舞台は築42年の「原山台B団地」。入居世帯の32%に70歳以上の高齢者

2017年12月にまちびらき50周年を迎えた、堺市南区の泉北ニュータウン。緑豊かでゆったりした街だが、高度成長期に供給された大規模団地のご多分に漏れず、住人の高齢化による課題が表面化している。そこで、堺市や住宅事業者、自治会などが様々な対策に取り組んでいる。

そのひとつが、2018年9月に泉北ニュータウン内「原山台B団地」で始まった配食サービスだ。弁当の販売を通じて、お年寄りを見守ろうという試み。予約した弁当を取りに現れなかったり、配達時に応答がなかったりすることが続いた場合、管理者の大阪府住宅供給公社(以下、公社)に通報し、速やかな安否の確認につなげる。

1976年に建設された「原山台B団地」は14階建て3棟、全495戸を擁する。入居世帯のうち70歳以上の高齢者がいる家庭は32%に上るという。住戸は3DKのファミリータイプだが、一人暮らしも増えているそうだ。

サービスを提供しているのは、大阪狭山市に本拠を置く「自家焙煎工房カフェ リトルアイランド」。代表の小島和也さんに、その狙いと課題を聞いた。

「原山台B団地」。ニュータウン内では高層に属し、エレベーターもあるが、3階おきにしか停止しない。「原山台B団地」。ニュータウン内では高層に属し、エレベーターもあるが、3階おきにしか停止しない。

ニュータウン内カフェのお客さまの声と、堺市の支援から生まれたサービス

(上)泉北ニュータウン三原台地区の近隣センターにある「自家焙煎工房カフェ リトルアイランド」(下)リトルアイランドが提供する日替わり弁当。左上が「デラックス弁当」500円、右下が「ヘルシー弁当」400円(価格はいずれも税込み)(上)泉北ニュータウン三原台地区の近隣センターにある「自家焙煎工房カフェ リトルアイランド」(下)リトルアイランドが提供する日替わり弁当。左上が「デラックス弁当」500円、右下が「ヘルシー弁当」400円(価格はいずれも税込み)

このサービスは、堺市による「泉北ニュータウン シニア向けサービス創出支援事業」から生まれた。
公社、南海不動産、泉北高速鉄道という公益性の高い地域企業と個人事業主やNPO法人を結び付け、泉北ニュータウンで新しい事業を立ち上げてもらおうというものだ。そこで、小島さんが公社に提案したのが、配食を通じた見守りサービスだった。動機となったのは、団地に住むお年寄りから寄せられた声だ。

リトルアイランドは、4年前から泉北ニュータウン内の三原台地区でカフェを営んでいる。無農薬玄米のランチプレートなど、食材にこだわった健康的なメニューで人気だ。弁当のテイクアウトにも対応している。「そのカフェで、ご高齢のお客さまから、家まで配達してくれたら助かるのに、というご要望をいただいたんです」と小島さん。

リトルアイランドでは、1年前から企業を対象としたお弁当の配達を始めていた。今回のサービスはこれをアレンジしたものだ。高齢者を対象とするにあたり、小島さんがまず考えたのは「栄養管理」と「孤独死防止」だった。

「病気やフレイル(生活機能の衰え)を防ぐには栄養管理が欠かせません。そこで、管理栄養士が考えた40品目7種のおかずと十六穀ごはんの日替わり弁当をご提供する。弁当の販売員と接することは、安否の確認にもなります。もしも異変に気付いたときは、公社に連絡して対応をお願いします」。

弁当の配達と併せて、困ったときの相談先リストの配布や、公社が2018年4月に始めた「ふれあい訪問」サービスの紹介も行う。

「ふれあい訪問」とは、70歳以上の単身高齢者を対象に、公社の巡回管理員が年に2回訪問し、日常生活や健康の状態を確認したり、相談に応じたりする無料サービスだ。公社広報グループの小原旭登さんは次のように説明する。

