日本はこれまで地震に強い国土計画を推進し実施してきたが…

いうまでもなく、日本は「自然災害大国」だ。

(一社)国土技術開発センターによれば、2001年から2009年に地球上で発生したマグニチュード6.0以上の地震は1,036回、そのうち212回が日本とその周辺で発生している。割合にすると実に20.5%、地球上で最も巨大地震が発生する確率が高い地域および国といっても過言ではない。
2011年3月、日本人なら誰もが決して忘れることのできない東日本大震災のマグニチュード9.0(日本の地震観測史上最大値)を筆頭に、2016年熊本地震本震のマグニチュード7.0、1995年阪神・淡路大震災のマグニチュード7.3など、まさに一瞬で人間の生命と財産を奪う巨大地震が全国各地で発生していることも今更指摘するまでもない。

また、東日本大震災では福島の原発施設が津波によって被災し、重大な放射能漏れ事故が発生して、今でも以前の住処を取り戻せていない人が数多くいることも忘れてはならない。それだけ地震の被害は地域的にも経済的にも甚大であり、だからこそ国は国土強靭化計画を策定していつ発生するかわからない巨大地震に備え、莫大なコストと時間を費やして対策を講じてきた。また建物の耐震基準を随時見直して地震に強い住宅の供給を奨励したり、いわゆる木密地域を解消することで火災など地震後の二次災害を可能な限り少なくしたりする取組みも実施している。

マンションデベロッパーやハウスメーカーもそれに応えて制振・免震マンション、地震に強い戸建住宅、太陽光+蓄電システムと貯水タンクなどを備えた戸建住宅などを相次ぎ商品化し、防災性能の高い住宅を供給することで意識を高めることに努めている。

こういった取り組みを積極的に支持する買主がこのような「地震対応住宅」を購入することでマーケットにも明確なパイが継続して存在しており、今や地震対策を中心とした防災をテーマに掲げる住宅商品は確実にその需要を高めているといって良い。

住宅の資産価値に影響する要素①「利便性」と「快適性」

住みたい街ランキングで上位にあがる吉祥寺駅前(※写真はPIXTA)住みたい街ランキングで上位にあがる吉祥寺駅前(※写真はPIXTA)

さて、話は変わるが住宅の資産価値(=リセールバリュー)に与える要因には、筆者がかねて主張しているように、いくつかの分類が可能だ。

まずは「交通利便性」、これには都心か郊外かという広域における立地条件による交通の良しあしと、最寄駅から近いか遠いかという狭域面での立地条件がある。もちろん都心もしくは都心に近い便利なところで駅にも近くて便利な住宅は販売価格自体も高いが、価値も高いということができる。反対に郊外で駅からも遠く離れているようなエリアの住宅は需要も限定的で、販売価格が安価であっても相応に資産価値にも期待しにくいことになる。

「生活利便性」は、衣食住の基本となる生活面全般について利便施設が満遍なく整っているかどうかがポイントだ。都市圏であればどこに住んでいても日用品、生活必需品は手に入るので生活利便性には大きな違いがないように思われるが、実際に住んでみると自分と家族に合った品物が購入できなかったり、商品のバリエーションが限られていて選択の余地がなかったりすることもあり、物価も含めてエリアによって相応の違いがある。また、生活には教育環境や余暇、飲食なども含まれるため、総合的に評価すると地域的な違いはかなり大きくなる。人間は食べていけさえすればそれで良いとは考えないものだ。

「居住快適性」は生活利便性に近しいニュアンスがあるが、主に住宅そのものの特性と周辺環境を確認する要素だ。住宅の仕様・設備・形状や他にはない利点など、住宅の付加価値が居住快適性に直結するケースが多い。また、住宅周辺の環境は幹線道路に面していて騒音や振動が気になるとか、公園や図書館が隣接していて落ち着いた生活環境が整っているとか、都心近くで繁華性が高く若年層が楽しく暮らすのに向いているとか、居住者の年齢や性別、暮らし方によっても異なるので、嗜好性が反映されやすい要素でもある。

