公用車写真左上:尼崎城オープニングイベントにて、市立尼崎高校生による吹奏楽演奏 右上:尼崎城2階のVRシアター、侍道場 
左下:尼崎城3階「なりきり体験ゾーン」 右下:尼崎市役所のラッピング公用車

2019年 12月06日 11時05分