「尾道空き家再生プロジェクト」最大の取り組み

尾道というまちは、尾道水道の穏やかで美しい海と織りなす山々が美しい風光明媚なまちである。また、奇跡的に戦禍の影響が少なく、江戸・大正・昭和の建物が残り、歴史的文化的価値のある建物や多くの社寺があり、その日本的な美しさから数々の映画の舞台になったのも周知の事実だ。
しかし、かたやその坂と建物がおりなす美しいまち並みは、車も通れない細い道を歩いて上り下りするしかなく、ほかの地方都市と同様に高齢化が進み、接道義務を果たせないため建替えのできない建物も多く、放置された空き家が散見されるという問題点も抱えている。尾道には駅から2キロという徒歩圏内に多くの空き家がある状態であり、その中には長年の放置により廃屋化が進んでいる物件もあるという。

尾道の中でも特に課題が大きいといえる斜面地の地域を中心に「尾道空き家再生プロジェクト」は空き家の再生と移住促進支援に取り組んできた(※【尾道空き家再生プロジェクト①】約760人の移住希望者が待つ、尾道空き家バンクの成功)。一般的には資産価値の観点では値のつけにくい建物をサポートまで入れると100軒以上再生させ、空き家再生プロジェクトを通じて移住してきた人数は延べ150人を超え、今なお800人を超える移住希望者の登録があるという。独自の取り組みでありながら、いち地域の再生の取り組みとしては成果をあげ、注目を集めている。

「尾道空き家再生プロジェクト」は2007年、代表の豊田雅子さんが思い入れをもって購入した通称「尾道ガウディハウス(旧和泉家別邸)」から始まる。今も手を入れ続けている尾道ガウディハウスを始め、これまで手掛けてきた建物はほぼ住宅か店舗などの案件(※一部、商店街にあるゲストハウス“あなごのねどこ”の再生例はあるものの)であった。その空き家再生プロジェクトが、今まででロケーションも規模も最大級の空き家である築100年の別荘建築の再生を行ったという。

今回、ゲストハウスとして生まれかわった「みはらし亭」にお伺いし、その再生への取り組みをお聞きしてきた。

「みはらし亭」は、建築当初は茶園(別荘建築)として利用され、その後料亭となり戦後は旅館として活用されていた。</br>築100年をこえるこの建物は、坂の上という立地の不便さと老朽化から20年近く空き家となっていた(写真提供:尾道空き家再生プロジェクト)「みはらし亭」は、建築当初は茶園(別荘建築)として利用され、その後料亭となり戦後は旅館として活用されていた。
築100年をこえるこの建物は、坂の上という立地の不便さと老朽化から20年近く空き家となっていた(写真提供:尾道空き家再生プロジェクト)

坂のまち尾道を象徴する“崖の上の登録文化財”

尾道空き家再生プロジェクトの代表理事の豊田雅子さん(写真左)と理事の渡邉義孝さん(写真右)尾道空き家再生プロジェクトの代表理事の豊田雅子さん(写真左)と理事の渡邉義孝さん(写真右)

大正10年に建てられた「みはらし亭」は「尾道ガウディハウス(旧和泉家別邸)」とともに2013年、国の登録有形⽂化財として登録されている。尾道ガウディハウスも、住宅街の坂の斜面に建つ家であったが、「みはらし亭」は尾道の観光でも有名な千光寺の真下、石垣の上の崖に要塞のようにそびえたつ建築物だ。大正時代、尾道が港を中心として発展した時代に眺めの良い場所に豪商たちが別荘をたくさん建てた茶園(さえん)建築のひとつ。建築当初はお茶などを楽しむ茶園(別荘建築)として利用され、その後、料亭として使われ、戦後今の大家さんの先代が購入して旅館として活用していたようだ。その後時代の変化と共に、その不便さと老朽化から20年近く空き家となっていた。

この建物は、市から業務委託を受けた「尾道空き家バンク」の最初の提供物件のひとつだったという。
「この建物が貴重であり、このまま朽ちていくことは、もったいないことはわかっていました。が、そのロケーションと大きさ、廃屋化が進んでいたことで、数々の建物を再生してきたがゆえに、工数も金額もいったいどのくらいになるのだろう…と頭を悩ませていたのも事実でした。ただ、もう二度と造れない我がまちの財産をこのまちで守っていけないということは情けない…と再生するしかないかな、と覚悟を決めたんです」と、尾道空き家再生プロジェクトの代表 豊田さんはいう。

建築家であり、空き家再生プロジェクトの理事である渡邉さんも、「坂のまち、尾道でもこれほど急な崖にこの規模で建っている建築はそうはない。建物のしつらえも見事で、軒裏の垂木は扇状になっており、屋根は格式の高い入母屋屋根…。瓦は濃淡が美しい菊間のいぶし瓦が使われていて、釘隠しも扇と松のデザインが施されているなど細やかなところまで上質な建物なんです。しつらえだけでなく、建物の躯体の強化と美しさのために寺社で軒を支える桔木(はねぎ)が埋め込まれていました。どれだけの大工の技がここに現れているのだろう…と考えると困難もありながら、これは宿命なのかなと考えました」という。

まずは、2つの課題人材不足と資金不足の解消である。「いままでやってきた」できることから、人手を確保するためのみんなで造り上げるワークショップ、そして「いままでやってきていない」クラウドファンディングを含めた大きな資金の調達に乗り出した。

みはらし亭再生計画~春合宿・夏合宿のワークショップ

尾道空き家再生プロジェクトでは、今までも建物の再生に参加者を募るワークショップを開催していた。実は、2010年に行われた「CaseStudyWorkshop 脱空き家を考える」のケーススタディのひとつが「みはらし亭」であった。これが、事前調査のような役割となり、渡邉さんらによる図面も作成された。

