京都 西陣にできた「食と趣味」がテーマのシェアハウス

単なる全面改装ではなく、随所に古い建物のエッセンスが残している。写真は個室内の開口部。建具類がそのまま流用されている単なる全面改装ではなく、随所に古い建物のエッセンスが残している。写真は個室内の開口部。建具類がそのまま流用されている

京都市営地下鉄烏丸線「今出川」駅下車。今出川通を西へ徒歩約13分。「京だんらん西陣千両ヶ辻」は物件名にあるように、西陣織等の織物産業が集中する西陣エリアにある。

この物件も、以前は生糸関連の問屋として使われていた。近年は問屋としては利用されておらず、土地建物の有効活用としてシェアハウスにリノベーションされた。物件のプロデュース/施工/運営を行うのは京都市内を中心に京町家や中古住宅のリノベーション事業等を行う株式会社八清(はちせ)。本物件のように敷地の奥行きが間口の10倍以上もある「ウナギの寝床」の京町家は、「一戸建てとして賃貸」「アパートの建設」「戸建て分譲」等が困難。そこで同社は、シェアハウスとして賃貸物件にする事を提案し、オーナーにとっても経済合理性が高いプロジェクトとなった。

また、その事により建物を取り壊す事なく街並を保全する事も叶い、「京町家に住みたいけれど一戸建ての賃貸は経済的に無理」という層に対して物件供給も実現、オーナー、地域住民、賃借人の「三方良し」のプロジェクトが実現した。約37坪の広い庭と、土塀でできた蔵もシェアできる本物件のテーマは「食と趣味」。庭は菜園として利用される予定だ。

外観はそのまま、玄関を開けると新築物件のような風情

玄関に入ってすぐの吹き抜けを見上げる。火袋と言われる部分。白い真新しい壁の色と構造材の黒の対比が印象的だ玄関に入ってすぐの吹き抜けを見上げる。火袋と言われる部分。白い真新しい壁の色と構造材の黒の対比が印象的だ

道路から眺めるとごく普通の京町家。美装だけが施された外観は街並にとけ込んでいて、とくに目立つ建物ではない。

しかし、玄関を開けて中に入り、ほぼ全面的にリノベーションが施された内装をみると、大変存在感がある事がわかる。仕様/設備は一新されているが構造は従前の京町家のものをそのまま利用している。火袋として薪等を燃やしていた場所と考えられる天井部が高いところは吹抜けとして利用、敷地の南側には細い一本の通路があり最奥部の蔵、庭迄続く。京町家の構造は新築として建てられる賃貸物件では見る事のできないものであり、一般的な既存住宅を手直ししたシェアハウスとしてみるととても「違和感」がある。この「違和感」は住む人の感性を刺激し、飽きのこない住まいを構成する要素となる事であろう。

賃料は60,500円/月から、個室には京野菜の愛称がついている

各個室の前に掲げられ額の中にはお部屋のニックネームである京野菜が描かれている。写真は万願寺とうがらし各個室の前に掲げられ額の中にはお部屋のニックネームである京野菜が描かれている。写真は万願寺とうがらし

「京だんらん千両ヶ辻」に用意された個室は8部屋(約4.1帖〜約6.2帖。約4.1帖と約4.5帖の部屋にはそれぞれ約5.3帖と約3.6帖のロフトがつくため、実質一番小さい部屋は約4.8帖となる。

部屋には部屋番号の他に京野菜の「ニックネーム」がつく。202は万願寺とうがらし、203は壬生菜、204は賀茂茄子。ちなみに九条ねぎは成約済、聖護院大根は商談中であった(2013年8月24日現在)。部屋の入口にはニックネームの絵柄が描かれたプレートが飾られている。価格は60,500円〜71,500円/月(他に9,000円/月の共益費が必要)。どう程度の金額を出せば周辺では1LDK程度は借りる事ができる金額だ。

しかし、それをもってこの「京だんらん西陣千両ヶ辻」の賃料が高いとは言えない。共用部分の充実度合いを考えると、共同生活への抵抗感が無いのであれば、むしろこの価格設定は安いともいえる。

充実のキッチン、特注木製テーブルにホシザキの業務用冷蔵庫

ダブルシンクの広々キッチン。この規模のキッチンを手に入れる為にはファミリータイプの住戸を借りる必要があるダブルシンクの広々キッチン。この規模のキッチンを手に入れる為にはファミリータイプの住戸を借りる必要がある

共用部分に目を移す。

「食と趣味」をテーマにしているだけあって、キッチンの充実が目に留まる。オーブンレンジを挟んで両サイドにシンクがすわる。冷凍庫1台に冷蔵庫が2台、いずれも業務用機材で有名なホシザキ製のもの。ほかにもコーヒーメーカー、炊飯器、トースター、各種調理器具が並ぶ。ダイニングには、この建物に合わせて木工屋にオーダーしたナラ材のかなり大振りなダイニングテーブルが鎮座している。ダイニングチェアは8脚。それでも、ダイニングキッチンの広さは約16帖、隣接する4.5帖の和室と合わせ20帖大の空間あるので、決して窮屈には感じない。ダイニングテーブルの背面の壁にはホワイトボードが設置されており、清掃員からの伝言メモが残されていた。

互いを本名ではなく部屋につけられたニックネームで「かぼちゃさん」「ごぼうさん」等と呼び合い、一緒に食事を楽しむひととき。そんなシーンが目に浮かぶようなダイニングキッチンだ。

付属の蔵は、創作活動やコミュニケーションの場として利用可能

2階建ての蔵がある。1階(写真)は書斎や収納スペース、2階はフリースペースとして利用可能。エアコン設置済。2階建ての蔵がある。1階(写真)は書斎や収納スペース、2階はフリースペースとして利用可能。エアコン設置済。

清潔で独立感のある個室、共同利用に適したキッチンや浴室。シェアハウスとしてはそれだけでも充分魅力的なのだが「京だんらん西陣千両ヶ辻」にあって他の物件に無い最大の魅力は、蔵。もともとあった蔵を入居者で利用する事ができる。2階建てになっている蔵の中には部屋毎にスペースが割り振られている収納部分もあるが、注目は広々とした空間に座椅子が4つ置かれているフリースペース。仲間内での音楽会やDVD鑑賞会、もしくはコレクションを出し合ってのプチ個展や共同書架など、様々な事ができそうだ。本物件のテーマである「食と趣味」、入居者の「趣味」は、この蔵で発信できそうだ。

「京だんらん西陣千両ヶ辻」は22歳から40歳までの単身の社会人が対象のシェアハウスである。入居者の多様性を保ちながらも、生活リズムのズレがでないようにと配慮した結果である。京都に住んでみたい、町家に住んでみたい、シェアハウスにすんでみたい、そんなワガママな希望を持つ単身社会人にとっては嬉しい物件だ。

取材協力:株式会社八清 http://www.hachise.jp/

2013年 09月12日 11時29分