独身寮がシェア住居になった

230平米の広いラウンジにあるのは、大きなアイランドキッチンに向かい合うスツール、家族の団らん風景が浮かぶようなテーブルと椅子、仲の良い友人とくつろぎたいソファ、仲間を招いてリラックスしたい小上がり…ひとつの空間がゆるやかに仕切られ、国籍も世代も性別も違う人たちが共に料理をして食事をし、語り合う姿が浮かんでくる空間――。
2006年からシェア型賃貸住宅を手がけてきた株式会社リビタの15棟目のシェアハウスは、元独身寮。約7年間空いていた寮がリノベーションを経て、108戸の大規模シェア型賃貸住宅『シェアプレイス聖蹟桜ヶ丘』として生まれ変わった。

「シェアプレイスは建物が完成してからがスタート。入居者と共にどのような場をつくっていくかが大切なこと」と語るリビタに、シェアハウスの今を聞いた。

『シェアプレイス聖蹟桜ヶ丘』のラウンジ。230m2ある空間は、用途でゆるやかに仕切られている『シェアプレイス聖蹟桜ヶ丘』のラウンジ。230m2ある空間は、用途でゆるやかに仕切られている

寮からシェアハウス――“コミュニティ”の役割を引き継ぐ存在に

リビタが共用スペースに設置するという「コミュニティボード」。入居者が見つけた近隣のおすすめスポットを紹介しあうのが目的だリビタが共用スペースに設置するという「コミュニティボード」。入居者が見つけた近隣のおすすめスポットを紹介しあうのが目的だ

ひつじインキュベーション・スクエア調べによると、2013年3月末時点で、シェア住居の累計供給物件数は約1,400物件・約19,000戸あるという。当初、家電・家具を用意する必要がなく、初期費用が安くすむというメリットから“安くて狭い賃貸”の認識が強かったシェア住居だが、コミュニティ重視や、料理・バイク等の趣味をテーマにしたシェアハウスが台頭しイメージが大きく変わった。消費者のイメージアップとともにシェアハウス供給社数も増え、急成長している分野だ。

株式会社リビタは、団地再生事業でシェアハウスに取り組んだ「りえんと多摩平」、リアル“ソーシャルな暮らし”を実現すると話題をさらった「原宿神宮前THE SHERE」など、常に新しいテーマとアイディアでシェアハウスの暮らしをリードしている。手がけたシェアハウスの稼働率は95%…運営のコツは何か? 株式会社リビタ コンサルティング部の日野孝彦さんに聞いた。

「当社は2006年よりシェアプレイス事業を行っています。当初は学生さんが多いのではと思っていましたが、ふたを開けると社会人の方に多く入居いただきました。シェアハウスは働く世代に需要があることや、築古の物件でもリノベーションをすれば入居することがわかりました。シェアハウスの認知度が高まった2011年以降は、それまでメインだった情報収集力のある感度の高い人たちだけでなく、いわゆるサラリーマンの入居が増えています。一人暮らしのワンルームに飽きた人や、会社・学生時代とは異なる人とのつながりや交流を求めて入居いただく方が多くいらっしゃいます」

そこからリビタのシェアハウスは1年に約2棟ペースで拡大している。保有または賃借していた社員寮を売却・再生したいという相談が多いそうだ。
企業が福利厚生の一環として用意する社員寮は、共同生活によるコミュニティの活性化や課題解決能力の向上などの目的がある。バブル崩壊で多くの企業が寮を手放したが、コミュニティを重視する時代の流れのなかで、寮が持つ共同生活のメリットが社会生活で必要とされ、シェアハウスというかたちで生まれ変わるケースが増えている。

緻密な設計と創意工夫をこらしたイベントが成功のカギ

エントランスホール。コミュニケーションを取りたくない日にラウンジを通らなくても個室に帰れるように導線設計がされているエントランスホール。コミュニケーションを取りたくない日にラウンジを通らなくても個室に帰れるように導線設計がされている

「シェアプレイス聖蹟桜ヶ丘」は地上4階建て、1階には230m2あるラウンジをはじめ、キッチン、シアタールームが用意され、2階部分にルーフテラスが設けられている。家賃は共益費込みで60,000~62,000円。全108室のうち27室は首都大学東京の国際学生宿舎として利用予定だ。多様な国籍と世代が集まる大コミュニティの運営のコツは何か?

「まず大切なのはスタート、入居者同士が自己紹介をするキックオフイベントを当社で開催します。その後、物件の特徴に合わせてイベントを開催し入居者同士で交流のできる場を用意しています。このようなイベントを通して入居者同士が知り合うきっかけをつくり、日常の交流につなげていきたいと思っています」
設計は、ラウンジを通らなくても個室に帰れるようにプライベートに考慮した動線設計、特定グループがキッチンを利用しても他の入居者がストレス無く料理できる複数のキッチンスペース、集中して仕事・勉強ができるようにラウンジ以外にスタディルームを設けるなど多様な居場所を設けている。

これからのシェアハウスは?

「いろいろな住まいの選択肢があるなかで選んでいただくためには、シェアの生活における日常価値と、非日常的な体験価値の両方が大切になると考えています。今回の『シェアプレイス聖蹟桜ヶ丘』は留学生の宿舎になる予定なので、暮らしのなかで双方の学習の場や文化理解ができる国際交流の場があるのは価値のひとつだとおもいます」

さらに、入居者同士のコミュニティの後に必要なのが、地域に開いていくことだという。
「シェアハウスは地域の人たちにとって、どんな人たちが共同生活をしているのかと不安になると思います。当社で手がけた『シェアプレイス東神奈川99』では、イベントに近隣住人を招待したり、誰でも参加できるマルシェをコミュニティスペースで行って、入居者と近隣住人が自然にコミュニケーションをとれる工夫をしました」
シェアハウス暮らしを通して、人対人・人対地域・人対社会とコミュニティが広がることが、個人の大きな価値になるのだろう。

現在リビタは、シェア運営の経験をいかして行政の産業支援施設の企画・コンサルティングを行っているという。建物=“ハコ”はスタート、そこからプラスアルファのコミュニティをつくりだすプロ集団は、行政の“ハコ”をどう再生させていくのか? そして、シェアハウスの枠を超えた取り組みを経験したあとに、どんな価値をもった新しいシェアハウスをつくるのか、楽しみに見守りたい。

左上:『シェアプレイス聖蹟桜ヶ丘』外観 右上:シアタールーム 左下:アウトドアデッキ 右下:個室左上:『シェアプレイス聖蹟桜ヶ丘』外観 右上:シアタールーム 左下:アウトドアデッキ 右下:個室

2015年 04月07日 11時06分