「女性の視点を活かすまちづくり」をテーマにした研修が開催された

女性のまちづくりにおける関わり方、女性活躍による中心市街地の活性化などを考える『特定テーマ型研修~女性の視点を活かしたまちづくり~』。昨年に引き続き、開催された。昨年は受講者を女性限定としていたが、今年は男女は不問。全国各地から受講者が集まった女性のまちづくりにおける関わり方、女性活躍による中心市街地の活性化などを考える『特定テーマ型研修~女性の視点を活かしたまちづくり~』。昨年に引き続き、開催された。昨年は受講者を女性限定としていたが、今年は男女は不問。全国各地から受講者が集まった

女性の生活者・消費者としての感性、子育てや介護の経験、PTAや自治会での活動経験…それらを、地元の地域振興に活かしたいと考える女性が増えている。しかし、その想いを形にするノウハウを得る機会は少なく、ネットワークを作るチャンスも少ない。そうした女性がまちづくりの活動で力を発揮していけることを目的とした研修が、2017年1月18日に開催された。『特定テーマ型研修~女性の視点を活かしたまちづくり~』と題した研修で、経済産業省(経済産業政策局地域経済産業グループ中心市街地活性化室)が主催。

受講したのは定員いっぱいの30人。行政やまちづくり関連会社、商店会などで地域活性に関わる人が多数を占めるなかで、まちづくりに興味があって何かやってみたいという人の受講もあった。年齢も20代から70代と幅広く、さまざまなバックボーンをもつ人たちが集まった。

研修プログラムは前半が先進事例の発表、後半が受講者全員でのワークショップとパネルディスカッションという2部構成で進められた。受講者同士は初対面のはずだが、「まちづくり女子会」(男性受講者の姿もあったが)のようななごやかな雰囲気。そんな研修の様子を2回に渡ってレポートする。

女性の発想力、直観力、共感力、つながり力を活かしてほしい

まず、この研修のファシリテーターで「まちとひと 感動のデザイン研究所」代表・藤田とし子さんが「女性の視点を活かしたまちづくり」と題して基調講演を行なった。自身の地元である千葉県柏市での中心市街地活性化事業をはじめ、全国各地の自治体で地域活性化に向けた助言を行なってきた実績をもつ藤田さん。まちづくりのなかで女性の生活者視点に加え、活かしたい力として挙げたのは4つ。まず、自由な発想力、直観力。

「各地域ではさまざまな課題を抱えています。しかし、課題解決には時間とお金がかかるうえ、歳月の経過とともに別の課題が出てくることも起こり得ます。ならば、今ある課題を自分のまちの弱みとして把握しつつ、違う観点からわが町ならではの強みを発見し、それを活かしながら新たな価値を創り出す。この思考がまちづくりには必要だと、私は考えます。『商店街はこうでなければいけない』という限られた発想では可能性は広がりません。女性の既存のものにとらわれない自由な発想力、直観力を活かしてほしいと思います」。

そして、藤田さんは女性の共感力、つながり力も、まちづくりに求められる力だと言う。
「アイデアや思いを形にするためには、人と人との連携をつくることが重要。女性は人と響き合って共感したり、ゆすりあう力が強いと思います。『この人とならば』とつながっていける行動力もあります。女性のこうした特長を活かし、地域活性につなげてください」。

研修受講者にエールを送り、藤田さんは基調講演を締めくくった。

藤田とし子さんの基調講演で始まった研修。藤田さんは千葉県柏市の中心市街地の活性化事業に取り組み、</BR>2007年には地方功労団体として総務大臣表彰受賞。その後、株式会社全国商店街支援センター事業統括長役に就任し、</BR>全国各地の商店街活性化事業の推進に力を注いだ。2011年より現職藤田とし子さんの基調講演で始まった研修。藤田さんは千葉県柏市の中心市街地の活性化事業に取り組み、
2007年には地方功労団体として総務大臣表彰受賞。その後、株式会社全国商店街支援センター事業統括長役に就任し、
全国各地の商店街活性化事業の推進に力を注いだ。2011年より現職

生まれ育ったまちに再び活気を! 姉弟の二人三脚でまちを再生

続いて女性がまちづくりを進める先進事例として2例の発表があった。
最初に発表したのは、新潟県新潟市の「沼垂(ぬったり)テラス商店街ACTIVE再生プロジェクト」に取り組む高岡はつえさん。この商店街の管理・運営を行なう株式会社テラスオフィスの店舗統括マネージャーとして活躍中だ。

