大規模団地の高齢化と空き室問題

お話を聞かせてくださった、大阪府住宅供給公社 総務企画部の小原旭登主事と、やまわけキッチンの仕掛け人で、NPO法人SEINの代表理事でもある湯川まゆみさんお話を聞かせてくださった、大阪府住宅供給公社 総務企画部の小原旭登主事と、やまわけキッチンの仕掛け人で、NPO法人SEINの代表理事でもある湯川まゆみさん

大阪府の南部中央にある泉北地方の丘陵地帯を開拓し、1971(昭和46)年に入居が始まった茶山台団地。大阪府住宅供給公社が管理する泉北ニュータウンの団地としては第一号で、最大規模でもあるという。入居開始当初は990戸。2戸を1戸に改修するなどして管理戸数は930戸に減少したが、空き室率は14.52%で、135戸ある。築年数は48年近く、2019年1月時点で、65歳以上の契約名義人が368件(46%)と、住人の高齢化も課題となっている。
空き室活用と、住人のコミュニティづくりに役立てようと、NPO法人SEINによる「やまわけキッチン」の運営が開始されたと聞き、団地を管理する大阪府住宅供給公社 総務企画部の小原旭登主事と、やまわけキッチンの仕掛け人で、NPO法人SEINの代表理事でもある湯川まゆみさんにお話を伺ってきた。

コミュニティの再生に注力

茶山台団地は大阪府住宅供給公社にとって一番大きな団地群であり、入居率と高齢化率を改善するための、リーディングプロジェクト団地に位置づけられている。今、特に注力しているのは、コミュニティの再生だ。
「昔の団地は自治会活動も活発で、お祭りや餅つき大会なども、住民主体で行われていました。でも、住民が高齢化し、イベント開催にかかる負担は増加しています。また、近隣関係が希薄化しており、若い人の参加率も低く、自治会活動は衰退しています。往時は活発に利用されていた集会所も、現在はほとんど使われなくなっていたので、なんとか活用しようと考えました」と、小原さん。
そんな中で生まれたのが、住民が本を持ち寄ってつくられた図書館、「茶山台としょかん」だ。当初は誰も集まらなかったものの、次第に学校帰りの子どもが集まるようになった。地域活性化について話し合う「オトナ会議」も開かれるようになり、コミュニティの活性化に一役を買ったが、外部委託していた会社の担当社員が、諸事情あって、団地から離れることになった。そこで、茶山台としょかんを引き続き運営するとともに、空き室を使った新たな取組みのできる団体を公募したところ、NPO法人SEINが手を挙げたのだという。

学校帰りの子供たちでにぎわう茶山台としょかん学校帰りの子供たちでにぎわう茶山台としょかん

住民の不安から生まれたやまわけキッチン

2019年1月に、公社とNPO法人SEINと武庫川女子大学が茶山台団地の入居者を対象に実施した「暮らしのアンケート」結果では、「買い物支援拠点」や「食堂」を設立してほしいという声がみられた。また、茶山台としょかんのオトナ会議などで住民の不安を聞き取ったところ、「食事をする店がない」「買い物したくても、商業地域まで遠い」という、高齢者たちのリアルな悩みが浮かび上がってきたという。単身世帯が多く、一人で食べるのが寂しいとの意見も少なくなかったことから、空き室を使った食堂の発想が生まれたのだ。
やまわけキッチンのスタッフは近隣の住人ばかりで、総勢5人。2人はほぼ毎日常駐で、人手が足りないときは、他のスタッフも働いている。今では茶山台団地の住人になった湯川さんが、管理栄養士の意見をとりいれながら、毎日のメニューを決定。定食を提供するほか、持ち帰りの総菜や野菜の販売もしている。
「煮物などは、大きな鍋でたくさん作った方がおいしいけれど、ご家庭で消費するのは大変です。早く食べないと傷みが心配ですが、毎日食べていると、飽きてしまいます。やまわけキッチンは、そうした料理を山分けしようというのがコンセプト。だからメニューは煮物などの家庭料理が中心です。また、野菜をたくさん摂取していただきたいので、堺市南区で作られた野菜も使用しています。コスト面を考えても、100%地元産にするのは無理ですが、旬のものは地元で収穫されたものを使うよう、心掛けています」

