足元では住宅需要を確実に弱める少子化&人口減が現実のものとして進行中

2019年末に衝撃的なニュースが飛び込んできた。
厚生労働省が昨年末に公表した2019年の人口動態統計の年間推計は何と86.4万人。過去最低の91.8万人を記録した2018年から5.92%の急減で、1899年の統計開始から90万人を下回ったのは初めてのことだ。出生数と死亡数を比較した人口の自然増減は、マイナス51.2万人と初めて50万人を超え、政府はさまざまな対策を講じているものの少子化・人口減に歯止めがかかるどころか、加速する感さえある。

出生率は過去最低を記録した2005年の1.26から徐々に回復し、現状では1.42(2018年)となっているが、3年連続低下していることもあり、2019年の出生率もさらなる低下が予測される。
このように少子化と人口減、および相対的な高齢化が進む社会においては、住宅需要が先細ることは確実だ。毎年1月に公表される住宅新設着工数(年次)は2018年に94万2,370戸と前年比2.3%減を記録しており、2年連続して減少している。10年後の2030年には60万戸程度まで落ち込むとの予測もあり、住宅産業はこの少子化および人口減の影響を直接的に受けることになる。
政府は、深刻化する少子化問題に対策を取りつつ、住宅市場においてもフローからストックへの移行を意図してさまざまな施策を実施してきた。

例えば中古住宅(イメージを考慮して国が「既存住宅」と言い換えていることも対策の1つ)のインスペクションについて宅建業法を改正し、不動産会社がその可否を売主・買主に対して告知する義務を課したり、「安心R住宅」の普及を図ったりすることも行われてはいるが、どれも周知すら徹底されておらず、決定力不足で世間の耳目を集めるような制度としては機能していないという現状がある。

依然として日本人は「新築信仰」が強く、また瑕疵担保責任期間(=保証期間)が新築は10年なのに対して中古は不動産会社が売主のケースで2年、個人間売買であれば民法上は任意規定であって契約でどのようにでも制限可能(買主が了解すれば、だが)という状況であり、新築と中古というティピカルな見方をするとその品質以上にサポート体制を含めた制度上の違いがあると言わなければならない。

首都圏では新築マンションと中古マンションの市場規模が逆転&継続

2020年も中古マンションの市場が拡大基調で推移する可能性は高い2020年も中古マンションの市場が拡大基調で推移する可能性は高い

少子化および人口減が続くなかでも新築住宅購入意欲は依然衰えない状況にあるが、それでも首都圏では2016年以降、新築マンションと中古マンションの新規供給と流通戸数において3年連続して中古マンションの戸数が上回っている。

数値からはフロー(新築)からストック(中古)へという図式が定着しているように見えるが、実際には地価の上昇や建築費の高騰、資材価格の高止まりなどによって新築マンションの価格の上昇傾向に歯止めがかからず、当然に販売戸数を調整する局面が続いているという新築市場の抱える問題がある。
また、2000年代に突入した直後から約10年間継続した新築マンション大量供給時代(年間8万戸~9万戸超の供給が続いた)に分譲されたマンションが”中古適齢期”に入って市場流通し始めた、という事情もあり、新築と中古の数が逆転したものと考えられている。

さらに、2019年10月に消費税が10%に引き上げられたことも新築市場には逆風となっている。住宅ローン減税期間を10年から13年に延長するなどの購入支援策も導入されているが、10月以降の新築マンション販売戸数は月間2,000戸超のペースに鈍化しており、供給に急ブレーキがかかっている。

このような市場環境を考慮すれば、(中古マンション自体の魅力が高まったという認識には至らなくとも)新築マンションの供給は頭打ちで、2020年も相対的に中古マンション市場が拡大基調で推移する可能性が高い。

リフォームやリノベーションを施して住み方の自由度を高めることができ、新たにマンションを建設するよりも環境負荷をはるかに小さくできる中古マンションを購入することが、経済的にも環境的にも合理性の高い選択であることに気づいている情報感度の高い購入者が今後も増えることが考えられ、きっかけはどうあれ本格的にフローからストックへの移行が発生するものと考える。

