仙台市郊外にある戸建住宅団地

中山モダンハウス外観。1階の和室と洋室は、4時間単位でレンタルすることが出来る。2階の2室はシェアハウスで家賃2万8千円。現在満室中山モダンハウス外観。1階の和室と洋室は、4時間単位でレンタルすることが出来る。2階の2室はシェアハウスで家賃2万8千円。現在満室

東北地方最大の都市である仙台市。その中枢である仙台駅から6キロほど離れた青葉区中山は、閑静な住宅街。仙台市の各地で昭和に大規模な住宅開発がされたが、中山地区はその初期、1964年頃から開発が進められた住宅団地だ。

中山の坂道を上った住宅街の一角に、大きな一戸建てがある。「中山モダンハウス」だ。築40年ほどの空き家だった建物が、現在はシェアハウス兼コミュニティスペースとして活用されている。イベントが開催され、外から人が来たり、地元の人との交流が生まれているのだ。さらに、仙台ご当地アニメ「Wake Up, Girls!」でメンバーの寮として登場するのがこの中山モダンハウスであり、ファン達が聖地巡礼で訪れる人気スポットでもある。
そんな多様な人たちが集う中山モダンハウスを運営するのは、根本聡一郎さん、沼田佐和子さん、岩間友希さんの3名だ。「一軒家で過ごす時間をシェアしよう!」とはじまったプロジェクトについて、沼田さんと岩間さんに聞いてきた。

シェアハウスで、週末だけ…みんなで一軒家を共有して支える

「地下鉄東西線の開業をきっかけに、まちづくりを加速していこうとはじまったWEプロジェクトというのがあって、私たちは1期生でした。そのフィールドワークで中山地区を訪れたんです。地元のNPOの方が、使われていなかった空き家を案内してくれたんですが、ひと目見てとても気に入ってしまって。すぐ3人で、その帰り道になんとか活用できないかと相談をはじめたんです」と、沼田さんは一軒家との出会いを話す。

一軒家の家賃は6万円。当初、3人で2万円ずつ出して借りようかとも考えたという。

「私の記憶にある一戸建てというのは、よくある住宅メーカーがつくった画一的なもの。ですが、ここは階段と廊下の仕切りの部分の木の細工とか、ライオンのドアノッカーとか、手をかけてつくられていて、大事にされてきた建物だというのが伝わってきました。私たちがこういうレトロな雰囲気に魅かれたように、同じ20~30代の人たちもここで過ごしてみたいと感じるのではないかと思いました」と、岩間さん。

沼田さんや岩間さんのような働き盛りの世代の人たちは、職住近接で平日は家に寝に帰るだけという人も多い。でも、週末だけちょっと郊外の一軒家でのんびり過ごすというのもいいのではないか。みんなで一軒家をセカンドハウスのようにシェアする「週末一軒家プロジェクト」として活用することを思いついたと言う。地元NPOのサポートもあり、3名は有限責任事業者組合(LLP:Limited Liability Partnership)を起ち上げた。オーナーに転賃可能の契約にしてもらい、2階をシェアハウス、1階をコミュニティスペースとして貸し出すことにしたのだ。

「中山はまちづくりが活動的なまちで、私たちのように新しいことをやろうとする人を、応援してくれる雰囲気があります。出る杭を打つ、ではなくて出る杭を引き上げてくれるような。この中山モダンハウスにある家具や家電、食器など、ほとんど地元の方たちがくださったものです。」(沼田さん)

中山モダンハウスの1階洋室には、本好きな3人の蔵書約200冊がずらりと並ぶ。空き家だったものの、丁寧に手入れがされており、リフォームをせずともすぐに活用できる状態だったという。右下はライオンのドアノッカー中山モダンハウスの1階洋室には、本好きな3人の蔵書約200冊がずらりと並ぶ。空き家だったものの、丁寧に手入れがされており、リフォームをせずともすぐに活用できる状態だったという。右下はライオンのドアノッカー

