家を建てる木材はどこからきている? 林業を描いた青春映画

会場入り口で迎えてくれた「林業女子会@東京」のメンバー。現在約70名のメンバーのプロフィールは学生や社会人、主婦などさまざまで、社会人メンバーのなかには建材販売会社や林野庁勤務など林業と関わりのある業種で働く人も少なくないという。基本的には”女子会“だが、男性のサポートメンバーもいる会場入り口で迎えてくれた「林業女子会@東京」のメンバー。現在約70名のメンバーのプロフィールは学生や社会人、主婦などさまざまで、社会人メンバーのなかには建材販売会社や林野庁勤務など林業と関わりのある業種で働く人も少なくないという。基本的には”女子会“だが、男性のサポートメンバーもいる

林業は、木材を産出する産業。家づくりにはなくてはならない産業であるのだが、その仕事現場はほとんど知られていない。森はあるけど、どんなところで木を切っているのか? どんなふうに出荷されるのか? そうした素朴な疑問に応えてくれる映画が公開された。林業をテーマにした映画『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』だ。監督は『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』など、ユニークな題材によるヒット作を送り出してきた矢口史靖監督。

映画公開に先がけた5月4日、「林業女子会@東京」主催による試写会・トークイベント「WOOD JOB!でGOOD JOB!みつけよう!」が開催されたので、取材に駆けつけた。イベントには矢口監督や現役の林業家などが出席し、会場(東京・東宝本社)には130名の人が集まった。

この映画は作家・三浦しをんのベストセラー小説『神去なあなあ日常』が原作。主人公は、ひょんなことから携帯がつながらない、コンビニもない山村で林業に従事することになった若者。村人たちや森の大自然とふれあいながら、林業の魅力に惹かれていく若者の成長を描いた青春エンタテインメントである。笑いと感動あふれる、“矢口風林業ワールド”には、映画ファンのみならず、多くの林業関係者が「林業の振興につなげていければ」と大きな期待を寄せている。

●『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』
2014年5月10日(土)より全国東宝系にて公開
【監督・脚本】 矢口史靖
【出演】染谷将太、 長澤まさみ、伊藤英明
【原作】『神去なあなあ日常』三浦しをん(徳間書店刊)
【映画公式サイト】
http://www.woodjob.jp/

日本の林業を取り巻く現状とは…

林業は冒頭で記述したように日本人の住まいなど生活を支えてきた重要な産業なのだが、たくさんの問題を抱えている。まず、林業で働く人の数が減っていること。総務省「国勢調査」によると、1980年には約16万5000人の人たちが就業していたのが年々減少していき、2010年には約6万9000人となっている。農業就業者数が約261万人(2010年 ※1)であることを考えると、林業の人手不足がいかに深刻なものであるか、おわかりいただけるだろう。高齢化の問題もある。林業就業者の高齢化率(65歳以上の就業者数の割合)は2010年で18%と、全産業平均の高齢化率10%に比べて高い数字になっているのだ。加えて、木材の輸入自由化などによって国産材が利用されなくなったという問題もある。

このように厳しい状況の林業ではあるが、明るい話題もある。新たに林業の仕事に就く新規就業者が増えているというのだ。国による「緑の雇用」事業(※2)が開始される以前は年間平均約2000人だった新規就業者だが、事業開始以降(2003年以降)は年間平均約3400人にまで増加している(林野庁業務資料より)。ちなみに『WOOD JOB!(ウッジョブ)』の主人公もそうした雇用創出事業の林業研修プログラムに参加するという設定だ。

(※1)出典:農林水産省「農林業センサス」
(※2)「緑の雇用」:林業の新たな担い手を確保して育成するための事業。林業の仕事に就きたいという人に対し、給付金の支給や技術習得などの支援を行なう。

「林業は誰でもウエルカム」という映画にはしたくなかった

トークセッションの様子。写真右から深津智男プロデューサー、矢口史靖監督、三浦妃己郎さん

トークセッションの様子。写真右から深津智男プロデューサー、矢口史靖監督、三浦妃己郎さん

『WOOD JOB!(ウッジョブ)』の試写会・トークイベントを主催する「林業女子会@東京」は、2011年秋に発足した有志の団体。「次世代に豊かな緑と暮らしをつなぐ」という理念のもと、「木を使う、森に行く、木を加工する」ことを身近に感じられるような活動を定期的に行なっている。活動内容は千葉県市原市にある森林の整備をはじめ、林業体験イベントの提供や、各地の林業現場を巡る森めぐり、国産木材の利用促進など多岐に渡っている。全国の林業地を訪ねるツアーも定期的に行ない、昨年秋に訪れたのがこの『WOOD JOB!(ウッジョブ)』のロケ地にもなった三重県津市の美杉地域だった。この美杉へのツアーでは地元の林業家や林業普及員とのつながりができ、訪問先の選定や現地でのイベント実施において尽力し合ったという。

