町家を守るには、住み手を増やせ!

一つ一つ違う表情を持つ町家。一軒として同じものはない一つ一つ違う表情を持つ町家。一軒として同じものはない

京町家が壊されていく。京都の町を歩いていても体感できるが、数字を見ると改めて歴史的な街並みが失われていることが良くわかる。

国土交通省都市局が平成25年3月にまとめた「町家の活用・継承事業検討調査(京都市)」によると、京都市中心部では12年間で1,504軒、中心部を除く京都市域では10年間で2,989軒の京町家が除却されている。平成20年10月から平成22年3月に市域で確認できた京町家等の軒数は47,735軒。年間1.5%以上のペースで京町家がなくなっていることになる。

京町家が取り壊される理由は、老朽化を補修する負担にオーナーが耐えられない、建替えた方が収益性が高くなるといったことが考えられるが、一方「ニーズが少ない」すなわち「借り手/買い手が少ない」という事も考えうる。

漠然と「町家に住んでみたい」という人は多い。しかしそのような人の多くは、好奇心とは裏腹に、漠然と「町家に住むのは不安だ」とも考えている。そこで、実際に町家を購入して住んでいる人に取材をし、町家に住むとはどういうことなのかを探ってみた。

「一般的な不安」は、本当か?

襖、障子。一つ一つに味わいが有り、メンテナンスを重ねることで自分のものになる襖、障子。一つ一つに味わいが有り、メンテナンスを重ねることで自分のものになる

取材を依頼したのは、京都で町家のリノベーションを多数手がけている株式会社八清。町家を購入し、実際に住んでいる社員の方をご紹介いただいた。話を伺ったのは、船岡山温泉の近くにある「織屋建て」と呼ばれる京町家に親子3人で住むOさん、通り土間や火袋のある典型的な京町家に夫婦二人で住むKさん、川沿いに建つ昭和初期の伝統工法の民家に一人暮らしするTさん、の3名。まずは、町家に住む際に感じそうな不安に思われる事について話を聞いてみた。

町家は築年数が古いので設備面に不安が残るが、3人ともキッチン、お風呂についての使いにくさは感じていない。印象的だったのは、全員、お風呂はユニットバスに交換していたこと。「タイル張りの在来工法のお風呂は、雰囲気はよいがカビやすく掃除が面倒。家屋に湿気が回り老朽化を早める可能性もある(Oさん)」とのこと。ただTさんはキッチンについては「(普及品のシステムキッチンではなく)レトロなホーロータイプの中古品を自分でレストアした」そうだ。設備面は、改装さえすれば使い勝手に問題はなさそうだ。

築年数が古いため耐震性能にも不安が残るが、どのように対処しているか。3人とも何らかの補強を施していた。制震ダンパー・柱のジャッキアップ(Kさん)、歪みの修正(Oさん・Tさん)と対処方法はさまざま。購入するのであれば耐震補修の費用を見込んでおく、賃貸の場合はオーナーに処置を頼んでみるといったことが必要だ。ただし、耐震性能の数値化は在来工法の建築物に対しては算出できても、伝統工法である町屋については算出することができない。どうしても耐震性能を数値で確かめたい人には町屋という選択肢は向かない。どの程度の耐震性があるかは、物件ごとの個別要素を鑑みてプロと相談する必要がある。

また「夏は暑く、冬は寒い(当たり前であるが…)」と言われるがそのあたりはどうなのか?こちらも3人とも同様の答え。「夏は1階は涼しく2階は暑い、冬は隙間風が多い」。これはマンション等と比較して気密性が低いことに起因しており、当たり前といえば当たり前の結果。「夏はエアコンをつけている(Tさん)」「冬は暖房を入れるが、全く結露しないのでマンションのようにカビを心配しなくてもよい(Oさん)」という見方もあり、気密性の低さも、欠点とばかりは言い切れない。

町家住まいとコミュニティ

庭先の花一つでご近所さんとの会話が広がる庭先の花一つでご近所さんとの会話が広がる

オートロックのマンションに比べて、防犯面において町家は劣りそうに思えるが、実際にはどうなのか。

「そもそも鍵なんてかけないし、玄関を開け放っている家が多い」というのはOさん。路地に面した住宅がすべて町家で、老人が多く常に目配りがされており路地で遊ぶ子供の往来も多く「生活感のある昭和な空間(Oさん)」はエリア周辺の防犯の役割を果たしている。

Tさんのお隣さんは年配女性の一人暮らし。Tさんが自宅に帰ると、タイミングよくおかずのおすそ分けを持ってこられることが多い。どうやら、木製建具の「ガラガラ音」を聞き自宅に戻ったことを確認してから来訪していたらしい。引き戸タイプの玄関扉や雨戸の開閉で人の出入りがわかる空間は、泥棒や不審者も入りにくいに違いない。

