団地にかつての賑わいや住民同士のつながりを

茶畑を開発してできた茶山台団地。土地の起伏に沿って建つ住棟の間に木々が広がる茶畑を開発してできた茶山台団地。土地の起伏に沿って建つ住棟の間に木々が広がる

茶山台団地は、1967年にまちびらきをした大阪府堺市の泉北ニュータウンにある。緑豊かな住環境を有するこのまちは、高度経済成長期の住宅需要に応えるため、計画市街地として整備され発展してきた。一方、まちびらきから40年を超え、少子高齢化や取り巻く環境の変化などから様々な問題が表面化している。

茶山台団地を管理する大阪府住宅供給公社は、かつての賑わいを取り戻したり、住民同士のつながりを育んでいきたいとコミュニティ支援に力を入れている。
団地のシンボルである「集会所」をもっと気軽に立ち寄ってもらえる場所にしたいと、住民らの“持ち寄り本”からつくる『茶山台としょかん』が生まれ、新しい役割を担っている。
その取り組みとは一体どんなものなのか?

実際に団地に移り住み、「茶山台としょかん」の図書係としてコミュニティ支援に関わるコピーライターの東 善仁(ひがし よしひと)さんにお話を伺ってきた。

「住んでみたい」「住み続けたい」住環境を提供するために

編集者、ライター、ファシリテーターと多彩な顔を持つ 東 善仁さん。2015年11月から茶山台団地在住編集者、ライター、ファシリテーターと多彩な顔を持つ 東 善仁さん。2015年11月から茶山台団地在住

大阪府住宅供給公社は、昨年の2015年11月で創立50周年を迎えた。設立当初は、府内の住宅不足の解消が目的だったが、その役割を果たし、“量より質”が求められる時代となった。今のニーズに応じた住環境を提供するためにはどうすればいいのか?府公社職員全員で考えようと話が持ち上がったという。

東さんは、企業ブランディングを進める株式会社パラドックス所属のコピーライター。
「そもそもは府公社職員の皆さんと共に、これからの50年を考えるコンセプトワークでファシリテーター役をさせてもらったことがきっかけなんですよ」と、振り返る。

そして、会議を重ねることで生まれたのが、「時代に応じた住まいと住環境 これまでの50年を土台に、プラスワンの価値をどんどん追加して公社を発展させていく」という50+1プロジェクトである。

担当部署や立場、年齢を超えてフラットに意見交換することで“新しい価値を生み出していこう”という気運が高まっていったという。

「意見交換の場でよく耳にしたのが、『そこに暮らす住民と同じ目線に立つため、公社側も実際に団地に入居しては』といった各方面からの声。そうこう話しているうちに、『それなら、僕が住んでみましょうか』と口にしたところ話が進んだんです」(東さん)

公社から正式に「団地滞在生活型コミュニティ支援プロジェクト」の依頼を受け、東さんは昨年11月に大阪市内から茶山台団地に移り住む。
こうして、1年間の団地暮らしを通じた“つながりの場づくり”が始まった。

集会所の一角にみんなでつくる図書館を

団地コミュニティを活性化するのに欠かせないのは、集会所の活用である。
しかし、茶山台団地19棟・集会所の利用は、役員の会議や卓球、茶道部などの一部の限られた用途で、長らく住んでいても『集会所に一度も入ったことがない』人が多いという現状があった。

「小さな子どもからお年寄りまで年齢を問わず、誰もが気軽に来てもらえるものは何だろうと考えました。そこで、集会所の一角にみんなの持ち寄り本でつくる『茶山台としょかん』を立ち上げたんです」

図書館づくりは、本箱をつくることから始まった。住民参加型をめざすことから、木工教室を開いて本箱をつくり、そこに置いてもいい本を一冊寄贈してもらうイベントを開いた。

茶山台としょかんには、2015年12月のオープンから5ヶ月間ですでに200冊以上もの本が集まっている。手作りの本箱には、絵本や地元・堺の郷土本、歴史小説、マンガもそろっており、見るのも楽しいラインナップだ。

