名古屋で人気のリノベーション集団「エイトデザイン」と組んだ狙いとは?

UR都市機構 中部支社では、20~30代のファン層を獲得するために、2015年からさまざまな企画に取り組んでいる。「無印良品」や「IKEA」、カーテン・壁紙などの「サンゲツ」とコラボレーションしたリノベーション住戸は、2016年も継続して展開。「団地というイメージを覆した住戸を数々提供し、ストックの活用ができていると思います」と、UR都市機構 中部支社 住宅経営部の湖海道紀さんは自信を見せる。

「UR×8PROJECT」も、若い世代へのプロモーションの一環として2015年6月からスタートした。タッグを組んだのは、名古屋のリノベーション専門デザイン集団「エイトデザイン」。同社は、コンクリートの壁や天井、配管を生かした“無骨で男前”なデザインに定評がある。

「素材をむき出しにしてカッコよく魅せるリノベーションを得意とする会社なので、年代を経た団地の味わいを生かせるのではと考えました。そこで築30~40年経つ物件を選んでエイトデザインらしい感性を発揮してもらい、新たな客層の獲得を狙ったのです」(湖海さん)

結果、築40年の団地が「抽選」になるほどの人気に!同プロジェクトから「選ばれる賃貸」のヒントを探ってみたい。

▲「団地リノベであえて和室をつくる」という逆転の発想。「14畳の和室とモルタルの土間」だけにした住戸は、光と影、レトロとモダンの対比が見事(鳴海団地)▲「団地リノベであえて和室をつくる」という逆転の発想。「14畳の和室とモルタルの土間」だけにした住戸は、光と影、レトロとモダンの対比が見事(鳴海団地)

水回り位置は変えずにコストダウン。尖ったデザインだからこそ施工の苦労も

「UR×8PROJECT」が手掛けたのは、築30~40年経つ『鳴海団地』と『豊成団地』の計10戸。和室が3室、家の中心にダイニングキッチンという“昭和を代表する間取り”といえる。

「30~40年前は居室数を重視した間取りが中心で、洗濯機置き場などの水回りも今より小さめです。立地や構造は良いのですが、若い世代の生活スタイルには合わなくなっていました」と湖海さん。棟数・住戸数の多いURでは、イマドキの設備・仕様に合わせた住宅「COMFORT CLASS(コンフォートクラス)」への改修も進めているそうだが、エイトデザインの「古さをカッコよさに変える」というデザイン提案はとくに団地との親和性を感じたようだ。

プロジェクト始動にあたり、URからエイトデザインに要望したのは「本来の高い住宅性能を損なわないこと」ぐらい。「例えば、和室を洋室へ変えるときは『畳と同等の遮音性』を持つフローリングを標準仕様にしています。こうした遮音性をはじめとする性能の維持についてはしっかり打ち合わせをしました」。また水回りの位置は変えずに施工コストを抑え、家賃がはね上がり過ぎないようにも配慮したという。

ただし、エイトデザインの高いデザイン性をカタチにするには、施工の苦労もあったとか。
「『土間』は単にコンクリート壁をむき出しにするのではなく、モルタルで塗り直すというひと手間がかかっています。一番苦労したのはリビングに張った『ベニア板の壁』ですね。壁に少しでも凹凸があると板を均一に張れないため、下地を施してあります。職人泣かせの仕上げでしたが、おかげで印象的な空間になりました」

▲コンクリートの構造壁にモルタルを重ねて美しく仕上げた水回り(鳴海団地)。ベニア板仕上げの壁は苦労のたまもの(豊成団地)▲コンクリートの構造壁にモルタルを重ねて美しく仕上げた水回り(鳴海団地)。ベニア板仕上げの壁は苦労のたまもの(豊成団地)

