「先進的窓リノベ事業」制度の背景とは
日本の住宅における断熱性能の重要性は、ようやく認識されてきたという段階だ。
その中でも壁・床・天井の断熱に比べて、開口部である窓の断熱性能の重要性がなかなか浸透してこなかった。住宅の熱損失のうち、約5~6割が窓などの開口部から生じているとされているにもかかわらず、一般的な住宅では、単板ガラスやアルミサッシが主流であった時代が長かった。
ようやく、新築住宅においては、樹脂サッシやトリプルガラスの採用が徐々に広がり、断熱性能の底上げが進んでいる。しかし、欧州などの寒冷地と比較すると日本は地域差が大きく、温暖地では依然として断熱性能に対する意識が高くないこともありコスト優先の傾向が残るため、とくに既存住宅については普及のスピードにはばらつきがある。
近年、省エネルギー政策の強化や脱炭素の流れを受けて、断熱における窓の重要性は高まってきている。国は省エネ基準における断熱等級の引き上げや補助制度の拡充を進めており、特に既存住宅に対する支援として「先進的窓リノベ事業」をすすめてきた。
2023年にスタートした先進的窓リノベ事業は窓改修に特化した最大200万円という補助制度設計で、それまで限定的だった断熱窓リノベの需要が顕在化し、特に内窓設置が普及する契機となった。その後、2024年から2025年にかけて制度は継続・拡充。住宅省エネキャンペーンの一環として他制度との連携も進み、住宅全体の断熱性能向上を後押しする仕組みへと広がっている。
そして2026年度の制度は、それまでの“まずは着手をする”段階から次の段階に入る。
補助水準の最適化を通じて「補助に頼って普及させるフェーズ」から「市場として自走するフェーズ」への移行がみえる仕組みの制度となっている。窓の断熱化が一部の先進的な取り組みではなく住宅リフォームにおける“標準的な選択肢”となるよう、定着を目指した施策となっているようだ。
「先進的窓リノベ2026事業」制度の概要
それでは、「先進的窓リノベ2026事業」の制度(正式名称は「断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業(先進的窓リノベ2026事業)」)の概要を紹介したい。
予算規模は1,125億円(令和7年度補正予算)。補助対象は戸建、集合住宅によらず、既存の住宅および非住宅建築物(※建築基準法において第一種低層住居専用地域および第二種低層住居専用地域に建設することを認められている用途。詳細については事務局のウェブページを参照)に行う開口部の断熱性能を向上する事業であり、補助対象者は工事発注者等となっている。(※ただし、先進的窓リノベ事業(令和4年度補正予算第2号)、先進的窓リノベ2024事業(令和5年度補正予算)および先進的窓リノベ2025事業(令和6年度補正予算)において、補助金の交付を受けた開口部に係る事業を除く)。
補助額は補助対象工事により設置する製品の性能と大きさ、工事の工法および製品を設置する住宅等の建て方に応じた、製品ごとの補助額(定額)の合計。補助の上限額は、住宅1戸あたり100万円・延床面積240m2以下の非住宅建築物1棟あたり100万円・延床面積240m2を超える非住宅建築物1棟あたり1,000万円となっており、2026年の特徴としては非住宅建築物も対象となったことだ。例えば、教育施設(学校や保育園など)や医療施設(診療所など)や他施設(高齢者施設など)も含まれていることが新しい。
詳しくは、事業概要を詳細に説明した事務局のページを参考にしていただきたい(※住宅省エネ2026キャンペーン 先進的窓リノベ2026事業 事業概要ページ)。
また、補助金の交付申請については「みらいエコ住宅2026事業(環境省・国土交通省)」、「給湯省エネ2026事業(経済産業省)」及び「賃貸集合給湯省エネ 2026 事業(経済産業省)」と連携し、これら事業において申請のワンストップ対応を予定している。
「先進的窓リノベ2026事業」とは ~対談:環境省・寺井氏×日本サッシ協会・山本氏
「先進的窓リノベ2026事業」の開始にあたり、環境省 地球環境局 地球温暖化対策課 住宅・建築物脱炭素化事業推進室長 寺井 徹氏と一般社団法人 日本サッシ協会事務局長 山本 英司氏をお招きし、日本の住宅断熱の現状や先進的窓リノベ2026事業がもたらす効果についてお話を伺った。
-なぜ脱炭素施策として、窓リノベーションの補助事業を行ったのでしょうか?
寺井氏: 住宅の熱の6~7割は窓から逃げていると言われています。私自身、冬はこたつで寒さを我慢するのが当たり前だと思って育ちましたが、実は窓を変えればその生活は変えられます。窓による断熱効果を身をもって知る機会がない方々にも、行動変容を促し、窓の改修をしてもらうための政策として、窓リノベの補助事業が始まりました。
山本氏:世界保健機関(WHO)は住宅の最低温度を18度以上にするよう強く勧告していますが、日本は鎌倉時代の徒然草にあるように「夏を旨とすべし」という考え方があり、寒くても冬は布団や暖房に頼る文化でした。欧米の窓が「Wind-hole(風の穴)」を語源とする壁の穴であるのに対し、日本の窓は柱と柱の間の「間戸」から発展したという歴史的な違いもあります。日本は空気の通り道として隙間をつくるという文化でしたが、今や新築住宅の断熱性能が向上する中、既存住宅の断熱性能を引き上げることは重要です。そして、それはまさに空気・温熱環境を守る「窓」の改修が最も効果的で着手しやすい部分なのです。
-今回の先進的窓リノベ2026事業と過去の事業との違いはどういったものでしょうか?
