老朽化し放置されていた長屋をリノベーション。6人の男女が共同生活を送る『LONG ROOF』にお邪魔してきた

名古屋駅から徒歩15分。若者が集う長屋がある。その名も『LONG ROOF(長屋)』だ。
現在ここでは、21歳から34歳の学生3人と社会人3人、計6人の男女が共同生活を送っているという。一体どのような暮らしをしているのだろうか。長屋にお邪魔してその暮らしぶりについて話を聞いてみることに。

名古屋駅に向かう大通りから細い路地に入った突き当りの線路沿いにその長屋はある。外観は、築70年という時間の流れを感じさせるトタンの波板を使った昔ながらの長屋といった感じだが、部屋に入るとその雰囲気は一変する。
ボロボロになっていた畳をはがし、柱だけを残した状態から床材を新たに張り替えたという室内には、拾ってきた廃材や流木などを使ったレトロ感漂うオシャレな空間が広がっていた。

この『LONG ROOF』、仲間内では通称“村”と呼ばれている。友が友を呼び、小さなコミュニティとなっていることが、村と呼ばれるゆえんだろう。リーダーでもある“村長”吉原旭人さんに『LONG ROOF』誕生の経緯について聞いてみた。

長屋での生活をスタートさせたのは4年前。当時バンドを組んでいた吉原さんは、気軽に音を出せる部屋を探して不動産屋などを巡って物件を探したが、なかなか思うような部屋に巡り合えなかったところ、たまたまこのあたりを歩いていて使われていない長屋を見つけ、近隣の人に声をかけ大家さんを紹介してもらうことに。線路沿いで、常に電車が通るため楽器の音も気にならないこの長屋は吉原さんにとっては願ってもない好物件だった。
「飛び込みのような形で、部屋を借りたいと言いにいったので、最初は大家さんも怪しがっていましたね。なんでこんなボロボロの長屋に若い人が住みたがるのかと、不思議がっていました。3回ほど通って、どうしてもここに住みたいと熱意を伝えて、ようやく借りることができたんです」。
5棟ある長屋のうちの2棟は昔からの住人が現在も住んでいる。残りはずいぶんと長いあいだ空き家となっていたが、それぞれの戸で大家が違ううえ、奥まった立地のため取り壊すこともできず、そのまま長らく放置されていた。改修工事などはできないという大家さんを、「自分たちですべて住める状態にする」という条件で説得し、住まい兼、バンド練習の場所を得たわけだ。

すぐ隣は線路。名古屋駅近くだけに頻繁に電車が通る。表向きは昔の長屋ながら、中に入るとアーティスティックともいえる雰囲気が漂っていた。部屋の改装は、柱だけを残した状態まで解体し、床はホームセンターでコンパネ材を購入して自分たちで張り替えたのだそう
すぐ隣は線路。名古屋駅近くだけに頻繁に電車が通る。表向きは昔の長屋ながら、中に入るとアーティスティックともいえる雰囲気が漂っていた。部屋の改装は、柱だけを残した状態まで解体し、床はホームセンターでコンパネ材を購入して自分たちで張り替えたのだそう

ホッとするやりとりが心地いい。“家族”のような空気感

『LONG ROOF』の住人でありアメリカ人のマイケルさん。「長屋の暮らしはほのぼのしますね。レトロで渋い!  アメリカでは一軒家に住む人が多いから、こんな風に狭いところで何人も暮らすという感覚はあまりなくて珍しいんです。ルームメイトの友達もたくさん出入りするので、知り合いが増えていくのも楽しいですね」と話す。日本語を学びたいというマイケルさんにとっては、日本語でコミュニケーションをとるしかないこの環境は何よりの勉強なのだそう『LONG ROOF』の住人でありアメリカ人のマイケルさん。「長屋の暮らしはほのぼのしますね。レトロで渋い! アメリカでは一軒家に住む人が多いから、こんな風に狭いところで何人も暮らすという感覚はあまりなくて珍しいんです。ルームメイトの友達もたくさん出入りするので、知り合いが増えていくのも楽しいですね」と話す。日本語を学びたいというマイケルさんにとっては、日本語でコミュニケーションをとるしかないこの環境は何よりの勉強なのだそう

