銭湯入場無料のゲストハウス「木雲」(もくもく)

家風呂が当たり前になり、大阪府下だけでも年間50軒が廃業している銭湯。さまざまな工夫が求められる中、宿泊客は銭湯入場無料のゲストハウスが、2016年4月に開業した。それが大阪や京都から交通至便ながら、下町情緒の残る淡路にある、ゲストハウス木雲。今回お話をうかがったオーナーの森川真嗣氏は、昭和3年創業の「昭和湯」の三男だ。

きっかけは、三軒長屋の真ん中に住んでいた昭和湯のお客さんが、故郷に帰ったこと。高齢で、荷物を運ぶのも大変なので、建物ごとなんとかしてくれないかと相談されたのだそうだ。そこで、荷物込みで購入したのだが、たまたま両隣も空き家となり、三軒長屋がすべて使える状況になったのだそうだ。
「更地にして駐車場にしようかとも考えました。また、一棟ずつコテージのように使える民泊や、シェアハウスも一つのアイデアでした。しかし、どうせなら町の魅力作りにつながるゲストハウスをしたいという気持ちがあり、改修費用や家賃設定から、現実的に経営が成り立つものはと考えたら、現在の形が最適だったのです」
と森川氏。左端の棟はカフェ、残りの二棟をゲストハウスとして営業している。

三軒長屋を改修した、ゲストハウス木雲。左一棟はカフェになっている三軒長屋を改修した、ゲストハウス木雲。左一棟はカフェになっている

改修工事はすべて有志によるDIY

日本古来のしとみ戸にあこがれて、DIYで作った窓日本古来のしとみ戸にあこがれて、DIYで作った窓

ゲストハウス木雲の暖かさを醸し出しているのは、手作り感だろう。「ゲストハウスを作りたいのでDIYを手伝って」との呼びかけに、のべ100名近くの地域の人が集まり、改修工事を手伝ってくれた。DIYが趣味の人も多く、初心者を上手く指導してくれたそうだ。
その後も講師を招き、女性専用のドミトリーやカフェの椅子を作るDIY教室を三回実施。今後は木の器を作る教室などができないかなど、模索を続けていくという。

ゲストハウスをDIYで改修するのは冒険のように感じるが、
「日本人はちゃんとせなあかんと思いすぎるところがあると思います。たとえば外国人に話しかけられても、『ちゃんとせな』と思いすぎて対応できなかったり。でも、少々文法がおかしくても、伝わればいいんです。建物も同じ。そしてちゃんとしなくていいなら、素人にもできるんです」
と、森川氏は笑顔を見せた。
カフェの窓もDIY。日本古来のしとみ戸にあこがれて作ったそうだが、防犯を考えて内側に折りたたんだ。仕上がりには満足しているが、これから冬が本格的になれば、すきま風は入るかもしれないという。

銭湯を文化発信拠点に

ゲストハウス木雲の最大の特徴は、なんといっても昭和湯に入場無料なこと。オーナーが銭湯の息子だからこそのサービスだ。銭湯は地域に密着した施設だが、銭湯の経営を考えるとき、徒歩圏内の住人だけに向けたスタイルでは続かない。遠方の客を呼び込む工夫が必要で、ゲストハウスの存在は銭湯の活性化につながるはずだ。
また、「銭湯は地域コミュニティの大切な場として残さなければいけない」という言葉を、そのままに受け止めてはいけないと、シビアに考えているそうだ。
「昔、父が『銭湯を地域コミュニティの場、親子ふれあいの場にしよう』と、すべり台つきの銭湯を作ったんです。テレビでも取り上げられ、当初は子供の自転車が50台ぐらい並ぶほどの大人気でした。でも、騒がしすぎて大人に敬遠され、徐々に子供たちにも飽きられると、ふつうの銭湯になってしまったんです」
と、森川氏は苦笑いをする。
また、地域の人とのつながりができても、だから銭湯に行こうという流れにはならないという。喫茶店には喫茶店の、銭湯には銭湯のコミュニティが自然に生まれるものなのだ。

風呂はごくごく日常の「ケ」の場でありながら、神前に立つ前に身を清める沐浴が起源であることからもわかるように、「ハレ」の場でもある。その特性を活かしたいと、昭和湯の経営者である兄とさまざまなアイデアを出し合い、パクチー風呂や昆布風呂などを開催しているが、イベント風呂は、その時しか盛り上がらない。そこで、文化発信拠点となるため、たとえば風呂の中でのライブを実施予定だという。ほかにも、男女の間に壁のある銭湯という場を生かし、互いが見えない状態で言葉を交わし合う「歌垣」も実施している。カップル成立にはならなかったが、ゲストハウスを利用して、新たな工夫を今後も模索していくという。

さまざまな国籍の観光客が泊まりにくるさまざまな国籍の観光客が泊まりにくる

淡路の魅力を活かす

カフェで常連客と歓談する森川氏カフェで常連客と歓談する森川氏

淡路の魅力は、地域内に阪急淡路駅、JR東淀川駅、JR新大阪駅があり、大阪外の地域から訪問するのに便利なうえ、大阪の繁華街にも、京都にも至便であること。そして同時に下町情緒が残っていることだろう。
しかし、外国人宿泊客はインターネットで宿を決めるため、交通の便にさほどの意味はないと感じているという。また、瀬戸内や奈良などの下町を知っている観光客にとって、淡路のゴミゴミとした雰囲気は、あまり魅力的には映らない。また、意外にもアジアの観光客は銭湯利用率が低く、7~8割程度がゲストハウス内にあるシャワーですませてしまうそうだ。

むしろ、淡路の下町を楽しみ、銭湯を喜ぶのは日本人。
「ゲストハウスには食事がついていないので、おすすめの飲食店を紹介するのですが、そういったお店で大阪の下町ならではの会話を楽しむ人が多いですね」
と、森川氏が言う通り、このゲストハウスが「淡路はおもしろい」と再発見してもらえるきっかけにもなっているそうだ。風呂屋の息子が銭湯で地域を盛り上げようとしていることに共感して訪れる人も多いというから、銭湯の廃業が続く現状に、危機感を感じる人も多いのだろう。

今後は経営を安定させることが、第一目標だという。今はまだ5割程度だが、常に7~8割のベッドが埋まるようになれば、カフェを本格的に稼働させようと考えているそうだ。
カフェでのイベントを企画したり、一日だけの飲食店を開催したりできる「一日店長」なども実施しており、これからも挑戦的にアイデアを生み出していきたいと考えている。

2016年 12月14日 11時06分