ある日突然、先代から「銭湯をやめようと思う」と告げられて…

HOME'S PRESSではこれまでさまざまな特色あるシェアハウスを紹介してきたが、今回紹介するのは銭湯シェアハウス。神奈川県横浜市鶴見区にある銭湯、清水湯の居住部分に設けられたシェアハウスである。

清水湯の創業は1949年(昭和24年)というから、戦後の復興期の開業。当時、風呂付き住宅は普及していないため、人々は銭湯を利用し、疲れをほぐしていた。この清水湯も地域の人たちの湯として親しまれ、「創業した頃は連日大勢のお客様が集い、入湯待ちの行列ができるほどだったと、先代である父から聞いています」と、清水湯の3代目オーナーの髙橋政臣さん(39歳)は話す。この髙橋さんが、銭湯シェアハウスを手がける仕掛け人なのだが、家業の銭湯を引き継ぐ前は東京のWEB制作会社で働くクリエイターだった。

きっかけは6年前、父親から「清水湯を廃業したい」と告げられたことだった。

「清水湯は祖父が起業し、祖父が亡くなってからは僕の父親が2代目として引き継ぎました。ただ中心になって切り盛していたのは祖母でした。父は銀行員として定年まで勤め上げた人で、銀行勤めのかたわら清水湯の運営サポートをしていたのです。祖父の頃に比べると、家風呂の普及が進み、銭湯の利用者も減るばかりで祖母と父には苦労もあったと思いますが、親戚の人やパートさんが頑張って盛り立ててくれ、どうにか続けてきました。でも、祖母が亡くなって三回忌を過ぎた頃、父から『そろそろ銭湯をやめようと思うけど、どう思う?』って、聞かれたんです。それを聞いて真っ先に思ったのは、『僕の帰る家がなくなってしまう!』ということでした。清水湯の建物には居住部分が併設されていて、そこは僕が生まれ、育った家です。銭湯の営業をやめてしまうと、建物がなくなって更地になったり、新しい建物が建ったりするのかもしれないけど、そんな風景が頭に浮かんできたとき、たまらなく寂しくなってきたんです」。

清水湯は髙橋さんのたくさんの思い出が詰まっている場なのだ。

「小学校6年までは居住部分にはお風呂がなかったので、清水湯を利用していました。子ども一人で湯船に浸かっていると、近所のおじさんが話しかけてきたり、背中を洗ってくれたり。おかげさまで近所のほとんどの人と顔見知りになりました」。

「清水湯」の明るい浴場でポーズを取ってくれた3代目オーナー・髙橋政臣さん。WEB制作会社に勤務するクリエイターから</BR>転身し、家業の銭湯を引き継いだ

「清水湯」の明るい浴場でポーズを取ってくれた3代目オーナー・髙橋政臣さん。WEB制作会社に勤務するクリエイターから
転身し、家業の銭湯を引き継いだ

WEB制作会社勤務から家業の銭湯へ。銭湯シェアハウスを開設

昭和の面影を残す「清水湯」。JR京浜東北線鶴見駅から徒歩15分ほどの潮田銀座商店街の一角にある昭和の面影を残す「清水湯」。JR京浜東北線鶴見駅から徒歩15分ほどの潮田銀座商店街の一角にある

そうして髙橋さんは決心した。「自分が3代目として清水湯を引き継ぐ!」と。

「子どもの頃から『いつかは僕が継ぐのかな』と漠然と考えていたので、業績が悪いのはわかっていたけど、自分が何もしないうちに清水湯がなくなってしまうのは嫌でした。『やめる、やめないは僕がやってみて判断したい』ということで父親と話し合い、任せてもらえることになったんです。ちょうど結婚を控えていたので、彼女にも『実家の銭湯を継ぎたい』と話し、理解してもらいました」。

東京のWEB制作会社を辞め、清水湯を引き継いだ髙橋さん。新婚の妻とともに実家に戻ってくると、両親が家を出て転居するという話になっていた。とすると、夫婦2人で住むにはこの家は広すぎる。清水湯の建物は木造3階建てで、住居部分には10人くらいまで住めるスペースがあるのだった。その昔の銭湯には住み込みで働く人がいて、居住部分は広めに作られていたのだという。そこで生まれたアイデアが、実家をシェアハウスにすること。

「僕は東京で暮らしていた頃、シェアハウスに住んでいたことがあるんです。10年ほど前のことなので、まだシェアハウスという言葉が浸透していない頃ですね。一軒家を借りての7人~8人での共同生活はすごく楽しかったです。僕が一番年上だったこともあり、運営にも関わっていたので、その経験を活かして、実家の銭湯でシェアハウスをやってみようと思い立ったのです」。

