八王子の商店10店舗の未来をつくるプロジェクト

2016年1月24日に行われた「多摩美術大学PBLまちなか賑わいプロジェクト」最終発表会。八王子市街地商店10店×多摩美術大学学生による八王子商店街の活性化が提案された2016年1月24日に行われた「多摩美術大学PBLまちなか賑わいプロジェクト」最終発表会。八王子市街地商店10店×多摩美術大学学生による八王子商店街の活性化が提案された

さまざまな場面で産学共同プロジェクトが行われているが、八王子では「多摩美術大学×八王子商店主」のコラボレーションによる「多摩美術大学PBLまちなか賑わいプロジェクト」という取り組みが行われている。

これは、八王子市街地の商店10店舗が抱える課題を踏まえ、多摩美術大学の学生が課題解決や活性化のための施策を打ち出すというもの。昨年9月からスタートし、何度も店主側と学生がミーティングを重ね改善提案プランを作成。2016年1月に最終発表会の場を迎えた。

“こうしたプロジェクトは学生の体験学習的なものに終始しがち……”そんな声を聞くこともあったが、実際に発表会に行ってみると、これがなかなか素晴らしい。社会人歴を積み重ね、凝り固まった「アタマ」からは出てこない柔軟なアイデアがあるのはもちろんのこと、美大生だけあってそれぞれの施策をコンテンツにまで落とし込んでいるのだ。

今回は、1月24日に行われた学生達の最終発表会の様子を中心に、「多摩美術大学PBLまちなか賑わいプロジェクト」の模様と成果をご紹介しよう。

真剣勝負で練り上げたアイデアプラン

NPO法人AKITEN 監事 望月成一氏(写真右)、多摩美術大学 松澤 穣教授(写真真ん中)、今回のプロジェクトリーダーを担ったNPO法人 AKITEN 代表 及川賢一氏(写真左)NPO法人AKITEN 監事 望月成一氏(写真右)、多摩美術大学 松澤 穣教授(写真真ん中)、今回のプロジェクトリーダーを担ったNPO法人 AKITEN 代表 及川賢一氏(写真左)

JR八王子駅の周辺には、かつて「大丸」「西武」「マルイ」「伊勢丹」といった百貨店や大型店が名を連ね、賑わいに溢れていた。しかし、現在は上記に上げた店舗は全て撤退。近隣地域「立川」や「町田」などに大型商業施設が台頭する中で、いつしか八王子の賑わいは薄れ、商店街への人の流れも減少傾向にあるという。

今回のプロジェクトで大学と商店を結ぶ仲介役を担ったNPO法人「AKITEN」(以下、AKITEN)メンバーの望月成一氏は、自身も八王子でカフェギャラリーを営むオーナーとして街の現状をそう語る。

AKITENは、“空きテナント”をまちづくりのツールとして活用し、アートギャラリーやマルシェ、ワークショップなどさまざまなコンテンツを持ち込みプロジェクトの運営をサポートしている団体。1つ空きテナントがあると、次々と増加する“負のスパイラル”が生じてしまうそうだが、新たな借り手が決まるまで空きテナントを活用することで、商店街の客足などの減少を食い止めようというのが狙いだ。

一方大学側では、デザインの実習課題において教授陣がクライアント役を担いながら行っているが、なかなか生徒たちにリアリティのある経験がさせられない。多摩美術大学の松澤穣教授によれば、「社会に出た時の“実際のクライアントがいる状況”を、なんとか経験させられないかと考えていた」そうだ。

こうした背景のもと、AKITENメンバーと松澤教授が顔見知りだったこともあり、「多摩美術大学PBLまちなか賑わいプロジェクト」が発足。商店主側から現実的な厳しい意見が出されるなかで、まとめあげられたのが今回発表した数々のプランだった。

古書店から仏具店までバラエティに富んだ商店が参加

「橋本要助商店」の改善提案の一部、「DIYカード」。店内にある材料を使って何ができるかを一般の顧客にわかりやすく提示する。このカードにあるような“科学実験”的なものづくりを通して、親子で参加できるワークショップなども計画した「橋本要助商店」の改善提案の一部、「DIYカード」。店内にある材料を使って何ができるかを一般の顧客にわかりやすく提示する。このカードにあるような“科学実験”的なものづくりを通して、親子で参加できるワークショップなども計画した

