人気エリアなのに、入居者がいない…。築年数とスペックが古い福岡のビルの課題

2015年11月現在、「QStudio」の3代目看板ネコ・チャコちゃん2015年11月現在、「QStudio」の3代目看板ネコ・チャコちゃん

築年数や間取り、水回りなどに対する課題と、リノベーション費用に頭を抱えるビルオーナーは多い。しかし、お金をできるだけかけずにアイデアひとつで借り手に喜ばれる注目物件になるケースもある。場所は、福岡市中央区今泉。福岡市一の繁華街・天神から1~2分の徒歩圏内にあり、カフェやセレクトショップ、飲食店が集う人気のエリアだ。

福岡市の魅力のひとつといえば、街全体がコンパクトでアクセスが良く、首都圏に比べて物価が低いこと。もちろん、家賃も例外ではない。今泉は通勤に近いということもあり、一人住まいや若い夫婦世帯が居住したい人気の場所でもある。

1996年から転入超過が続く福岡市だが、やはり人気なのは新築やオシャレにリノベーションを施した賃貸マンションであり、立地が良くても築年数や設備が古いマンションへの入居は賃料との対比で厳しくなっている。

大幅な設備投資はできないが、できるだけ賃料を下げずに入居者を集めたいというビルオーナーから相談を受けた「株式会社福岡リノベース」の代表の江頭さん。福岡リノベースでは、現在、リノベーションの企画・施行、シェアハウスの企画や運営を行なっている。では、彼女が提案した内容とはどういったものだったのだろうか。

新しい発想こそが、今後の空き家の解消につながる

数年前に、異業種からリノベーション業界へ転職をした江頭さんだが、彼女が手がけた物件には今までになかった珍しい視点でのアイデアが盛り込まれている。例えば、彼女が手がけた最初の物件「福岡Qhouse」。ネコ好きの江頭さんが自身の経験から〝仕事で自宅を留守にしている間、自分の代わりにネコたちの面倒を見てくれる人と暮らせたら″という思いから3LDKのマンションの1室をネコシェアハウスにした物件だ。

また、日本庭園や広縁もある茶室付き3LDKの日本家屋の空き家物件を、ネコ付きシェアハウスとして転用を図った福岡市南区にある「Q邸」も彼女のアイデアを盛り込んでいる。当初は、シェアハウスとしての運営の打診を受けただけに過ぎなかったが、現地に足を運ぶと新しいアイデアが浮かんだ。「昔ながらの日本家屋が好きな人やネコを好きな人たちが、立派な豪邸でネコと一緒に暮らせると知ったら注目するかもしれない」。そんな彼女の斬新な考えが、ホームページやSNSを通してクチコミで広がり、オープン直後に満室となった。

そんな、空室で悩むオーナーへのシェアハウス企画運営の提案やコンサルティング、プロデュースを手がける江頭さんのもとに届いた今回の相談。その中には「ネコが飼えることもアピールしたい」という希望もあったという。ちょうどそのとき、事務所として使える部屋を個人的に探していたこと、そして市民ボランティア団体「福ねこハウス」から保護ネコの相談を受けていたことも重なって、ネコ付きシェアオフィス「QStudio」を提案した。始動した今、引き取り手がいないと殺処分される保健所に送られてきたネコの現状を知ってもらうための保護ネコのシェルターと、起業を目指すスタートアップ支援という2つの役割を担なうシェアオフィスが完成した。

固定デスク会員(1万7,000円/月)の他に、平日の夜と土日会員(7,000円/月)、登記会員(8,000円/月)がある固定デスク会員(1万7,000円/月)の他に、平日の夜と土日会員(7,000円/月)、登記会員(8,000円/月)がある

「ネコ付きシェアオフィス」の運営から見えてきたもの

「QStudio」の入居条件は、利用料金の他に「仕事の合間に、ネコの世話をすること」。ネコの世話といっても1日2回のエサやりや、トイレの処理、ネコをなでてあげることなど簡単なものばかり。仕事に疲れたらネコと一緒に遊べる良さも加わって、作業効率が上がったという意見もある。

では、入居者に具体的な入居理由を尋ねると「自宅でネコが飼えないから」の他に、「フリーランスで仕事をしているため、自宅以外の公開できる住所がほしかった」「自宅と子どもの保育園が離れているため、保育園に近い場所で仕事がしたかった」「会社以外で作業ができるスペースがほしくて借りたが、オンオフの切り替えができるようになって助かっている」など様々な声が上がった。中には「自宅で仕事をしていると家族から専業主婦扱いをされるため、自分の立ち位置を確立するためにも部屋を借りて仕事がしたいと思っていた」という女性もいる。第3の場所に新たな自分のスペースを構えることで、自分の価値を高めた人もいるようだ。

またネコシェルターの視点で考えると、入居者と、入居者を訪ねてシェアオフィスに訪れた人たちに、保護ネコの存在と保護ネコ問題について考えるきっかけをつくったこと。そして毎週土日には、ネコを引き取りたい人のための保護ネコ見学会を開催し、ネコが新しい家族を見つけるための橋渡しの場所として成り立っている。

本来、新しいもの好きという県民性もあり、ビルが古くなっては壊し、新しいものにつくり変えることを繰り返してきた福岡。しかし、全国に先駆け早くから市民に対するリノベーションの認知度が高かったこと、そしてビルストックという概念が一部の団体から広がりつつある。現在は、付加価値を付けて古い物件を再生しようという江頭さんのような若い人の発想が面白い試みを生んでいる。

空室や空き家の課題は、どの地域の住民にとっても決して人ごとではない問題である。アイデアこそが空き部屋や空きテナントを救う手がかりになるかもしれない。

自身もネコ好きで、自宅に2匹のネコを飼う江頭さん。現在子育ての傍ら、精力的にビジネスにも取り組んでいる自身もネコ好きで、自宅に2匹のネコを飼う江頭さん。現在子育ての傍ら、精力的にビジネスにも取り組んでいる

2015年 11月23日 11時00分