「庭のお花を見てわざわざ声をかけてくれる人がいる(Tさん)」ような濃密なコミュニティを形成されている場合がある一方、「周囲には老人が多いがあまり出歩いていない。閑静で人気が少なく、皆きちんと施錠をしている」ようなエリアもある。マンションとの比較で、周辺の人とのつながりが濃そうに思える町屋だが、個別要素にも左右される面が大きそうだ。

町家に住んでいい人、悪い人

「バルコニー」と比べると機能面では叶わない。が、存在感は相当なもの「バルコニー」と比べると機能面では叶わない。が、存在感は相当なもの

「こんな人は町家に住む方がよい」「こんな人は町家に住まない方がよい」という条件はあるのか?実際に住んでみた経験から回答いただいた。

「経年変化を楽しめる人がいい」というのはOさん。漆喰壁のヒビや土間の割れはある程度の確率で発生する。それを発見したときに、気にするのではなく楽しめる人の方がよい、というわけだ。また「人付き合いの苦手な人はやめた方がよい(Oさん)」とも言う。裏を返すと「人と触れ合うのが好きな人がいい(Oさん)」ともいえる。隣から聞こえる機織りの音、家の前を走る近所の子供、夏の地蔵盆、秋には町内対抗の運動会。地域に関わる、人とかかわるという事が好きな人にはたまらない環境であろう。

一方「他人とコミュニケーションをとるのは苦手。でも自分の成長の為なので、やればできる!(Tさん)」という意見もある。「他人の家のチャイムを押すのもできなかった自分が、今では隣人におかずのおすそ分けもできるようにまでなった」という“成長”ぶり。

建物の構造やコミュニティのあり方、どちらをとってもマンション生活とは異なる町屋生活。「他人と同じことが嫌いな“変わり者”がいい(Kさん)」というのは極端な意見としても、少なくとも「マンション生活と比較する人は(町家に住むことは)やめておいた方がいい(Oさん)」といえよう。

町家に住むなら、早い方がいい

一戸建てやマンションの庭では、この渋い風情は表現しにくい一戸建てやマンションの庭では、この渋い風情は表現しにくい

最後は「次に住替えるときは町屋にするか?しないか?」と、すこし意地悪な質問をしてみた。

Oさんは「もう一度町家」。「良いところはそのまま、使い勝手の悪かった部分は改良し、さらに住まいやすい間取りをつくりたい」。購入した後に、自ら図面を考えて使い勝手の良い間取りにしたOさんだが、住んでから気づいたことも多かったそうだ。とはいえ「不満も含めて愛着」がある。使い勝手だけでは測れない町屋の良さに惹かれているようだ。

Tさんは「住替えたくない!でもどうしても住替えるとなったら、これといって希望もないものの、もう一度町家になる可能性が高い」。「木のぬくもり、暖かく落ち着いた雰囲気、ずっと家の中にいたくなる」。ここまでいわれると、こちらも住みたくなってくる。

唯一、町家以外を上げたのはKさんで「洋館に挑戦したい」。「でも年を取ったら駅近のマンションがいい」。町家住まいは、マンションはもちろん、通常の一戸建てに比べても手がかかることが多い。「年をとったら〜」は現実的な選択といえよう。

町家に住むという事は、単に古い建物に住むというだけでなく、ご近所づきあいも含めライフスタイルを楽しむということに他ならない。今回お話を伺った3人、親子3人/夫婦2人/一人暮らし、家族形態はそれぞれ違うがどなたも一様に「町家住まい」という生活全般を満喫しているように見えた。町家は古い建物であり、機能面ではある程度の不便や不安が伴う。この「不便」や「不安」は人それぞれであるが、自身でリノベーションをする事によって克服可能である。しかし、マンションや一般的な一戸建てと比べる、修繕の手間や建具のメンテナンス、ご近所づきあい、エリア性を考慮すると自治会の仕事も含め手間は増える。そんなこんなのすべてを楽しめる余裕がないと、町家住まいはお勧めできない。

マンション生活と比較する人はやめた方が良い、とは書いたものの「不満も含め愛着(Oさん)」と思えるのであれば、迷いのある人は一度試しに住んでみる方が手っ取り早い。また、住むなら若い時の方がいい。ご近所づきあい、人の暖かみ、自宅への愛着を体感できる物件であれば、子供のいる家庭にオススメだ。「老後は町家にでも住んでみよう」ではなく、「若くて元気なうちは町家に住んでみよう」の方が理にかなっている。

2014年 05月30日 11時46分