ただし、新築マンション市場は大手デベロッパーの寡占化が進行しており、例えば最大手の三井不動産は2019年11月に公表した中間決算(4~9月)で売上高8,887億円(+3.3%)、営業利益1,186億円(+5.8%)といずれも前年から順調に伸ばしていることからも、企業単体の収益は衰えておらず、新築マンション市場が縮小と大手の寡占化が並行するものと考えられる。

賃貸市場は新規供給が減少する可能性。ただし賃料相場には大きな変化なし

一方の賃貸市場には、あまり良い材料が見当たらない。
かぼちゃの馬車問題を契機とするスルガショック=アパート建設・投資の仕組みに関する社会の懐疑的な目の払拭や、一連の建築基準法違反による賃貸住宅の収益性と安全性を天秤にかけた供給の実態解明など、課題山積の状況だ。

それでも、このような「事件」にかかわらず少子化・人口減が続く中で都市部への人口流入は継続しており、賃貸ニーズは都市部で旺盛なままだ。最も社会増(転入者数と転出者数の差による)が多いのは言うまでもなく東京都(約8万人)および東京23区(6万人超)、加えて周辺を囲む神奈川県(約2万4,000人)、千葉県(約1万2,000人)、埼玉県(約2万5,000人)であり、2019年1月に公表された移動人口も首都圏(1都3県)では合計約14万人もの転入超過が発生している。
愛知県(約3,000人)、大阪府(約2,400人)、福岡県(3,000人弱)でも転入超過が発生しているが、これらを含めて転入超過の都道府県はわずか8自治体にとどまり、残りの39自治体は社会減となる転出超過の状態にあるから、地方圏は少子化に加えて過疎化にも備えなければならないことになる。

反対に上記の都市圏に所在する自治体は、転入超過によって少子化や人口減少の現実に直面する状況には至っておらず、賃貸住宅に対する需要も堅調だ。
したがって、海外からの移住者も含めて人口流入が多く発生している上記エリア(もっぱら首都圏に限られる)では、賃貸住宅の需給バランスが多少悪化することが推測され、それに伴って賃料が強含みになる可能性も指摘される。

賃貸市場こそ、便利なだけでなく良質で安全性の高い(もちろん法規を遵守して建設されることが大前提となる)住宅が求められているのであり、2020年以降は賃貸住宅の品質向上と、転入者を支援する賃貸住宅家賃補助事業の一層の拡充が必要となる。

都市部では賃貸住宅に対する需要が依然高いまま推移するため、賃料相場が軟調に推移する可能性は基本的にない。むしろ交通利便性と生活利便性のバランスが良いエリアでは需給がひっ迫する可能性が高く、賃料水準は上昇することが考えられる。

少子化・人口減が続くなかで都市部への人口流入は継続している少子化・人口減が続くなかで都市部への人口流入は継続している

五輪後のマーケットがシュリンクする可能性は?

言うまでもなく2020年は東京五輪、パラ五輪が開催される年であり、世界中から1,500万人以上の来場者が見込まれていることからも、地域経済が大いに潤う可能性が指摘されている。

ただし、住宅産業に関しては民泊やシェアハウスなどにおける短期賃貸などに影響すると見られるものの、定住者の増加とは結びつかないため、住宅市場全体に与える影響は軽微だ。
巷間言われるところの五輪後の住宅市場がシュリンクするリスクについては、確かに一部機関投資家に早めの転売を検討する動きがあるものの、ごくわずかであり、マーケット全体に影響するような規模にはなっていない。

また、すでに五輪後を見据えた開発に着手する動きも出てきており、ホテルなどの宿泊施設、空港や駅、その他のインフラにコンスタントな設備投資が行われている状況を鑑みると、住宅市場を含めて不動産業界の市場規模がシュリンクする可能性は低いと考えてよい。