こうして誕生したのが「銭湯シェアハウス清水湯」。住人は自由に銭湯に入浴できるのだが、単に銭湯付きの共同住宅ということではない。銭湯シェアハウスを通じて若い人に銭湯に興味をもってもらうきっかけにしたいと髙橋さんは考えているし、新しいコミュニティを作る場にしていきたいとも言う。

「もともと僕は地域交流や街づくりへの興味があって、あるNPOで活動していた時期もあります」と、髙橋さん。この銭湯シェアハウスをスタートさせるにあたり、銭湯についてあらためて考えてみたところ、人と人との交流の場としての魅力を再認識したと話す。

「銭湯は、地域に住むいろいろな人が利用する場です。小さい子どももいるし、お年寄りもいる。そこではごく自然に交流が生まれています。一緒にお風呂に入りながらなにげないおしゃべりをしてなごんだり、人と人との距離を縮めてくれる場所かなと。また、年配の人が子どもに『100数えるまでお湯に浸かっていると、よく温まるよ~』なんて話しかけてあげたり、赤ちゃんと一緒の若いお母さんがいたら、『お子さんを抱っこしていてあげるから、あなたはゆっくり入っていなさい』という具合にサポートの手を差し伸べる人がごく当たり前にいる。そんなよさをもつ銭湯にふれる機会があるということは、このシェアハウスの住人同士がよい関係を築いていくうえでプラスになるのではと思ったのです」。

人との交流から生まれる「豊かさ」をシェアする場でありたい

そんな銭湯シェアハウスの住人は現在定員いっぱいの10人。ほとんどが30代で、夫婦で住む人も髙橋さん夫婦を入れて3組いる。主に友人知人からの紹介を受け、髙橋さんが面談をして選んだ住人たちという。「こんな人が住んでくれたらここがより面白い場になりそうだ!」と思える人と出会えば「ぜひうちに住んで!」と、スカウトしたケースもある。

「職業も個人事業主を中心にサラリーマンや学生さんもいます。また、ミニチュアダックスフンドを飼っている人もいるし、昨年暮れには1組のご夫婦に赤ちゃんが誕生しているんですよ。奥さんが深夜に産気づいたときは住人全員が起き出して、『頑張ってね!』と声をかけて奥さんとご主人を病院へ送り出して…。ご主人からLINE(ライン)で『生まれたよ!』っていうメッセージをもらったときはみんな、大喜びです。僕にとっても、ここに住むみんなにとっても、豊かな時間をシェアさせてもらえて幸せでした」。

そうなのだ、「豊かな時間をシェア」。これこそが髙橋さんが銭湯シェアハウスの運営でこだわっていることである。

「住人から『この家でこんなことをやりたい』という希望があって、それが他の住人にもシェアされることであれば、僕は積極的に取り入れるようにしています。例えば、料理が好きな人が住めばオーブンなど調理道具を購入してキッチンに置いたし、野菜を育ててみたいという住人がいれば屋上に菜園を作ったりしました。そうすると、料理や野菜を作る人は好きなことができてうれしいし、でき上がった料理や野菜のおすそ分けをしてもらえる僕らもうれしくなるじゃないですか!」。

昨年暮れに生まれた赤ちゃんの子育ても、「豊かな時間を『シェア』させてもらっている」という。
「お母さんが家事とかで忙しいときなどは僕や住人の誰かがみていてあげたり、助け合いながら自分や誰かを幸せにしていける。こんなふうに豊かで幸せな時間が増す場であり続けたいです」。

そういう場を作って継続していくのはそうたやすいことではないと思うが、ゴミ出し当番以外のルールは決めていないという。シェアハウス内を掃除したり、共用のスペースに季節の花を飾るといったことは、「気がついた人がやるという感じ」で住人の自主性にまかせている。

「誰かの負担が増えすぎていたり、何か問題が起きそうなときはミーティングを開いて話し合います。でも、そもそもここに住む人は、僕が面談をして選んだ人たちなので、うまくいっていますよ。何ごとも協力して解決できるような関係性が築けていると思います」。

