日本独特の宿泊施設であるカプセルホテル

1988年(昭和63年)に建てられたビジネスインニューシティ。地下には、同社が運営するアニソンカフェが併設されている。外観からは奇抜なコンセプトをもったカプセルホテルだとは想像できない1988年(昭和63年)に建てられたビジネスインニューシティ。地下には、同社が運営するアニソンカフェが併設されている。外観からは奇抜なコンセプトをもったカプセルホテルだとは想像できない

主要な駅の周辺や繁華街で見かける「カプセルホテル」。一般的なビジネスホテルに比べて宿泊料が安く、比較的アクセスの良い場所にあるので、終電を逃してしまった場合の"寝床"として利用したことがある方も多いのではないだろうか。
約幅100cm×奥行き200cm×高さ100cm。"カプセル"のような寝室が上下2段に並ぶ設計は、外国人旅行客から日本独特の宿泊施設という珍しさから、近年注目を集めている。

これまで、主に男性サラリーマンが利用する宿泊施設というイメージの強かったカプセルホテルだが、最近では女性専用フロアを完備していたり、本格的なスパ施設やジムが併設されているなど、多彩なサービスを展開する店舗も登場している。

そんな中、アニメのキャラクターと一緒に添い寝ができる「痛カプ」、戦国武将、忍者、花魁といった外国人からみた日本のイメージが内装で使われた「和カプ」といった、ひときわ異彩なコンセプトのカプセルホテルが、横浜市福富町にある「ビジネスインニューシティ」である。今回、館内を支配人の藤井さんに案内してもらった。

アニメキャラクターのライブ会場?…通称"痛カプ"

2016年11月現在、全4種類あるコンセプトルームのうち、先駆けとなったのが2015年4月にはじめた「痛カプ」である。「痛」というのは、痛車(アニメやゲームのキャラクターのステッカーなどの装飾や塗装をした自動車)からきている。
壁一面にはアニメキャラクターが描かれ、ブラックライトの光を反射するミラーボールがきらびやかに部屋を照らしている。壁紙と寝具の変更だけであるのに、一般的なカプセルホテルのイメージとはまったく違う空間が広がっている。
なぜこのような部屋に改装したのだろうか?その理由を藤井さんはこう語る。
「もともと利用される客層の年齢層が比較的高く、もっと若い世代を取り込んでいきたいという目的がありました。そこで、若い社員が発案で、ビジネスインニューシティーの地下1階でアニソンカフェを始めることになったんです。この施設のオープンに併せて、宿泊施設とコラボレーションできれば…、というのが始まりでした」。
アニソンカフェというのは、アニメの主題歌や声優が歌う曲などに限定したカラオケカフェのことで、痛カプの内装に描かれているキャラクターは、このアニソンカフェのオリジナルキャラクターでもある。

さらに、個室のシーツ、抱きまくらには一つひとつ異なるアニメキャラクターが描かれており、空きがあれば指名ができるとのことだ。2次元といえども、不特定多数の宿泊者がいる部屋の中で、アニメキャラクターが描かれた抱きまくらと添い寝をするというのは実にユニークである。
「痛カプ」のオープンから1年が経ち、振り返ってみると、若い世代と同じくらい外国人観光客が増加していた。それまで全宿泊数のうち1%から10%にまで増加したという。
「ちょうど同じタイミングで、外国人観光客の急増で都内の宿泊施設が飽和状態になり、郊外のカプセルホテルにもその利用客が広がってきました。このチャンスを活かし、痛カプの次に取り掛かったのが、日本の文化をわかりやすく表現した"和カプ"なんです」。

もともと真っ白な壁紙と寝具だった部屋も、オリジナルキャラクターの「さつきちゃん」「かんなちゃん」の<BR />ライブ会場の雰囲気をイメージした部屋に生まれ変わったもともと真っ白な壁紙と寝具だった部屋も、オリジナルキャラクターの「さつきちゃん」「かんなちゃん」の
ライブ会場の雰囲気をイメージした部屋に生まれ変わった