「入った瞬間、広い!」。団地はコンパクトというイメージを一新

今回のリノベーションでは立地に合わせて、住戸に住むモデル像が設定された。名古屋市緑区の住宅街に建つ『鳴海団地』は「三河エリアのメーカーに勤務する子育て家族」、進化目覚ましい名古屋駅・笹島エリアに近い『豊成団地』は「名古屋駅周辺で飲食店や美容室を構える自営業の夫婦」。とても具体的でワクワクする。

さて、完成した住戸を見た湖海さんの第一印象は?
「『鳴海団地』の『土間と和室』タイプは、玄関を入るとすぐ広々とした土間になり、倉庫をリノベーションしたような非日常の趣味空間になっています。その奥には14畳の明るい和室が広がり、光と影のコントラストが素晴らしい。一歩入った瞬間からこれはいい!と思いました」

また店舗オーナーの夫婦をモデル像にした『豊成団地』では、『大キッチンのある生活』と『ワークスペースのある2LDK』の2タイプがつくられた。業務用のステンレスキッチンが主役級の存在感を放つカッコいいプランで、個室をきっちりと仕切る壁はなく、光と風が住戸中に行き渡るオープンな造り。まさに少人数の家族向けと言える。

「大胆なデザインをURから発信しても、斬新すぎて受け入れてもらえない可能性があります。でも『エイトデザインが手掛けた家に住みたい』というファンにとっては、このような尖ったデザインこそ価値があり、探し求めている形です。ブランド力の影響を改めて実感しました」

▲『鳴海団地』の2タイプ。写真下の『斜めに廊下』プランは、床材の種類を変えて「家の中を通り抜ける廊下」を演出し、空間をさりげなく仕切っているのがアイデアだ▲『鳴海団地』の2タイプ。写真下の『斜めに廊下』プランは、床材の種類を変えて「家の中を通り抜ける廊下」を演出し、空間をさりげなく仕切っているのがアイデアだ

「住む人を選ぶ」という個性の強さによって「選ばれる家」に

「Nakaniwa Life」のイメージパース。中庭風の室内は羽目板の壁や窓があり、屋外の雰囲気に(尾上団地)「Nakaniwa Life」のイメージパース。中庭風の室内は羽目板の壁や窓があり、屋外の雰囲気に(尾上団地)

「UR×8PROJECT」のリノベーション住戸は、2015年11月から入居募集をスタート。新聞記事で取り上げられたこともあり、公開してすぐほぼ全室入居申し込みが入り、うち2戸は抽選になるほどの人気を博した。

「より尖ったデザインの住戸から先に決まっていき、『中途半端なリノベーションよりも、トータルの世界観が大切』と感じました」と湖海さん。実際に暮らすにはセンスが必要だが「住む人を選ぶ」という個性が逆に人を惹きつけ、「選ばれる住戸」となった。今後は2つの団地で年間数戸ずつ「UR×8PROJECT」の住戸をつくっていくそうだ。

また成功を受けて、2017年2月から名古屋市北区の『尾上団地』で新たな「UR×8PROJECT」がスタート。男前なデザインから雰囲気がガラリと変わり、室内に中庭のような空間を設けた「Nakaniwa Life」と、大きなクロゼットのある「STOCKSTOCK」の2タイプ6住戸が登場する。
「敷地内に保育園、目の前にスーパーという“URらしい子育て環境”に合わせて、今回はナチュラルな雰囲気のリノベーション住戸です。エイトデザインさんのブランド力で若年層の認知度を高め、UR賃貸住宅の立地環境にも魅力を感じていただきたいですね」。

気軽な賃貸ライフだからこそ、「ひと味違った個性的な家」に住んでみたくなるもの。今後、賃貸住宅のストック活用には「特定少数に向けた振り切ったデザイン」が起爆剤になりそうだ。数々の挑戦を続ける“名古屋のUR”のリノベーションプロジェクトに今後も期待したい。

UR×8PROJECT
http://www.ur-net.go.jp/chubu/ur8/

2017年 01月31日 11時05分