上左)清水湯の敷地の裏手が高橋さんの自宅兼シェアハウス。1992年に増改築をし、建て増しをした部分もあるという
上右)玄関にはベビーカーも。このシェアハウスには小さな子どものいる夫婦もいれば、学生やサラリーマンも住んでいる
下左)昭和の木造住宅らしく廊下も健在
下右)「ここに住みたいとお問い合わせをいただくことが増えていますが、今のところは満室でお断りしている状態です。でも見学や体験は受け付けていますよ」と、髙橋さん(写真は共用のダイニングキッチン)。ちなみに居室1部屋の広さは6畳程度~10畳程度で、家賃は5万5,000円~7万円、別途水道高熱費として5,000円 上左)清水湯の敷地の裏手が高橋さんの自宅兼シェアハウス。1992年に増改築をし、建て増しをした部分もあるという 上右)玄関にはベビーカーも。このシェアハウスには小さな子どものいる夫婦もいれば、学生やサラリーマンも住んでいる 下左)昭和の木造住宅らしく廊下も健在 下右)「ここに住みたいとお問い合わせをいただくことが増えていますが、今のところは満室でお断りしている状態です。でも見学や体験は受け付けていますよ」と、髙橋さん(写真は共用のダイニングキッチン)。ちなみに居室1部屋の広さは6畳程度~10畳程度で、家賃は5万5,000円~7万円、別途水道高熱費として5,000円

清水湯のシェアハウスだから、地域の人にも受け入れてもらえた

銭湯のスペースを活用した「清水湯花見祭2016」の様子。花見祭では八百屋やたこ焼きなどを売る店が並び、ライブ演奏や絵本の読みきかせ、餅つき大会なども。地元の人のみならず、東京など遠方からも大勢の人が訪れた

銭湯のスペースを活用した「清水湯花見祭2016」の様子。花見祭では八百屋やたこ焼きなどを売る店が並び、ライブ演奏や絵本の読みきかせ、餅つき大会なども。地元の人のみならず、東京など遠方からも大勢の人が訪れた

髙橋さんにとって予想以上の収穫だったのは、このシェアハウスの住人が地域の人とも積極的に交流していること。
髙橋さんは清水湯の大浴場や脱衣場のスペースを活用してお花見イベントや、番台をバーカウンターに見立てての銭湯バーといったイベントを開催しているのだが、そのイベントにシェアハウスの住人も参加して近所の人と一緒に楽しんだり、町の夏祭りでも一緒に神輿をかついだりして地域の中に溶け込んでいるという。

「一般的にシェアハウスは、『若い人たちが集団で住んでいてワイワイ騒いでいる場所』といったマイナスイメージで見られがち。だから、うちのシェアハウスに住む人たちが地域の人たちにはいまいちよく思われないかもしれないと心配していたんです。でもそんなことはなかった。それどころか、『あの清水湯さんに住んでいる人ね!』と、ご近所の人たちが温かく受け入れてくれたんです。とてもうれしいです。僕が思っていた以上に清水湯は町に根付いているんだと知ったし、清水湯の67年の歴史の重みを感じました。この町の風景のなかにうちの銭湯がある…、それを変えてはいけないし、変えたくないと思いました」。

空き家を活用しての銭湯シェアハウス「離れ」の構想も

髙橋さんは地域の多くのと交流していきたいと意欲的。銭湯シェアハウスのほか、焼き芋屋「ホクホク・ザ・ダッチオーブン」を運営。「食」を通じてのコミュニケーションの場づくりをめざしてキッチンカーレンタルの事業も展開中髙橋さんは地域の多くのと交流していきたいと意欲的。銭湯シェアハウスのほか、焼き芋屋「ホクホク・ザ・ダッチオーブン」を運営。「食」を通じてのコミュニケーションの場づくりをめざしてキッチンカーレンタルの事業も展開中

清水湯3代目オーナーとしての目下の課題は、建物の老朽化をどうするか。清水湯の銭湯の建物は1966年に改装して以降は必要に応じて修繕は行なってきたものの、築50年にもなる。4年前には暴風のため、銭湯部分のトタン屋根がはがれ落ち、およそ1ヶ月もの間、休業を余儀なくされたという苦い経験もしている。

「建物の維持にコストはかかるけど、真剣に考えなければならない問題」と現実と向き合いながらも、「銭湯シェアハウス」をもっと地域に広げていきたいと構想を描いている。
「地域にある空き家を活用して、銭湯シェアハウス『離れ』を開設したいと思っているんです。高齢者向けや学生向けなど世代別のシェアハウス『離れ』をつくり、交流の場として清水湯があるという構想です。めざすは銭湯を通してのコミュニケーションの街。人と人とが顔を合わせてコミュニケーションをとることでよい人間関係が生まれ、人も地域もより豊かになる…僕はそう信じています」。

銭湯に、新たな新しい価値を生み出そうという髙橋さんのチャレンジ。今後の展開に期待したい。

☆取材協力
銭湯シェアハウス清水湯
http://furo-shiki.net/2016/02/03/sentousharehouse/

2016年 12月17日 11時00分