エレベーターの閉じ込め、高層難民…。マンションでの災害とは

東日本大震災から4年半…。
防災意識は高まっているように思うが、マンションにおけるそれはどうだろうか。戸建てを売って都心のマンションで老後を過ごそうという人も増える中、今一度マンションならではの防災について考えてみたいと思う。

マンションでは高層になればなるほど、地震の揺れは地階に比べて長く続く。大規模な災害が起きた場合には、エレベーターが使えない、高層階まで水が運べないといった、マンションならではの困難にぶち当たることが予想される。実際に東日本大震災では、仙台市や首都圏の高層マンションでエレベーターがストップ、西新宿の高層マンションでは、最大1M程度の長周期地震動が約10分間にわたって続いたという。ライフラインの停止により高層階で孤立する世帯、いわゆる「高層難民」も生まれた。

困難にどう対応する!? 行政が作るマンション向け防災マニュアルを活用しよう

区民の約8割が集合住宅に住むという、東京都新宿区が作成した中高層マンションの防災対策マニュアル「マンション防災はじめの一歩」区民の約8割が集合住宅に住むという、東京都新宿区が作成した中高層マンションの防災対策マニュアル「マンション防災はじめの一歩」

こうした経験を踏まえ、首都圏ではマンション向けの防災マニュアルへの関心が集まり、超高層マンションも立ち並ぶ東京都新宿区では、中高層マンション向けの防災マニュアル「マンション防災 はじめの一歩」を2011年に作成した。

マニュアルでは、
●エレベーターが止まってしまったら各階のボタンを全て押し、止まった階で降りる。
●地震の初期振動を感知する装置(P波感知型地震時管制運転装置)がついているエレベーターの場合は、揺れを感知すると最寄りの階に自動で止まるので、止まった階で降りる。

など、基本的な初期対応から、

●災害時には居住者をまとめたり協力体制をいち早く作れるよう、各階やブロックに分けて防災担当者を決めておく。
●平常時に安否確認票を各戸に配布し、災害時にドアに張り出すことで居住者の安否確認を行えるようにする。

など、マンション特有の災害対策案を盛り込んでいる。

仙台市では、先の震災の教訓をもとに「分譲マンション防災マニュアル作成の手引」を作成。
市内約1400棟の分譲マンションが、倒壊には至らなかったものの100棟以上が全壊判定を受けるなど、建物や付帯設備に大きな被害をもたらした同市では、被災マンションの声を盛り込むなど、独自の内容となっている。
災害時の対応課題としてみえてきたのは、居住者の速やかな安否確認、要援護者の避難誘導、災害時にマンションにいる居住者で対応できる体制作りの重要性。自主的な防災活動がなされたマンションとそうでないマンションでは対応に大きな差が出たという事例もマニュアルに掲載されている。
自主防災活動がされていたマンションでは

●エントランスと集会所を開放して、一時的な避難場所を確保。
●居住者有志でカセットコンロを持ちより、炊き出し、湯沸しを行った。
●高架水槽は破損したが、直結の水道から給水し各戸へ供給。
●エントランスに連絡ノートを設置し、炊き出しや給水車の情報共有を行った。

など、相互協力の体制が整っていたため、災害を乗り切れたという。
こうした例も踏まえて、マンションでの災害に備えるために何が必要かをまとめてある。

防災意識が一目でわかる! 防災力強化マンションの登録制度が広がりつつある

仙台市が作成した「分譲マンション防災マニュアル作成の手引き」仙台市が作成した「分譲マンション防災マニュアル作成の手引き」

さらに仙台市では、2013年度から「杜の都 防災力向上マンション認定制度」を創設。マンションの防災力を市が認定する制度で、「防災性能」または「防災活動」の項目で評価し、マンション防災力を市が認定。取り組みの内容や活動段階などにより、それぞれ星の数で認定し、「防災性能」と「防災活動」のすべての項目に取り組んだ場合は、最大6つ星(☆☆☆☆☆☆)となる。また、同市にはマンション管理組合(自治会)の防災活動を評価する認定制度という全国初の制度もあり、こちらは防災マニュアルの作成や防災訓練、防災備蓄などの日常の防災活動に取り組むマンション管理組合(自治会)の活動を評価するもの。認定を受けたマンションは市のHPに掲載されるので、防災意識の高いマンションが一目でわかる。

各マンションの防災の取り組みを評価し、居住者の意識を高めようという行政の動きは、関西でも見られる。
大阪市では2009年に「防災力強化マンション認定制度」を創設。震災に対しての備えを市民と協調して行うことを趣旨とし、耐震性や耐火性など建物の安全性に関する基準を満たし、被災時の生活維持に求められる設備・施設等の整備、住民による日常的な防災活動等の実施など、ハード・ソフト両面で防災力が強化されたマンションを「防災力強化マンション」として認定。認定されたマンションには認定プレートが交付され、大阪市のホームページや広報紙等においてPRされるという。また、認定を受けた新築マンションについては、物件により住宅ローンの金利が引き下げられるなどの特典もあり、2015年8月時点で39件のマンションが認定を受けている。

