不登校のきっかけでもっとも多いのは「無気力」

東京都千代田区の学習塾「CARPE・FIDEM LLC(カルぺ・フィデムエルエルシー)」代表の大村悠輝さん。自らも率先して古民家再生に取り組んでいる東京都千代田区の学習塾「CARPE・FIDEM LLC(カルぺ・フィデムエルエルシー)」代表の大村悠輝さん。自らも率先して古民家再生に取り組んでいる

不登校、引きこもり、NEET(ニート)。いずれも昨今の教育現場でよく耳にする言葉だ。これらの原因として、「いじめ」や「学業の不振」などが取り上げられることが多いが、高校生に限ればそれらは少数派らしい。文部科学省の「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」(2014年度)によると、不登校のきっかけとしてもっとも多いのは、「無気力」で30.8%。「いじめ」(0.2%)や「学業の不振」(7.7%)を大きく引き離している。この結果を見ると、生徒に生き生きとした生活をおくってもらうための仕組みが必要ということかもしれない。

一方で、最近の社会問題として、空き家の増加がある。特に地方の高齢化が進んでいる地域ではメンテナンスの担い手が不足しているなどで深刻だ。

この2つの社会問題に対して取り組む学習塾がある。東京都千代田区のCARPE・FIDEM LLC(カルぺ・フィデムエルエルシー)では、千葉県沿岸地域にある築100年前後の古民家を買い取り、「不登校生」「引きこもり当事者」「NEET当事者」などへの教育支援としてDIYによる再生を行っている。くわしい話を代表の大村悠輝さんに聞いた。

今の段階から人間性をゆっくり養うことこそが重要

―今回の古民家再生の目的はどのようなことでしょうか。
「不登校や引きこもりの期間が長いと、どうしても社会経験が不足しがちになります。とりわけ、教室が東京都の千代田区という日本の中心地に立地しているため、自然環境に触れることが一層困難となっています。

一方で私たちの塾では、東大などの帝大系や早稲田、慶應の医学部、獣医学部、薬学部などの医療系学部への進学希望者が多い状況です。つまり、卒業してから不特定多数の人とコミュニケーションをとって仕事をしなければなりません。そのため、今の段階から人間性をゆっくり養うことこそが重要だと認識しています。このようなことから塾ではあるものの、あまり勉強ばかりの生活は薦めていません。何事もメリハリをつけ、がーっと集中して勉強したら、全て放棄して全力で遊ぶ。徹底的に遊んだら、気持ちを切り替えて全力で食べて寝る。起きたらまた気合を入れて勉強する。こんな感じが大切かと思います。今回の古民家も、その一環です。“いい加減”で“適当な”生活を実践する一つの現場だと思って企画しました」

―古民家はどのようにして見つけたのでしょうか?
「インターネットで“勝浦 古民家”といったキーワードで検索して、古民家の得意そうな不動産会社を見つけてこの物件を紹介してもらいました。

具体的な条件は、
・海水浴や海産物、釣りが楽しめるようにある程度海に近いこと
・住居の歴史を感じながらの改修が目的なので、築年数がある程度経った家であること
・古民家は住宅ローンの対象となりにくいため、現金一括で買える金額であること
・周囲に民家が少なく、野生動物がある程度豊富で、星が綺麗に見えること
です」。

再生中の古民家。築100年前後。約20年間誰も住んでいない状態で購入。</BR>敷地面積約300坪で母屋の右側の納屋は露天風呂に改修しようと計画中再生中の古民家。築100年前後。約20年間誰も住んでいない状態で購入。
敷地面積約300坪で母屋の右側の納屋は露天風呂に改修しようと計画中

最初に直面したのは雑草の猛威

―再生中でもっとも苦労した点、またはこれから苦労しそうな点は?
「苦労したことはたくさんありますが、最初に直面したのは雑草の猛威です。この物件は昨年の8月に購入したのですが、今年の夏、久しぶりにやって来ると道路から玄関前まで人間の背丈ほどの草がびっしりと生い茂っていました。そこで生徒たち7~8人で草を抜いたのですが、結局玄関にたどり着くまで3時間ほどかかってしまいました。そこまでやっても翌週には膝くらいまで草が生えています。それから、カビの発生にも頭を抱えています。基本的に週末に来ているので平日は閉め切っています。これが原因だと思うのですが、今のところ対策は思いついていません。それから電源が10アンペアしかないので、強制的に省エネ生活になることにも最初は戸惑いました。増設にはある程度の工事が必要なので慣れるしかないと考えています。

これから苦労しそうなところとしては、
・汲み取り式トイレの水洗化
・草が生えた状態の屋根の改修
・納屋を改装しての露天風呂造作
・コウモリやハクビシン、タヌキと思われる生き物が侵入してくるので、その対策
といったところですね。どれもノウハウはありませんが、卒業生で非常に器用な者がいるので手伝ってもらいながら挑戦したいと思います」

