空き店舗を利用。みんなで持ち寄って食べる、作って食べるを開始

自分自身料理が得意でも、上手でもないと齊藤さん。場を仕切ろうとしないことがうまくいっているコツなのかもしれない自分自身料理が得意でも、上手でもないと齊藤さん。場を仕切ろうとしないことがうまくいっているコツなのかもしれない

発端は子どもと2人で囲む食卓の閉塞感だったと語るのは、2013年7月以降、阿佐谷でおたがいさま食堂なる集まりを主催する齊藤志野歩さん。「家族の食卓って規模が小さいなと思ったのです。でも、自分がもてなす側になってのパーティーは気を使って疲れるし、そもそも飲み会の幹事もできないタイプ。それなら、街の人がそれぞれに楽しめる、もちろん、自分も楽しめる仕組みを作れないだろうか。そこで思いついたのがみんなで作って、みんなで食べるというもの。多様な人々が緩やかに繋がりながら囲む食卓、私はそれをまち食と名づけています」。

思いついたことをそこかしこで言って歩くうちに、商店街の人から空き店舗を使ってみれば、貸してあげるよという声がかかる。そこで企画は齊藤さんがやり、商店街が活性化事業として補助金を申請、食堂を始めることになった。

とはいえ、貸してもらえた店舗が事務所仕様で調理ができないため、商店街で買ってきたものを持ち寄って食べるというスタイルに。「7月から9月までの間、週3日の期間限定で開催。バッグを持って商店街を買い歩き、帰ってきて一緒に食べるという、阿佐谷もちより食堂を開催することになりました。でも、やはり、みんなで作って食べるをやりたいと思っていたところに、同じ川端通り商店街の中のキッチンスタジオが場所を貸してくれることになり、同じ時期におたがいさま食堂もスタートしました」。

作りたい人が作る、なるようになるという緩さが人を惹きつける

移動式の作業台の上に材料が振り分けられ、集まった人たちがこれ、やりましょうかと声をかけながら作業が進んでいく移動式の作業台の上に材料が振り分けられ、集まった人たちがこれ、やりましょうかと声をかけながら作業が進んでいく

12人の参加者からスタート、当初は4回限定のイベントとして開始したおたがいさま食堂だが、1カ月のお休み期間を経て続行することに。「2013年9月に終了、その時に30人くらいに参加者が増え、賑わうようにはなってはいたものの、続けるかどうかは迷っていました。が、参加者から『次はいつですか?』と質問され、また、他のお稽古事には関心を示さない子どもがここにだけは来たがるとも聞いて、11月に5回目を開催することになりました」。

たまたま、もちより食堂として借りた空き店舗を借りている人が出て、それがネパール料理店だったことから、5回目はネパール料理をみんなで作り、食べたという。以降、現在は基本、毎月1回開催している。内容としては、ひと家族ではできそうにない、大きな魚をまるまる一匹を捌く、パクチーを山盛り食べる、餃子やおにぎりを作るなど。何を作っても、毎回、発見があるという。

「といっても、頑張って続けようとは思ってはおらず、なるようになるという感じ。こういうイベントをやっていると参加者でコミュニティを作ろう、人を囲い込もうと考えることも多いようですが、そういう関心もなし。実際のイベントでも、特にルールはなく、その場、その時にいる人でやりたい人がやるという感じですね」。

予定調和ではなく、予定不調和。それが場を楽しくする

子どもの参加者も多く、皆それぞれにできることに挑戦。どの子も楽しそうだった子どもの参加者も多く、皆それぞれにできることに挑戦。どの子も楽しそうだった

だが、その緩さが魅力なのだ。「何を作るかは決めてあるものの、レシピが用意されているわけではなく、その場でグーグル先生に聞いたり、意見を言い合ったりしながら作っていくので、行き当たりばったり感は半端ありません。言ってみれば予定不調和。でも、それが楽しい。実は杉並区では行政も若い男女を対象にみんなで作って食べる会をやっているのですが、行政がやると暗黙のうちに役割分担があって、サボってもいいよとは言いにくい。でも、そうした予定調和、つまり、あらかじめなんでもプログラムされている作業が楽しいかといえば、微妙かもしれません」。

おたがいさま食堂は上手に料理をする場でもなく、料理を習う場でもない。参加する一人ひとりが年代、性別を超えてフラットに、それぞれが作って食べるという最終目標に向かってできることをするというだけの場である。

しかし、だから学ぶことも多いのだろうと思う。たとえば、家庭内で子どもがお手伝いをして失敗をしたら、大体の場合、ダメでしょと怒られるだろう。だが、ここでは「うわー、失敗しちゃったね」でおしまいだ。それなら、もう一度やってみよう、二度と餃子にはチョコレートは入れないようにしようと思うだろうし、自分のテキトーな作業がみんなにまずい餃子を食べさせる結果につながるということを知り、責任というものを考える契機にもなるだろう。