そうしたことがきっかけになって企画されたのが今回のトークイベントだ。映画上映後、矢口史靖監督、深津智男プロデューサー、そして美杉で三浦林商を営む林業家・三浦妃己郎さんによるトークセッションが行われた。三浦さんは『WOOD JOB!(ウッジョブ)』では出演者への林業指導や撮影サポートを務めた。

なごやかな雰囲気のなか、撮影エピソードや林業についての思いが語られた。

これまで、すべてオリジナル脚本で数々のヒット作を創り出してきた矢口監督。林業をテーマにした理由については、「これまでもおもしろい漫画や小説があったら映画にしたいと思っていましたが、これだと思える作品に巡り合えずにいました。でも、深津プロデューサーから三浦しをんさんの『神去なあなあ日常』のことを聞き、すぐに小説を読んでみたらおもしろい! ぜひやりたいと思いました」と当時をふり返った。自身にとって未知の世界である林業を描くために、2012年2月から11月下旬までの間に計7回のリサーチ旅行を行なった。三重県の林業家や、主人公と同じく林業研修を受けにきている若者など、林業に携わっている人たちからつぶさに話を聞き、取材を重ねたという。

撮影は、2013年6月初旬から7月末にかけて行われたが、演出の重要なポイントでもあり、映画の見どころのひとつになっているのは、すべての林業シーンを吹き替えなしで、俳優自らが演じたということ。
「これまで映画を創ってきて、その影響力は大きいと感じています。この"WOOD JOB!(ウッジョブ)”からも影響を受けて、自分の人生の選択肢として林業を入れる若者も出てくるかもしれません。ただ、“林業は誰でもウエルカム、楽しい仕事です”という映画にしてしまうのは絶対失礼だと思いました。だから厳しくて危険なこと、村の人たちとコミュニケーションをとって共同体に受け入れてもらうまでの大変さがあることをきちんと描きたかったんです。それでも軽い気持ちで林業に入る人は少なくないとは思いますが、なかには適性のある若者も出てくると思います。彼らが1年、2年と続けていけて、林業が一生の仕事になる可能性もあります。この作品がきっかけで、そんなことが少しでも起きたらとても良いことだなと思います」(矢口監督)

林業は次の世代に収穫を託す、未来を見据えた仕事

主人公・平野勇気を演じるのは染谷将太。勇気が憧れる美女・石井直紀を長澤まさみが、勇気の面倒を見る林業家・飯田ヨキを伊藤英明が演じる主人公・平野勇気を演じるのは染谷将太。勇気が憧れる美女・石井直紀を長澤まさみが、勇気の面倒を見る林業家・飯田ヨキを伊藤英明が演じる

深津プロデューサーはこんなエピソードを披露してくれた。
「2010年から三重県で取材を始め、林業家のところに潜入リサーチをしていました。そのときに林業研修を受けている人たちにも接しましたが、2年後に監督と一緒に取材に行ったときには辞めていた人が多くて、2人しか残っていませんでした。しかし、その翌年、映画の撮影で伐採シーンを撮るとき、彼らは林業家としてサポートに加わってくれたんです。本作に関わってくれた人の中にそんな人たちがいるということだけでもすごいことです。続けていくことでできるようになることがある。この映画のテーマにも近いと思います」(深津プロデューサー)

林業家である三浦さんは、この映画を観てどんな感想を抱いたのだろう?
「今の林業は機械もたくさん導入されていますが、私たちはご先祖様が育ててきた木を収穫し、それをお金に変えて食べさせていただいているという思いがあります。それが映画の中で描かれていることが一番よかったです」と、三浦さんは語った。

