まちおこし映画が抱えている課題

ゆるキャラやB級グルメ、ご当地アイドルなど、まちおこしの手法はさまざまあるが、まだジャンルとして確立されていない手法でまちおこしへの挑戦を始めた市民有志団体がある。岐阜県各務原市を拠点とする「各務原市全国まちおこし映画祭実行委員会」だ。そして、まだジャンルとして確立されていない手法というのは“まちおこし映画”のことである。
(なんだ、まちおこし映画なら目新しくもない…)と思われた方がいるかもしれないので強調しておくが、“映画”でまちおこしではなく、“まちおこし映画”でまちおこしという点が、これまでにない手法なのだ。つまり、映画作品そのものでまちをアピールしたり、映画のロケ地として採用された場所を観光名所にしたりするのではなく、まちおこし映画に関連する全てをひっくるめて、まちをプロモートしようとしている。さらに、彼らの本来の目的は、単にまちおこし映画を制作することではなく、全国のまちおこし映画を各務原に集結させて“まちおこし映画祭”を開催することだ。
その目的を実現するために岐阜県各務原市を拠点とする「各務原市全国まちおこし映画祭実行委員会」を立ち上げた。
あまり知られていないが、まちおこし映画を制作している自治体や市民団体は全国各地に少なくないらしい。だが、完成した作品のほとんどが地域の一部で披露されるに留まり、地域の外に向けて発信されていないという。せっかくまちの魅力を紹介する映画を制作しても、そのまちを知らない人たちに見てもらわなければ意味がない。
そうした課題を解決しながら“まちおこし映画”でまちおこしに取り組もうと立ち上がったのが、各務原市全国まちおこし映画祭実行委員会というわけだ。カフェ経営の傍ら代表を務める大野達也さんをはじめ実行委員の方々と、費用面でのサポートに携わったFAAVO美濃國(ファーボみののくに)の堀ひでみさんに話を伺った。
各務原の正しい読み方は?
まず、各務原市でまちおこし映画という話を聞いたとき筆者が疑問に思ったのは、まちおこしが必要なのだろうか? ということだった。というのは、どちらかというと潤っているまちという印象があるからだ。
各務原市といえば、航空宇宙産業や自動車関連産業を中心とする産業が盛んなため財政的に豊かで、航空自衛隊の岐阜基地があるのでマニアの方々が足しげく通う。また、各務原商工会議所がまちおこしとして手がけた各務原キムチは市の名産品として市民権を得ており、その知名度も高い。さらに、農業も盛んで福祉サービスが充実し、人口も減少していない。そんな状況で、まちおこしなど必要ないのでは? と思ったのだが、堀さんからこんな指摘があった。
「観光面と知名度という点で少し弱いかなと思うんです。“各務原”を正しく読んでもらえないことも多いですし」
そう言われると、確かに観光地として賑わっているという印象はなく、市の名称を「かがみはら」や「かがみがはら」と誤読される場面を目の当たりにすることもよくある。ちなみに、各務原は正しくは「かかみがはら」と読む。堀さんの指摘は納得できるとしても、筆者がさらに疑問に思ったのは、なぜ“まちおこし映画”なのかということだ。それには大野さんが大きく関わっていた。
中学生の作文「青年の主張」を題材に
ことの発端は2013年11月。各務原市鵜沼第三連合会 街つくりの会 会長を務める大野さんのおじいさんが中心になって行われる、各務原市長を招いての「まちづくりミーティング」に参加したことだった。
そこでの提案は“池を綺麗にする”“おしゃれな街灯を設置する”など、まちおこしには繋がりにくい提案が多く、街つくりの会会長である大野さんのおじいさんは、孫の大野さんに「何かいい案を出してくれ」と依頼した。そこで大野さんは、まちおこしの問題を見つけ出して、それを誰もやっていない方法で解決しようと考えた。
「10代からフリーランスで映像、映画制作に携わっていて、中学生の頃から映画監督を目指していました。まちおこしの案を依頼された時点で映画を絡めることは決めていましたが、まちおこしは市外の方たちをいかに自分たちの町に来てもらえるようにするかが1番のポイント。そこで“人が集まる=祭り+映画=映画祭”という公式が思い浮かびました。次に必要なのは各務原で映画祭をやる理由。それは祖父がヒントを与えてくれました。各務原市には日本最初の女優・川上貞奴(かわかみさだやっこ)が建立した〈貞照寺〉というお寺があり、多くの俳優さんが参拝に訪れています。“日本最初の女優”は強力なネームバリューになりエンタメ性も十分。祖父は常々『貞奴さんをもっとたくさんの人に知ってもらいたい』と言っていたので、“日本最初の女優「川上貞奴」のまちで映画祭を開催しよう!”と決めました。そして次に考えたのは“どんな映画をつくるのか?”です。地元の名産や名所を強引に盛り込んだ月並みなまちおこし映画はつくりたくなかった。企画段階から市民と一緒に作ることで“みんなで1から作っている”という連帯感にも繋がるため、脚本から市民参加型にしようと思い、各務原に住んでいる中学生の書いた作文『少年の主張』を使うことを思い付きました。こうして企画案が完成したんです」