―不登校生などの参加者はどのように携わっているのでしょうか。
「CARPE・FIDEMは学習塾ですので、普段は勉強をしています。しかし、そればかりだと私も含めて飽きます。そこで『勉強飽きたな~』という空気が教室に充満してきた頃を見計らって、希望者を募って基本的に土日に遊びに行きます。

実際に何をするかは、車の中で話をしながら決めます。たとえば、『畳が腐っているから、今日は八畳間の根太(ねだ)を改修しようか!』ということになったら、軽トラで近くのホームセンターまで部材を買いに行くグループ、事前に撤去作業をするグループ、平行して図面作業をするグループなどに分かれて作業をします。一回では終わりませんので、複数回に分けて行います。

『何か電気のヒューズ飛んでない?』とか『軽トラのエンジンかからないんだけど』、『どう見ても、水道管破裂してる!?』という場合には、対策法をネットなどで調べて修理します。どうしてもダメな場合はプロに頼みます。

『今日はダルいから寝て過ごすか』という場合には、買い出し班と調理班に分かれ、そのまま食べて、寝て一日が終わります。本当にそれだけで終わります。近代的な設備が乏しいので、基本的にはトラブルのほぼ全てを人力と知恵でカバーします。実際に出来ているかどうかは微妙ですが、毎回そんな感じです」

取材当日も座卓の上に野生動物の足跡があった。基礎や屋根の隙間から侵入してくる模様。</BR>食べ物を食い散らかされたり、糞をされたりといった被害がある取材当日も座卓の上に野生動物の足跡があった。基礎や屋根の隙間から侵入してくる模様。
食べ物を食い散らかされたり、糞をされたりといった被害がある

“指示待ち”だった子が自主的に動くようになる

自主的に窓を掃除をする参加者たち。古いガラスだが極力そのまま利用する自主的に窓を掃除をする参加者たち。古いガラスだが極力そのまま利用する

―参加者にはどのような変化が見られるのでしょうか。
「いわゆる“指示待ち”状態で、言われないと行動しない子が、自主的に動いたりするようになります。というのも、動かないと状況が何も良くならないからで、必然的に動かざるを得ないからでしょう。基本的には何をしても良い、という環境的事情が、そうさせているという側面もあると思います。

物質的必要性に対する感度も変わったと思います。生活の基礎レベルが極めて低いため、『パソコンのスペックが~』だとか、『この服はデザインがイマイチ』、『コンビニは徒歩1分以内でないと』といった話題が二の次になります。そんなことよりも『今日は飲み水あるの?』とか『トイレの床が抜けそうだけど』、『ハクビシンの食い散らかし片付けようよ』みたいなところからスタートします。

作業が終了し、夜に自作の囲炉裏でお酒を飲みながら色々と話し合うことが出来るのも良い経験だと思います。卒業生の子たちが遊びに来ることもありますが、大学での様子や就職後の話などを聞くのも、変化を感じられるひと時です。

帰りの時間帯が22時を過ぎると、急激に野生動物が増えます。鹿やキョン(鹿の一種)が歩道を闊歩する中を気をつけながら車で進みます。都会に無い原生の風景が立ち表れる瞬間ですが、事故には気を付けないといけませんね。野生動物は補償してくれませんので……」。

10年計画でゆっくりと再生する

参加者の「作りたい」という提案から製作しはじめたピザ釜。一度火を通したが、空気の取り込みが完璧ではなかったため改修中参加者の「作りたい」という提案から製作しはじめたピザ釜。一度火を通したが、空気の取り込みが完璧ではなかったため改修中

―次に計画しているプログラムはありますか。
「とにかく今の古民家の改修を進めることが最優先で、10年位かけてゆっくり進めたいと考えています。具体的には、
・合併浄化槽を設置し、廃水設備を整える
・キッチンの火元には、昔ながらの窯を設置する。当座は、庭のピザ釜を完成させる
・納屋を全面改修し、露天風呂を造作する
です。
山梨県にも合宿所がありますので、場合によってはそちらも何らかの形で計画するかも知れませんが、今のところ未定です」。

勉強だけでなく、自然の中で生きる力も身につけていく参加者たち。計画は10年と長期に渡るが、卒業してからも後輩たちへの継続的なアドバイスなどを通じてコミュニケーション能力が向上していく人もいるだろう。古民家の再生具合と同時に、参加者が将来どのように成長していくのか楽しみである。

取材協力
CARPE・FIDEM LLC(カルぺ・フィデムエルエルシー)
http://www.carpefidem.com

2016年 12月03日 11時00分