長く続いた低金利環境のなか、日本の住宅ローン市場では、変動金利が圧倒的な存在感を放ってきた。住宅価格が上昇しても、低い金利によって毎月の返済額を抑えられたことが、住宅購入を下支えしてきた側面もある。
しかし、日本銀行の金融政策正常化によって、状況は変わり始めている。住宅ローン金利が上昇するなか、売買仲介の現場でも「変動金利で借りられるだけ借りる」という人だけではなく、固定金利と比較する人・借入額を抑える人・購入時期そのものを見直す人も目立つようになってきた。
住宅ローンをめぐる購入者心理の変化は、やがて住宅価格や売れ筋にも影響する可能性がある。この記事では、不動産売買の現場で実際に感じる変化も交えながら、「変動一択」とも言えた時代から、今後どう変わっていくのかを考えてみたい。
なぜ「住宅ローンは変動金利」が当たり前になったのか
日本の住宅ローン市場では、長らく変動金利が主流となってきた。住宅金融支援機構の「住宅ローン利用者の実態調査」によると、変動型を利用した人の割合は2022年10月調査の69.9%から、2023年10月には74.5%、2024年10月には77.4%へ上昇。さらに2025年4月調査では79.0%に達し、約8割を占めた。
このような変動金利の利用拡大を支えてきたのが、長期間にわたる低金利環境である。変動金利は固定金利と比べて低い水準で借りられることが多く、住宅価格が上昇するなかでも月々の返済負担を抑えやすかった。そのため、変動金利を選ぶことで、より高い価格帯の住宅も購入の選択肢に入りやすくなっていたと考えられる。
ただし、直近では変化も見え始めている。2026年1月調査では変動型の割合が75.0%となり、2025年4月調査から4.0ポイント減少した。一方、固定期間選択型は12.2%から14.9%、全期間固定型は8.8%から10.1%へそれぞれ上昇している。変動型が依然として多数を占める状況に変わりはないが、「変動金利への一極集中」ともいえる流れに変化の兆しが表れている。
私自身、売買仲介の現場で、これまでは変動金利を前提として住宅ローンの相談を進める購入者を数多く見てきた。これは単に「日本人は変動金利を好む」という話ではないだろう。金利が大きく上昇しない環境が長く続いたことで、「今後も低金利が続く」という感覚が広がり、変動金利を選ぶことへの心理的なハードルが低くなっていたのではないだろうか。
日銀の政策転換で変わる住宅ローンへの意識
長く続いた低金利環境は、2024年を境に大きく転換し始めた。同年3月、日本銀行はマイナス金利政策を解除し、7月には政策金利を0.25%程度へ引き上げた。その後も段階的な利上げが行われ、2025年1月には0.5%程度、同年12月には0.75%程度、2026年6月には1.0%程度、同年9月には1.25%にまで引き上げられている。
こうした動きは、住宅購入者の金利に対する意識にも影響を与えている。低金利が長く続いてきたため、これまでは住宅ローンを検討するにあたって、借入後の大幅な金利上昇を現実的なリスクとして捉えていなかった人も多いだろう。
しかし、政策金利が実際に引き上げられ、変動型の住宅ローン金利にも変化が現れたことで、借入後の金利上昇を意識する場面が増えている。
もちろん、変動金利は固定金利よりも低い水準で借りられるケースが依然として多く、その優位性がなくなったわけではない。ただ、足元の金利差だけでなく、今後の金利動向や返済額の変化も考慮して住宅ローンを検討する必要性が高まっている。
私自身、住宅ローンの相談を受けるなかで、これまでのように「低金利が続くこと」を前提として住宅購入を考える人が徐々に少なくなってきていると感じている。
売買仲介の現場で感じる、住宅購入者の「迷い」の増加
金利に対する意識の変化は、不動産売買の現場にも表れている。私自身、これまで多くの住宅購入相談を受けてきたが、以前は変動金利を前提に金融機関を比較したうえで、「毎月の返済額はいくらになるのか」「いくらまで借りられるのか」といった内容の相談が中心だった。
ところが最近は、「固定金利にすると返済額はどのくらい変わるのか」「今後さらに金利が上がったら返済額はどうなるのか」と聞かれることが増えた。さらに、住宅ローンの組み方だけでなく、購入計画そのものを見直すケースもある。
たとえば、次のような動きだ。
・自己資金を増やして借入額を抑える
・希望条件の優先順位を見直して物件価格を下げる
・すぐには購入せずに様子を見る
もちろん、こうした動きがすべての購入者に当てはまるわけではない。それでも、複数の相談を受けるなかで「無理なく返していける金額」を気にする人が以前より増えた印象がある。
金利上昇は、住宅ローンの選び方だけでなく、物件購入の予算や時期を改めて考えるきっかけにもなっている。