今回、このプロジェクトに賛同した商店は10店舗。どんな店舗が参加したか列記してみると、かなりバラエティに富んでいるのが分かる。

高齢者向けの洋品店「イツミヤ」、街のメガネ屋「タカクラメガネ」、染料専門店の「橋本要助商店」に梅干専門店「うめ八」。さらには、老舗呉服店の「坂本呉服店」に写真店の「桃屋美術」。画材専門店の「東美」もあれば、古書店の「まつおか書房」や飲食店の「カドッコカフェ」もある。極めつけは仏具店「岡田屋」といった幅広いラインナップだ。

どのプレゼンテーションも店主側から高い評価を得ていたが、記事スペースの許す範囲で具体的な例を2、3紹介してみよう。

例えば、染料専門店「橋本要助商店」に向けて多摩美の学生たちが行った提案は、店主側に“すぐにでも実行に移したい”と評価されていた。それだけ、現実的かつ魅力的なアイデアがコンテンツとしてまとめられていたことになる。同店は、染料・草木染、柿しぶ、にかわ、化学工業薬品、ビーカー・リトマス紙、ビン・ポリ容器など家庭用~業務用まで幅広い染料を扱うのが魅力だが、専門的すぎて一般の消費者に魅力が伝わっていないのが悩みの種。そこで、学生たちはもっと“わくわく”してもらえるお店にしようと「ワクワク染料店」を提案。具体的な施策としては以下のアイデアが挙げられた。

・商品(材料)から何が作れるのかを明記したDIYカードの作成
・DIYカードをもとに、店主おすすめのDIYキットの作成・販売
・DIYキットなどで作成した作品のギャラリースペースをつくり、ミニ個展の実施
・キットなどをつかった親子で参加できるワークショップの実施

などだ。集客イベントから魅力的な販売商品づくりとなかなかの着眼点だ。

梅干しの未来を変える「アド梅ントカレンダー」!?

中にアメやチョコが入っている「アドベントカレンダー」ならぬ、「アド梅ントカレンダー」。月間カレンダーとして役割はないが、1つ梅を食べるごとに、空箱がキャラクターの顔になっており、同梱のパーツを使って人形が作れる仕掛けだ中にアメやチョコが入っている「アドベントカレンダー」ならぬ、「アド梅ントカレンダー」。月間カレンダーとして役割はないが、1つ梅を食べるごとに、空箱がキャラクターの顔になっており、同梱のパーツを使って人形が作れる仕掛けだ

また、美大生ならではの技能を活かして、商品パッケージまで作成してしまったのが、梅干専門店「うめ八」へのプレゼンテーション。

こちらのテーマは、店主の小磯道夫さん自らが「難しいテーマを出してしまった」と言うほどに、食生活の変化から梅干しの消費が減っている現在を鑑みての「梅干しの未来を作ろう」というもの。店そのものというよりも業界全体の啓蒙活動が視野に入れられている。

そこに、多摩美大生が提案したのは、梅干し版「アドベントカレンダー」の提案になる。毎日梅干しを食べてもらうにはどうしたらよいか? まずは梅干しを食べる未来を習慣化すためにターゲット層を「母と子供」に設定。その上で「健康的なものを子供に食べさせたい母親の心境×遊び心を満たしたい子供」の双方のニーズを叶える施策として「アド梅ントカレンダー」を作成した。

これは、1週間+1の計8個の梅干がつまった箱詰めで、梅が入っている箱でキャラクターの紙人形が工作できる仕掛け。キャラクターには、七福神ならぬ八王子ならではの「八福神」を採用。梅干を1つ食べるごとに、空き箱を利用して八福神の1人が作れる。さらに、どうせならキャラクターを浸透させようと「八福神」の物語の絵本を作成し展開する提案もされていた。

小学生低学年の息子を持つ筆者もこの提案には納得。確かに子供は工作などが大好きだ。スーパーでお菓子を買うにしても、中身のお菓子そっちのけで、組立て式のおもちゃ要素が入った商品を選んでくる。ストーリー性のあるキャラクターにも目がない。

「壮大なテーマを投げてしまいましたが、学生さんたちは現実的かつ夢のある提案をしてくれました。キャラクター展開は“八福神”にこだわらずに他のものにもできますし、絵本はコストがかかりますが、動画で展開できればその問題もクリアになります。とても素晴らしい提案をしてもらえたので、現実化していきたいと思います」(うめ八店主・小磯氏)。

