古民家再生の最前線、京都へ

街中にこんな味のある古い家、ありませんか?街中にこんな味のある古い家、ありませんか?

古い京町家、アトリエ、洋館、レトロなアパート等。「こんな物件借りたい人がいるの?」という少々クセのある物件でも、「だから壊してしまおう」というのはちょっと待った!歴史ある味のある建物は、こだわりの暮らしには素晴らしい物件であることも多いのだ。 今回はその最前線、古い町家がたくさんある京都へ行って、お話を伺ってきた。結論から言うと、古い家を直して住み継いだそこには、想像以上の豊かな暮らしがあった。

今回京都の物件を案内してもらったのは、株式会社ルームマーケット代表の平野準氏。前述のような古い物件の改修から紹介までを取り扱っている。古民家再生という言葉が最近市民権を得てきているように思うが、まだまだメジャーじゃない15年も前から京都の町家や古家の改修を行っている。
きっかけは、イタリアへ料理留学後、日本に帰ってきた時に画一的なワンルームばかりで住みたいと思う部屋がなかったこと。留学中は築100年くらいのアパートに住んでいたそう。料理人を目指していたはずが、今では古家再生のスペシャリストになってしまった。
「リフォーム会社がリフォームすると、必要以上にキレイにされることが多い。そうじゃなく、残すところはそのまま残し、前の家の持ち主に敬意をはらいながら、使わせてもらう。」のが平野流だ。これまでに積み上げて来た経験から、その家に最適な改修を導きだす。さっそく紹介していこう。

ケース1 自宅として、家族で暮らす

平野さんのご自宅の様子。どこかノスタルジックでかわいらしい平野さんのご自宅の様子。どこかノスタルジックでかわいらしい

先ず伺ったのは、平野さんのご自宅。
元々は京大生の宿舎で、共同のキッチンに、3畳ほどの個室が8部屋と、6畳ほどの大家さんの住まいが1部屋という建物だったという。
玄関を入ると、天井の高い土間スペースに、可愛い古道具が展示してあった。平野さんの仕事中に、古い家から出てきたものもこちらで販売されている。
「土間は本当は要らない場所。何をしてもいいスペースなので、今の人に合っていると思います。」と平野さんは言う。土間の奥には小学校の手洗い場を思い出す大きな流しがあり、こちらがこの家のキッチン。小上がりの上にも3畳くらいの古道具展示スペースがあり、今は壁がないが、この区画が元々の寮生の部屋だったという。かつての京大生はこんな生活だったのか…と感慨深い。前の人の暮らしが見えるおもしろさも、古い建物ならではだろう。
オーナーの住まいだったという6畳のお部屋でお茶をいただくと、床暖房入りでとっても暖かかった。古民家なので寒いという印象があったが、一部屋なら十分暖めることはできるのだそう。冬の日は、家族みんながこの部屋に集まる。壁紙にしか見えないこの部屋の壁も、左官屋さんに塗ってもらったとのこと。平野氏の貯金を貯めての楽しみは、左官屋さんに壁を塗り直してもらうことだそうだ。
ちなみに階段は知人から譲り受けたものをつけたという。階段は珍しいケースだが、京都の町家はみんな同じ規格でできている為、建具の譲り合いは普通に行われているらしい。昔は荷物と一緒に建具も引っ越し先に持って行ったとか。
さらに言うと、玄関だけは、その家のオリジナルの建具で持って行くことはできない。これは、建築の段階でどうしても生じるズレやひずみを、玄関で整えているからなのだという。

ケース2 アトリエやギャラリーとして

左上:レトロ感溢れる看板、右上:目の前の鴨川、右下:紙でできたアクセサリー、左下:玄関左上:レトロ感溢れる看板、右上:目の前の鴨川、右下:紙でできたアクセサリー、左下:玄関

町家について色々教わった後、次なる建物へ。帰り際、先ほど見た家の外壁の模様が石なのに気がついた。これも昔、石の外壁がモダンでオシャレだったが、京都にはあまり石材がなく、砂をまぜて石に見立ててつくった外壁なんだという。そう言われて見ると、とってもモダンで愛らしく見えるから不思議だ。