空き室を住人と一緒にDIY

お店の改装は、湯川さんと、茶山台としょかんとしょ係の白石さんがおおまかに考え、プロに設計図を仕上げてもらった。茶山台としょかんの「としょだより」で告知したり、掲示板に貼りだしたりして、ボランティアを公募。2018年の7月31日から8月30日の間に、のべ181人の住人が集まって、DIYを行った。高齢者も参加し、中には毎回参加する熱心な住人もいたという。
「DIY経験がなく、電動のこぎりとドライバーの使い方もわからずに右往左往している私たちスタッフの姿を見て、ボランティアのみなさんも、『何日かかるねん』と、心配になったようです。道具を持ち込んで手伝ってくださる方もおられ、熱心に協力していただきました」と湯川さん。
費用は住まいとコミュニティづくりを支援する「ハウジングアンドコミュニティ財団」の助成金とクラウドファンディング、住人からの寄付で捻出。足りない額はNPO法人SEINが拠出したが、まだ回収できていない状態だ。湯川さんは、黒字ベースになるには、息の長い事業になりそうだと考えている。
「料金を上げるわけにはいかないので、コストカットの工夫を考えています。ずっと家にいるのは気が詰まるからと、気晴らしの感覚でご来店くださる住人などにお手伝いいただいて、人件費を浮かせないかとも考えています。DIYは、住人のみなさんと一体感を持って行いましたから、お店の運営も、お客さんとスタッフという立場ではなく、みなさんと一緒に頑張っていけないかと考えています」

店の内装は、のべ181人の住人が集まって、DIYを行った店の内装は、のべ181人の住人が集まって、DIYを行った

地域のコミュニケーションの場、見守りの場になりたい

やまわけキッチンの来店者は毎日20~30人程度。相席になるような座席配置のため、客同士に自然なコミュニケーションが生まれている。営業時間が昼間で、幼稚園も近いので、客層は高齢者や子育て世代が多い。同世代の客が情報交換をするのは当然のこと、高齢者が子どもに話しかけたり、子どもが高齢者に甘えて膝に乗ったりする風景も珍しくないそうだ。腰を傷めた住人が「タクシーを使って商業施設に行くより、ずっといい」と、やまわけキッチンで昼食をとり、朝と夜の惣菜を買って帰ることもある。家族だけでは消費しきれないので「山分けといて」と、もらったお土産を持ち込まれることもあるのだとか。
「1週間に1~2度来店くださる方がいらっしゃらなくなると、再度来店くださったときに、『具合が悪かったんですか?』と、体調を知る機会になりますから、地域の見守りにもつながっているかもしれません。子どもさんが小さいときは学校というコミュニティがありますが、年とともになくなります。そんな親御さん同士が、ここで10年ぶりに再会することも」と、コミュニティの再生は達成されつつあるようだ。あとは採算がとれるかどうかが課題だ。
フードドライブなど、廃棄寸前の食材を持ち寄ってもらい、利用する取り組みも考えているが、料理人のスキルが問われるので、ハードルの高さも感じている。
それでも湯川さんは、これからも地域のコミュニケーションを強めていきたいと考えている。「体調の悪い人のために、配食ができたらなとも思っています。配達を住人に手伝ってもらえば、運動の機会を提供できるかもしれません」と、住人を巻き込んで展開するつもりだそうだ。

大阪府はもちろん、他の自治体からの問合せも増えているという、やまわけキッチン。今後、「地域コミュニティの中心施設」として、同じような取り組みが生まれていくかもしれない。

子連れのお母さんも、ゆっくりと食事ができる子連れのお母さんも、ゆっくりと食事ができる

2019年 03月19日 11時05分