プロ匹敵の構成力を発揮した“八王子ナポリタン”プロモーション

さまざまに提案される学生たちのプレゼンテーションだが、もう一つだけ紹介したいのが、八王子のご当地メニュー「八王子ナポリタン」を提供する「カドッコカフェ」への提案内容だ。八王子ナポリタンは、既に知名度のある「八王子ラーメン」にインスピレーションを受けて、地元を代表する農産物「玉ねぎ」をふんだんに使ったナポリタン。2015年の5月に誕生したご当地メニューで、現在その認知度を上げるための施策が検討されている。

多摩美大生が提案したのは、この「八王子ナポリタン」を定着させるための施策。プロモーションから細部のコンテンツにまで取り組んでいるが、大まかに解説すると提案内容は以下の通りになる。

・認知度向上のためのプロモーションカードの作成・配布
(内容:八王子ナポリタンの解説、基本レシピ、各店舗の独自調理アイデア、家庭でのオリジナルレシピメモ)
・我が家の八王子ナポリタンのレシピ投稿(SNSの活用)
・「八王子ナポリタン被害者の会」写真コンテスト(子供がナポリタンで口のまわりを汚している写真の投稿コンテスト)
・各家庭でのレシピコンテスト
・八王子ナポリタン提供店舗MAPの作成・配布
(このMAPは、ランチョンマットとして設計されており、折り目に沿って折ると各店舗を巡るMAPハンドブックになる)

ざっと明記してみると簡単なことのように見えるが、順を追ったプロモーション展開も、「ランチョンマット兼MAP」やロゴなどもあしらった「プロモーションカード」などコンテンツの作り込みも見事だ。

この提案に対し、店主のコメントも印象的だった。「これまでも自分でもアイデアは出るものの、体系的に組み立てることができずにいました。“階段はこうやって登っていくものだ”と逆に学生のみなさんに教えられました」。

この意見に対し、多摩美術大学の松澤教授は、「これこそがプロジェクトの意義」と頬を緩ませた。

「柔らかい頭の学生たちから生まれる斬新なアイデア。ただ、それをいかにリアルな現場で実践的な提案に詰められるかが問題です。今回のプロジェクトでは、その点に最も気を使いましたし、結果が見えた部分です。指導においてこだわってきたのは、単に“店の問題を解消するためだけ”には終わってはいけないということ。店主さんの問題を解決したいと思っていても、そこにだけ焦点を当てていては、解決し得ないのが現実です。クライアントさんの意見を聞きつつも、その先を見る姿勢がプロには必要不可欠。それをこのプロジェクトによって体現できたのが何よりの成果だと思います」(松澤教授)

確かに、学生特有の荒削りさはあるプレゼンテーションだったが、それを上回るほどのアイデア、落とし込みが行われていた。まちづくりのための斬新な視点を得るために、そして人材育成という点でもとても興味深い取り組みだと思う。

今回のプロジェクトは、課題解決型学習である「PBL(Project-Based Learning)」として行われたもの。実際に大学から単位を取得できる学習であるため、あくまでも改善提案のプレゼンテーションを行うまでがプロジェクトの終着点となる。ただし、店主側では実際にプラン実行を念頭においてミーディングに参加をしている。今後は、個別に商店側で費用感を見ながら実行可能なプランを実践していきたいとしている。

大学の授業の一貫ということもあり、学生と店側の関係性の継続は“仕組み”として確約することはできない。しかし、学生からは「これからも、できる限り自分たちのできることをしたい」との意向も多く見受けられた。

プロジェクトは「計画」「実践」「検証」によって、改善が生まれていくもの。今回の「多摩美術大学PBLまちなか賑わいプロジェクト」でも、一旦プロジェクトは終了するが、今後の実行の様子、そしてその検証の様子などを、どこかで発表してもらえたらと思う。

完成度の高かった、「八王子ナポリタン」プロモーション提案。写真上部にあるのが八王子ナポリタンの紹介やレシピが入った「プロモーションカード」。写真下部にあるのが「ガイドマップ」。お店で八王子ナポリタンをサーブする際のランチョンマットとして使用でき(写真下段、左)、裏には八王子ナポリタンを提供するお店のMAPが描かれている(写真下段、真ん中)、折りたためば一冊のガイドブックに(写真下段、右)完成度の高かった、「八王子ナポリタン」プロモーション提案。写真上部にあるのが八王子ナポリタンの紹介やレシピが入った「プロモーションカード」。写真下部にあるのが「ガイドマップ」。お店で八王子ナポリタンをサーブする際のランチョンマットとして使用でき(写真下段、左)、裏には八王子ナポリタンを提供するお店のMAPが描かれている(写真下段、真ん中)、折りたためば一冊のガイドブックに(写真下段、右)

2016年 03月10日 11時06分