「新築信仰」が依然強い日本でストックを活用する市場に変えるために必要な「基本計画」だが…

住生活基本計画とは「住生活基本法」に基づき、国民の住生活の安定の確保及び向上の促進に関する計画を策定するものだ。

現行の基本計画では、
1)若年・子育て世代や高齢者が安心して暮らすことができる住生活の実現
2)既存住宅の流通と空き家の利活用を促進し住宅ストック活用型市場への転換を加速
3)住生活を支え強い経済を実現する担い手としての住生活産業を活性化
を柱として住宅セーフティネットの強化、高齢者向け住宅の新ガイドライン策定、空き家の抑制、既存住宅流通とリフォーム市場の20兆円産業育成、などを掲げている。

共通点としてはフローからストックへという市場構造の変化を促すものとなっているが、既に日本は65歳以上の高齢者が28%超を占める高齢社会であり(2018年9月現在)、生産年齢人口の割合を増やすためにも若年・子育て世帯に「必要とする質や広さの住宅」を提供することが急務となっている。しかし「子育て世帯における誘導居住面積水準達成率」の成果指標が2025年時点で50%では、子育てしやすい環境を提供するには程遠いといわざるを得ない。

また、リフォーム市場規模も毎年6.5兆円前後で横ばい推移(矢野経済研究所による推計)、既存住宅取引数は2015年度の17.3万戸から2016年度には17.8万戸と微増に留まっており(不動産流通推進センター調べ)、20兆円市場に育てるには相当の時間がかかりそうだ。

「少子化」「高齢化」「空き家」「マンション老朽化」など我々の住生活環境には問題が山積しているが、これらの課題は先送りされ、数値目標も達成される可能性はきわめて低い。要は住生活の課題を掲げているだけで解決への具体的方策に乏しいというのが現状だ。

住生活に関して今後具体的な方針は策定できるのだろうか。また、抜本的な解決策を生み出すためにはどのような考え方をとる必要があるのか。
住宅政策に詳しい専門家の意見を聞く。

「新築信仰」が依然強い日本でストックを活用する市場に変えるために必要な「基本計画」だが…

新築住宅を上回るインセンティブを既存住宅の取得やリフォームに付与すべき~田村 修氏

<b>田村 修</b>:株式会社不動産経済研究所 取締役編集事業本部長。1960年生まれ。青森県出身。出版社勤務などを経て、1985年4月に㈱不動産経済研究所入社。日刊不動産経済通信の記者として不動産関連業界や行政を取材。総合不動産会社やマンションデベロッパー、不動産仲介会社、マンション管理会社、ハウスメーカー、大手ゼネコン、Jリート、アセットマネジメント会社、国土交通省、内閣府などを担当。2008年2月日刊不動産経済通信編集長、2015年5月取締役編集・事業企画部門統轄。2017年2月取締役編集事業本部長。2019年2月日刊不動産経済通信編集長兼任田村 修:株式会社不動産経済研究所 取締役編集事業本部長。1960年生まれ。青森県出身。出版社勤務などを経て、1985年4月に㈱不動産経済研究所入社。日刊不動産経済通信の記者として不動産関連業界や行政を取材。総合不動産会社やマンションデベロッパー、不動産仲介会社、マンション管理会社、ハウスメーカー、大手ゼネコン、Jリート、アセットマネジメント会社、国土交通省、内閣府などを担当。2008年2月日刊不動産経済通信編集長、2015年5月取締役編集・事業企画部門統轄。2017年2月取締役編集事業本部長。2019年2月日刊不動産経済通信編集長兼任

日本の住宅政策は戦後の絶対的な住宅不足に対応していた時期までは何とか機能していた。代表的な制度が住宅建設計画法に基づいて第8期まで行われた住宅建設五箇年計画だ。しかし、住宅の量が充足したので、今度は住宅の質を良くしていこうと方向転換した頃から、住宅政策が宙に浮き始めたように感じる。それまでの主導型だった政策が後追い型に変わってしまった。
ないものを大量に供給するのは得意だが、すでにあるものを変えたり、うまく利用するように誘導することが苦手なのだ。それは新たに開発したり、供給した方が儲かるという住宅・不動産業界の体質とも符合している。住宅の流通やリフォームを牽引している大手仲介会社やリフォーム会社はほぼ例外なく大手デベロッパーや大手ハウスメーカーの子会社である。独立した企業ガバナンスでビジネスが行われているとは言い難い。

新築の住宅は常に必要であるが、住生活基本計画が謳っている既存住宅流通市場とリフォーム市場の拡大を図るためには、古いストックを大切に使うという文化を根付かせることが肝要だ。その上でストックを長く持たせるための技術を育て、変化する時代や社会のニーズに応えられるデザイン力を育成し、そうした技術やデザイン力で磨かれたストックを流通させる市場をつくっていく必要がある。

かつて新築住宅の市場を創出したように、既存住宅流通・リフォーム市場を本気で整備したいのであれば、新築住宅に与えている各種優遇政策を上回るインセンティブを既存住宅の取得とリフォームの実施に対して付与するべきである。とりわけ、セカンドハウスやゲストハウス、リゾート物件などを含めた複数の既存住宅取得とリフォームに対する税制優遇措置は必須であると考える。

