「瀬戸市はこんなに面白いまちなのに、なぜ街ランキングは下位なのか?」

「住みたい街のランキングで、お隣の長久手市は愛知県で1位なのに、瀬戸市は最下位でショックを受けましたね」と話すのは、瀬戸市都市計画課の前嶋依理子さん。
前回の記事で、瀬戸市は1000年続く窯業のまちであり、食器類を「せともの」と呼ぶほどやきもの文化をリードしてきた地とお伝えした。
「確かに昭和30~40年代の地図を見ると、写真館がいくつもあって裕福な暮らしぶりが分かりますし、寝ずに窯の番をする職人のために夜中12時まで開くうどん屋さんも多かったそうです」

ところが窯業の変化により、まちの活気も次第に失われてきた。戦火を免れた中心市街地は長屋や細い路地が多く、建て替えの難しさから「空き家」や「老朽化」が目立ってきたという。
「でも北海道出身の私は、瀬戸のアーケード商店街や路地のたたずまいを初めて目にした時、『なんて面白いまちなんだろう』とワクワクしたんです。だからこそ空き家を単に取り壊すのではなく、この風情は後世に残していきたいと思いました」

そこで今回はやきもののまち瀬戸市“にしか”できない「空き家対策」についてクローズアップ。キーマンである前嶋さんと、移住を決めたツクリテの仲間たちに話を聞いてきた。

▲上/坂道と路地が多い瀬戸のまち。銀座通り商店街は昭和レトロな風情が素敵、でも空き店舗も目立つ。下/同商店街とその周辺にはやきもの小売店が多い。凝った建築を生かした「ギャラリーもゆ」は、若手作家のおしゃれな器がずらり▲上/坂道と路地が多い瀬戸のまち。銀座通り商店街は昭和レトロな風情が素敵、でも空き店舗も目立つ。下/同商店街とその周辺にはやきもの小売店が多い。凝った建築を生かした「ギャラリーもゆ」は、若手作家のおしゃれな器がずらり

「せとで住もまいプロジェクト」の空き家情報バンクは9ヶ月で11件成約!

瀬戸市の空き家率は12.6%(2012年)であり、隣接市よりも若干多いという。
「とくに『尾張瀬戸』駅近くの中心市街地で空き家が増えています。それは道幅や建ぺい率の関係で建て替えが難しいことに加え、職人向けの長屋が多いことが理由のひとつ。永らく住んで長屋の1室を譲り受けた方がいるなど、土地と建物の権利関係が複雑で、所有者にたどりつけないケースも多いのです」

そこで2015年度に始動した空き家・移住対策「せとで住もまいプロジェクト」では、「中心市街地の空き家や空き店舗の活用」と「ツクリテの定着」を大きな柱にした。「ツクリテ」は、やきものをはじめとするモノづくりと、カフェなどの飲食に関わる人たちを定義している。
「空き店舗や空き工房を活用してツクリテに根付いてもらい、まちににぎわいと活力を生み出したい。また中心市街地には飲食店が少ないので、人が滞在できるカフェなども増えてほしいと考えています」

具体策として「せとで住もまい」のサイトをつくり「空き家情報バンク」を開設。2016年3月~12月の9ヶ月間で、22件のうち11件が成約に結びついたという。
「ガス窯を備えた工場兼住宅を掲載したところ、窯を利用したい作家さん同士でシェアすることが決まり、思わぬ活用法となりました。1人1万6,000円/月で窯や工房を使えるとあって、想定以上の希望者が集まったそうです」

「せとで住もまいプロジェクトが呼び水となったのか、他の課の企画にも『ツクリテ』というキーワードが入るようになりました」。カタカナで表した「ツクリテ」は、柔らかく親しみやすい表現で若手をひきつけるイメージ戦略がキラリと光る。

 
上/瀬戸市民と移住検討者向けに「くらしガイドブック」を発行。「各課からの情報を集約したら、『こんな面白い取り組みを行っているんだ』と職員でも知らない情報がありました」とガイドブックを担当した青山恭子さん(左)と前嶋さん(右)。下/サイトも役所らしからぬ!?ポップなデザインが目をひく
上/瀬戸市民と移住検討者向けに「くらしガイドブック」を発行。「各課からの情報を集約したら、『こんな面白い取り組みを行っているんだ』と職員でも知らない情報がありました」とガイドブックを担当した青山恭子さん(左)と前嶋さん(右)。下/サイトも役所らしからぬ!?ポップなデザインが目をひく

【ツクリテ移住1】商店街の空き店舗にガラス工房。まちづくりにも参加!

