古民家維持には、メンテナンスが必須で、その費用が課題

150年前に建った茅葺き古民家が、東京郊外の町田市鶴川にある。その建物は地域で代々農家を営む石川家が所有しており、現在は、16代目となる当主がいる。かつて、この場所は鶴川村という丘陵地帯にある素朴な農村が広がり、戦後、一気に宅地化が進んだ。団地や戸建が林立していったが、エアーポケットのように古民家が残っていた場所である。

石川家の所有する古民家は、築150年もの歳月のなかで、幾多のメンテナンスがなされてきたことで維持してきた。注意して屋内を観察すると、柱には新しい筋交い、土壁は粗いのとスッキリした細かいのと年代によって異なり、また広間は廊下よりも一段高くする等、何度も手が加わっていることがわかる。30年前には「家曳き」して、建物全体を南に10m位置を変えているほどだ。

このような茅葺き屋根の古民家は、かつて近隣にも多くあったが、ほとんどが取り壊され、このエリアにはあまり残っていない。メンテナンスのための維持費がかかるからだ。約30年前に石川家では隣に母屋を建築し、古民家は「離れ」になっているのみで、実用性もなければ、収益性もなく、維持費のみがかかるお荷物となっていた。しかし一方では、後世に残したいという想いが石川家にあり、取り壊しと保存との間で揺れ続けていたのだ。

白洲次郎さんから譲り受けた格子の建具白洲次郎さんから譲り受けた格子の建具

古民家の存続の危機があり、ついには雨漏りが!

実は、この石川家の茅葺き古民家は、2000年代以降だけでも、存続の危機が2回あったという。

その1回は、2000年代初頭だ。石川家では、農業以外に不動産賃貸業や小売業をやっていて、バブル崩壊後、売り上げが減り、資金的に厳しくなった。経費節減に動いたなかで、古民家の維持も議題にあがるようになった。
老朽化した茅葺き屋根修繕の見積もりを取ったところ、1000万円もかかることが判明。それでいて、古民家による収益の目処がたっていなかった。古民家を売るという話が石川家では持ち上がり、実際に知人を介して問い合わせが数件あったが、結局、先送りをして、結論が出ないままだった。

そして、2011年の東日本大震災を無事に乗り越えたものの、同年ついに屋根から雨漏りがするようになった。それが2回目の存続の危機である。
とりあえず、トタンで応急処置をして、屋根の真ん中だけが覆われた。かつて茅葺きだった古民家は、ほとんどがトタン屋根に変わっている。メンテンナンスが簡単という理由からだ。しかし、屋根をトタンで完全に覆うと、釜からの煙が屋根裏に流せなくなり、釜自体の改修が必要になる。そこで石川家では、雨漏り箇所のみトタンで留めることになり、それがユニークな外観につながった。

雨漏りによって、屋根の中央部にトタンで応急処置。4月に遂に茅の修繕が始まり、左正面のみ工事雨漏りによって、屋根の中央部にトタンで応急処置。4月に遂に茅の修繕が始まり、左正面のみ工事

コスプレ撮影会での収入が、古民家存続の光明に

先送りしていた古民家存続の危機が、2013年に急変する。
石川家の次男である健さんが、あるイベントで、スペースマーケットの営業の方と出会い、古民家について質問したところ、収益の可能性が高いと言われた。スペースマーケットとは時間貸し場所のマッチングサイトだ。さっそく健さんは掲載することにした。

最初は、どんな人に利用してもらえるのか心配だったと、健さんは当時を振り返る。一番目は、ネット中継番組のスタジオ利用だった。その次は、撮影会に使われた。さらに次も撮影会だったが、その時はコスプレーヤーたちがやって来た。参加者は刀のレプリカを持ち込み、「刀剣乱舞」をテーマにしたコスプレ撮影を楽しんでいた。刀剣乱舞とは、ゲームの名前で、その人気によって、舞台、ミュージカル、映画、アニメと拡大していった人気コンテンツである。刀が主人公という設定で、コスプレーヤーたちは、おのおのの刀を持ってポーズをとる。

