キッチンはおいしい時間をつくる場所。「物」「空間」「食」の最新調査

日々の暮らしの中で、食を生み出すキッチンは重要な場所。新築やリフォームの際には、キッチンを住まいの中心に配するようなプランも多くみられるようになってきた。家族構成やライフスタイルに合わせ、こだわりのキッチン空間を実現する方も増えている。システムキッチンや機器の性能や機能、デザイン性は高まり、キッチンの作業性は格段にアップしているといえるだろう。

また、キッチンは単に調理作業をする場、というだけでなく、食を通じて家族のコミュニケーションが育まれる場所でもある。「機能性や利便性などは大切な要素ですが、キッチンは、家族のおいしい時間をつくる場所。食事が完成したらキッチンの仕事はおしまいではなく、作った料理をみんなでおいしく、楽しく、食べられることも重要なのではないでしょうか」と話すのは、クリナップ『おいしい暮らし研究所』所長の手塚佐恵子さん。

『おいしい暮らし研究所』は、キッチン専業メーカーであるクリナップの研究部門のひとつ。食や暮らしに関する情報収集、調査・分析を行い、集められたデータからみえる暮らしの変化を製品づくりなどに役立てるため、2009年に設立された。

ここでは、『おいしい暮らし研究所』で行われた「物」「空間」「食」の調査結果をもとに、キッチンからみた生活者のいまの姿、今後の予測などを伺った。いくつかの興味深いトピックスを紹介する。

女性が活躍する研究部門である『おいしい暮らし研究所』。(左から)手塚佐恵子さん、赤城由佳さん、鈴木恵子さん女性が活躍する研究部門である『おいしい暮らし研究所』。(左から)手塚佐恵子さん、赤城由佳さん、鈴木恵子さん

年代が高くなると調理器具の保有率・保有数が増えるが60代では断捨離も?

キッチン空間の「物」に関する調査では、調理器具や食器類、消耗品など約130以上のアイテムを品目別に調べている。

調理器具でみると、ほとんどの物は年代が高くなるとともに保有率、保有数が増える傾向にある。しかし、まな板や鍋など大型の物は、60代以上になると減少する傾向がみられるという。子どもの独立など、家族構成やライフスタイルの変化を機に断捨離を行っている、ということが言えるようだ。また、食器類では、いわゆる和食器(急須や湯飲み、徳利やおちょこ、ぐいのみ、すり鉢やすし桶など)は減少している。他の食器で代用できるため、専用の物は不要ということなのだろう。

調理や清掃以外で使用する物も意外と多様だということも明らかになった。たとえば、サプリメントや文房具、医薬品などは、1/4以上の世帯でキッチンに置かれている。キッチン空間の収納スペースを検討する際には、これらのアイテムのスペースを確保しておくこともポイントとして挙げられるのではないだろうか。

これらの保有する物に関して、どの年代でも「収納の仕方がわからない」という声が多く聞かれる。若い世代では「収納量が足りない」、40代以上では「出し入れしにくい」という困りごとがあるという。収納スペースを確保するだけでなく、収納方法などの細かな提案が求められているのだろう。

ツールポケットやスライドボックスなどを用い、使いたい物がサッと取り出せるフロアキャビネット。[ステディア]ツールポケットやスライドボックスなどを用い、使いたい物がサッと取り出せるフロアキャビネット。[ステディア]

食事をする場に不満を感じているのは、女性30代、男性50代

食事をする部屋や場所、食卓を囲む状況についての調査では、現状の食の場に不満を感じている割合が多いのは、30代の女性と50代の男性という結果に。

30代女性、特に子育て中の方の場合、食事をする場は「家族が集まる空間」「会話やコミュニケーションを楽しむ空間」を理想としており、子どもや配偶者などを気にかけ「できるだけ家族と一緒に食事をとるようにしたい」という意識も高い。現状では、空間や食卓の狭さ、食卓やテーブルが子どもに合わないなど、家族で楽しく食事ができない状態であることがうかがえる。

