全国各地で加速度的に広がりをみせる子ども食堂

子どもの貧困や孤食が問題として取り上げられている昨今。子ども食堂の活動は爆発的な広がりをみせている子どもの貧困や孤食が問題として取り上げられている昨今。子ども食堂の活動は爆発的な広がりをみせている

「子ども食堂」
この存在がこんなにもクローズアップされるようになったのはいつ頃からだろうか?

今や日本各地にある子ども食堂は、「地域の子ども達に無料もしくは低額で食事を提供する場所」といわれている。
2012年に東京都大田区で始まったとされ、2018年4月に「こども食堂安心・安全向上委員会」が発表した調査結果によると、その数は全国に2,286ヶ所。地域の取組みや社会福祉団体等の活動、企業のCSRとして各メディアで報道されたり、有名タレントが既設の子ども食堂をリノベーションする様子がTVで放映されるなど、その後も認知度が上がっていることを考えると、現在はさらに増えているのではないだろうか。ともあれ、この6年ほどで急激に広がりをみせていることがわかる。

その名も活動内容も広く知られるようになった子ども食堂だが、明確な“定義”はない。

2014年に施行された「子どもの貧困対策法」をきっかけに自治体も開設支援等に取組み始めているものの、法律上の決まりはないため、さまざまな団体・企業、そして個人が「子ども食堂」の名のもとに多彩なスタイルで展開しているのが現状。定義がないからこそ、行政支援をどこまで行うのかは各自治体で温度差があるのだが、“県の事業”として積極的に支援を進めているところがある。それは、愛知県だ。

愛知県が進める「既存の社会資源を活用した子ども食堂開設モデル事業」

愛知県健康福祉部地域福祉課・子ども未来応援グループの入木真実さん(右)、羽生康一さん(左)にお話を伺った愛知県健康福祉部地域福祉課・子ども未来応援グループの入木真実さん(右)、羽生康一さん(左)にお話を伺った

愛知県が実施しているのは「既存の社会資源を活用した子ども食堂開設モデル事業」。
経済的な事情などにより家庭で十分な食事がとれない子どもに食を提供するだけではなく、食を通じて地域の人達とのつながりが芽生え、社会性を身につけられるような「子どもの居場所」づくりを進めるものだ。
そんな「子どもの居場所」を県内各地域で“早急に”増設するために、既存の社会資源を活用した開設を条件として事業を委託。
公募により10の事業者を選定し、各事業者は2018年5月~12月までの間で5回以上子ども食堂を開催することを約束とした。そして、事業終了後に効果や課題を検証した上でさらなる設置拡大につなげることを目的としている。

子どもの貧困対策を検討するため実施した「愛知子ども調査」。そこから始まった子どもの居場所支援

実効性のある子どもの貧困対策を検討するため、愛知県全域の小学1年生の保護者、小学5年生と中学2年生の子どもと保護者合せて33,635人を対象に実施された「愛知子ども調査」。その調査結果を踏まえて、「教育の機会の均等」「健やかな成育環境」「支援対策の充実」といった3つの視点から、全部で48の取組みがまとめられた
実効性のある子どもの貧困対策を検討するため、愛知県全域の小学1年生の保護者、小学5年生と中学2年生の子どもと保護者合せて33,635人を対象に実施された「愛知子ども調査」。その調査結果を踏まえて、「教育の機会の均等」「健やかな成育環境」「支援対策の充実」といった3つの視点から、全部で48の取組みがまとめられた

愛知県がこのような子ども食堂支援の取組みを進めるのは、2016年12月に実施した「愛知子ども調査」が始まり。
調査結果を踏まえて、有識者からなる「子どもの貧困対策検討会議」による「子どもが輝く未来に向けた提言」を取りまとめ、その提言を子どもの貧困対策の道しるべとして、5ヶ年計画での具体的な取組み工程を示す「子どもが輝く未来へのロードマップ」を2018年2月に作成。その中でも特に重点的に行うべき事業の一つとして、子ども食堂支援が挙げられたのだった。

子ども食堂支援事業として行うことになったのは、「既存の社会資源を活用した子ども食堂開設モデル事業」のほか、開設ガイドブックの作成や運営ボランティア向け連続講座の実施。平成30年度予算で610万円余りをこれらの事業費に充て、内370万円弱の予算が同モデル事業に充当される。
愛知県における子ども食堂の数(市町村把握数)は、2017年度で56ヶ所なのだが、これらの事業によって子ども食堂の設置拡大を図り、ロードマップが終了する2022年度には200ヶ所に増やすのが目標だ。

実施事業者の多くは福祉が専門領域。中には、プロの調理師が集まる愛知県調理師会も

愛知県調理師会が行う子ども食堂の様子/2018.8.26開催愛知県調理師会が行う子ども食堂の様子/2018.8.26開催

モデル事業に話を戻そう。
先述の通り、この事業で子ども食堂の運営に乗り出したのは公募で選ばれた10団体。
社会福祉施設等の運営会社や社会福祉法人が、グループホームや子育て支援センター、認定こども園といった既存の施設や資源を生かして子ども食堂を開催している。