沼垂は新潟市の東部、信濃川の河口付近に位置し、江戸時代から湊町として栄えてきた歴史をもつ。昭和初期から戦後の高度成長期には製紙工場や製油工場、鉄工所など工場が建ち並び、発展。そんな沼垂に昭和30年代(1955~1964年)、市の施策により一帯の堀が埋め立てられ、市場が開設された。これが沼垂市場通りである。ここには長屋の建物が連なり、近隣に大規模な工場があったことから人通りも多かったという。

高岡さんは、そんな沼垂市場通りにある割烹料理店で生まれ育った。「私が子どもの頃、沼垂市場通りには八百屋さんを中心に日用雑貨店、洋服屋さん、乾物屋さんなどいろいろな店が並び、活気にあふれていました。昭和40年代後半から50年代にかけての頃です」とふり返る。しかし、その後、工場の移転や、郊外に大型店舗が開業した影響を受け、沼垂市場通りにやって来る人は減少。加えて、この市場通りで店を営む経営者の高齢化が進み、徐々に閉店し、シャッター通りとなってしまった。

「数店舗は残っていましたが、通りを行き交う人もなく、眠っているような寂れたまちになってしまったのです」。

この場所を再び、活気のあるまちにしたい! そんな思いから立ち上がったのは、高岡さんの弟、田村寛さんだった。田村さんは家業である割烹料理店の二代目として厨房に立つかたわら、2010年、長屋式建物が続くシャッター通りの一角に、佐渡牛乳ソフトクリームと手作り惣菜を扱うデリショップを開業した。この田村さんのチャレンジは、姉である高岡さんの転機にもつながった。

「弟は料理人の仕事で日々、忙しくしていました。そんな弟から、『まちの復興のために手伝ってほしい』と言われたことがきっかけです。私は結婚前には銀行などに勤務していた経験がありますが、まちづくりの活動経験はありません。でも私はここで生まれ育ち、にぎやかだった頃も覚えているし、すたれていくプロセスも目の当たりにしてきました。だから私のまちを活性化するという仕事を始めることには抵抗はなかったです。沼垂の子どもたちが成長して大人になったとき、ふるさとのまちが人に自慢できる場所であってほしい、地元が好きでずっと暮らし続けたいまちであってほしい。そんな願いを込めて、弟と一緒に再生事業に関わるようになりました」。

新潟市沼垂について語る高岡はつえさん。</BR>銀行や貿易会社勤務を経て、弟の田村寛さんとともに沼垂市場通りの再生事業に取り組んできた新潟市沼垂について語る高岡はつえさん。
銀行や貿易会社勤務を経て、弟の田村寛さんとともに沼垂市場通りの再生事業に取り組んできた

昭和の長屋式建物が並ぶシャッター街をすべて買い取った

上)シャッター通りが、2015年4月、沼垂テラス商店街に生まれ変わった</BR>下)テラスオフィスの事務所も、沼垂テラス商店街にある。長屋式建物の一区画、青果店だったところをリノベーションして事務所に活用上)シャッター通りが、2015年4月、沼垂テラス商店街に生まれ変わった
下)テラスオフィスの事務所も、沼垂テラス商店街にある。長屋式建物の一区画、青果店だったところをリノベーションして事務所に活用

そうして、田村さんのデリショップ開業がきっかけになり、眠っていたまちが動き出した。2011年にオーダーメイド家具と染織布の小物の店が出店し、2012年には陶芸工房がオープン。この3店舗は、レトロな長屋式建物を活用した店として話題になり、20代、30代の人を中心に来訪者がみられるようになった。メディアにも取り上げられるようになり、「私も沼垂市場通りで店を開きたい」という問い合わせも増えていった。

「ここを訪れた方たちが言うんです。『長屋が連なる風景にはノスタルジックな空気感がある』『ここに来るとタイムスリップしたみたいで、時間がゆっくり流れる感じがあっていい』と。この風景、この雰囲気は他の地域にはない魅力なのだと、確信しました。このまちの将来に向けて、私と田村の進むべき方向性がみえてきたのです」。

ところが壁が立ちはだかった。この沼垂市場通りの土地建物を管理する東新潟市場協同組合の規約で、組合員以外の出店枠には制限があり、これ以上は外部者の新規出店ができない状況だったのだ。

「せっかくこの場所に興味をもち、店を開きたいと申し出てくださった方々を断らざるを得ないのです。まちに活気を取り戻すチャンスなのに、それを阻む規約があるのです。この難しい問題をどうしたらクリアできるのか…苦難の日々が続きました」。