こうした災害に強いマンションの登録制度は、各地にじわじわと広がっており、2012年には大阪市と同様の制度を大阪府も創設、同年6月には東京都が「LCP(Life Continuity Performance:生活継続性能)住宅」と呼ばれる登録制度をスタートさせたほか、東京都墨田区が「すみだ良質な集合住宅認定制度」を、2014年兵庫県西宮市では「みやっこ防災マンション認定制度」をスタートさせている。

墨田区「すみだ良質な集合住宅認定制度」では、細かい基準があるものの大きなくくりでは
「防災や災害に配慮した機構を有する集合住宅で、災害発生から3日間、避難所に行かずに生活できる住宅」と書かれている。
耐震性に優れているマンションで備えがあれば、そこから避難するのではなく、そこを避難場所として活用できる可能性がある。マンションにおいては、災害時に居住者同士で協力して対応できるという集合住宅ならではのメリットも大きいだろう。

「ドローンを使って高層階まで物資を届ける」など、マンション防災のアイデア="防才"の募集がスタート

主催のRC-77とは、東京大学生産技術研究所都市基盤安全工学研究センター災害安全社会表現学部門目黒研究室が運営する(一財)生産技術研究所奨励会所属特別研究会のこと。今年度は、首都直下地震や南海トラフ地震,オリンピックについて必要な技術や制度を国に対して提案していくという主催のRC-77とは、東京大学生産技術研究所都市基盤安全工学研究センター災害安全社会表現学部門目黒研究室が運営する(一財)生産技術研究所奨励会所属特別研究会のこと。今年度は、首都直下地震や南海トラフ地震,オリンピックについて必要な技術や制度を国に対して提案していくという

最近では、マンションにおける防災についてアイデアを募る、「マンション防才アイデアコンテスト」も開催。9月1日からアイデアの募集をスタートさせた。

防災ではなく"防才"―。
それは「天才や秀才の理論ではなく、身近な日常的な生活から生まれる防災のアイデアです」と、主催する東京大学生産技術研究所RC77(※)「マンション防才アイデアコンテスト」事務局の飛山利幸氏。
例えば「高層階に取り残されたお年寄りにモノを届ける手段は?」「どうすれば防災訓練の参加者が増える?」「マンション敷地内に緊急対策用ハイテク倉庫を作ったら!」「遠隔地のマンションと災害時に助け合えたら?」という事態に対するアイデアを募集。作品例としては、遠隔操作やコンピューター制御ができる無人航空機「ドローン」を使って、高層階まで物資を運ぶ、といったアイデアや、エレベーターの閉じ込めを想定した居住者による自主救出訓練のアイデアなど、子どもの柔軟な発想、若者の鋭い目線、住んでいる人だからこそわいてくるアイデアなどを広く求めているという。

今回マンションに特化したアイデアを募集する理由について、飛山氏は「マンションというのは他の建物に比べると安全性が高いんです。そういう意味では、地域防災の拠点となる可能性を秘めているわけですが、そのためにはまず住んでいる人自身が安全でなくてはならない。そういう観点からマンションにおける防災について考えていこうというひとつの取り組みです」と話す。
東日本大震災では、安全なマンションのある場所に多くの人が集まり、安心感を生み出した一方で、通信ができない、エレベーターが停止して閉じ込められる人がいたりと、さまざまな問題も起きたという。
「専門学的な防災の知識とともに身近な防災の大切さをコンテストを通じて考えてもらうきっかけにしてもらいたい」とスタートした今回のコンテスト。マンションと人との関係、マンションの防災機能をより高めるためには、居住者自身の意識が肝だろう。家族、友人とアイデアを練りながら、"防才"意識を高めていきたいものだ。

※東京大学生産技術研究所都市基盤安全工学研究センター災害安全社会表現学部門目黒研究室が運営する(一財)生産技術研究所奨励会所属特別研究会

マンションは避難場所として活用できる可能性がある

あなたの住んでいるマンション、もしくはこれからマンション住まいを考えている人は、防災マニュアルの内容と取り組みについて一度確認してみてはいかがだろうあなたの住んでいるマンション、もしくはこれからマンション住まいを考えている人は、防災マニュアルの内容と取り組みについて一度確認してみてはいかがだろう

日頃から「顔の見える関係づくり」を通してのコミュニティ活動や、居住者間の絆や支え合いを深めておくことが防災の第一歩でもあるが、防災意識と防災活動の広がりも欠かせないだろう。「防災」といっても一朝一夕でできるものではない。一人ひとりが災害に備える"自助"と、お互いが助け合う"共助"の取り組みについていま一度、自分が住む(もしくは住みたいという)マンションの防災意識を確認してみてほしいと思う。

2015年 09月26日 11時00分