夢をかなえてくれたコーポラティブハウス

今回取材をしたコーポラティブハウスの外観。窓の位置や大きさが各階毎に異なっているのがわかる。今回取材をしたコーポラティブハウスの外観。窓の位置や大きさが各階毎に異なっているのがわかる。

「夢をかなえてくれたのがコーポラティブなんです」。満面の笑みで馬場さんは答えてくれた。コーポラティブとは、コーポラティブハウスの略で「注文住宅のマンション版(株式会社キューブのWEBサイトより)」である。名前は知っていても、その内容迄はあまりよく知られてはいないコーポラティブハウス。一体どのようなものなのだろうか?(以下、コーポラティブハウスは「コーポラティブ」と表現する)

住宅購入予定者が建設組合を設立して自らが事業主となるコーポラティブは、広さ/間取り/仕様等を自身で決める事ができるのが大きな特徴だ。マンションデベロッパー等の事業者が分譲する一般の分譲マンションと違い自由度が高い一方、購入予定者が集まらないと事業が進まないといったリスクがある。また、一般の分譲マンションより手間がかかる上に通常のマンション分譲とは違ったノウハウも必要となる為、コーディネーター役となる設計事務所等が限られ、供給される物件は大変少ない。日本の市場で最大級の実績をもつ一社、株式会社アーキネットでも1995年の創業から2014年3月現在まで実績は97棟、しかも一棟当りの戸数が10戸未満となる小規模物件が多く、供給総戸数では1,000戸にも満たないと推測される(同社WEBサイト調べ)。

そのような環境の中、一般の分譲マンションを中心に3~4年間物件を探し続けた馬場さん。エリア、広さ、価格帯に見合った物件で、かつ思い描いた間取り/仕様のマンションに巡り合えず一戸建ても止むなしと考え始めた頃、コーポラティブ形式のマンションに出合った。幸運といえる。「車でも色やオプション装備が選べるのに、大きな買物である住宅でそれができないのはおかしい」と考えていた馬場さんにとってコーポラティブは、まさに夢を叶えてくれる物件だったのだ。今回の取材では、入居して1年が経過した馬場さんに、コーポラティブとの出会いから住まい心地までを伺った。

不安、そして「生活に家を合わせる」という覚悟

今回お話を伺った馬場さん。この部屋に住みだして丸一年が経った。今回お話を伺った馬場さん。この部屋に住みだして丸一年が経った。

馬場さんにとってコーポラティブの印象は、初めはあまり良いものではなかった。自宅に折り込まれたチラシを見て真っ先に頭に浮かんだのは「なんでこんなに安いのだろう?」。掲載されていた価格は周辺の新築マンション相場と比べて一割以上も安く感じられる。好きな間取り/設備/仕様が手に入るのなら高くなるはずなのに。広告主も名前の通った大手デベロッパーではない。にわかに信じる事ができなかった馬場さんだが、一般の分譲マンションの「間取りに自分の生活を合わせる」ということが我慢できない以上、これはチャンスだと考え10万円の申込金を入れて申し込む。その時は「最悪、申込金の10万円を捨てればいいだけ」と腹をくくったそうだ。申込金の10万円は、キャンセル時には返却されるべき金額なのだが、それを捨てる事も覚悟したというのは、その話がいかに馬場さんにとっていかに夢のような話、信じられない話であったかという事がわかる。

そこから馬場さんとコーディネーターとの長い付き合いが始まった。竣工引渡迄に住戸内の設計・仕様等の打合せは約20回程度。モデルルームを作らないため広告宣伝にかけるコストが抑えられる事、モデルルームが無くてもショールーム等に行けば現物を確認する事ができる事等をコーディネーターから繰り返し説明してもらった。当初抱いていた不安は、次第に無くなっていった。

だが、新たな不安も有った。間取りを自由にできるとなったら、途端に何をしていいのかがわからなくなった。こんな設備が欲しい、こんな感じのリビングがいい。漠然とした希望はもちろん有るのだが、それを図面に落として施工するにはカウンターの高さ、収納の奥行きや幅等、全ての寸法を決定する必要がある。それらの全てに対して答えを持ち合わせてはいない。「設計者には私の生活はわかりません。自分がよく考えないといけないと思い、住まい方の洗い出し、まずは、持ち物の棚卸しから始めました」(馬場さん)。というわけで、家具類を一つずつチェックし、大きさや個数を全て洗い出し、何を残し何を捨てるかを精査した。家具・家電レベルに至る迄調べたというから驚きだ。その膨大な作業を行い、設計者とともに間取り/収納の作り込みを行った甲斐もあり現在の間取りは「住み始めてからの後悔は一切無い」と馬場さんは言い切る。手間を厭う人には無理だが、自分と家族の生活にしっかりと向き合い「生活に家を合わせる」覚悟を持った方にはコーポラティブはお勧めだ。

コーポラティブの肝はコミュニケーションに有り

無垢材のフローリングとアイランド形キッチン。個性的なLDKは家族みんなのお気に入り。無垢材のフローリングとアイランド形キッチン。個性的なLDKは家族みんなのお気に入り。

コーポラティブは集合住宅である。専有部分以外に共用部分が存在する。共用部分の作り込みもまた入居予定者の仕事だ。部屋内ならば寸法や仕様等の目に見える部分だけを決めれば良いが共有部分はそうはいかない。ゴミ収集やエントランスの清掃等の共同生活のルールから物件の名称迄、決めるべき項目はたくさんある。馬場さんの物件でも、建設組合の会合として都合約7回の集会が持たれた。見ず知らずの他人といきなり濃い内容の打合せを行う事への不安は無かったのか? 馬場さんの答えはいたって前向きだ。「一緒に住む事になる人と事前に顔合せできて良かったです。引っ越す前に、性格や家族構成がわかり顔と名前が一致してましたから」。