また、見知らぬ人が集まれば、味噌汁の味付けが家庭ごとに違うことを嫌でも知ることになり、共同で作るとなれば、他人の家庭の味を受け入れ、あれ、おいしいと発見することもありえる。人は無意識のうちに、慣れ親しんだ味や考え方を他人に押し付けがちだが、世の中にはウチの味以外もあるということを知り、受け入れるのは案外に楽しく、大事なことなんだろうとも思う。

七夕はっと食堂で料理が作られていく過程を体験

これがはっと。元々は家庭で作れられていたそうだが、作る人が少なくなったところに丸光製麺が商品化、地元では人気を博しているというこれがはっと。元々は家庭で作れられていたそうだが、作る人が少なくなったところに丸光製麺が商品化、地元では人気を博しているという

そんな話を聞いた後、8月10日に行われた阿佐谷おたがいさま食堂とはっとレシピ企画部がコラボした七夕はっと食堂に参加した。「はっと」とは首都圏でいうところのすいとんのような食品。小麦粉と水を練って伸ばしたものを四角くちぎり、汁などに入れて食べる。同種の食べ物は日本全国に分布するが、その内「はっと」は東北の郷土料理。はっとレシピ企画部は気仙沼で唯一の製麺会社、丸光製麺を「はっと」を広めることで応援しようという団体である。

東北応援のミニトーク、増田太郎さんのヴァイオリンライブに続いて開催されたはっと食堂に集まったのは50人以上。子どもから30代の親子連れ、40代、50代まで幅広い年代で、いつもより人数は多めなのだとか。「いつもは初めての人10人くらいに、たまに来る人、頻繁に来る人などで総勢40人くらいというケースが多いですね」。こうしたイベントだと、常連が顔を効かせて、それ以外が小さくなっている場も少なくないが、そうした雰囲気はなく、置かれた5台の調理台の周りになんとなく、人が分散する。

壁に貼られたレシピは5種類。小豆に茹でたはっとを乗せて冷やすだけという簡単なものから、カレーやすまし汁を作って煮る、豚肉やナスを出汁で煮てはっとと盛り合わせるなど手間、時間のかかりそうな品まであり、定められた時間内に揃うのかと不安も。だが、面白いことに、手の空いた人たちは貼られたレシピ以外の品を余った食材で作り始めたり、他を手伝ったりと好き勝手かつ自主的に作業。始まった当初は混乱の極みのように見えた人の動きが、少しずつまとまっていく。そうして約2時間。予定よりも多い品数が揃った。

お客様では味わえない、参加する喜び

この日は東北の食材が多く集まり、いつもより豪華な食卓になったそうで、誰もが本当にいい笑顔で食べていたこの日は東北の食材が多く集まり、いつもより豪華な食卓になったそうで、誰もが本当にいい笑顔で食べていた

東北の酒造会社が提供してくださったというビールに日本酒も加わり、一同でテーブルを囲み、宴がスタート。いつもより人数が多いため、どこか屋台のイベントのようにも見えるが、あちこちでグループができ、笑いが弾け、人が移動する。実に楽しそうな光景である。飲食店でのそれと違うのは、これ、おいしいよと作った人が他の人に料理を勧めているところだ。

「考えてみると、飲食店で食べるならお金を出すだけで労力は不要。でも、ここではお金を出した上、労力も出す。考えてみると損しているのかもしれませんが、それが楽しいという人が多いのだから不思議。ここまでトラブルなく続いてきたことは、自分でも奇跡じゃないかと思います」。

お客様でいることは楽だし、文句も言える。だが、お客様でいる限り、思考錯誤したり、遊んだりはできない。決められた線路の上を決まったところまで連れて行かれるだけである。だが、それではつまらないと思う人がいるのだろう、自分の手で、体で何か作ったり、他人と一緒に作業したりしたい。そういう人がここに参加することで、お客様じゃない自分を実感、楽しんでいるのだろうと思う。

ところで、おたがいさま食堂開始から1年。齊藤さんの生活は変わったのだろうか。「街を歩いていて知っている顔に遭遇することが増え、緩く知っている人が増えている感じがあります。また、同じマンション内にも参加してくれる人がいるのですが、そうした人ができたおかげでマンション内の人間関係の風通しも良くなった気がします」。子どもと2人の食卓の閉塞感を暮らし方を変えることで変えようという当初の意図は実現しつつあるようだ。


■記事中に登場した情報の詳細はこちらから。
阿佐谷もちより食堂  https://www.facebook.com/asagaya.mochiyori
はっとレシピ企画部  https://www.facebook.com/hattorecipe
丸光製麺        http://marumitsu-seimen.com/

2014年 08月26日 11時18分