住宅選択のあり方を変えていくことが近道である~室 剛朗氏

<b>室 剛朗</b>:J-REIT草創期より金融機関系シンクタンクで不動産証券化関連業務に従事。現在、(株)価値総合研究所にて、不動産投資市場・低未利用不動産再生・被災地復興まちづくり事業・駅周辺再開発・既存住宅流通に係る調査・コンサルティング業務に従事。麗澤大学経済社会総合研究センター客員研究員室 剛朗:J-REIT草創期より金融機関系シンクタンクで不動産証券化関連業務に従事。現在、(株)価値総合研究所にて、不動産投資市場・低未利用不動産再生・被災地復興まちづくり事業・駅周辺再開発・既存住宅流通に係る調査・コンサルティング業務に従事。麗澤大学経済社会総合研究センター客員研究員

住宅政策には課題が山積しており、全方位的な抜本解決策がある訳ではない。しかし、少子高齢化とそれに伴う地域住民の年齢構成の変化が、多くの問題の根本となっていることは間違いない。

少子高齢化を是正するためには、若年・子育て世帯に広い住宅を提供すべきとの指摘はもっともである。しかし、現実には都心部では住宅価格が高騰しており、それは望むべくもなく、中古住宅であっても、広いスペースを確保するのは容易ではない。

では郊外に…となるかというと、そういった流れに今はない。特に、共働き子育て世帯にとっては、業務地へのアクセスの良さが住宅取得における最も重要な要素である。また、他者とのリアルコミュニケーションこそがイノベーションの源泉である、とする考え方が、知的生産活動の集積地(都心部)での居住を促進している側面もある。このような理由により、都心居住者が増加している。

一方で、ICTの進展に伴い、オフィスでないとできない仕事は間違いなく減少している。実際に、東急電鉄が運営する「New Work」(会員制サテライトシェアオフィス)は2010年代半ばからわずか数年で100拠点以上、導入企業150社以上と急拡大している。立地拠点は吉祥寺・立川・町田・大宮といった後背地に比較的規模の大きな住宅ストックが集積する地域の中核駅にも存在する。働き方の変化はメガトレンドであり、今後も一層進展していく可能性が高い。

こうした社会潮流の変化を受けて、住宅選択のあり方を変えていくことが近道であると私は考えている。例えば、郊外中核駅でサテライトオフィス等のリモートワーク拠点を整備(地域中核駅のワークステーション化)し、同地域のファミリータイプ戸建て等の住宅ストックの機能向上・再生を図り、子育て世帯等に優良な住環境を用意する。これが進めば、郊外住宅地で需要(子育て世帯等)と供給(中古戸建て等)のマッチングが起き、停滞してきた規模の大きな住宅ストックの流通を促すことができる可能性がある。また、地域住民の年齢構成のバランスの是正、若年・子育て世帯に必要な住宅面積の確保につながることが期待できる。さらに、共働き子育て世帯は親世帯との近居ニーズが強いため、親世帯との近居を促すことで、親世帯の安心・安全の確保に繋げていける可能性もある。

住宅政策という視点だけで、現在の課題を解決に導くのは容易でない。空き家問題にしても、住宅としての機能が失われたものを再生するには、住宅以外の用途への転換を促すほかない。とすれば、今後の住宅政策は、住宅以外の視点も含めて多面的に考えていく必要があるのではないか。

大胆なインセンティブで本気のストック活用を~藤代賢吾氏

2017年末時点で644万戸を超えるに至った分譲マンションストックの活用促進策について考える。

本気でストック社会にかじを切るのであれば、購入者や賃借人に思い切ったインセンティブ(誘因策)を与えるべきだろう。

直接の売買対象になる住戸に加え、マンション全体を評価する基準を設け、基準をクリアしたマンションを「指定」する。指定したマンションの住戸を購入・賃借する場合は、新築を上回る住宅ローン控除や家賃控除・補助などの優遇措置を施す、といった施策で、ストックに目を向けさせるのだ。

既存住宅の流通促進を目的に昨年「安心R住宅」制度がスタートしたが、ストック活用を充実・促進させるには、不十分だと考える。この制度をより深化させるイメージだ。

全体の評価基準は、ハードに加え、ソフト面を重視した内容とする。新築と比べてハードの性能では劣ることが顕著な既存ストックを評価するには、ストックが持つ、新築を上回る「性能」に着目し、その性能を積極的に評価するべきだ。この場合の「性能」は、住環境向上に向けた取り組み、すなわちソフト対応ということになるだろう。
具体的な項目は「25年以上の長期修繕計画がある」「管理規約がある」といった、ありきたりの低いハードルではなく、マンションの区分所有者で作る管理組合の取り組みを中心に評価する。高齢者の見守りや防災計画の有無、震災時における生活継続計画への取り組み、地域活動への参加状況など、住生活基本計画が重視する施策への「貢献度」を基に定めてもよいだろう。

ハード面では、省エネ性能を向上させる改修工事を実施しているかなど、こちらも国が求める住宅性能に近付けているかどうかなどの項目を設け評価する。

もう一方で、ストックを保有する側に対するインセンティブも設ける。分譲マンションでは、おおむね12~15年周期で「大規模修繕」と呼ばれる大掛かりな工事を行っているが、指定したマンションで大規模修繕を行う場合に、所得税減税や工事費に係る消費税分の一部補助などを行う。 

こうしたインセンティブは、ストック保有者にも、より質の高い維持管理を促進させる上でのモチベーションになり得る。
良質なストックになり得ないマンションを整理する、つまりマンションの「終活」に向けた支援も必要になることは言うまでもない。

藤代賢吾:(株)マンション管理新聞社が月3回発行する旬刊紙「マンション管理新聞」編集長。分譲マンション管理業の動向など分譲マンション管理に関するあらゆるできごとを20年以上にわたって取材。1999年から現職。2002年、マンション管理士資格取得。明治大学経営学部卒。東京都出身

2019年 03月31日 11時05分