前述のように、新築マンションの市場規模は首都圏で3万戸超の供給水準で安定しており、五輪後に選手村が分譲仕様で販売されるほか賃貸物件としてもリリースされることが決まっていることからも、汎地域的な動きとは別に、東京およびその周辺エリアでの住宅需要は堅調に推移する可能性が高く、大きな変化はないと考えられる。

憂慮されるのは、「東京」と「東京以外」の供給面や価格水準の違いだ。
東京とその周辺エリアでは転入超過が継続し、五輪ほかのビッグイベント開催によって集客機能が高まり、物販、宿泊、飲食業などが収益を高める好循環が生まれているが、地方圏を含む「東京以外」はこれらの需要が顕在化せず、一部インバウンドによる経済効果が示されるのみで、地域経済は少子化および転出超過による人口の社会減によって年々疲弊している。

これを格差というならば、格差は毎年拡大している感が強い。この「東京」と「東京以外」の格差もしくは格差感の是正が今後あらゆる業界・業態に求められていくことになるだろう。

2020年一番の注目ポイント。民法改正が不動産市場に与える影響は小さくない

今年は4月に民法のうち「債権法」と言われる契約分野の法律が大改正される。
民法上の責任には瑕疵担保責任、不法行為に対する責任、債務不履行責任があるが、このうち瑕疵担保責任という概念がなくなり、替わって「契約不適合責任」に統一される。

民法改正については、「2020年4月の民法改正。不動産会社と売主はしっかり理解しないと困ることに」に詳しく記したので参照いただきたいが、一言で言えばこの民法改正によって、相対的に売主の責任がこれまでよりも問われる場面が増えることになりそうだ。

売主が所有する住宅を売却する際には、契約書や重要事項説明書だけでなく、申告書や付帯設備表に至るまで、住宅の状況を細大漏らさず記して買主と情報を共有することがとても重要になる。
売主について売買のハードルが精神的にも物理的にも高まれば、不動産会社の対応すべき項目も相応に増えることになるから、改正後は中古住宅流通市場において混乱が生じるのは必至となる。このことが中古住宅の流通件数に影響するかどうかは別として、少なくとも実際の売買においては買主に対して説明責任を尽くすことが優先されるため、インスペクションや瑕疵保険の活用も含めて1つ1つの売り案件に時間がかかることは想像に難くない。

したがって民法改正によって生じる中古住宅の品質チェックが発端となって、市場全体の動きは若干鈍くなることが予想される。物件流通価格にダイレクトな影響はないものの、築年数や交通条件など誰の目から見てもわかりやすい指標によって価格が形成されるのではなく、物件の個別性と何よりも状況をありのまま情報提供するという姿勢が求められることになる。
民法改正によって、結果的に中古住宅の品質が担保され、将来にわたって取引の安全が保たれることになれば、改正直後の若干の混乱は避けて通れない道と考えるべきだろう。

2020年は子年。相場格言では「繁栄」とされる。ネズミが多産であることからそれにあやかる格言だが、繁栄に向けて早くも市場では東京五輪、パラ五輪開催後を見据えた展開が聞こえ始めている。

指摘したように、消費増税後の新築市場の足踏みと民法改正による中古市場の混乱、そして移動人口の多寡によって発生する地域格差の拡大など、いずれも市況を大きく変化させる可能性を含んでいるし、その背景には少子化と人口減の社会構造があり、労働集約産業とされる不動産・住宅業界もAI化、ブロックチェーン化などによって人手をなるべくかけずに対応する必要に迫られている。

2020年以降、日本の総人口が減少するなかで住宅はどう売買され、賃貸されるべきなのか、これまで機能してきた仕組みが通用しなくなる前提で考える必要がある。

2020年は民法改正が不動産市場に与える影響にも注目したい2020年は民法改正が不動産市場に与える影響にも注目したい

2020年 01月02日 11時00分