賃貸住宅の約56軒に1軒は2ヶ月以上家賃を滞納している状況

賃貸マンションに住む上で毎月支払うべきなのが「家賃」だ。しかし、日本賃貸住宅管理協会『日管協短観』によれば、口座の残高不足など"うっかり"の支払い忘れが含まれる可能性を含む月初全体の滞納率が、過去10年の平均で7.4%、意図的に支払っていない可能性が高い2ヶ月以上の滞納が同1.7%となっており、減少する気配はない。
家主(大家)からしてみれば、家賃を滞納されることは、予定していた収益が確保できないことに加えて、居座られてしまった場合、他の居住者への影響など大きな損失に繋がりかねない重大な問題である。
もしも家賃を滞納してしまった場合、そして支払いし続けなかった場合、部屋を借りる側(以下、賃借人)はどうなってしまうのだろうか。
家賃を滞納し続けた場合の流れやその後の影響について、多くの滞納案件を手がけている、章(あや)司法書士事務所 代表司法書士の太田垣章子氏にお話を伺ってきた。

全国の家賃滞納率の推移<BR />参照:公益財団法人日本賃貸住宅管理協会 日管協総合研究所『日管協短観』<BR />2010年度上期データ~2017年度上期データを元に作成全国の家賃滞納率の推移
参照:公益財団法人日本賃貸住宅管理協会 日管協総合研究所『日管協短観』
2010年度上期データ~2017年度上期データを元に作成

家賃滞納から訴訟までの流れとは?

家賃の滞納が続く場合、最終的には法的な手続きを経て"強制退去"となる訳だが、そこに至るまでにはどのようなプロセスがあるのだろうか。今回は家賃滞納を続ける賃借人に対する家主側のアクションの一例から解説したい。

まず前提として、家主が家賃を滞納している賃借人に対して部屋の明け渡しを求めるためには、入居時に交わした「賃貸借契約」を解除する必要がある。民法上、家主と賃借人との"信頼関係の破綻"という概念から、家主側から一方的に賃貸借契約の解除をするためには、以下の2つの条件が必要と解釈されている。
◯3ヶ月分程度の家賃滞納がある(例:家賃5万円/月であれば15万円分)
◯一定の期間定めて支払いを求めているにも関わらず、家賃の支払いがない状態

信頼関係が破綻しているとみなされる、つまり裁判所への明け渡しの強制執行の申し立てができるようになる3ヶ月分の家賃が滞納されるまで、家主は賃借人に対して以下のような手順でアクションを起こすことになる。
1)2)督促状の送付(1回目、2回目)
まず家賃を滞納している賃借人に対し、支払いを求める"督促"をする。督促の方法は、主に電話、書面、訪問などで、督促のタイミングについても厳密な決まりはない。また、この時点で連帯保証人に連絡がいくケースもある。

3)内容証明(通知書)の送付
複数回に渡る督促にも関わらず支払いされない場合、「期限までに支払いがない場合は契約を解除する」旨が書かれた「契約解除の予告通知書」を内容証明郵便で送ることになる。この内容証明郵便は、書類を一方的に送りつけるだけの郵便とは違い、いつだれがどこにどのような内容の書面が届いたのかを証明する書類だ。これは、契約解除の通知を間違いなく届けたという第三者的な証拠の一つとして有効なものだ。つまり、賃借人は、内容証明による契約解除の予告通知書が届く意味として、家主が法的な手続きを進める準備に入ったということを認識する必要がある。

4)継続の確約書の取り交わし
賃貸借契約の解除が成立する前に全額入金があった場合は、今後、いかなる理由があろうとも契約が履行できなければ即座に部屋を明け渡すことなどを明記した確約書を取り交わす。

契約解除の予告通知書の受領した後、賃借人が任意退去に応じる場合は、5)賃貸借契約を解約し、6)残留物放棄書の取り交わしをすることで、部屋の中にある荷物の所有権を放棄することを誓約する。また、滞納分の家賃を分割で支払う場合は7)分割払い確約書を取り交わす。