「年2回は少ないと思われるかもしれませんが、特に重視しているのは緊急連絡先情報の更新です。ご家族の電話番号が変わっても、公社に届けるのは忘れがち。いざというときに連絡が取れなくては大変ですから」。

「ふれあい訪問」に登録した人には、公社オリジナルの「救急カプセル」を配布する。付属の「救急医療情報カード」に健康保険証の番号や病歴などを記入してカプセルに封入し、冷蔵庫にしまっておくというもの。救急隊に見付けてもらうため、冷蔵庫の扉に貼るシールも用意している。

サービスの周知や販売方法に課題を残す一方、対応を待ちわびる声も

リトルアイランドが「原山台B団地」で配食サービスを開始してから約1ヶ月が経ち、いくつかの課題も見えてきた。

小島さんは言う。「最初の1ヶ月は団地内に販売所を設置し、そこにお弁当を取りに来ていただくことで、販売員と住人、住人と住人が顔を合わせる機会をつくりたいと思っていました。そのため、あえて宅配には100円の配達料を設定したのです」。

しかし、実際に販売所で住人に話を聞くと「ここまで来られる人は元気だから、スーパーにお弁当を買いに行くよ」という声が多かった。ただ、販売所まで足を運べない人に、配食サービスの存在を知ってもらうにも工夫が要る。これまで行っていたチラシのポスティングや掲示板だけでは、情報が届かない可能性が高いからだ。「回覧板に入れてもらうなど、ほかの手段も考えたい」と小島さん。

2ヶ月目はいったん販売所を撤退し、予約による宅配サービスに注力することにした。これはこれで、リトルアイランドにとっては配達時に在宅していない場合の損失も覚悟しなくてはならない。「玄関先に置いておく業者もあるようですが、食の安全を預かる立場として、外部から異物を混入されるようなリスクは冒せません」。仮に鍵が掛かるボックスを用意したとしても、いつ取り出してもらえるか分からない状況では消費期限切れの不安もある。

一方で、配食サービスの需要が確かに存在することも確認できた。「よくよく話を聞いてみると、お弁当を買いだめして冷凍しておくお年寄りは多いようです。ただ、それでは味が落ちるし、栄養価や安全性にも疑問が残る。手づくり弁当の良さを分かっていただければと思うんですが」。

配食兼見守りサービス開始のニュースは、新聞の地方版や地元のフリーペーパーも取り上げてくれ、大きな反響を得た。問い合わせのほとんどは、あいにく配達対象地域外だったが、サービス拡大に期待する声は多い。

最終目標は高齢者の孤食を防ぐこと。新たな雇用にもつながる

泉北ニュータウンにおける高齢化の課題は、社会全体のさきがけでもある。
前出の公社・小原さんは「少しずつでも、課題解決の先行例を示していけたら」と語る。公社では「ふれあい訪問」のほかにも、IoTネットワークを使った見守りサービスの実証実験や、団地内食堂「杉本町みんな食堂」などの取り組みを始めている。後者は、賃貸住宅の空き家を食堂とし、障害者が単身高齢者に食事を提供する試み。障害者の社会参加と単身者の孤食防止を目指す。

リトルアイランド・小島さんの最終目標も、高齢者の孤食をなくすことだ。
「販売員と顔を合わせると、つい話し込んでしまうお年寄りも少なくありません。玄関先や販売所での立ち話だけでなく、みんなで食事をしながらコミュニケーションできる場を提供したい。そうすれば、食事をつくったり配膳したりする雇用も生まれます」。

実現への道のりは手探りだが、潜在需要は多いはずだ。

「原山台B団地」のピロティに設置した販売所でお客さんに対応するリトルアイランド代表の小島和也さん(左)「原山台B団地」のピロティに設置した販売所でお客さんに対応するリトルアイランド代表の小島和也さん(左)

2018年 11月23日 11時00分