7回の打合せの中には、大変シビアな内容も有ったと聞く。この物件は当初3月入居予定だった。その予定がずれ込んだのだ。これには入居予定者もまいった。入居時期がずれると何かと段取りが狂う。キャンセルを考えた入居予定者もいたらしい。しかし、ここでも馬場さんはポジティブシンキング。「トラブルを事前に経験できたよかった」。なかなか言える言葉ではない。

トラブルが発生するのは嬉しいものではない。できれば無い方が良い。しかしマンション事業のような複雑な事業ではトラブルが全くないとはいいきれない。では契約から引渡の間にトラブルが発生すればどうなるか? 通常の分譲マンションであればマンションデベロッパーという不動産のプロが、契約者の手を煩わせる事無くおさめようとする。契約者に対して問題が顕在化しない場合がある。それに比べてコーポラティブは、コーディネーターというプロが入る事には変わりないが、当事者はあくまで入居予定者であるため現場でおきた事は必ず顕在化する。通常の分譲マンションだからトラブルが少なく、コーポラティブだから多いというものではない。通常の分譲であっても起きる時には起きる。自身が当事者として事の解決にあたらなければならない分、コーポラティブは手間がかかる可能性があるのは確かだ。しかし、マンション入居後は通常の分譲マンションであれコーポラティブであれ、大規模修繕等将来的に所有者で乗り越えるべき壁が必ず来る。その時、多くのマンションではぶっつけ本番でトラブルにのぞむ事になる。考えるだけでも不安だ。コーポラティブのように事前に手間をかけ入居予定者同士がコミュニケーションをとることは、大変有意義な事であるといえよう。

鉄棒に抜け穴、コーポラティブならここ迄できる!

鮮やかなブルーの天板に黄色いカーテンが映える!鮮やかなブルーの天板に黄色いカーテンが映える!

馬場さんのお部屋、本当によく工夫されている。無垢のフローリングにアイランド形のキッチン、作り付けの収納棚に壁一面の本棚。多くの人が「一度やってみたい」と憧れるようなことが色々なところで実現されている。天井に渡された木製の飾り梁、一枚物の板で作られた大きなダイニングテーブル。ふんだんに使用されている木は「国内の林業を応援したい」ので国内産を使用。フローリングの木は河内長野産の杉の木を使っている。通常の分譲マンションではおそらく見かける事ができない間取り、そして素材へのこだわりだ。「コーポラティブハウスのモデルハウス」ともいえるセンスの感じられる部屋である。

この素敵な部屋づくり、参加したのはご主人と奥さんだけではない。2人のお子さんも参加した。「勉強に集中できるのはブルー」という意見を取り入れ、子供部屋の書棚と机の天板は鮮やかな青色に。広々としたリビングは「お部屋でキャッチボールがしたい」という希望を斟酌してのこと。また、子供ならではの視点と思えた箇所が部屋内に二つあった。一つは「秘密の抜け穴」。子供部屋から洗面室迄の間、梁下のデッドスペースを利用して大人1人が体を横にしてギリギリ抜ける事ができる程度の通路が約2m。周辺の空き地の秘密基地すらままならない時代、自宅に秘密の抜け穴とはしゃれている。このスペース、子供が大きくなっても収納として使えそうだ。二つ目はまさかの「鉄棒」設置。長男と次男の部屋の真ん中、天井を見上げるとそこにはなんと鉄棒があった。相当な加重がかかっても落ちないように補強を入れた上で設置された鉄棒。自由にできる、とわかっていてもここまでの自由な発想は大人にはなかなかできない。

パック旅行より自由旅行、そんなあなたはコーポラティブ向き!

作り付けの書棚にはご主人の仕事関連の書籍が多く並んでいた。書棚の向こうには鉄棒で遊ぶ息子さんが見える。作り付けの書棚にはご主人の仕事関連の書籍が多く並んでいた。書棚の向こうには鉄棒で遊ぶ息子さんが見える。

打合せの手間やトラブルの説明が幾分多くなったが、それも自分の好きな間取り、仕様、設備を手に入れるための苦労と考えて欲しい。その苦労とて単なる苦労に終わらず、入居者同士の絆を深め将来の資産価値の維持を実現するための礎となる。住戸の打合せ約20回程度、建設組合の集会約7回程度、それ以外にも設備仕様を決める為のショールーム訪問等は多数あり。その上で手に入れた納得の住戸。住民同士のコミュニケーション、家族の対話、暮らしの見直し等の、出来上がった住戸だけを見てもわからない副産物もいろいろある。コーポラティブには、「注文住宅のマンション版」だけでは語り尽くせない魅力がある。

そんなコーポラティブについて馬場さんがおもしろい意見を語ってくれた。「分譲マンションがパック旅行とすれば、コーポラティブは手配旅行です。通常の分譲マンションに比べてコーポラティブは自由度が高くて安くつく」。全く言い得て妙である。時間をたっぷりかけてでも自分好みのものを仕上げたいという人は多いはずだ。昨今のリノベーションブームからも推察できる。手間暇かかることだって楽しみのうちである。手間暇かけるのが嫌い、もしくは手間暇かけることができないという人は通常の分譲マンションにすればよい。どちらが良いという話ではなく、住宅を探している人の選択肢を増やすという意味合いにおいて、コーポラティブハウスはもっと普及してほしい集合住宅の形式である。


取材協力
株式会社キューブ
http://www.cube-3.co.jp/

2014年 10月27日 12時14分