健さんは、さすがに最初ビックリしたが、彼らは連絡の対応が礼儀正しく、きっちりしているので、その後もコスプレーヤーに貸すことにしたという。すると、この古民家が毎週のようにコスプレ撮影会となっていったそうだ。

当時は、古民家での撮影の需要が高まっていた時期で、コスプレーヤーたちは、お寺など、ほとんど断られ、それが、町田の古民家がスペースマーケットに掲載され、口コミで広がっていった。この背景には、コスプレーヤー人口の増加があり、20代の女子が多い。現在は推定で30万人いると、専門家は指摘している。ここ10年で飛躍的に伸びているマーケットだ。ニーズも多様化してきて、洋館のような場所だけではなく、和のテーストも求められることになり、茅葺きの古民家は貴重な撮影場所なのだろう。

コスプレーヤーの撮影会によって、古民家使用の収益があがってきた。1日3万円で貸出していて、ほぼすべての土日が3ケ月前にいっぱいになるそうだ。

古民家の正面の庭でコスプレーヤーたちが賑わう古民家の正面の庭でコスプレーヤーたちが賑わう

ついに茅葺きの再生に動き出すことができた

スペースマーケットの安定した収益によって、石川家ではいよいよ茅葺き屋根の修繕に取り掛かることになった。
まずは、そのために職人探しである。健さんは、川崎市にある日本民家園を訪ねたところ、川崎市内在住の茅葺き屋根の職人さんを紹介してもらった。50歳代の方で、本業は不動産関係のセミプロだった。まだ経験が少ないものの、健さんが求めるレベルとしては、十分だと判断した。文化財の修繕というのではないからだ。

健さんは、実際に職人に古民家を見にきてもらい、鑑定してもらったところ、思っていたほど老朽化していないことがわかった。工事は、8回に分けての修繕となり、古い茅に新しい茅を差し込んでいく方法をとることになった。もし茅の下の支える木材が傷んでいたら、工事は大掛かりになってしまったそうだ。その職人は、あまり先送りせず、早い段階での相談が重要だとアドバイスする。

この修繕に使う茅は、静岡県の裾野市にある店から健さんが、2018年の2月の収穫のタイミングで購入した。また施主が直接購入するほうが割安になることを知ったそうだ。

実際に今年の4月に8分の1の前の左半分が終わり、今後、5年ぐらいをかけて修繕を終わらせたいと言う。

静岡県で購入した茅の束を納屋で保管している静岡県で購入した茅の束を納屋で保管している

音楽会にミニ映画と、活用の幅が広がっていく!

コスプレーヤーの撮影会は、土曜日・日曜日に集中していることから、平日の稼働をいかにあげていくかも今後の課題だ。また、健さんは、同じテーマのみの利用受付だと、人気に陰りがでてきた場合のリスクもあるので、古民家としての可能性を拡げたいと考えている。

そこで今後は、音楽イベントをやっていきたいという。今年の4月14日は、この古民家の150周年祭を開催し、線香花火ワークショップに、ミニ映画、そして最後にアコースティックギターとフルートのプロミュージシャンの演奏会があった。古民家とアコースティック音楽は相性が良く、実際、私がそれに参加したところ贅沢な時間に感じられた。健さん自身も、手ごたえを持てたそうだ。またAirbnb(エアービーアンドビー)の体験プログラム等、外国人旅行者向けの音楽会も検討している。

他にも、例えば、流しそうめん大会、利き酒会、生け花ワークショップ等、幅を広げようと健さんは企画を進めている。さらにコマーシャル撮影やミュージックビデオ撮影、さらに近隣のTBS緑山スタジオからのロケ利用なども十分可能性が高い。

収益性を維持することで、茅葺き古民家の維持費を捻出し次の世代に引き継げる、と健さんは未来を見据えていた。今後もいろいろ展開が期待できそうだ。

古民家の150年祭で、映画上映やプロミュージシャンによる演奏が行われて大盛況だった古民家の150年祭で、映画上映やプロミュージシャンによる演奏が行われて大盛況だった

2018年 07月09日 11時05分