どの事業者にも当てはまることなのだが、「子ども達に美味しくあたたかいご飯を食べさせてあげられる」だけに終わらない、あたたかな繋がりを生んでいるようなのだ。

例えば、高齢者のデイサービスや介護施設で開催の場合は、元気な子ども達が施設に集まることで利用者のお年寄りにも喜ばれたり、良い刺激にもなっているそう。また、以前から地元で子ども食堂を行っていた方のケースでは、地域のコミュニティセンターを借りて100~200人規模の大所帯で開催。幅広い年代の人々が集まり、年配の方達と一緒に折り紙で遊んだり、地元のお兄さん・お姉さん達がボランティアで子ども達に勉強を教えたりと、地域の協力を得ながら“多世代交流の場”として成り立っているのだとか。

そして、ほとんどの実施事業者が福祉を専門領域とする中にあって、調理専門学校を会場とする愛知県調理師会の名も。
ここでは、同会に所属する和・洋・中の料理人を講師に呼び、専門学校生達がプロの技を学びながら調理。子ども達は、レストランフロアを再現した実習室でテーブルマナーも学びながら本格的な料理を食べられる上に、料理ができるまでの間に、教育・福祉の専門学校の学生達がボランティアで来校して一緒に遊んでもくれる。美味しく楽しい時間を過ごした子ども達は大喜びで、「また来るね!」と笑顔を見せていると聞く。

調理師達が運営するという全国的にも珍しい子ども食堂があることも興味深く、さまざまな手の差し伸べ方で、運営者が得意分野や個性を活かして子ども食堂と関われる可能性を感じさせる。

多世代交流の場にもなりうる子ども食堂。今後のビジョンは?

取り組みの一つとして空き家を活用した子ども食堂の検討が行われたが、水回りの修繕が必要になるため現段階では開設に至っていないものもある。地域に不可欠な「子どもの居場所」との認識が深まることで、空き家対策にもなる運営を望む声が地域から挙がることになるかもしれない取り組みの一つとして空き家を活用した子ども食堂の検討が行われたが、水回りの修繕が必要になるため現段階では開設に至っていないものもある。地域に不可欠な「子どもの居場所」との認識が深まることで、空き家対策にもなる運営を望む声が地域から挙がることになるかもしれない

モデル事業の委託を受けた各団体は県から上限35万円で委託されるのだが、無料もしくは低額で食事を提供する子ども食堂をこの額だけで賄えるとは考えにくい。当然のことながら、食材・人材を含めて“地域の力”なくしては成り立たない。
誤解を恐れずに言えば、(場所や人数、方法など)定義のない子ども食堂は、志があれば始めるのは案外スムーズ。だが、食材の調達や衛生管理、食中毒やアレルギーなどのリスク管理、多くの人が集まるゆえの名簿管理や事故、保険など…挙げたらキリがないほど課題もあり、続けていくことの難しさは否めない。だからこそ、地域の協力が不可欠だ。

そんな状況にあって、実施事業者にとって一番のメリットは「愛知県の委託を受けている」という事実だろう。
県の事業を行う団体、いわゆる“行政のお墨付き”を与えられた団体、と安心感をもって認識されることで、周囲の受け入れ方にも良い影響があるようだ。
現に、委託を受ける前は地域の学校との繋がりもなかなか持てなかったが、委託後は快くボランティアでの協力をしてくれたり、地元企業との関わりができるなど、地域を味方につけやすくなった事例もあり、子ども食堂を進めるためのハードルが少し低くなっているそう。やはり、地域との関わりを深めて地元に周知されることも、多くの協力を得られやすい「続けられる子ども食堂」に繋がるのではないだろうか。


「子ども食堂は地域との連携がないとできないものです。
委託をきっかけとして、地域と関わりを深め、ノウハウを蓄積しながら自然に活動を広げられるように、あくまで『自主的に』子ども食堂を進めて頂くためにも、行政は『首を突っ込みすぎない助言をする』立場だと考えています。

金銭的な行政支援は限られてしまいますので、県では子どもの貧困に関するシンポジウムの開催や、子ども食堂における学習支援にボランティアとして参加する学生や社会人の募集に取り組んでいます。

子ども食堂によっては、孤食のお年寄り等も参加していることから、名称を『地域食堂』と改めてはどうかとの声も上がるという話も聞きます。
子ども食堂に取り組まれる方により、運営スタイルは様々ですが、多世代交流が行われる、地域に開かれたコミュニティの場、子どもの居場所として、子ども食堂は大変効果的な取組みと考えており、県では子ども食堂への支援を今後とも進めていきたいと考えています。」
(入木さん・羽生さん)


子どもの貧困や孤食、そして地域との関わりが希薄とされる中、「既存の社会資源を活用した子ども食堂開設モデル事業」ではどんな成果が出るのだろうか。


■取材協力/愛知県 健康福祉部 地域福祉課
http://www.pref.aichi.jp/chiikifukushi/

2018年 12月19日 11時05分