50代の男性の場合、食事をするスペースは「TVが見られる部屋」「ゆったり・のんびりできる空間」「落ち着いてリラックスできる空間」などを理想としている。誰かと食事を楽しむことよりも、くつろぎを重視するケースが多い。現状の空間や食卓の狭さは30代女性と同様に不満に思っているが、食の場に対する理想は全く異なっていることが読み取れる。

ひとくちに食事の場(ダイニングスペース)といっても、年代や家族構成によって多様なプランが考えられる。最近では、キッチンとダイニング、リビングがひとつの空間にプランニングされるケースも多く、どこで、誰と、どのようなスタイルで食事をするのか、トータルに検討することも大切だろう。

子育て世代では、作業をしながらでも子どもの様子がわかるキッチンスタイルが人気。ダイニング側にも収納スペースを設けることで、すっきりとした空間を実現できる。[ステディア]子育て世代では、作業をしながらでも子どもの様子がわかるキッチンスタイルが人気。ダイニング側にも収納スペースを設けることで、すっきりとした空間を実現できる。[ステディア]

夕食メニューが変化。炒め物が増え漬物が減少。調理時間短縮への強い思いも

食についての調査では40年間(昭和から平成の終わり)の家での夕食に変化をみている。家で夕食をとっている人は継続的に減少しているものの、60代で下げ止まり傾向となっている。直近では、家で夕食をとる割合が少ないのは30代という結果。仕事に家事に忙しい年代ということか。

献立に関しては、昭和最後の87-88年、平成最後の17-18年を比較。メニューの変化として特徴的なのは、炒め物が増え、漬物が減っているということ。一方、増加しているのは、粉料理、丼物・弁当類、肉炒め物、パスタなど、一品で食事となるようなメニューだ。また、冷菓(ヨーグルトなど)の菓子類が増加し、果物などが減少しているのも注目だろう。

メニューに関連して、夕食の炊事時間をみてみると、30分以下が増えており、60分以上という人は減ってきている。調理時間を短縮したい、という思いは強く、30代では5割を超えている。

また、「正直に言うと料理を作るのは好きではない」という、ネガティブな回答も増加傾向にあり、手づくりへのこだわりも年々減少傾向にある。一方で、栄養バランスを意識しているという方の増加もみられる。

手塚さんは、「共働きも増え忙しい日々の中、調理時間を短縮したい、というのは当然かもしれません。サッと作ることができる炒め物が増えたこと、食器洗いも楽な一品で食事になるメニューが増えたこと、皮を剥く果物よりも手間がなく保存がきく冷菓が増えたことも納得がいきます」と話す。

■家(いえ)食の変化‐調理方法の推移 [キッチン白書2019] ■家(いえ)食の変化‐調理方法の推移 [キッチン白書2019] 

対面型キッチンは定番化?個々に適した提案も期待したい

調査によると、キッチンのレイアウトは、持家(一戸建て・マンション)の場合、対面II型が半数を占め、いわゆる対面キッチンが主流となっている。子どもの様子をみながら作業をしたい世代を中心に定番化してきているようだ。

しかし、所有する物や空間への希望、メニューなど、世代や家族構成によっても大きく異なることは、調査からも明らかだ。同じ対面キッチンだとしても、それぞれに適したプランとしなければ、快適なキッチン空間にはならないだろう。

「空間だけでなく、献立などまで俯瞰的に調査することで、見えてくることも多いと思っています。たとえば、メニューの傾向や嗜好によっては、高性能の機器だけでなく、シンプルな機能を持つ機器をご提案するという発想もあるかもしれません。住まいの中で、キッチンが果たす役割はますます重要になってきていると考えています。これからも、さまざまな角度から調査分析を行い、提案につなげていきたいと思っています」(手塚さん)

今回の調査結果からは、これからのキッチンの形、食事風景をイメージするひとつの方向が見えたように思う。今後、予定されている消費税引き上げ、また、働き方改革や高齢化など、家づくりはもとより、家での食事や調理にも影響を及ぼす社会的な問題もある。それらも踏まえ、キッチンメーカーには、新しいキッチンの形や食空間の提案を期待したい。

■取材協力
クリナップ https://cleanup.jp/

■キッチンのレイアウト [キッチン白書2017]■キッチンのレイアウト [キッチン白書2017]

2019年 06月17日 11時05分