行政からの一方的な発信ではなく、県民参加のプロジェクトを目指す

「ひろしまたてものがたり」のロゴマーク「ひろしまたてものがたり」のロゴマーク

大阪市の「生きた建築ミュージアム事業」が、2017年の日本建築学会賞(業績)に輝いた。昨年度からは全国8自治体による「近代建築ツーリズムネットワーク」も始動している。建築を街の魅力として評価する気運が高まっているようだ。今回は、広島県の取り組み「ひろしまたてものがたり」を取り上げたい。

「ひろしまたてものがたり」は、広島県が2013年度から取り組んでいるプロジェクトだ。県内の魅力ある建築物をピックアップし、見学イベントやガイドマップ作成などを行っている。その経緯や成果、今後について、担当の県土木建築局営繕課に聞いた。

プロジェクト立ち上げのきっかけは、湯﨑英彦知事の「建築を通じてひろしまの魅力を発信したい」という思いだった。「そこでまず、建物の表彰制度の新設を検討しました」と、営繕課参事の吉田勝則さんは振り返る。「けれども、それでは行政からの一方的な評価になってしまう。それよりも、実際に建物を使ったり訪れたりしている県民のみなさんに建物を評価してもらったほうがいいんじゃないか、と考えたんです」。

専門家による「評価」と一般の「人気」、それぞれのベスト30を選定

上左/人気ランキング1位の嚴島神社。1241年再建、本社本殿は1571年竣工 上右/原爆ドーム(旧広島県産業奨励館)。設計:ヤン・レツル設計、竣工:1915年 中左/阿多田島灯台資料館。設計:逓信省航路標識管理所、竣工:1903年 中右/広島平和記念資料館(本館)。設計:丹下健三計画研究室、竣工:1955年 下左/NTTクレド基町ビル。設計:NTTクレドほか、竣工:1994年 下右/福屋八丁堀本店。設計:渡辺仁建築事務所、竣工:1938年上左/人気ランキング1位の嚴島神社。1241年再建、本社本殿は1571年竣工 上右/原爆ドーム(旧広島県産業奨励館)。設計:ヤン・レツル設計、竣工:1915年 中左/阿多田島灯台資料館。設計:逓信省航路標識管理所、竣工:1903年 中右/広島平和記念資料館(本館)。設計:丹下健三計画研究室、竣工:1955年 下左/NTTクレド基町ビル。設計:NTTクレドほか、竣工:1994年 下右/福屋八丁堀本店。設計:渡辺仁建築事務所、竣工:1938年

「ひろしまたてものがたり」は、「魅力ある建物」の一般公募からスタートした。

応募条件は2010年以前に完成した建築物(ただし非公開の一戸建て住宅除く)、というから、ほぼ無制限だ。募集期間は2013年12月末から翌年2月まで、年末年始を挟んだ約2ヶ月間で、約500件もの応募があったという。「仕事で建築に携わる私たちでさえ見たことがない建物もたくさんあって、広島の建築文化の幅広さを実感しました」と吉田さん。

応募された約500件の中から、学識者や建築家など専門家で構成する委員会が「100セレクション」を選定。そこからさらに、建築デザイン・建築計画・周辺環境への配慮が優れている、歴史的価値が高い、などの基準で「ベストセレクション30」を決定した。

一方で、一般参加による人気投票も実施。2014年6月19日から9月21日まで約3ヶ月の投票期間中に設置した専用ホームページには総数160,038もの票が集まった。これにより「人気ランキングベスト30」を発表。首位は15,925票を集めた嚴島神社、2位は原爆ドームで11,872票を得ている。圧倒的な知名度を誇るこの2つが、他を大きく引き離した結果だ。

3位以下は票が分かれ、阿多田島灯台資料館(4,685票)、広島平和記念資料館(本館)(4,255票)と続く。

専門家が選ぶ「ベスト」と一般の「人気」は必ずしも一致せず、双方30件ずつ選ばれたうち、両方にランクインしたのはちょうど半分の15件。ベスト30に漏れた大型複合施設のNTTクレド基町ビルや老舗百貨店の福屋八丁堀本店が、人気ではそれぞれ5位と12位に入るなど、利用しやすい身近な施設は、やはり人気が高いようだ。

秋の「フェスタ」では県内各地で見学会も。去年は3000人超が参加

これらの結果を踏まえ、県は「ひろしまたてものがたり」ガイドマップを作成。印刷して配布したほか、ホームページ上からもダウンロードできるようにしている。

2015年からは、11月11日「公共建築の日」を挟む10月中旬から11月中旬にかけての30日間、「たてものがたりフェスタ」を開催。期間中には建物見学会や限定の内部公開、コンサート、トークショーなどさまざまなイベントが行われる。

「県主催のイベントだけではなく、民間団体や建物の所有者が実施するものもあります。期間中に開催されるものを集めてガイドブックを作成し、県のいろんなところで盛り上がってもらおうと広報に努めています」と、営繕企画グループ主任の浜岡和史さん。昨年のフェスタでは44の建物で56のイベントが開かれた。期間中に実施された建物見学会には約3,200人の参加があったそうだ。「全プログラムでは、約5万7000人が足を運んでくださったことになります」と浜岡さん。

3年目となる今年のフェスタは、初めての試みとして、協賛団体・ボランティアスタッフ・イベント実施団体を募っている。より主体的にイベントに関わる人が増えそうだ。

ボランティアの募集は8月30日まで。フェスタの開催は10月14日から11月12日を予定している。

「たてものがたりフェスタ2016」11月13日に実施した、広島県庁舎(設計:日建設計、竣工:1956年)の見学会の様子。広島県営繕課の佐藤主任がガイドを務めた
「たてものがたりフェスタ2016」11月13日に実施した、広島県庁舎(設計:日建設計、竣工:1956年)の見学会の様子。広島県営繕課の佐藤主任がガイドを務めた

広島に、未来の巨匠の処女作を! 学生による公共施設の設計競技

広島県営繕課の吉田勝則さん(左)と浜岡和史さん広島県営繕課の吉田勝則さん(左)と浜岡和史さん

広島県では「魅力ある建築物創造事業」として「ひろしまたてものがたり」のほか、「広島型建築プロポーザル」「建築学生チャレンジコンペ」にも取り組んでいる。既存の建物の魅力を掘り起こす「ひろしまたてものがたり」に加え、これから設ける公共建築にも新風を吹き込もうという狙いだ。

「広島型建築プロポーザル」とは、公共建築の設計者を、従来のような入札による価格競争ではなく、提案の内容によって選ぶ方法。広島型の特徴は、過去の実績によらず幅広く参加者を募り、審査過程を公開して透明化を図る点にある。若く優秀な設計者の発掘・登用にもつながるだろう。

もうひとつの「建築学生チャレンジコンペ」は、学生による設計競技でありながら、最優秀作品を実際に建設するという、全国でも珍しい試み。学生にとっては、自分のアイデアが実現するばかりか、実施設計・工事監理にも携われる、またとない機会になる。今年は審査委員長に建築家の西沢立衛さんを迎え、県西南部にある三倉岳県立自然公園の公衆トイレの設計に挑む。未来の巨匠の処女作が生まれるかもしれない。

ひろしまたてものがたりHP 
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/tatemonogatari/

2017年 07月28日 11時05分