空き家をシェアハウスに。若者が選ぶ暮らしのかたち

「住みやすい都市」として世界トップ15位以内を5年間キープしている福岡市(※英誌モノクル「世界で最も住みやすい都市ベスト25」より)。交通の利便性や都市のコンパクトさ、家賃の安さも魅力のひとつとされる。そのおかげかここ数年の人口増加率はめざましく、中でも10~20代の若年層や単身者の割合が高い。
そんな若者や単身者を中心に、新たな暮らしのスタイルとして支持されつつあるのがシェアハウスである。今回は福岡のシェアハウス界隈で先駆的存在として有名な「シェアハウスまたたび(以下、またたび)」を取材してきた。案内していただいたのは運営者の渡辺拓也さん(株式会社天晴れ代表)だ。

またたびがあるのは、地下鉄空港線「西新」駅のあたり。西新は、大学や県下有数の進学校があり、天神・博多へのアクセスも良く、単身者・ファミリー問わず人気のエリアとなっている。西新商店街には、名物のリヤカー部隊(リヤカーを押したおばあちゃん達が野菜や惣菜・漬物などを売っている)をはじめ新旧様々な店が立ち並び、人通りも多い。
さて、商店街から歩くこと5分ほど。現れた外観は、率直に言って「ふつうの古い家」だった。聞けば、建物は築60年の木造一戸建てで、昭和の中頃に企業の独身寮として建てられたものだそう。その後、高齢者向けのケアハウスとしてしばらく使用され、長年空き家状態だったところを2011年から賃貸で借りているのだという。
間取りは10LDK。LDK以外に1階の1部屋は共用のリビングとして使用し、残り3部屋を個室に。2階は個室3部屋と、男性ドミトリー部屋・女性ドミトリー部屋がそれぞれ1部屋、共用物干しのあるベランダに通じる1部屋を共用の作業部屋として開放し、全10人の男女が暮らせる仕様になっている。
ちなみに運営者の渡辺さんは、2階のベランダの先にある隣の家の2階の1部屋に住んでいるそう。隣はオーナーの住む家だが、2階の一部は部屋だけ独立した造りになっている。どうやら造りは「ふつう」ではないようだ。とはいえ内装や設備は、シェアハウスをするにあたり、特に大きな改装をしているわけではない。各所の古さも目立つ。けれどまたたびは、ほぼいつも満室で入居待ちが出るほどだ。おそらく、人気の秘密は物件自体とは少し違うところにあるのだろう。その魅力を探るべく、渡辺さんに話を伺った。

またたび7代目(2017年〜)のメンバーまたたび7代目(2017年〜)のメンバー

ハードルは極力低く。まずは一緒に暮らすことから

またたびのコミュニティをつくりあげる渡辺拓也さん(株式会社天晴れ代表)進学で上京しシェアハウスの存在を知る。日本縦断・世界一周を経て、20歳でまたたびを立ち上げた。運営する中でマネジメントやコーチングを学んだそう。「家族づくりも日々勉強ですね」と笑顔を見せるまたたびのコミュニティをつくりあげる渡辺拓也さん(株式会社天晴れ代表)進学で上京しシェアハウスの存在を知る。日本縦断・世界一周を経て、20歳でまたたびを立ち上げた。運営する中でマネジメントやコーチングを学んだそう。「家族づくりも日々勉強ですね」と笑顔を見せる

2010年に「シェアハウスをやりたい」と、まずは数名の仲間と一緒に住むことから始めた渡辺さん。住人同士でたくさん遊んで、一緒にごはんを食べて、毎日が楽しくて、そんな様子を住人それぞれが自発的にSNS等で発信し、自社サイトで入居者を募った。すると「またたび面白そう」「福岡面白そう」「住みたい」と全国から住人が集まった。
「もともと僕が旅好きだったこともあってか、最初は旅人が集まるシェアハウスだったんです。とりあえずおいでよ!楽しいよ!って。」(渡辺さん)
当時ハタチそこそこの若者が会社をつくり、「シェアハウス」というまだ知らない暮らし方を始めたとあって、地元のメディアに何度も取り上げられた。「またたび」の名と「シェアハウス」が知られるようになる。その後福岡市内にも、規模もタイプも様々なシェアハウスができた。

現在、またたびには10名の男女が暮らす。年代は18~30歳の若者が中心で、学生・フリーター・公務員・サラリーマン・自営業・旅人・自由人など、住む人の属性は多種多様だそう。
賃料は、ドミトリーが2万9000円、個室は広さに応じて3万3000円~4万円で、水光熱費やインターネットを含んだ月々の共益費が一律1万円、デポジットが3万円とかなりリーズナブルな設定だ。
多くのシェアハウスにも言えることだが、単身用物件を借りるのと比較すると、高額な初期費用はかからない。連帯保証人も不要なことが多い。また、生活に必要な家電類は共用部に揃っているので、極端な話、布団と着替えさえあればその日から住むことができる。
7~8万円手持ちがあればすぐに入居できるまたたびは、「とりあえずおいでよ。楽しいよ」のスタンスの通り、「人と一緒に暮らす」ことができるなら、入居のハードルはかなり低い。