林業家はスギやヒノキなどを植えて育て、そこから収入を得る。しかし、植えてから50年以上たたないと、家を建てるのに使えるような太くてしっかりした木には育たないのだ。その間には下草刈りや枝打ちといった手入れが欠かせない。つまり、今、手入れをしている森から木を収穫できるのは数十年後の未来のことなのだ。「作中、登場人物から“今、切り倒した木は自分たちの祖先が植え、ていねいに間伐や枝打ちをしてきた木であり、今、植えた木を切り倒すのは自分たちの子孫。林業は100年先を見据えた未来を作る仕事”という言葉を聞いたときは涙が出ました。今までも林業を振興させようと、国や県、市町村がいろいろな苦労や工夫をしてきましたが、この映画にはそれらをすべて跳び超えるすごい力があると思います。今年は林業界にとってのルネッサンスです」と話す三浦さんの言葉には実感が込められていた。

トークセッションではそれぞれの熱い想いが伝わってきた。

なお、イベント終了後、矢口監督への単独インタビューを行なうことができたので、稿をあらためて紹介したい。

映画をきっかけに林業を盛り上げていきたい

トークセッションの後には、「働くことは生きること」をテーマに3人のゲストによるパネルディスカッションが行われた。パネラーは「株式会社シゴトヒト」代表取締役のナカムラケンタさん。地方の農村・漁村を含むすべての職場を訪ねて取材を行ない、そこで得た情報を活かした求人情報サイト「日本仕事百貨」を運営する。そして、地域再生プロデューサー、環境起業家として活動する東大史さん。2011年から2013年までは岡山県美作市で棚田再生や農業・林業振興活動に従事していた。もうひとり、「NPO法人 森のライフスタイル研究所」の代表理事所長・竹垣英信さん。森林整備や森林再生などのほか、森との接点の少ない人に対し、「正しさ」「楽しさ」をベースにしたプログラムを提供するなど、森への関心を高める活動を行なっている。

パネルディスカッションでは林業など農山村で仕事をするという働き方について語られたのだが、3人のパネラーはこの映画で描かれた林業について、どう観たのだろう?

ナカムラさんは「実は亡くなった叔父が津市で林業をしていたんです。試写を観て、林業の話をたくさん聞いておけばよかったと後悔しています。この映画は行動したくなる映画だと思いました」と感想を話した。東さんは地域再生のプロの立場から、「映画で印象的だったのはクライマックスの祭り。男たちがふんどしを締めて千年檜を切り倒すというシーンです。日本人なら祭りの一種として普通に受け止められますが、海外の方にとっては奇異に感じるかもしれません。でもあれこそが日本オリジナルの伝統であり文化です。この祭りや林業のシーンは10年後も色あせないでしょう。日本が海外に魅力を発信できる宝物だと思います。農山村にはこうした知られざる魅力がたくさん埋もれているので、僕自身、見つけ出していきたいです」と、語った。また、竹垣さんは「林業が堅苦しく語られているのではなく、エンタテインメントとして成り立ったことが嬉しいです。100人いたら100通りの楽しみ方、森への見方があるでしょうけれど、この映画をきっかけに1人でも多くの都会人が森と仲よくなってくれたらいいなと思いました」と、感想を述べた。

トークセッション、パネルディスカッションはそれぞれ約30分ずつと限られた時間ではあったが、あまり知られていない林業について、身近に感じることができた貴重なイベントだった。
この映画をきっかけに林業が盛り上がり、国産材について見直す機会になれば、と思う。

主催した「林業女子会@東京」ではこの映画の上映を機にさらに林業を盛り上げるべく、構想を膨らませている。林業体験イベントやスタディーツアーを企画しているほか、インターネットで広く資金を募るクラウドファンディングで「森の仕事リクルート情報サイト」の立ち上げをめざしている。

●取材協力:林業女子会@東京 
※facebookページ
https://www.facebook.com/naedoco0coro  
※ブログ    
http://naedocodoco.blogspot.jp/  
※関連団体もりめぐり
http://www.morimeguri.jp/

※「森の仕事リクルート情報サイトの作成」について
https://readyfor.jp/projects/marutaboya_morimeguri

矢口監督をはじめ、イベントのゲストを囲んで記念撮影。
会場に集まった多くは森林や林業に高い関心をもつ人たちだった
矢口監督をはじめ、イベントのゲストを囲んで記念撮影。 会場に集まった多くは森林や林業に高い関心をもつ人たちだった

2014年 05月14日 15時36分