都市と郊外、それぞれの良いところを満喫する暮らし

イベント「みんなで自由研究」で子ども達と制作を楽しむ沼田さん(写真上、右側から2人目)と、町内会所属運動会に参加する岩間さん(写真下、右側)イベント「みんなで自由研究」で子ども達と制作を楽しむ沼田さん(写真上、右側から2人目)と、町内会所属運動会に参加する岩間さん(写真下、右側)

運営するだけでなく、自分たちも週末一軒家暮らしを楽しみたいと、これまで色々なイベントを開催してきたという。

「竈でお米を炊いて、"同じ釜の飯を食べる"イベントや、シェアハウスの住人によるヨガ、子どもたちの夏休みの工作の宿題を一緒にやったりと、色々なイベントをやってきました。地域の方も参加してくださって、この和室の掛け軸は、近所の方が『床の間に掛け軸があったほうがいいわね』と言って、持ってきてくれたものです。」(沼田さん)

イベントを通して新しい繋がりが生まれているようだ。マンションで子育て中のママさんからは、庭付きの一軒家だから子どもを思う存分遊ばせてあげられると好評なのだとか。だが、当初はマンション暮らしとは違う点に戸惑ったこともあったそうだ。

「自己紹介になればと、回覧板に中山モダンハウスを取り上げてくれた新聞記事を挟んで回したんです。実は、回覧は事前に申請が必要なのですが、それを知らなくて…。町内会の方たちに注意を受けました。それで、すぐに謝りに行って、町内会の集まりでも中山モダンハウスの説明をしました。それをきっかけに、『あそこに若い子たちがいるから』と、運動会に呼ばれたりして。参加してみたらすごく楽しかったです」(岩間さん)

新しいことをはじめると、周囲は何が起こっているのかといぶかしがる。だが、その疑問や不審を、沼田さんと岩間さんはひとつひとつ説明して理解を得ているようだ。マンション暮らしでは住民とのコミュニケーションは皆無であることも少なくないが、中山では隣人同士が挨拶をすることが当たり前。町内会や運動会、マンション暮らしではできない体験をしているのだ。

まちに開かれたシェアハウスが地域住民と若者を繋ぐ

中山モダンハウスにある「Wake Up, Girls!」の関連書籍やグッズは、聖地巡礼したファンの方たちが寄贈したもの。来訪した人たちがコメントを残すノートには、「のんびりできた」「実家のように寛げた」などのコメントが中山モダンハウスにある「Wake Up, Girls!」の関連書籍やグッズは、聖地巡礼したファンの方たちが寄贈したもの。来訪した人たちがコメントを残すノートには、「のんびりできた」「実家のように寛げた」などのコメントが

前述した、仙台市を舞台にしたアニメ「Wake Up, Girls!」で中山モダンハウスがメンバーの寮のモデルになったことで、多くのファンが訪れているという。巡礼先は中山モダンハウスだけでなく、商店街も連携してスタンプラリーを実施。スタンプラリーの指定箇所を全部周るとレアグッズが見られたりと、ファンに中山を楽しんでもらえる仕掛けをしている。

「聖地巡礼で、中山モダンハウスに200人くらいは来てくれていると思います。もともと、中山は地元NPOの取組みが活発なこともあって、そこまで空き家は多くないのですが、住んでいる方の世代交代は進んでおらず、高齢者世帯が多い。住んでいる人は、アニメの舞台になっているということを知らない人が多いんです。」(沼田さん)

若者たちが来訪しているのを不思議に思っている人たちに、沼田さんや岩間さんたちが説明をすると、「アニメ見たよ。ここが舞台になっているんだね。」と理解して、喜んでくれるそうだ。

「空き家を活用してコミュニティが生まれていくことは、地域にとってもいいことだ思うし、自分たちも楽しい。週末一軒家のライフスタイルをこれからも広めていきたい。」と話す彼女たち。
高齢化が進むまちで、若者と地域の人を繋ぎながら、自分たちも一軒家暮らしを存分に楽しむ。まちおこしというと壮大な取組みのように思えるが、沼田さん、岩間さんたちは気負わずに楽しみながらやっているのが印象的だった。一戸建てを購入するとなると二の足を踏むが、週末一軒家なら…。新しい活用アイディアに共感する人は多いのではないだろうか。

2018年 07月17日 11時05分