住人はそれぞれが「独立国家」だから目指すのは「世界平和」

「シェアハウスに住んでいる。」と言った時、よくある反応は「他人と暮らして嫌な思いをすることはないか。」というもの。これはもはや入居者次第、運営者次第とも言えるが、入居の経済的ハードルを低くしているまたたびの対策は気になるところである。
「入居前の面談に力を入れています」と渡辺さん。とはいえふるいにかけるような審査ではないそう。
面談では主に「何が好きか、嫌いか」「最近何が嬉しかったか、何に怒ったか」「またたびを通してどんな人間になりたいか」を聞き、同様に同席した住人も、自分たちのことをざっくばらんに話す。「あなたはどんな人ですか。私たちはこんな人です。さぁ、一緒に暮らしましょう」という具合だ。なぜか自然とまたたびに合う人が集まるのだという。ただし、「コミュニケーションを取る気がない人」「家賃を払う意思のない人」はお断りだ。

またたびで大事にしているのは、「共に暮らす人たちの人生に関わる」という意識を持って暮らすこと。個々の独立した生活を重んじるシェアハウスも増える中、またたびは、人によってはちょっと暑苦しいくらいに、住人同士が密接に関わりながら暮らしている。誕生日や季節の行事、旅行、キャンプ、ホームパーティーなどイベントも多数催されるが、より大事なのは日々の暮らし。頻繁に「家族会議」を開き、共用部の使い方や掃除の頻度などのちょっとしたことから、全員で忌憚なく意見を言い合う場を設けている。そこには正解も多数決も鶴の一声もない。語らいを繰り返し、住人は他者を受け入れる心の余白を広げていく。

「嫌な思いをする」とはとどのつまり、他人の理解できない行動による部分が大きい。
「『ひとりひとりを、独立国家だと考えよう』とよく言います。」(渡辺さん)それぞれに経てきた経験があり、培ってきた常識があり、各々が違う。話し合い、まずは違うところを理解したうえで、妥協点や解決方法をみんなで見つけていくのだそう。

共用のキッチン(写真上)と、リビングスペース(左下)1階にもう一つ喫煙車向けの共用リビングと、2階に共用の作業部屋がある。キッチンの棚やカウンターは、住人と一緒に作ったものだ。2階のトイレには、以前の住人が始めた家族写真がぎっしり(右下)共用のキッチン(写真上)と、リビングスペース(左下)1階にもう一つ喫煙車向けの共用リビングと、2階に共用の作業部屋がある。キッチンの棚やカウンターは、住人と一緒に作ったものだ。2階のトイレには、以前の住人が始めた家族写真がぎっしり(右下)

飾らず、演じず、安心して過ごせる「居場所」

「うちは、共益費には米が含まれています」と渡辺さん。食事はそれぞれ別だが、そうすることで比較的住人の自炊率と共用部で過ごす時間も増える。住と食と迎える笑顔は保証するスタンスだという。
また、ケアハウスの時の造りそのままのため、建物の構造上お風呂に行くには必ず共用リビングを通るようになっており、住人は何らかのコミュニケーションを交わす。運営者の渡辺さんや、住人の中の準運営メンバーは極力共用部にいるようにして住人間のコミュニケーションの潤滑油となっているそう。

イベントの企画や日夜突然始まるホームパーティーも基本的には住人主体によるもの。過去にDIY好きの住人がいたため、2階の作業部屋には工具も用意した。キッチン周りの棚や階段下のゴミ箱などは、住人と渡辺さんの手作りによるものだ。日常の暮らしのちょっとしたことを、住人間で楽しみながら暮らしている。

「もちろん、時には喧嘩もあります。でも家族ならそれが普通ですから。それと、育ちのいい子や、実家が厳格だったりする子が『落ち着く』『安心する』とうちを好むことも意外と多いです。」(渡辺さん)
根幹にある「あなたを受け入れています」という雰囲気を大事にしているのだそう。「こうあらねばならない」を常に求められたり、演じなければならないと人は疲れてしまう。いかにその人そのもの認め、互いが素でいられるか。またたびは、そんな「居場所」を提供している。

またたびは、10~20代を中心としたシェアハウスだ。つまりここでの生活は一過性のものになる人が大多数である。ただ、肉親以外であるいは肉親以上に、自分をまるごと受け入れてくれる人たちとの関わりは、その後の人生を大きく変える。ここで醸成される家族のような関係性が、住む人にとって大きな魅力なのだろう。

「家族型シェアハウス」を唄うまたたびは、「私が私でいられる存在」「いつも迎え入れてくれる存在」という家族像を描き、その雰囲気をとても大事にしていた。大人になるにつれ、私たちに設けられるフレームは山ほどある。その中で、たとえば夫婦とて「さあ、今から家族をやります」と始めるのだ。「家族」は仕事ではない。できればありのままをさらせる間柄でいたい。それはきっと、望めば誰もが手に入れられるだろう。またたびの言う「家族」から、自身の築きたい「家族」についても考えさせられた。

またたび×天晴れ7周年の大同窓会にて。全国や海外に散らばったメンバーも集合して約40名もの大所帯に。数年来の再会でも、一瞬でお互いをわかりあえるその空気感が嬉しかったそうまたたび×天晴れ7周年の大同窓会にて。全国や海外に散らばったメンバーも集合して約40名もの大所帯に。数年来の再会でも、一瞬でお互いをわかりあえるその空気感が嬉しかったそう

2018年 02月17日 11時00分