住宅の資産価値に影響する要素②「生活継続性」と「安全性」

次に「生活継続性」は、その地域もしくは住宅に長く暮らしていてライフステージが変化した際にも対応できるかどうかという要素。
住宅=不動産は文字通り動かすことができないため、転勤や転職、進学などによって都度住み替えを前提とする賃貸物件とは異なり、どこにアクセスするにも便利な交通条件も含め、住宅に新たなコストを掛けなくても生活を継続できるか否かを考慮するものだ。将来を具体的に予測することは困難だが、将来子どもがどこの学校に進学するか、親と同居する可能性があるか、転勤を想定した住宅を選ぶ余地はあるか(もしくは単身赴任でも容易に戻ることができる立地条件か)など、主に立地面での”汎用性”を意識した選択になる。

最後に「安全性」。これには日常の安全を考える「防犯性」と、冒頭記した災害への対応力としての「防災性」が含まれる。一般に木造住宅よりも堅牢と考えられるRCもしくはSRC造の住宅は外部からの侵入が難しく、また居住者以外の人間が自由に立ち入れない仕組みを採用しているので防犯性も高いと考えられている。ただし戸建住宅でも警備会社との契約によって防犯性能を高めることができるし、地域の犯罪発生率とも関わりがあることなので、自分にとって必要な防災性能を備えているかどうかがポイントになる。

防災性についてもマンションには制振・免震装置が備わっていたり、万一に備えて非常用発電機や備蓄倉庫が設置されていたりするため、戸建住宅よりも防災対策が施されていることが多い。
マンションでは管理組合がこのような設備を管理しており、居住者個人が勝手に内容や仕様を変更したり、自分の都合で必要なものを倉庫に保管することはできない。自由度は低いが、いざという時に必要と考えられる装備品や食料、燃料、水などが備蓄されていることは安心感の醸成につながるだろう。

ただ、この「安全性」について、これまで地震およびその二次災害である火災を想定して対策を施してきたマンションで、浸水によって機能しなくなるケースが発生し、地震対策だけでは不十分なのではないかとの声が聞こえるようになってきたのが昨今の状況ということになるだろう。

2019年も台風15号&19号で各地に甚大な被害発生

2019年は、多くの地域が台風と豪雨の被害にみまわれ、都市圏でも例外ではなかった(※写真はイメージ。PIXTA)2019年は、多くの地域が台風と豪雨の被害にみまわれ、都市圏でも例外ではなかった(※写真はイメージ。PIXTA)

その声が大きくなったきっかけは、言うまでもなく2019年秋に発生した台風15号と19号による被害である。
この2つの台風によって、首都圏や長野県、東北地方でも甚大な浸水被害、堤防決壊および土砂崩れによる住宅倒壊被害などが相次ぎ、多くの人にとって住宅の安全性を考える契機となっている。
地震だけでなく、台風による浸水・強風の被害、加えて竜巻などの突風被害なども各地で相次ぎ発生しているから、年々激甚化する印象のある自然災害に対して、住宅はどこまで対応できるのかが問われる状況にあるとも言える。

さらに、地域ごとの安全性の違いが資産価値にも大きな影響を与えるケースが過去にあったことを我々は忘れてはならない。
2011年3月に発生した東日本大震災では、千葉県浦安市で液状化被害による建物の沈下、傾斜によって事実上生活を継続できなくなる事態となって、最も東京に近い千葉として人気の高かった浦安市内の住宅価格、賃料が大きく下落した。その後、浦安市が液状化対策に乗り出し、また居住者や転居希望者の災害に関する記憶が薄れるに連れて徐々に住宅価格も賃料も震災前の水準に戻っていったが、現在でも液状化対策の効果は不透明であり、市内の地域によっては対策を中止したところもあるため、東日本大震災と同程度の地震が発生すれば再び大きな被害が発生する可能性もある。

