住まいの確保はプロセスに過ぎない。自立後も続ける“伴走型支援”

伴走型支援が目指す“家族の機能”について説明する抱樸理事長の奥田知志さん伴走型支援が目指す“家族の機能”について説明する抱樸理事長の奥田知志さん

福岡県北九州市の認定NPO法人抱樸(ほうぼく)は、1988年からホームレスの自立支援を行ってきた。活動開始から30年の間に、抱樸の支援で自立を達成した人は3,250人に上る(2018年3月末現在)。その人数もさることながら、重要なのは、自立できた人の9割以上が、その生活を続けられていることだ。抱樸の支援の大きな特徴は、自立後も続く“伴走”にある。

抱樸理事長の奥田知志さんは、“伴走型支援”の原点となった体験を振り返る。
「活動を始めた頃は、私たちも、路上からアパートに移り、生活保護を受け、就職するまでの支援しかしていませんでした。ところがある日、元ホームレスの一人が住むアパートの大家さんから『部屋からおかしな臭いがするから来てくれないか』と呼び出されたんです」。

駆けつけてみると、部屋の中はまさに“ゴミ屋敷”状態。うずたかく積もったゴミの山に埋もれるようにして、丸くなって眠る人影があった。「当時彼はまだ50代。おそらく知的障害があったと思われますが、それにしても、野宿していたときのほうがまだ清潔だった。住まいを確保して、問題を解決したつもりだったのに、また新しい問題が起きていたんです」。

ここまでではなくても、就職して自立すれば、それで“めでたし”ではない、と感じる例は少なくなかった。「路上からアパートに移っても、部屋の中でひとりぽつんと座る姿から受ける印象は、駅の通路で段ボールを敷いて座っていた日と、あまり変わらないんですよね」。

その理由に気付かせてくれたのも、ホームレスの一人だった。
その頃北九州市では、中学生によるホームレス襲撃事件が頻発し、問題になっていた。しかし、被害者側であるはずのその人は「中学生たちの気持ちが分かる」と言ったのである。

「深夜2時に外でホームレスを襲ってるってことは、その子たちが家にいないことを、誰も気に懸けていないんだろう。家はあっても、帰る場所がない。誰からも心配されない子どもの気持ち、おれには分かるな」。

そこで、奥田さんは考えた。「“家”に象徴される物理的・経済的な問題が解決しても、家族や友人、地域といった“帰る場所”がなければ、本質的な解決にはならない。“家(ハウス)”があっても、“ホーム”がなければ、人の心はホームレスのままなのだ」と。そのときから、“伴走型支援”の模索が始まった。

大家の不安を取り除き、生活を継続できる、支援付き家賃保証の取り組み

そもそも、ホームレスにとって住宅の確保が難しい最大の要因は、家族の欠如にある。保証人が立てられない、生活が安定しない、孤独死の可能性がある---いずれも大家にとっては大きなリスクだ。

そこで抱樸はまず、生活支援付きの「保証人バンク」を設立した。
自分で保証人を確保できない人から利用料4万円(更新時は1万円)を預かって保証人を提供する。利用料の3分の1は保証に備えて積み立て、3分の1を生活支援スタッフの経費に、残り3分の1を自立支援の貸し付け金として用意するというものだ。生活支援スタッフは、就労や生活相談の対応、本人の希望に応じて家計や積み立て管理のサポートを行う。

家探しには、不動産会社と連携して「自立支援居宅協力者の会」をつくった。入居希望者の情報を提供し、「保証人バンク」の裏付けによって物件を仲介してもらう。併せて、入居後の見守り、特に家賃滞納などトラブルの早期発見に協力を求めた。生活支援スタッフが速やかに介入することでトラブルの芽を摘み、事態の悪化を防ぐ。これにより、「保証人バンク」利用者の生活継続率は自立者全体の92%より6ポイント高い98%に達した。


2017年夏から、「保証人バンク」は、家賃債務保証会社リクルートフォレントインシュア(現オリコフォレントインシュア、以下OFI)との連携で、新しい生活支援付き連帯保証「くらし安心サポートプラス」に発展した。通常の保証会社の審査に通らない人を対象とした保証だ。

連携の提案は、保証会社の側からもたらされた。当時の担当者はこう語ったという。
「滞納が起きたとき、ただ職員が訪問して請求を繰り返しても、相手はドアを閉ざすだけでした。対決ではなく、一緒に問題に取り組む姿勢がなければ、債務事故はなくならない。それで、生活支援の専門家に協力を求めたいと考えたんです」。

「くらし安心サポートプラス」の仕組みはこうだ(下図)。
賃貸住宅の入居希望者は、抱樸と生活支援契約を結び、月額2,000円(税別)の生活支援費を支払う。この生活支援を前提に、入居者はOFIと賃貸保証契約を、大家と賃貸借契約を結ぶ。入居後、OFIは、家賃と共益費、その1%の保証料(初回は1ヶ月分)と生活支援費を代行収納する。併せてOFIは月に2回、オートコールによる安否確認も行う。オートコールに反応がなかったり、家賃が滞納されたりすれば、すぐに抱樸に通報して生活支援につなぐ。