ここで瀬戸市に移住したツクリテの声を紹介しよう。一人目は「ナカイガラス制作所」の中井亜矢さん。愛知県出身で、東京、青森を経て、7年前に瀬戸市へやって来た。

「『瀬戸市新世紀工芸館』で2年間学んだ後、知り合いの増えた瀬戸市で物件を探しました。今の店舗・工房兼住居は、イベントの多い銀座通り商店街にありながら、7DK・駐車場代込みで約5万円という家賃の安さにひかれました(笑)。改修費の一部として、瀬戸市の空き店舗対策の補助金も活用しています」

家賃以外にも、瀬戸市にはツクリテにとって「立地」「原材料調達」のメリットもあるそうだ。
「東京・大阪の間に位置するため交通の便がよく、作品発表の場が広がります。また、瀬戸には材料問屋さんが多く、専門的な材料や道具を即日購入できる点に驚きました!」

実は瀬戸市は「瀬戸市新世紀工芸館」などの研修施設でツクリテ育成に力を入れているが、作家の多くは研修後、市外へ移住してしまうという。「ガラス作家の場合、ガラス加工機をレンタルできる富山や静岡に工房を持つ人が多いです。そこで新世紀工芸館に、若手作家へ設備を開放してくれるよう、研修中から交渉を続けました」と中井さん。さらに「せとで住もまいプロジェクト」の検討会議にも住民代表として参加し、ツクリテ視点の素直な声を伝えたそうだ。

「若い世代の店主に『本気で商売をする場所』として瀬戸の商店街を選んでほしいです。本気で頑張る個店の集合体になれば、ショッピングモールなどの大型店舗に負けないと思います」

▲キルンワークのガラス作家である中井亜矢さん。現在は夫とネコと暮らしている。結婚式は商店街総出で盛り上げてくれ、お囃子が響く中、人力車で神社へ向かう「花嫁道中」を行ったそう▲キルンワークのガラス作家である中井亜矢さん。現在は夫とネコと暮らしている。結婚式は商店街総出で盛り上げてくれ、お囃子が響く中、人力車で神社へ向かう「花嫁道中」を行ったそう

【ツクリテ移住2】13人の作家が集まり、シェアアトリエとカフェを制作中!

つづいてのツクリテは、「タネリ スタジオ ビルヂング」運営代表で、画家の設楽陸さん。3階建ての空き店舗(もとは電器店)をシェアアトリエ&カフェに改修し、6月のカフェオープンを目指している。

「瀬戸市は愛知県立芸術大学が近く、若手作家が集まりやすい環境です。僕は個人の制作活動に閉塞感を覚えていたとき、この物件を見てシェアアトリエにしたら面白いと思いました。中はわりとボロボロでしたが(笑)」

そこから噂を聞きつけた仲間が集まり、画家・彫刻家・漫画家・写真家13名によるシェアアトリエ「タネリ スタジオ」づくりが始まった。2階・3階は各々がアトリエとして利用し、明確に区分けをせず、大きな作品を制作するときは譲り合う。そして1階にはカフェ&ギャラリーを開き、地域の人が立ち寄れる拠点にする予定だ。
「仲間だけが出入りする閉鎖的なアトリエでは、ご近所の方に活動内容を理解してもらえません。そこでカフェ&ギャラリーで1杯のコーヒーをきっかけに、僕たちの作品を見てもらえればと思ったのです」

新たな取り組みのため難題は多いが、前嶋さんをはじめ瀬戸市のサポートが推進力になっている。「大家さんとの橋渡しや助成金、駐車場、工事の進捗まで何でも相談でき、前嶋さんがいるから大丈夫!と心強く思えます」と設楽さんは話す。

「ご近所の方に『カフェはまだか』と催促されますが、セルフビルドなので早く進まなくて」と笑う設楽さん。「ニューヨークのソーホーなど、芸術家が創作活動をする街がその後おしゃれなエリアとして注目される例が各地にあるんですよ」という言葉通り、ツクリテを鍵にした空き家対策で新たな瀬戸の魅力が生まれていくことを楽しみにしたい。

せとで住もまいプロジェクト
https://seto-life.jp/

▲左/「タネリスタジオ」は深川神社の参道の延長にある好立地。神社の春のお祭りではスタジオと前嶋さんらの有志チームが、この場所で出店する。右/スタジオ内は内装工事の真っ最中。アトリエ全体を作品ととらえ、丁寧につくり上げている最中だ▲左/「タネリスタジオ」は深川神社の参道の延長にある好立地。神社の春のお祭りではスタジオと前嶋さんらの有志チームが、この場所で出店する。右/スタジオ内は内装工事の真っ最中。アトリエ全体を作品ととらえ、丁寧につくり上げている最中だ

2017年 04月24日 11時05分