日本の文化をわかりやすく表現した「和カプ」

"戦国武将"、"忍者"、"花魁"といった外国人がイメージしやすい日本の文化を表現したのが「和カプ」である。各部屋には畳が敷かれており、カプセルホテルでありながら"い草"の香りがただよっている。
戦国武将の部屋には、甲冑や城を中心とした写真で埋め尽くされており、カプセルの入口には家紋が入った暖簾がかけられている。特に姫路城の写真の前では、関西方面から国内を周りはじめ、姫路城を見てきた旅行客が改めて部屋の中で記念撮影をするなど盛り上がる様子も見られるという。
「忍者」の部屋は「和カプ」の中でも最も人気の高い部屋で、日本人がイメージする「忍者」ではなく、あくまで外国人からみた"Ninja"を表現している。ロッカーには手裏剣が刺さったように見えるマグネットや、部屋内に忍者のフィギュアが隠されているなど遊び心を加えた部屋である。ちなみに、館内にはこの忍者フィギュアが他に4体隠されており、すべて見つけた宿泊者には記念品をプレゼントする企画もおこなっている。
「花魁」の部屋は、和カプの中でもこれまで宿泊した観光客の意見を取り入れてた部屋である。外国人が考える日本の女性へのイメージとして、和服、大奥、芸者…など様々な回答が集まったが、最終的に昔の京都や浅草へタイムスリップしたような艶やかな世界観を表現した”花魁”にいきついたという。

痛カプ、和カプ…。こうした奇抜な部屋の企画に対して藤井さんはこう振り返る。
「前例のないことだったので試行錯誤の連続でした。建物の老朽化が進み、高いコストをかけて外装などを綺麗にしても、なかなか古さは拭えないと思いました。そこで、誰もがあっと驚くような印象の強いコンセプトの打ち出しが必要でした。宿泊料金についても他社と比べて差別化はしていないため、同じ宿泊料金ならば特別な体験をしたい、そうした外国人旅行客のニーズに答える一つの形だったのかもしれません。ここ最近では、過去に当館に宿泊いただいた方の口コミも広がっているようで、友達に薦められてやってきたというお客様もいらっしゃいます」。

(写真左上)道場をイメージしたという忍者の部屋。暖簾には梵字が刷られている<BR />(写真右上)他の部屋とは異なり、鮮やかな色合が特徴の花魁の部屋。舞妓をイメージしている<BR />(写真下)「和カプ」第一弾の戦国。家紋が刷られた暖簾の中でも「宮本武蔵」の家紋が人気なのだそう(写真左上)道場をイメージしたという忍者の部屋。暖簾には梵字が刷られている
(写真右上)他の部屋とは異なり、鮮やかな色合が特徴の花魁の部屋。舞妓をイメージしている
(写真下)「和カプ」第一弾の戦国。家紋が刷られた暖簾の中でも「宮本武蔵」の家紋が人気なのだそう

ただ泊まるだけの場所から新しいコミュニティの場として

観光庁が平成28年10月31日に発表した「宿泊旅行統計調査」(平成28年8月・第2次速報、平成28年9月・第1次速報)によると、平成28年8月の東京都の宿泊施設の客室稼働率を別宿泊施設タイプ別に、リゾートホテルが82.0%(全国平均比+9.4%)、ビジネスホテルが83.2%(全国平均比+3.4%)といずれも全国平均を上回っている。

都市部の宿泊施設の不足が続く中、将来的なカプセルホテル市場について藤井さんはこう語る。
「カプセルホテルの市場については、今後二極化が進んでいくのではないでしょうか。従来の形態で続ける施設と、より細分化されたニーズに対応した施設の2つです。いずれにせよ料金以外の"個性"の打ち出しが必要な時代になっていると感じています。"畳の感触"や"暖簾をくぐる"といった体験は、ちょっとしたことですが体験しようと思うと実は難しいことではないでしょうか」。

また昨今では、「民泊」という新しい宿泊形態も登場し、宿泊施設の選択肢は広がりを見せている。民泊の登場におけるカプセルホテルの立ち位置については、
「民泊も1棟貸しだと宿泊料金が一般的なビジネスホテル以上になり、割高になる場合もあります。少ない人数で泊まるのではあれば、価格だけでなく日本の文化を体験するという視点から、カプセルホテルを選んでいただけることを目指しています」と語る。

誕生から40年弱が経ったカプセルホテル…。今後、これまでの"宿泊する"という目的だけにとどまらず、"何を体験できるか"というレジャー要素が、宿泊先を選ぶ一つの判断基準になってくるのかもしれない。

■取材協力
ビジネスイン ニューシティー
http://city-s.co.jp/newcity/

5階の共有部分も「掛け軸」や「桜」、「行灯」をイメージした照明カバーなど、<BR />5階の共有部分も「掛け軸」や「桜」、「行灯」をイメージした照明カバーなど、
"わかりやすい日本の文化"が表現されている

2016年 12月06日 11時05分