2014年12月から大工さんによる解体・改修を繰り返しながら、その後、「みはらし亭」にフォーカスした2015年3月16日~22日の春合宿では外壁の掻き落としやキッチンのタイル貼り、ギャラリーの漆喰塗りなどをおこない、2015年9月20日~26日の夏合宿では玄関・本館の床貼り、離れの壁の漆喰塗り、水回りの塗装などをおこなった。合宿だけでなく、地元の小学校や地元企業の有志の方々などの協力も得た定期的な日常ワークショップもおこなわれ、延べ200名をこえる様々な人の手で再生はすすめられた。

こうした人々の努力を経て、2016年3月、「みはらし亭」は完成したのである。

写真左:リレー形式で廃材やゴミなどをおろす。坂のまちならではの知恵</br>写真右上:地元の土堂小学校の5年生も授業の一環としてお手伝い</br>写真右下:2015年夏合宿の様子。壁の漆喰塗りなどをみんなで行う(写真提供:尾道空き家再生プロジェクト)写真左:リレー形式で廃材やゴミなどをおろす。坂のまちならではの知恵
写真右上:地元の土堂小学校の5年生も授業の一環としてお手伝い
写真右下:2015年夏合宿の様子。壁の漆喰塗りなどをみんなで行う(写真提供:尾道空き家再生プロジェクト)

みはらし亭再生計画~クラウドファンディングを含めた資金計画

「みはらし亭」の再生を進めるうえで、空き家再生プロジェクトが一番頭を悩ませたのが資金計画だったという。当初は5000万円以上かかる…と言われていた再生計画であったが、先のワークショップなどで人手を募ったり、古材を活用するなどして、なんとか目標金額を2000万円と定めた。

まずは、いままでの「あなごのねどこ」の返済実績から、NPO法人として日本政策金融公庫より借入れを行い、次に同じくNPOの借入例である福岡県八女市の「町家保存機構」を参考に「みはらし亭再生基金」を募り、数年かけて無利子で返済する方法を採用した。補助金としては、尾道市「歴史的風致形成建造物修景・修復事業」を検討し、他の市町の事例を参考に補助対象としてもらった。

そして今回は、初めてクラウドファンディングによる支援を取り入れ、尾道大学や地元市民の協力を得たプロジェクトムービーを作成し、資金調達を行っている。

■みはらし亭再生資金の概要

・日本政策金融公庫        500万
・みはらし亭再生基金       400万
・各種補助金・助成金       700万
・クラウドファンディング寄付金  300万
・NPO自己資金          100万

“尾道空き家再生プロジェクト”の次の挑戦は?

みはらし亭再生により、尾道空き家再生プロジェクトはまた新たな進化を見せた。それは、
1)建物の再生を文化的価値、建築的価値を大切にしながら、技術的課題をクリアしたこと
2)現実的な再生資金面でのハードルをクリアしたこと
3)建物活用の運用と運営を現実的に継続して行ける仕組みを取り入れたこと
である。

これからの挑戦について聞いてみた。
「尾道空き家再生プロジェクトの取り組みは、今まではどちらかというと、移住促進、ゲストハウスへの活用と"外から人を呼ぶ"仕組みに注力してきたように見えているのかもしれません。が、本来はまちとまちの人々の暮らしがいかに充実したものになるか…ということの目線の方が強いんです。次は、地域の方々が集える場所…例えば昔の結婚式やお祝いごとの集まりがまちの料亭などで行われたように、そんな場所をまちに残された建物を再生しながらできたらいいな、と思っています」と、豊田さんはいう。

渡邉さんによると、実際に検討に入っている建物があるのだという。
「料理屋として使われていたのですが、これも長らく空き家となり、放置されている建物なんです。玄関の造りや座敷のしつらえなどが今では見られないほど見事で、これも代表の豊田の感性に"ぐっとくる"(笑)建物なのだと感じています。また、これをどう再生していくのか…みはらし亭と同じく、問題や課題は多いですよ」と渡邉さんも困りながらもどこか生き生きと話す。

まちづくり、まちの再生…とは何であるのか?尾道空き家再生プロジェクト、そして今回の「みはらし亭の再生」の話を聞いて考えさせられた。まちの再生は、決して古いものをあきらめて捨て去り、性急に新しいものを造るだけではないと感じる。また、古いものだけが良い、といった感傷的なものだけでも成立しないのだ、と思った。

少なくとも、今の暮らしとしての場所というだけでなく、過去の暮らしの豊かさにも思いを馳せ、そしてこれからの人々の暮らしを紡ぐ場所としてふさわしいかということを「人」を中心に考えてみる。そして今ある建物やまちを、愛情をもって検証することがプロセスとして大切なのかもしれない。

尾道空き家再生プロジェクトの場合も、そこに発見があり、つながりがあり、ストーリーが生まれ、行動を経てようやく「再生」という行動に至っている。「みはらし亭再生」を通じて人がまちに関わり、尾道というまちの魅力が再発見され、それがまた次のまちづくりに通じているのだと感じた。

■取材協力:尾道空き家再生プロジェクト http://www.onomichisaisei.com/

多くの人々の努力を経て、再生された「みはらし亭」。また新たな進化を見せた尾道空き家再生プロジェクトの挑戦は続く(写真提供:尾道空き家再生プロジェクト)多くの人々の努力を経て、再生された「みはらし亭」。また新たな進化を見せた尾道空き家再生プロジェクトの挑戦は続く(写真提供:尾道空き家再生プロジェクト)

2016年 08月04日 11時06分