一方、組合側も問題を抱えていた。組合員の高齢化によって空き店舗の維持管理が困難になり、この市場通りは消滅の危機に直面していたのだ。そんな組合側との交渉にあたったのは弟の田村さん。話し合いを重ね、出した結論は市場通りの土地と長屋式建物のすべてを買い取るという決断だった。そして、この一帯を統一したコンセプトデザインで再生していくために、2014年3月に管理会社を設立。これが株式会社テラスオフィスである。田村さんを代表に、高岡さんは専務に就いた。

この買い取りに際し、資金を工面するために銀行から融資を受けたので、「借金を返していけるのかとドキドキしていました」と打ち明ける高岡さん。そんな不安を吹き飛ばすかのように出店希望が相次いだ。すべての店舗が埋まり、2015年4月、約30店で「沼垂テラス商店街」をスタートさせることができた。花屋、パン屋、ガラス工房、カフェ、居酒屋、北欧雑貨店、手作りアクセサリーの店、古本屋など、さまざまな業種の店が揃い、まちは活気を取り戻した。

このような経緯を経て、県内外から多くの人が訪れる商店街となった沼垂テラス商店街。2016年1月には、地域活性化に挑む全国の団体を支援する「地域再生大賞」(主催は地方新聞45紙と共同通信社)の準大賞に選ばれた。

沼垂は猫の多いまち。地域の名物菓子として「沼ネコ焼」を発案

高岡さんが開発したお菓子「沼ネコ焼」。小倉あんやチョコレート、笹団子など7種類のバリエーションがあり、弟・田村さんが運営するデリショップで焼き立てを提供している高岡さんが開発したお菓子「沼ネコ焼」。小倉あんやチョコレート、笹団子など7種類のバリエーションがあり、弟・田村さんが運営するデリショップで焼き立てを提供している

こうした成果を出すことができた理由には、「古くて新しいまち沼垂」というコンセプトが明確だったことがある。高岡さんと田村さんは沼垂市場通りの歴史と文化、景観を活かし、「ここでしか出会えないモノ・人・空間」にこだわった。旧沼垂市場の長屋は老朽化しているものの、その古さにこそ価値があるとして、リノベーションをして店舗として活用するという路線を打ち出した。また、多数の出店希望があったなかで、テラスオフィスの理念に賛同してくれることなどをポイントに出店者を選んだ。その結果、沼垂テラス商店街に店を構える店主のおよそ半数は女性という。シャッター通りだったまちが息を吹き返し、「自分の店をもちたい」という女性の夢を叶えるまちにもなったのだ。

沼垂テラス商店街の開設からもうすぐ2年になるが、高岡さん姉弟は沼垂地域全体の活性化にも目を向ける。その試みとして着手した3つの取り組みを紹介してくれた。1つめは、この商店街の名物になるようにと、「沼ネコ焼」というお菓子を発案したこと。新潟県産コシヒカリの米粉を使ったもので2016年4月に発売された。

「沼垂では昔からネコが多く見かけられ、地域の人たちもネコをかわいがってきました。そんな沼垂のネコたちをモチーフにしたお菓子です。沼垂というまちをより多くの人に知っていただくためのツールにとして大切に育てていきたいと思います」と話す高岡さん自身も、大のネコ好きという。ネコとスイーツ大好き女子の目線で開発したお菓子というわけだ。

2つめの取り組みは沼垂テラス商店街周辺の空き家をリノベーションしてのサテライトショップづくり。今のところは新刊・古書を扱う店と、ゲストハウスの2店舗だが、今後も空き家の活用には力を注いでいくという。

そして3つめは、結婚式のプロデュース。名付けて「沼垂結び婚」。
「地域の神社で行う神前式に始まり、花嫁行列で沼垂テラス商店街を練り歩き、披露宴も2次会も引き出物もすべて沼垂テラス商店街というオリジナルウェディングです。沼垂が気に入って移り住んできたカップルがいらして、昨年秋、私たちテラスオフィスで結婚式をプロデュースさせていただきました。これも女性である私の視点が活かされた試みです」。

弟の田村さんと二人三脚で取り組む地域活性。今後の展開が楽しみだが、この研修ではもう1件の事例の発表があった。女性グループでまちづくりに取り組む事例だ。登壇したのは岐阜県飛騨市古川町の「しゃべりばち☆おとめの会」のメンバー6人。地元の方言(飛騨弁)を交えての和気あいあいとした発表の様子は次回記事でお伝えしよう。

■沼垂テラス商店街
http://nuttari.jp/

2017年 03月10日 11時05分