寺井氏: 2026事業は、前年と比較して補助額を少し減額しています。これには、高水準の補助が継続して存在すると改修が後回しにされてしまうこともあるため、「早めに着手してほしい」という、カーボンニュートラルへの到達スピードを上げるための隠れたメッセージが込められています。また、今回から住宅だけでなく、診療所や幼稚園、高齢者施設といった小規模な非住宅建築物も補助対象に拡充された点が大きな変更点です。
山本氏: 今回の事業のなかでも、業界側がありがたかったのは「内窓」よりも向こう30〜50年を見据えた「外窓交換(取り替え窓)」の補助額がある程度キープされたことです。環境省が窓の性能向上による長期的な価値を理解してくださっているあらわれだと感じました。
-この事業には省エネだけではない、住宅性能を高める狙いがあるようですが?
寺井氏:この事業は環境省の「脱炭素」、経産省の「省エネ」、国交省の「良質な住宅ストックの形成」、さらには厚労省の「健康(室内環境)」という、各省庁の異なる目的が「住宅性能全体を良くする」という一つの方向で合致している事業なんです。
山本氏: 実は若い世代は、新築住宅の性能があがったことも背景にあり、断熱性の高い暖かい家で育っている方が増えています。そうした方が単身で古いアパートなどに住んだ際、初めて厳しい寒さや結露を経験して驚くという話も聞きます。今後は、ストック住宅の中で窓の重要性を実感する世代がどんどん増えていくと思います。
「脱炭素社会に向けた窓と住宅」 ~対談:環境省・寺井氏×日本サッシ協会・山本氏
-先進的窓リノベ事業は、住宅業界においてどのような効果があるとお考えでしょうか?
山本氏: かつてのリフォームといえば、キッチンやお風呂、トイレといった水回りの「営繕」が中心で、窓はガラスが割れたら直す程度の存在でした。しかしこの十数年で、断熱性を上げるための窓や壁の改修がリフォームの大きなカテゴリーとして確立しています。最近では、窓リノベの工事を行った事業者がお客様から「暖かくなった、ありがとう」と感謝されることが増え、単なる工事から「提案型営業」へと業界の意識が変わってきています。
寺井氏:これまであまり意識されていなかった「窓の改修」という新しい市場に、ビジネスチャンスが生まれました。ZEHの普及などを受けて新築住宅業界の断熱に関する知識が変わったように、リノベーション業界や中古流通業界の意識も大きく変わっている実感があります。
-この事業制度が効果的な制度になるためには何が必要だと思いますか?
山本氏: 現在の窓リノベ市場は、どうしても「補助金でいかに安く内窓をつけるか」という価格競争に走りがちな側面があります。しかし本来は、窓を変えることでエネルギーロスが削減でき、ひいては健康につながるというGX(グリーントランスフォーメーション)の本質的な価値があるのです。それを、業界全体で愚直に発信し続けなければならないと考えます。
寺井氏:断熱性能は目に見えないため伝わりにくいという点ですが、例えば消費者が「健康にいいから」と機能性食品を選ぶ感覚に近いのかもしれません。窓も「機能を持った製品」として“健康や快適性のために選ぶ”というアプローチができるとよいのではないでしょうか。窓が住宅の環境に大きく関係していることが伝わるといいと思います。エアコンを買い替えるタイミングで「一緒に窓を換えてみませんか?」と提案するのも一つの手ですね。
- 脱炭素社会に向けた窓と住宅の未来をどのようにお考えでしょうか?
寺井氏:2030年、そして2050年のカーボンニュートラル目標に向けて取り組んでいく必要がありますが、補助金による支援はいずれ終わる時がきます。その時になっても、「エアコンの効きが悪いから窓を換えよう」というように、当たり前のように窓がアップデートされていく社会基盤を作っていきたいと考えています。
山本氏:メーカー側も窓の高性能化に向けた開発を続けています。例えば、トリプルガラスは重くて施工が大変だという課題に対し、極薄の真空ガラスを組み合わせて軽くしつつ性能を引き上げるなど、技術革新がまだまだ進んでいます。窓リフォームの伸び代は大きいと思っています。
寺井氏:「窓を変えることは、暮らしと社会を同時に変えること」 だと思います。先進的窓リノベ2026は、まさにその第一歩です。補助制度という絶好の機会を活用し、一人でも多くの方に快適で健康的な住まいを手に入れていただきたいと思います。
「先進的窓リノベ2026事業」補助金の交付申請について
さて、実際の「先進的窓リノベ2026事業」補助金の交付申請についてだが、交付申請等の手続きや補助金の消費者等への還元は、施工事業者等(あらかじめ「窓リノベ事業者」としての登録が必要)が行う。消費者等は、自ら申請できないので注意が必要だ。
詳しくは、環境省の「先進的窓リノベ事業2026」の補助金の交付申請のページを参考にしていただきたい。
交付申請のフローは以下の図となっている。
交付申請の予約受付期間は、申請受付開始日(2026年3月31日)〜遅くとも2026年11月16日まで(予算上限に達した場合は当該時点まで)となっており、交付申請受付期間は、申請受付開始(2026年3月31日)〜遅くとも2026年12月31日まで(予算上限に達した場合は当該時点まで)となっている。
いずれも予算上限に達した場合は締め切られるため、注意が必要だ。
対談にもあったように、「窓を変えることは、暮らしと社会を同時に変えること」 であると意識しつつ、補助金制度を賢く活用していただきたい。
■取材協力・取材資料
環境省「先進的窓リノベ2026事業」
https://window-renovation2026.env.go.jp/
日本サッシ協会
https://www.jsma.or.jp/