金利上昇と住宅価格高騰が重なる「二重負担」
昨今の金利上昇を考えるうえで外せないのが、住宅価格そのものがすでに高い水準にあることだ。国土交通省の不動産価格指数によると、全国の住宅総合は2010年平均を100として、2025年12月には145.1(原系列)となっている。さらに、マンション(区分所有)に限定すると221.2(原系列)まで上昇しており、価格上昇の大きさが目立つ。
出典:[PDF]国土交通省|不動産価格指数(令和7年12月・令和7年第4四半期分)公表日(令和8年3月31日)
住宅価格が上がれば、それに伴って住宅ローンの借入額も大きくなりやすい。借入額が増えた状態では、わずかな金利上昇でも毎月の返済額や総返済額への影響が大きくなる。近年の購入者は、住宅価格の上昇と金利上昇が重なる「二重負担」に直面しているといえるだろう。
これまでの低金利は、住宅価格が上昇するなかでも返済負担を抑える働きをし、購入可能額を支えてきた側面がある。この前提が変われば、購入者が選べる価格帯にも影響が出る可能性がある。
加えて、金利が上がれば住宅価格がその分下がるわけではない。建築費や人件費、土地価格、供給量など、住宅価格を左右する要因は複数ある。今後は、金利上昇による需要の抑制と、建築コスト増加などによる価格の押し上げが同時に進む可能性もある。
金利上昇で住宅需要はどこへ向かうのか
金利が上昇すれば、住宅購入を見送る人が増える可能性がある。
一方で、すべての人が購入をあきらめるわけではない。住宅購入のタイミングは、結婚や出産、子どもの進学や転勤などにも左右され、金利だけで決まるものではないからだ。
そのため、購入そのものを取りやめるのではなく、予算や物件の条件を見直す動きも出てくるだろう。たとえば、次のような見直しが考えられる。
・新築から中古住宅へ切り替える
・駅近物件だけでなく少し離れた物件まで対象を広げる
・都心から郊外へと検討エリアを広げる
・希望する延床・敷地面積を抑える
実際の売買現場でも、予算内に収めるために希望条件の優先順位を整理し直すことは珍しくない。今後、金利上昇の影響で購入予算を見直す人が増えれば、これまでとは異なる価格帯やエリアの物件に需要が移る可能性もある。
金利上昇は住宅購入を見送る要因になる一方で、中古住宅や郊外など、これまで検討していなかった物件へ目を向けるきっかけにもなりそうだ。
金融機関と不動産会社に求められる説明も変わる
金利をめぐる環境が変われば、住宅ローンを扱う金融機関や不動産会社に求められる説明も変わる。低金利が長く続いた時代は、現在の適用金利と毎月の返済額を示すことで、購入者に住宅ローンを比較してもらうことができた。しかし、金利上昇局面では「現在の返済額」だけでは判断しにくくなっている。
今後は、変動金利がさらに上昇した場合には返済負担がどう変わるのか、固定金利を選んだ場合とどのような違いがあるのかなど、金融機関にとっては複数のシナリオを示す重要性が高まるだろう。
一方の不動産会社にとっても、「住宅ローン審査に通る金額」と「長期間無理なく返済できる金額」を分けて考える視点がこれまで以上に重要になる。特に住宅価格が高騰し、借入額も大きくなりやすい現在は、購入可能額を最大化することだけが提案ではない。
金利や家計の変化があっても対応できる余力をどこまで残せるか。この視点まで購入者と共有することが、これからの仲介会社に求められる役割ではないだろうか。
「変動一択」の終わりは、住宅市場の価値観を変えるのか
ここまで見てきたように、変動金利を選ぶ人がいなくなるわけではない。固定金利との金利差を考え、今後も変動金利を選ぶ購入者は一定数いるだろう。ただ、これまでのように「住宅ローンならまず変動金利」と考える人ばかりではなくなってきている。
固定金利を検討する人もいれば、借入額を抑える人、中古住宅や郊外まで検討範囲を広げる人、購入時期を見直す人もいる。金利が動き始めたことで、住宅ローンだけでなく、住宅の選び方にも変化が現れ始めている。
長く続いた低金利は、毎月の返済負担を抑え、住宅価格が上昇するなかでも購入を支えてきた。この状況が変われば、購入者が検討できる価格帯にも影響が及ぶ。予算を抑える動きが広がれば、売れ筋となる価格帯や立地、新築・中古の需要バランスにも変化が出てくるだろう。
「変動一択」の時代が終わるかどうかは、もう少し長い目で見る必要がある。ただ、金利をほとんど意識せずに住宅を購入できた時代から、金利の動きも踏まえて予算や物件を選ぶ時代へ移りつつあることは確かだ。今後、この変化が住宅価格や売れ筋にどこまで現れてくるのか、不動産市場全体を俯瞰するうえでも注目したい。









