「ベンツのバン」で暮らす?豊かな暮らしとは一体何?

ジョニーさんが活動拠点とするシェアオフィス「Midori.so」が入る、東京都千代田区のNagatacho GRID。ビルの一角にバンを駐車しているジョニーさんが活動拠点とするシェアオフィス「Midori.so」が入る、東京都千代田区のNagatacho GRID。ビルの一角にバンを駐車している

「豊かな暮らし」とは何だろう。笑顔いっぱいの家族に囲まれること。立派な家に住むこと。すごい車を所有すること。たくさんのお金を稼ぐこと。緑豊かな自然の中で暮らすこと。趣味を満喫する毎日を過ごすこと。そこに基準などなく、人それぞれ違っていて当然で、正しいも正しくないもない。

豊かさの象徴として考えられるひとつが「マイホーム」。家を所有することは、夢のひとつと言っても決して過言ではないはずだ。ただ、家を所有することで、何かあった時に気軽に移動できないのも事実。「隣に面倒な人が引越してきた」「近くにショッピングセンターができて、うるさいし道が渋滞するようになった」。限度があるものの、このようなことなら耐えることもできるだろう。

しかし、東日本大震災をはじめ、最近頻発する自然災害などにより家はもちろん、街が壊滅的な被害を受けたらどうなるだろう。万一の時、家など持っていない方が幸せなのではないか。賃貸住宅で十分?そんな時に耳にしたのが「バンライフ」。いわゆる車上生活だ。そんな生活をしているのが、株式会社レスモア代表取締役社長の渡鳥ジョニーさん。国会議事堂のある永田町で「都市型バンライフ」を送るジョニーさんに、現在の暮らしを始めた理由、現在の生活、さらにこれからの暮らしについて考えていることなどをお聞きした。

すべてを失って始めたバンライフ。充実したシェアサービスを活かした暮らしを実践

Nagatacho GRID外観。打ち合わせなどのアクセスも抜群Nagatacho GRID外観。打ち合わせなどのアクセスも抜群

ジョニーさんは、結婚後、熊本、札幌と移り住み、奥さんとお子さんと一緒に自由で豊かな暮らしを満喫。「これが理想の暮らしだ」と思っていたそう。しかし一転、離婚したことによって「すべてを失いました」と話す。

「離婚して、昨年ほぼ10年ぶりに東京に戻ってきました。高い家賃や生活コスト、満員電車。お金がないと何もできない、昔と何も変わっていない街だと感じました」
しかし一方で実感したこともあった。シェアサービスの充実だ。
「シェアオフィス、シェアハウス、カーシェアリング。フィットネスジムやコインランドリーなどもシェアサービスと考えていいでしょう。これだけシェアサービスが充実していれば、すべてを自前で用意する必要がないと考えるようになりました」

都会で育ったジョニーさんは、「お金を使って豊かに暮らす」都会ではなく、自然豊かな地方に憧れがあったという。
「新婚旅行で日本中を回った時に、机、椅子、電源、パソコン、インターネット、キッチンがあればどこでも生きていけると実感しました。実際に地方での暮らしに不自由などなかったし、むしろ豊かな生活を満喫していました。その暮らしがなくなり、東京での新しい暮らしを考えていた時に『シェア』というキーワードが出てきたのです」

東京で暮らすことになった時に考えたのが、家を持たない暮らし。小屋みたいな小さなスペースに車輪があれば十分暮らしていけると思ったそう。車内で立てるという条件で探して出会ったのが、相棒のベンツのウォークスルーバン。「拠点を構えて滞在し、バンで自由に移動できる『都市型バンライフ』を試してみたいと思ったのです」

現在ジョニーさんが拠点とするのが、千代田区にあるNagatacho GRID。シェアオフィスや会議室、イベントスペース、カフェなどが備わる複合施設だ。キッチンも24時間365日使うことができる。
「仮眠室もありますし、夜中もエアコンが切れません。シェアオフィス代を払っていますが、この価格でこの広い場所を自由に使え、面倒な掃除もしなくていい。打ち合わせもできますし、スーパーで買ってきた食材で自炊も可能。出かける際のアクセスも抜群です。風呂はありませんが、風呂に入るついでにジムに通っていますので一石二鳥。ジェットバスやサウナもあります。このような充実した施設を自前で用意するのは無理なこと。『ちょっと離れている』『すぐに使えない』など少しの不便に目をつむれば、得られるものの方がはるかに大きいと思います」

ジョニーさんの仕事はウェブのデザインや開発。全国を自由に行き来しながらでも仕事ができるという。「フリーランスで10年以上仕事をしていますが、引越しの多い家庭環境やネットさえあればできる仕事内容などにより、こういう働き方や暮らし方ができている部分があることも理解しています」

これからは「レスイズベター」の時代

神戸にある、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KITTO)前で。お金や場所に縛られない暮らしを実践中神戸にある、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KITTO)前で。お金や場所に縛られない暮らしを実践中

バンライフを送るジョニーさんに、これからの暮らしについてどう考えているか伺った。
「何をするか、whatの部分はみんな考えていると思うんです。私が大きな期待を寄せているのが、車の自動運転社会の到来。人類が有史以来経験したことがないような変化が起こると思います。完全自動運転が実現できれば、車での移動中に仕事をしたり本を読んだり時間を有意義に使うことができるでしょう。