次に向かった先は、同じく宿舎だったという「鴨柳アパートメント」。こちらは賃貸になっていて、ショップやアトリエとして使ったり、別荘として借りている人もいるという。駅近で鴨川の目の前にあるアパートなので、繁忙期の京都の宿代を気にせず花見や紅葉狩りを楽しめる。募集をかけたところ、すぐに満室になったそうだ。ただの風呂無しアパートであれば、こうはならないだろう。
レトロ感たっぷりの表札のフォントを見ながら、アパートのドアを開けると。想像を裏切る洋館のような広い玄関になっていて、かわいらしい。
こちらの0号室は、古紙を使ったアクセサリーのお店「Mycetozoa」のアトリエ兼ショップとして使われていた。4畳くらいのスペースに天井はとても高く、作品の雰囲気からもまるで中世のヨーロッパのよう。ご自身の私物だというシャンデリアや家具が、雰囲気にとてもあっていてセンスが良い。この部屋は大きな修繕などはしておらず、あまり手を加えていないというが、100年も前の建物なのにむしろモダンに感じる。
こちらにも共同のキッチンスペースがあり給湯器もついていて、使い勝手もよさそうだった。ちょっとした書斎や荷物置きに、こういうスペースがもっと筆者の身近にも欲しいなと思う。

ケース3 賃貸として

玄関の引き戸を開けるとこの土間スペース玄関の引き戸を開けるとこの土間スペース

改装した町屋を、賃貸で借りて住んでいる方にインタビューさせていただくことができた。
引き戸をガラガラと開けて出てきてくれたのは、1人暮らしの20代の女性。京町家の一軒家を借りても、都心のワンルームと家賃は同じくらいだそうだ。地区に関係なく、築年数が古ければ不動産価格も安くなるので、古い方が一戸建てもリーズナブルに借りることができるだろう。
玄関の扉の裏側は、天井も高くちょっとしたホールくらいの広さの、土間スペースになっていた。床や壁に不思議な造作があったが、これは昔機織りの機械に使われていたものらしい。残すところは残す。ここが平野流で、この空間をカッコよく引き立てている。

広い土間にはダイニングセットと、大きなガスオーブンが堂々と置かれていた。土間の向こうにはカウンターのようになっているキッチンがのぞいている。住人の方は料理が得意で、このガスオーブンが置ける、土間のある町家を探していたという。
「ものづくりをしているお友達が多いので、その展示スペースもあるカフェを開きたいと思っています。お客さんが来て近所の人に迷惑にならないようにしないといけないし、近所の人にも立ち寄ってもらえるお店にしたい。」
2階は2部屋+サービスルームのようなスペースがある。1階の渋さとはうってかわって明るくてナチュラルな雰囲気。無垢の床板を新しく張り替えてあり、そこに置かれているカーペットや家具が、レトロとモダンの絶妙なバランスを作っていた。
「家が好きすぎて、仕事が終わると早く帰りたくて寄り道もせずに帰ります。ずっと家にいたい。」と楽しそうに話してくれた。
「今の若い人は、建物の価値を分かった上で、上手に暮らしてはる。」と平野氏は言う。

施工している大工さんの話

随所に見られた町屋独特の様式随所に見られた町屋独特の様式

最後に、これまで多くの物件の改修に携わってきた大工さん、みずほ工務店の片岡瑞穂氏にもお話を伺うことができた。
先ほどの機織りのお家について伺うと、「あの辺りは機織りの盛んな地域なんです。機織りの機械というのはすごく背が高くて、3mくらい。それがすごく揺れるので、支える梁がたくさんあったんですけど、それは構造上必要のない梁なのですべて取ってしまいました。」とのこと。町家の種類や、古い伝統の建築手法にもさすが、とても詳しい。町家と京都の文化はとても密接しており、その両方を知る大工さんだからこそ家をこんなに生かせるのだろう。古家を自分でリフォームするのもよいが、1度片岡さんに直してもらうと、その後の手入れや家の持ちが全然違うという。
「(町家は)それでも、どんどん減っていっていますけどね。新築の家が建ったり、アパートが建ったり…。」片岡さんは言う。

今回京都の町屋に触れることで、その背景にある文化や暮らしまでよく見えたように思う。
古民家再生というと、建物自体のハード面ばかり見えがちだが、住み継がれてゆくというソフト面の継承でもある。
取材中、前の住人の時に貼ったのであろうシールを見て、みんなで笑い合った一コマがあった。あえてそれは剥がさずに、その上に歴史を重ねてゆく住まい方を平野さんは推奨する。この取材を経て、築年数とか中古住宅、古いから壊すという意味が分からなくなった。むしろ古い方が歴史があって楽しい。筆者もそんな家に暮らしたいと思う。

2015年 02月18日 11時05分