一方、それでもなお、契約解除通知書に記載した期日内に滞納賃料の支払いがなく、退去にも応じない場合、家主は不動産の明け渡し請求訴訟の準備に進むことになる。

滞納発生からの手続きフローチャートの一例<BR />フローチャートは章司法書士事務所提供の画像を元に作成滞納発生からの手続きフローチャートの一例
フローチャートは章司法書士事務所提供の画像を元に作成

家賃滞納が起こる背景には現代社会の変化も

これまで多くの滞納案件を手がけてきた、章(あや)司法書士事務所 代表司法書士の太田垣章子氏これまで多くの滞納案件を手がけてきた、章(あや)司法書士事務所 代表司法書士の太田垣章子氏

賃貸の家賃滞納が起こる背景には、現代社会における"家族形態の変化"も理由の一つにあるのではと太田垣氏。

「この十数年の間に賃貸住宅を取り巻く環境は大きく変化しました。一昔前であれば、部屋を借りる際の連帯保証人には身内の方を立てるのが一般的で、少なからず家賃滞納の抑止力として働いていた側面があったと思います。しかし、昨今の核家族化やスマートフォンなどの普及により、親世帯と子世帯が分かれる傾向が強くなるなど、家族の"縁"のようなものが薄れてきている気がします。加えて、こうした家族関係の希薄化を背景に、連帯保証人を代行する家賃保証会社が急激に増えました。家賃保証会社が行う賃借人の支払い能力を問う審査も競合が多いために甘い場合があり、若い方でも以前と比べて簡単に部屋が借りられるようになったことも要因の一つにあるかもしれません」

家賃は電気やガスなどの他のライフラインに比べ、滞納した場合"即退去"になることは少なく、支払いが滞った場合の影響が少ない側面もある。太田垣氏曰く、家賃を滞納している賃借人は、何らかの理由で収支のバランスが崩れており、消費者金融などから借金がある場合も多いという。取り立ての厳しい借金返済が支払いの優先順位として挙がり、家計における支払いの割合が多い家賃は、後回しにされがちになってしまうのだ。

家賃の滞納をしないためには、身の丈にあった生活水準を

例え強制執行によって部屋を明け渡したとしても、当然ながら未払い分の家賃は支払う必要がある。しかも、滞納期間に応じて遅延損害金も上乗せされるため金銭的なダメージは大きい。そして何よりも、家賃の滞納、いわば借金をしたという事実を背負っていかなければならない。家賃保証会社を利用している場合であれば、クレジットカードなどの信販系の信用情報への影響もまったくないとはいえず、将来的に必要になるかもしれない住宅ローンの審査などへの影響が懸念される。

太田垣氏は、こうした家賃滞納を起こさないためには、まずは生活水準の見直しが必要だと語る。
「昔と違い、現代は外食の機会が増え、スマートフォンなどの通信費がかかるなど生活するためによりお金が必要な時代になっています。一般的に家賃は"手取り収入の3分の1以下に"と言われていますが、私は4分の1以下にするという危機感をもって欲しいと思っています。賃貸に暮らす以上、2年ごとに更新料もかかる訳ですから、毎月ある程度は貯蓄にまわさなくてはなりません。言うまでもなく賃貸借契約は、家主の貸す、賃借人の払うという双方で取り交わす"契約"です。契約を破ることはご自身の社会的な信用を失うことにも繋がります。改めて、契約の重さを知ってほしいと思います」

生活をする上で過ごす時間も多い住まい。毎月の支払いを滞らせないことは当然のことだが、万が一、支払いが難しい状況になってしまった場合は、家主に対して自ら状況の説明をし、支払いの道筋を伝えるなど、誠意のある対応を心がけたいものだ。


■取材協力
章(あや)司法書士事務所
http://www.ohtagaki.jp/

2回目の督促状の文面例。画像提供:章司法書士事務所2回目の督促状の文面例。画像提供:章司法書士事務所

2018年 04月09日 11時07分