その企画案について、大野さんはこう話す。
「まちおこし映画の企画案をつくるときに、次のような条件を設けました。
●クラウドファンディングで資金を調達する
●宣伝告知はSNSを活用する
●各務原市民・在勤・出身など、必ず各務原にゆかりのある人をスタッフ・キャストとする
●映画の題材には中学生の作文「少年の主張」を使う
各務原市では中学生の青年の主張が十数編選出されていて、祖父が地域情報を発信しているウェブサイトで紹介しているものもありました。読んでみると素晴らしい作品がいっぱいあって、これを世に出さないのはもったいない! と思ったんです」
クラウドファンディング「FAAVO美濃國」で資金を調達
クラウドファンディングというのは、まちおこしなどの取り組みやアイデアについてウェブサイト上でプレゼンテーションし、共感した人々から広く支援金を募るサービスのこと。行政の補助金や金融機関の融資とは違う、新たな資金調達手法として注目を集めている。
クラウドファンディングの一つに、地域・地方に特化した「FAAVO」という全国展開している母体がある。その地域拠点として「FAAVO美濃國」が新設されることになったのを機に、まちおこし映画の企画案は実際のプロジェクトとして動き出した。当時のことを、FAAVO美濃國事務局の堀さんはこう振り返る。
「2015年9月に美濃加茂市・各務原市・関市が、地域で抱える課題について連携して事業を推進する『地方創生・3市広域連携協定書』を締結しました。その事業の一環として11月にFAAVO美濃國を立ち上げ、最初の案件を出すことになりました。窓口を担当することになった私は、大野さんが主催している異業種交流会に何度か参加していて、まちおこし映画の企画案のことを聞いていたので、第1号はこれしかない! と思い、初案件として取り上げることにしたんです」
各務原市全国まちおこし映画祭実行委員会のプロジェクト「中学生の作文を映画に!“各務原市民の力で町おこし映画を作りたい!!”」はFAAVO美濃國の初案件としてウェブサイト上で公表され、2015年12月には資金調達の目標額を達成した。
2016年7月31日(日)
各務原市まちおこし映画『光射す』完成披露上映会開催
資金が集まり、年が明けた2016年からは急ピッチで映画の制作が動き出した。2月にはキャストと制作スタッフを募集し、2回のオーディションを経てエキストラを含むキャスト約30名と、スタッフ約30名が決定。もちろん全員、各務原市にゆかりのある人たちだ。そして、3月には撮影がスタートした。
脚本は、少年の主張のなかから日常がテーマになっているものを5編選び、ストーリー性のある部分を抜粋して、一つの作品として大野さんが書き上げた。作文を使わせてもらうということで、教育委員会や学校長、書いた生徒本人全員の許可をもらう必要があり、その手続きにも奔走した。
キャストやスタッフはプロではないので普段は学校や仕事、家事などで多忙な日々を送っている人ばかり。そのなかで、まちおこし映画制作のために時間をつくり行動できるのは、郷土の魅力を伝えたいという熱い思いがあるからなのだろうな、と筆者には感じられた。
4月には撮影が終わり、取材に伺った5月には編集作業まで進んでいた。まちおこし映画の話が持ち上がってから3年、クラウドファンディング8カ月という短期間で順調にことが運んでいる。この先めざすはまちおこし映画祭だ。その実現に向けてどんなアイデアを温めているのか、大野さんに尋ねてみた。
「まずは、今年いっぱいかけて全国のまちおこし映画のリサーチをするなど、映画祭の開催に向けて詰めの活動をしていきたいですね。そして2年後には映画祭開催、その翌年からの映画祭は前年と同じ事をしてもしょうがないので、こちらから条件を付けて各地方で映画を制作してもらうことができないか? と考えています。どこにもない面白いまちおこし映画祭を仕掛けられるようにしたいですね」
その実現に向けた最初の一歩となる、各務原市まちおこし映画『光射す』の完成披露上映会は、2016年7月31日(日)に各務原市産業文化センターあすかホールで開催される。もちろん筆者も見に行かせていただく予定だ。
【取材協力】
各務原市全国まちおこし映画祭実行委員会
FAAVO美濃國
【関連リンク】
各務原市
関市
美濃加茂市
2016年 06月22日 11時05分