村長がルームメイトと二人で住み始めたのは、手前に4帖、奥に6帖の部屋があり中央に居間という物件。当初はシェアハウスの予定ではなかったものの、何度か遊びに来ているうちにここが気に入って「一緒に住みたい」という仲間が増え、二年目からは同じ間取りの隣も合わせ、2軒で共同生活を送るようになったのだとか。気軽に音を出せる環境とあって、ミュージシャン仲間などが集まる場所となり、しだいに“村”ができあがっていった。『LONG ROOF』には、のべ15人ほどが入れ替わりで住んでいたという。

ここでの暮らしは家賃5万円、水道光熱費、Wi-Fi料金、米やパンなどの主食と調味料の料金を含めたものを住人6人で折半。あまり光熱費のかからない時期だと1万8,000円、高いときだと3万6,000円ほどで、その他、家電を新調するときにはその都度徴収しているそうだ。
名古屋駅近くのこのエリアだと、ワンルームでも7万円ほどの家賃に光熱費などがかかってくることを考えると、この安さはおおいに意味があるだろう。ただ、経済的な魅力だけに惹かれているわけではなさそうだ。

疲れて帰ってくると「お風呂わいてるよ」とか「ごはんできてるけど食べる?」といった、ホッとするやりとりが心地いいと話してくれたのは最年少21歳の入江真白(ましろ)さん。
1年半前からここに住んでいるというアメリカ人のマイケル・エブリ・オドムさんは、
「ずっと日本で暮らしていきたいけれど、不安になることもいっぱいある。そういうときここに帰ってくると、だれかが相談に乗ってくれるからとても心強い」と話す。
ほかの住人も「みんなでひとつの空間をシェアすることが心地いい」、「人の気配を感じつつ、いい距離感で生活できている」と話していたのが印象的だ。
例えば「アイツ、今日はちょっと機嫌悪そうだなと思ったら、そっとしておくし、何か話したそうな雰囲気だとみんなが自然に寄ってきて、話をする雰囲気になったり、そういう空気感っていうのは“家族”といってもいいかもしれないですね」と村長は話す。

プライバシーはトイレとお風呂だけ。あえて“個”の空間とルールを作らない

長屋では、プライバシーはほぼない。一人になれる場所といえば、トイレとお風呂だけ。近年よく聞くシェアハウスは、共有スペースはありながらも一人になれる空間が用意されているが、ここはそうではないのだ。
仕切ろうと思えば1棟を最低でも3つに仕切れる間取りなので、2軒で6つ、人数分の個室が作れるように思うのだが、あえてそういうことはしないと村長。お風呂やご飯の支度なども当番を決めているわけではなく、すべて自発的に行っているというが、個々で生活のスタイルやリズムが違えば家事にも偏りが出てきて、不満が出てくるのではないか。
「そういうときは、みんなが集まったときにちゃんと話し合うようにしています。誰かが我慢するのは違うと思うし。それぞれが楽しく暮らしていこうと思えば、自然と話し合いの場ができてくると思っています」という。
「ルールがないのが唯一のルール」だと、前出の入江さん。しばりがないからこそ、思いやりの気持ちが生まれるし、そういった自発的な思いや行動を大切にしていきたいという村長の思いがカタチになっているようだ。

写真左上:帰宅時間が合えば、一緒にキッチンに立って料理を作ることも。写真右上:リノベーションされた室内。中の間にハンモックを吊り下げてくつろぐなど、楽しみ方はそれぞれだとか。写真左下:練習やライブができる環境も整っている。写真右下:もともとこの部屋の床材として使われていた板を打ち付けた壁が、なんともいえずいい雰囲気を出している写真左上:帰宅時間が合えば、一緒にキッチンに立って料理を作ることも。写真右上:リノベーションされた室内。中の間にハンモックを吊り下げてくつろぐなど、楽しみ方はそれぞれだとか。写真左下:練習やライブができる環境も整っている。写真右下:もともとこの部屋の床材として使われていた板を打ち付けた壁が、なんともいえずいい雰囲気を出している

町内の人も飛び入り参加! 4周年イベントは来場者が200人も!