OFIは、抱樸と連携することで債務事故による損失が抑えられるようになり、抱樸は、これまでゼロに等しかった生活支援の費用が継続的に得られるようになった。

ただ、この仕組みもまだ十分ではない。1人当たりの生活支援費が月2,000円では、100人支援してようやく20万円にしかならない。生活支援スタッフを1人置くにも足りない金額だ。そして、通常の審査に通らない100人を、1人でフォローするのは容易なことではない。

これまでのところ、抱樸は生活支援スタッフの人件費の多くを寄附で賄っている。しかし、継続的な支援のためには、さらなる工夫が必要だ。

生活支援付き家賃債務保証「くらし安心サポートプラス」の仕組み生活支援付き家賃債務保証「くらし安心サポートプラス」の仕組み

サブリースによって住宅と支援費用を確保する、新しい仕組み

(上)「プラザ抱樸」が入居するマンション。耐震・耐火性能も万全だ(下)「プラザ抱樸」を案内する抱樸常務の山田耕司さん(上)「プラザ抱樸」が入居するマンション。耐震・耐火性能も万全だ(下)「プラザ抱樸」を案内する抱樸常務の山田耕司さん

2017年秋から抱樸は、自らマンションを借り上げて“大家”となる、新しい事業に取り組んでいる。

きっかけは「自立支援居宅協力者の会」のメンバーで、地元の不動産会社、田園興産の社長と奥田さんの雑談だった。田園興産は北九州市内で多数の賃貸住宅を経営しているが、このところ学生向けワンルームの空室が増えているというのだ。

奥田さんは考えた。「住む家に困っている人がいる一方で、不動産オーナーは空き家に困っている。家賃債務保証会社は滞納事故で困っている。そして私たちは支援費用が足りなくて困っている。これらをまとめて解決する方法はないものか」。

そこで思いついたのが、抱樸が田園興産の空室を借り上げて入居者を募る、サブリース方式の住宅支援だ。田園興産には、空いている部屋をまとめて借りる代わりに家賃を安く抑えてもらい、入居者には生活保護の住宅扶助で払える金額で貸し出す。家賃保証には前述の「くらし安心サポートプラス」の仕組みを使う。これにより、抱樸は2,000円の生活支援費に加え、サブリースの差益によって、一室あたり月額約1万1,000円の支援費用が確保できる。


現在稼働中の生活支援付き賃貸住宅「プラザ抱樸」は鉄筋コンクリート12階建ての大型マンションで、110室中60室を抱樸が借り上げている。個々は独立した住まいでありつつ、一棟にまとまっているので、支援スタッフもこまめに訪問でき、常駐の管理人による24時間の見守りが可能になった。

入居しているのは元ホームレスのほか、高齢単身者や障害者、あるいはその両方の属性を持つ人もいる。DVから逃れて仕事を探す途中の女性もおり、年齢も性別もさまざまだ。「福祉の制度上では、介護、障害という線引きに沿った対応しかできない場面もあります。けれどもプラザ抱樸はふつうの賃貸住宅だから、どんな事情の人でも支援できるのです」と奥田さん。

2018年10月現在、「プラザ抱樸」は60室のうち46室を見守り支援付き住宅に充てているが、今後は国土交通省の「住宅セーフティネット制度」を利用した登録住宅や、「スマートウェルネス住宅等推進モデル事業」の補助金を活用した地域交流サロンも設ける計画だ。近く障害者のグループホームをつくる予定があるほか、「刑余者の受け皿となる自立準備ホーム、児童養護施設出身者や高齢者の就労支援機能も組み込んでいきたい」と奥田さんは目標を語る。

出会いから看取りまで。家族に成り代わって最期まで伴走を続ける

「抱樸館北九州」。レストランやデイサービスを併設している。下の写真は吹き抜けの中庭。入居者も参加して屋上庭園を整えた「抱樸館北九州」。レストランやデイサービスを併設している。下の写真は吹き抜けの中庭。入居者も参加して屋上庭園を整えた

「プラザ抱樸」は支援があれば一人で生活できる人が対象だが、それもできなくなった人のためには、共同生活が送れる無料低額宿泊所「抱樸館北九州」を用意している。介護保険や障害者福祉などの制度外の施設なので、誰でも入居可能だ。

ここでは、食事の用意はもちろん、必要に応じて服薬の補助や病院への同行、介護サービスとの連携に加え、買い物の代行や金銭管理も行う。館内では体操や音楽などのレクリエーション、花見やクリスマスなど季節の行事も開催している。

「最終的に、医療や介護の専門的ケアが必要になったときには、専門施設につなぎます。看取りまで行ってこその“伴走型支援”なのです」と奥田さん。

抱樸では、自立者が相互に支え合うためのグループ「なかまの会」に加え、地域住民にも参加を呼びかけて「互助会」をつくっている。会費は月500円。毎月の誕生日会やバス旅行などのイベントを企画し、長寿祝いや入院見舞いも届けるが「いちばん大事な働きは“お葬式”」だと奥田さんは言う。

「ホームレスが路上で亡くなったとき、その8割はお葬式を出してもらえません。その人の死を弔うことは、家族の最後で最大の機能です。家族に代わって互助会でお葬式を出すことが、本当の“地域共生”だと考えています」。

2018年 12月11日 11時05分