世界共通ではない靴を脱ぐ文化

日本では玄関で靴を脱ぐのが決まり日本では玄関で靴を脱ぐのが決まり

あなたの家の玄関は内開きだろうか?それとも外開きだろうか?
引き違い戸でなければ、おそらく外開きだろう。玄関に靴を脱ぐ習慣のある日本家屋のほとんどが、外開きだからだ。反対に、家の中でも靴を脱がない欧米では、内開きの住宅がほとんど。欧米スタイルのホテルの入口扉を思いだせば、納得いただけるだろう。
しかしなぜ、日本では玄関で靴を脱ぐのだろう。

中国は、日本にとって遣唐使や遣隋使を遣わすなどして、数多くの文化を学んだ国だが、必ず靴を脱ぐわけではない。都市部では、家に入る際に靴をスリッパに履き替える家庭も増えてきているというが、基本的には家の中でも土足だ。アジアには、屋内では裸足で過ごす国も少なくはないので、日本独自のものとは言えないが、家に入る際に靴を脱ぐ文化は中国から輸入されたものではなく、日本人の思想や風習によるものと考えて良いだろう。ではそれは、いつごろから始まったのだろうか。

靴を脱ぐ理由のひとつは日本の気候?

日本人の住居は横穴式住居から竪穴式住居へ、そして高床式住居へと変遷する。高床式の建物は風通しがよく、当初は倉庫として利用された。そこに人々が暮らすようになったのは、敷物や畳など、床に敷くものができてからだとも言われる。平安時代の絵巻物を見ると、貴族たちは床のある家に住んでおり、履物は脱いで暮らしているようだから、この時代には、既に家で靴を脱ぐ習慣が生まれていたのだろう。
日本は高温多湿な気候のため、縁の下を作らねば床が湿気てしまうから、必然的に外と家の中には段差ができる。この段差ゆえに「家に上がる」という表現もされるのだ。この「上がる」こそが、靴を脱ぐ理由の一つでもあろう。家の中は一段高く、大切な場所だと考えられた。そこに「上げ」て、招き入れられるのは特別な人だけであるし、大切な場所に土足で入るのは失礼にあたるのだ。

日本家屋のたたきと上がり框は結界の役割も

落語でも、熊さんや八さんが、ご隠居さんの家の上がり框に腰をかけていろいろな相談をする場面が登場する落語でも、熊さんや八さんが、ご隠居さんの家の上がり框に腰をかけていろいろな相談をする場面が登場する

しかし、扉を開ければすぐに屋内というわけではない。ほとんどの家の玄関は、土足で入ってもいい「たたき」と、家の中に入る段差部分にあたる「上がり框(かまち)」があるはずだ。江戸や上方の落語でも、ご隠居さんの家には熊さんは八つぁんなどが詰めかけるが、家の中に上がり込むことはめったにない。上がり框に腰かけて話をし、招き上げれらた場合だけ家の中に入る様子が語られている。
欧米の家屋にも床はあるが、外との段差がなく、玄関から入ればすぐ家の中で、屋内外を分けるものは扉一枚だけだ。一方、日本家屋は外と屋内の間にたたきと上がり框が存在し、結界の役割を果たしているとも考えられている。
日本神道の神職は「浅沓(あさぐつ)」と呼ばれる履物をはいているが、ご祈祷などで拝殿に上がる際には、前を向いたまま脱ぐのが決まりとなっている。これは後ろを向いて脱ぐと、本殿にいらっしゃる神様にお尻を向けてしまうし、前を向いて脱ぎ、向きを変えるために履物に触れると、せっかく清めた手が汚れてしまうからだという。地面に触れないかかとの部分に触れるのも避けるのは、靴は汚れたものだという意識があるからだろう。汚れているからこそ、結界の外に置いてこなければならないのだ。

平安時代の貴族の中でも、天皇が暮らす清涼殿の殿上間に昇殿を許された人物を、特に「殿上人」と呼んで尊ばれた。日本人にとって、家の中や特定の場所に上がるのは特別な意味があったのだろう。

床に座り、布団を敷く文化

日本人が家の中で靴を脱ぐのは、足が蒸れるのを防ぐためだとも言われる。肌が蒸れると皮膚病にかかりやすいし、においがすることもあるので、高温多湿の国ではなるべく通気をよくする方が良いのだ。
しかし、他人の家やお寺などに上がる際には、裸足やストッキングのままではなく、靴下を履く心遣いはもっておきたい。気づいていない皮膚病や足についた汗が床につくこともないからだ。

また、床に座り、直接布団を敷く日本の文化も、靴を脱ぐ習慣に深くかかわっているだろう。現代の日本の大半の道路は舗装がされており、靴もそれほど汚れないが、それでも、土足で踏んだ床に直接座ったり、布団を敷いたりするのはためらわれる。
そのためか、土足で家に入る国は、大抵の場合、椅子やベッドの文化だ。くわえて、足も隠すべき体の一部と考え、人前で裸足になるのは失礼にあたると考える国もある。たとえばドイツでは、人前で靴を脱ぐのはマナー違反だから気をつけよう。

玄関は家の顔

どんな業種でも、多くの人に訪れてほしいお店などの入口は、のれんがかけられているだけで扉は開かれていたり、ガラス扉になっていたりして開放的なものだ。そして、外からのぞき込むと、花が飾られていたり、ウェルカムボードが置かれていたりして、入ってみたい気持ちにさせられる。入口のしつらえは、店の印象を大きく左右するものだ。

個人宅の中は家族の場所であり、他人は容易に入ることができない場所とはいえ、入口の扉を固く閉め、玄関からは一歩も中に入れない家庭ばかりではない。
一昔前まで、開いた戸の向こうで、近所の人が上がり框に腰をかけて話し込んでいる風景を見かけるのも珍しくはなかった。
現代では、頻繁に人が訪れる家庭は少ないかもしれないが、玄関は家の顔。なるべくきれいに掃除をし、季節の花を活けたり、掛け軸を飾ったりなどして、気持ちの良いしつらえをしておきたいものだ。

玄関は、家の印象を大きく左右するもの。気持ちの良いしつらえをしておきたいものだ玄関は、家の印象を大きく左右するもの。気持ちの良いしつらえをしておきたいものだ

2016年 07月03日 11時00分