名古屋の文教地区に誕生した「留学生向けシェアハウス」とは?
大学や高校が集まる名古屋市昭和区の「いりなか」駅近くに、2017年、留学生向けの「シェアハウスいりなか」が誕生した。実際にお邪魔すると、外観は大きめの戸建住宅で、表札も個人名。まちにすっと溶け込んでいる。
こちらのシェアハウスは、「日本人との共同生活を通して、留学生が就職してから苦労する『日本特有の考え方や生活習慣』を学んでほしい」という社会的な意義を持ってオープンした。家具付き、保証人なしで初期費用が抑えられるなど、日本企業への就職を目指す留学生にとって画期的な住まいと言える。
「現在は日本人3名、中国人1名が暮らしています」と話すのは、同シェアハウスを運営する「ツナグコト」のスタッフであり、自ら寮長として一緒に暮らす学生の都竹俊貴さん。クリスチャン系のシェアハウスを借り受けたこの住まいは、広々としたLDKのほか、10畳が3室、6畳が2室というゆとりに満ちた空間。「まだまだ認知不足で入居者が少ないので、各々が贅沢に使っていますね」と都竹さんは微笑む。
「実はこちら、シェアハウス経営が目的ではないんですよ」と語るのは、ツナグコト代表理事の鈴木雅登さん。
ではなぜ今「留学生向けシェアハウス」なのか。それには「ツナグコト」という法人名に意味があった―。
シェアハウス誕生のきっかけは「学生と企業のマッチング」
「シェアハウスいりなか」の最終目的は「企業の働き手不足」を解消すること。実は社会問題解決の一手なのだという!
シェアハウスを運営する「ツナグコト」とは? 2017年秋にコンサルティング会社内で立ち上げた社内ベンチャーであり、鈴木さんが代表を務め、都竹さんを含む6人の学生が有給インターンとして働いている。
「これまで企業のコンサルティングに関わり、地域に欠かせないニッチトップ企業が採用に苦戦しているという課題に直面。既存の採用方法だけでは今後マッチングが難しくなると感じ『学生の長期有給インターンシップ』に着目しました。まずは当社で実施したところ、学生は高い戦力になる上、インターン1期生が大企業を経て当社に再就職したこともあり、インターンシップは学生と企業の長期的なマッチングに有効だと実感できました」と鈴木さんは語る。
さらに少子高齢化が進む日本だけでは人材が不足するという危機感から、留学生の就職サポートに力を入れることにした。
「留学生にとって就職の壁になるのが、語学すなわち日本独特の『行間を読む、空気を読む力』です。日本にいても母国のネットワーク内で生活し、ルーティンのアルバイトだけでは定型の言葉しか身に付きません。そこで日本人との生活経験を就職に生かしてほしいと考えたのです」
日本と海外の成長したい学生を「住まいと繋ぎ、仕事と繋ぎ、まだ知られていない優良企業と繋ぐ」。これがツナグコト流シェアハウスの使命なのだ。
留学生は「察する力」、日本の学生は「幅広い視野」を育める
さて、シェアハウスの暮らしぶりを入居者の都竹さんに聞いてみた。
経営学を学ぶ都竹さんは、スキルアップのために3年前からコンサルティング会社の有給インターンシップに参加。ツナグコトの主要メンバーとして「シェアハウスいりなか」に住み始め、寮長を務めている。
「このシェアハウスには『留学生に日本の生活習慣を教える』という目的がありますが、住んでみると日本人同士でも生活スタイルが結構異なり、片付けや掃除、ゴミ出しなど最低限の達成ラインを決めなければいけないと思いました」
そこでルールを明文化し、他のシェアハウスにもノウハウを展開できるようなマニュアルを作成した。「入居者と顔を合わせる度に『掃除とゴミ出しをしてね』と伝えつつ、自分が率先して行うようにしています」と都竹さん。学生自治によるスムーズな運営方法を模索している最中だという。
また「シェアハウスいりなか」の広いリビングを活用し、2ヶ月に一度、企業と学生の交流会も開催している。「ニッチトップ企業の経営者や上場企業から独立した方の講演を聞くことで、大手企業に目が行きがちな学生の視野を打ち破ることが狙いです」と鈴木さんは力強く話す。
このように学生が真に欲する「キャリア授業」の提案もツナグコトの役割だという。留学生向けというより、むしろ学生全般の「キャリア支援シェアハウス」と言えそうだ。
企業の支援で学生寮をつくり、未来の働き手を育てたい
現在、名古屋市で2軒のシェアハウスを運営するツナグコトの今後の展開は?
「留学生からは『住居よりも有給インターンシップに興味がある』という声が多くありました。そこでツナグコトが企業から業務委託を受け、学生が働き手として収益を上げられるシステムをつくりたいと思います。学生は社会の仕組みを知り、企業は学生への認知を高めることができる。相互にメリットがあります」と鈴木さん。
ただし留学生が日本の企業で活躍し続けるためには、やはり「察する力」は不可欠。留学生と日本の学生が一緒に生活する住環境を、もっと広げていきたいという。
「今は空き家を活用してシェアハウスを運営していますが、空き家の提供先を探す人手が足りません。そこで地元企業に支援をお願いし、学生寮の建設・運営を進めていきたいと考えています。まずはインターンシップで学生の仕事ぶりを知っていただき、住まいも整えてもらう。企業にとってファンづくりや社会貢献にもなるため、取引の相談が来ていますね」(鈴木さん)
シェアハウスの目的が明快だからこそ「だれでも入居できる、ではなく、入居者の就職に対するやる気と協調性の見極めが大切になりますね」と先を見据える2人。ありそうでなかった、キャリア支援の住まいづくりのこれからを楽しみにしたい。
2018年 06月24日 11時00分