『いつかまた読むかもしれない本は、なかなか手放せないし、捨てられない』だけど、『ここで役立ててもらえるのなら』と、よろこんで本を持ってきてくれる人が多いのだと言う。ちなみに、茶山台としょかんでは本の貸し出しを行っていないため、小説などじっくり読みたいと思われる本は、『持ち寄り本との物々交換』をできる機会を設けている。

「個人的にうれしかったのは、山口百恵さんのレコードが加わったことなんですよ(笑)。もう聴けるプレイヤーも無いし…と、住人さんが持ってこられたもので。すると、今度は別のところからレコードプレイヤーの寄贈があって。おかげさまで“昭和歌謡曲の鑑賞会”を開くことができたんです」と、ほほえむ。思い出の一冊や音楽から会話がどんどん広がっていくそうだ。

イベント「親子で本棚づくりだよ!」を開催。当日の様子は、Facebookページでも楽しく紹介されているイベント「親子で本棚づくりだよ!」を開催。当日の様子は、Facebookページでも楽しく紹介されている

団地暮らしを楽しくする試みにチャレンジ!

DIYで屋台を手作りした『としょカフェ』。香り高いドリップコーヒーや大和茶など、訪れた人との会話を楽しみながらふるまうDIYで屋台を手作りした『としょカフェ』。香り高いドリップコーヒーや大和茶など、訪れた人との会話を楽しみながらふるまう

集会所の前に人目を引く屋台を出し、道行く人にも「お茶飲みませんか?無料ですよ」と、気さくに声をかける東さん。その狙いは、いかに?

「まずは好きなこと、興味があることを何でもやってみようと思って。みんなの図書館ができたことを住民の皆さんに広く知ってもらいたいんですよ。こうして屋台のカフェをやっていると、自然に会話が生まれ、地域のいろんなことを知ることができる。先日、ここで3年ぶりに再会したと喜びあう団地住人さんがいてね。こっちまでうれしくなりました(笑)」

東さんの趣味は、ドラム缶を切ってつくられたスティールパンという楽器の演奏である。集会所に足を向けてもらう一つとして、図書館の開館日に合わせて演奏体験も行っている。この試みは、集会所の名物になりつつあり、毎日、放課後に珍しい楽器を弾きに来る子どもたちがいるほどだ。東さんは、子ども達から『としょ係のおっちゃん』と呼ばれ、親しまれている。

茶山台団地を継続して盛り上げていくために

茶山台としょかんの取組みは、共有の本箱を設けたことで住民同士が顔を合わせる、ゆるやかな交流の場になりつつある。

「団地内の情報共有は、これまで回覧板と階段の掲示板しかありませんでした。そこで、図書館ができたことをPRするために、ウェブサイトやFacebookページを立ち上げたんです。その書き込みを見た他府県の人が、『ここなら子育てにもやさしそうだ』と感じてもらえたみたいで、入居のきっかけになりました。うれしいですね。これからも継続的に団地の魅力を発信していくために、編集メンバーを募っています」と、東さん。茶山台としょかんを一緒に盛り上げるために、興味のあることや得意分野を活かしながらどんどん関わってほしいと願う。

現在、これからに向けての「暮らしづくりミーティング」が開かれるまでになり、図書館の本の貸し出しもはじまったという。

支援プロジェクトの次なる課題は、団地を盛り上げる担い手を発掘し、定着させていくこと。「いずれは主体的に運営できるよう、しっかり支えていきたい」と、その思いを話してくれた。住む人同士がつながれば、団地の暮らしはさらに楽しくなるのだろう。

茶山台としょかん
http://danchi-library.com/

団地に住んでいる人が顔見知りになる図書館。共有スペースの本棚から、そこに住まう人の想いが見えてくる団地に住んでいる人が顔見知りになる図書館。共有スペースの本棚から、そこに住まう人の想いが見えてくる

2016年 06月20日 11時06分