そして、移動に関するコストや手間がどんどん下がれば下がるほど、問われるのがwhereの部分。暮らし方とか働き方とかが激変すると思います。さらには、それを誰と行うか。私も自分が好きな場所で好きな人と好きなことをするみたいな暮らしがしたいですし、多くの人がそんな暮らしができるようになれば幸せだと思います。気軽に行き来できるようなコミュニティ、拠点を日本全国、さらには海外にもつくりたいと考えています」

バンライフをしていると、当然家を持つよりも所有物は少なくなる。その結果、人に依存しなくてはならないことも増えた。
「物を持たないからこそ、新たなコミュニケーションが生まれることもあるのではないでしょうか。車を停めさせてもらった方にその土地の食材で料理をふるまったり、WebページをつくったりしてPRしたこともあります。物を持たないからこその関係、コミュニケーションを楽しんでいます。

20世紀は『もっともっと』というモアモアの時代でした。それが行き詰まっているのは誰の目にも明らか。これからは、より多くではなくより良く、ベターの時代になるでしょう。より良くを求めた時に、私はひとつの可能性としてレスにすることでベターが実現できるのではないかと考えています。一言で言えば『レスイズベター』ではないでしょうか」

食べることを大切にした生き方。食事を中心にした暮らしをしたい

特に趣味はないと話すジョニーさんだが、今の楽しみは料理をつくること。得意なのはパスタなどのイタリアンという。
「私の中でずっとぶれないのは、食べることはとても大切なことで、食事を中心にした暮らしをしたいということ。究極の幸せは、美味しいご飯とお酒を仲間と囲んで食べたい。それだけです。今後もどうしたら実現できるか、より豊かになれるかを念頭においてバンライフをしていきたいと考えています」

今後チャレンジしたいのが、地方の農家を訪ねてバンを停めさせてもらい、野菜などをいただきながらお礼に美味しいご飯をふるまいみんなで食事をすること。
「料理以外にも、農家さんのPRなどもしたいと考えています。食べ物は顔の見える関係で手に入れることが食の豊かさだと思うのです。そういう農家さんとのつながりを無数に増やしたい。農家さんからも再訪を喜んでいただけるような関係をつくりたいですね。大きな経済ではなく、コミュニティができてその中で生活できるような暮らしをしてみたい。そんな様々なコミュニティがネットワークでつながっていく。そのつながりの中で物が動くなど、経済活動ができたらいいなと思います」

「食を大切にしたい」と話すジョニーさん。今後は旅する中で出会った農家さんの野菜をその場で調理して宴をしたいそう「食を大切にしたい」と話すジョニーさん。今後は旅する中で出会った農家さんの野菜をその場で調理して宴をしたいそう

何かに依存して惰性で生きていくのが怖い

都市型バンライフを送る渡鳥ジョニーさん。「定住するためでなく、移動するための拠点をつくりたいと考えています。拠点をシェアしたり、交換したり。東京と北海道と沖縄とアメリカとか色々な場所に友人が拠点をつくり、そこをみんなで自由に行き来できるようになったら面白いですね」都市型バンライフを送る渡鳥ジョニーさん。「定住するためでなく、移動するための拠点をつくりたいと考えています。拠点をシェアしたり、交換したり。東京と北海道と沖縄とアメリカとか色々な場所に友人が拠点をつくり、そこをみんなで自由に行き来できるようになったら面白いですね」

ジョニーさんの暮らしの根底にあるのが「恐怖」。自由でいられなくなることに恐怖を感じるのだという。
「家を建てることを拒否し続けているのは、自分の30年、40年先の未来などまったくわからないから。2011年の東日本大震災での原発事故を機に、安全神話が崩壊し、家を構えることによって動きが鈍くなることにものすごい怖さを感じました。たとえ家を建てなくても多くの物に囲まれているだけで動きが鈍くなる。それよりも本当に必要な物だけをスーツケースに詰めてパッと動ける。そんな暮らしの方がいいのではないかというのは、東日本大震災以降常々思っていました。

今の日本は人口減少が始まっているのに、タイタニック号に乗っているみたいにみんながパーティを楽しんでいる。いずれ急激な経済の縮小が訪れるはずで、何かに依存して惰性で社会が動いていくのはとても危険だと思うのです。私の暮らしは貧乏になる準備といいますか、違うフェーズの社会に変わる前に準備をしておこうという、ある種の避難訓練だと考えています」

必要な物、好きなモノに囲まれていたいと、好みのシャツ1枚を着まわすのではなく、同じものを15枚ほど持っている。選ぶことすら面倒で、好きなモノを絞っていると話すジョニーさん。
「人に押し付けることはしませんが、そういう生活もありなのではないかと思います。40歳手前でバン暮らしと言ったらみじめな人と思われるので、ベンツ、永田町、そして清潔な格好には常に気を配っています」と笑う。

「都会のバン暮らし」。正直なところ、どんな汗くさい人が出てくるのだろうと思ったが、それはまったくの見当違いだった。ワイルドな人かと思っていたら、やさしい口調で話す物腰穏やかな人だったことにも驚いた。
「今は独り身ですが、もし再婚するようなことになったらどうなるかわかりません」と苦笑するジョニーさん。たとえそれまでの間でも、暮らしのひとつの可能性としてどんなバンライフを見せてくれるのか、楽しみにしたいと思う。

■渡鳥ジョニーさんのホームページ
■渡鳥ジョニーさんのブログ/マイホームはベンツ!家でも車でもない「バンLDK」で旅暮らし
■Nagatacho GRID

2018年 11月17日 11時00分