過日、『LONG ROOF』誕生4周年を記念したフェス「LONG ROOF FESTIVAL」が行われ、筆者も参加してきた。
奥まった立地の長屋に続く通路には、雑貨やカフェなどの出店を設置し、通路の奥ではライブペインティングが行われ、室内ではこの長屋にゆかりのあるアーティストたちがライブを行うなど賑わいを見せていた。
決して広いとは言えないこの場所に、延べ200人が来場し敷地内は常に満員といった盛況ぶりだった。

フェスを企画した住人の吉田有香さんは「日ごろお世話になっている地域の方に感謝を伝えたかったんです」と話す。周囲は一人暮らしのお年寄りが多く、暮らし始めた当初は若者が何をしているんだろうという目で見られていたが、村長をはじめ長屋の住人達が積極的に声をかけ関わりをもつことで、今では電球の取り換えや力仕事など、人手が必要な時に手伝いにいったり、町内のことを教えてもらったりと、自然と地域に溶け込むようになっていったのだそう。
「ここに暮らすようになって、人とのつながりの大切さみたいなものを教わった気がします」と吉田さん。
フェスには、すぐ近くに住む95歳のおばあちゃんも差し入れをもって顔をだしたり、町内会長が遊びに来たり長屋のすぐ裏の住人が飛び入りでライブに参加したりと、地域の人を巻き込んで盛り上がりをみせていた。
「長屋からサックスやウッドベースなどが聞こえてきて、楽しそうなことしてるなという気配は感じていたんですよ。このあたりはお年寄りが多く、なかなか若い人たちとの交流を持てずにいましたが、こうしてフェスを開催してくれると自分たちも仲間に入れてもらって刺激になるし、若者が近くに住んでいるというのは心強いですよね」と話すのは、ご近所の鈴木豊さん。
小学校のPTA役員という鈴木さんは、住人を含め長屋に出入りするミュージシャンやアーティストなど、特技を持った人たちを招いて、放課後のトワイライトスクールでワークショップを開くアイデアを実現できたらとも話していた。

こうした高齢者が多くなった地域に、若者が参入し新しい風を入れることは地域にとってもプラスとなっているようだ。
吉田さんは「こうしたイベントを通してもっといろんな世代の方と交流ができたらいいと思いますし、いつか旅立っていく人たちの心の拠点であれば嬉しい」と話していた。

ご近所さんも巻き込んでのフェスは大盛況! アーティストによるライブのほか、名古屋大学の学生によるエジプト展や、ライブペイントを実施。子どもたちにパソコンを使ったデジタルイラストの描き方を教えるなど、『LONG ROOF』にゆかりのあるメンバーたちが、各々得意分野を活かしたワークショップを開催していたご近所さんも巻き込んでのフェスは大盛況! アーティストによるライブのほか、名古屋大学の学生によるエジプト展や、ライブペイントを実施。子どもたちにパソコンを使ったデジタルイラストの描き方を教えるなど、『LONG ROOF』にゆかりのあるメンバーたちが、各々得意分野を活かしたワークショップを開催していた

空間的な仕切りも心の仕切りもない“共に暮らす”豊かさへの帰還

この日、帰宅していたのは村長の吉原さん(写真右)、入江さん(写真中)、山田泰信さん(写真左)の三人。こうして食卓を囲むことも珍しくないのだとかこの日、帰宅していたのは村長の吉原さん(写真右)、入江さん(写真中)、山田泰信さん(写真左)の三人。こうして食卓を囲むことも珍しくないのだとか

“個”を重要視した暮らしが“弧”を生み、人との関係性が希薄になってしまった現代。マンションやアパートに住んでいても、隣人がどんな人なのか全く知らないという人が多いのも現実だろう。住まいの気密度や独立性は高くなり、意識しなければ知らないうちに孤立化してしまう。それに加えて、FacebookなどのSNSやLINEなど友達とつながるには簡単で充分過ぎる時代である。これではリアルな「人とのつながり」は縮小する一方ではないだろうか。そこで生まれた“孤”を受け止めるスタイルとして台頭してきたのがシェアハウスのように住民同士でコミュニケ―ションをとれるような仕組みだろう。

今回取材した『LONG ROOF』は、こうした一部共同型のシェアハウスよりも、さらに先を行く、というよりも、お互いに面倒を見ながら分け合いながらおおらかに暮らしていた時代へフィードバック(帰還)する「原点回帰型」の生活スタイルなのかもしれない。『LONG ROOF』のように、国籍・年齢・性別を超えた複数の人が仕切りのない狭い空間で共に暮らすというのはレアなケースかもしれない。しかし、彼らが自然と創り出した、空間的な仕切りも心の仕切りもない生活こそが“共に暮らす”豊かさであり、現代の私たちはそこに学ぶべきことが多いのではないだろうか。

2015年 12月13日 11時00分