冒頭述べた通り日本は世界一の自然災害大国であるから、どこに居住していてもいつか何らかの自然災害の被害に見舞われる可能性は否定できないが、災害に関する記憶が薄れることで価格や賃料が戻ることは本来あるべきことではない。自然災害対策に万全はないものの、安全性に関する検証は常に怠らぬよう行政側に要望・期待したい。

武蔵小杉のタワーマンションで起きたことが考える契機になる

先の台風19号によって、武蔵小杉では多摩川の水が排水管から逆流して浸水し、タワーマンションの地下にある配電盤が壊れて停電する事態が発生した。

武蔵小杉はもともと多摩川の近くに位置し、低地でもあることから工場などに活用されてきた経緯があるが、街区の広さや横浜と東京の中間地点としての利便性が注目され、工場の移転に伴い2000年代の初めから本格的な宅地開発が始まって、2008年には「ザ・コスギタワー」など駅前に相次いでタワーマンションが竣工している。

その後も駅の整備や東急線と東京メトロ南北線の相互乗り入れ、JR線ホームの新設などで駅とその周辺の利便性が一気に高まり、急速に発展するとともに首都圏有数の人気住宅地に成長した。
その住宅地としての人気を牽引したのが駅周辺に林立するタワーマンションで、上記のような「交通利便性」と「生活利便性」「居住快適性」だけでなく、「生活継続性」および「安全性」にも配慮された高品質なマンションを購入して居住する人が急増したことが、武蔵小杉を一躍人気エリアに押し上げた大きな要因と言える。

つまり武蔵小杉は、住宅の資産価値を良好に保つ条件がバランス良く揃ったエリアなのだが、それが今回の台風によって住宅の資産価値の構成要素である「安全性」に疑問が生じたということになる。
誤解のないように予め指摘すると、今回、生命と身体を守るという意味での「安全性」については何ら問題がなかったことには疑問の余地はない。今回の台風によって当該タワーマンションで物理的・肉体的な被害を受けた居住者は皆無だからだ。

では何が問題だったのかというと、配電盤が浸水して破損し、長期間にわたって停電したということに尽きる。つまり災害発生時に生命・身体を守るという意味の安全性と、災害発生後の生活も被災前と同様に送ることができるという安全性(=安心)を担保することには違いがあり、長期間停電することによって生活が困難になったという心理的な負荷が極めて大きかったことが問題の焦点になる。

再三指摘しているように、自然災害に対する住宅の防災性能には限度がある。どれほど対策を施してもそれを上回る規模の自然災害が発生し、その都度ある種の諦念と共に「想定外の災害」との言葉が使われてきた。
詰まるところ、自然災害に対してどれだけの事象を想定してマンションほか住宅を開発すべきなのかの線引きは困難であるし、それ自体には相対的な意味合いしかないが、今回の例に沿って考慮するならば、大規模河川の近くは常に浸水のリスクがあるということに思いを致さねばならなかったということになる。

ハザードマップは公開されていて誰でも見ることができるものだが、それを実際に確認して住宅購入の参考にするという人はあまりにも少ないし、ハザードマップの説明には現在のところ法的義務もないのである。

日常の交通や生活の利便性、居住快適性が如何に優れていても、突然発生する自然災害によってそれらの優位性を奪われてしまっては、居住する意味・価値が大きく減じられる結果となる。
資産価値を重視したいと考えるのであれば、いま一度、住宅は不動産=動かすことのできない財産であることを意識し、何を買うか(何に住むか)と同じレベルで、地形や地質を考慮しつつどこに買うか(どこに住むか)を改めて検討する必要がある。

武蔵小杉のタワーマンション群。豪雨被害により一時は停電となるマンションもあった(※写真はPIXTA)武蔵小杉のタワーマンション群。豪雨被害により一時は停電となるマンションもあった(※写真はPIXTA)

2020年 01月28日 11時05分