地価は都市圏で回復基調、地方圏では空き家が増加する二重構造

令和元年版の「土地白書」が2019年6月に公表された。土地白書は、土地基本法に基づいて土地動向と政府が土地関連で実施した施策およびこれから実施予定の施策について公開する基本資料だ。

今回の土地白書は「人生100年時代」の到来で、土地活用、不動産活用を長期に渡って考えなければならない状況と、人口減少時代に地方圏を中心として増加する空き家についても解説している。

曰く、「世帯が所有する空き地面積は981Km2(空き地率8.6%)となっており、この10年間で1.4倍に増加している。また、全国の空き家の状況については、平成25年住宅・土地統計調査によると、空き家件数は約820万戸(空き家率13.5%)となっており、特に、別荘等の二次的住宅や、賃貸用・売却用の住宅を除いた「その他の住宅」は、この10年間で1.5倍に増加している。

「急速な少子高齢化が進展する中で、相続の発生等により、さらに増加することが見込まれている」と、その深刻さが淡々と語られており、「都市の中心市街地等においては、空き地・空き家等の低未利用の空間が小さな敷地単位で時間的・空間的にランダムに相当程度の分量で発生する『都市のスポンジ化』が進行している」との指摘も為されている。
空き家問題は既に地方圏に留まらず、都市圏、それも中心市街地でもスポンジ化との表現で確実に進行している状況が示されている。

空き家は、地域の防災・防犯においても障害となるだけでなく、生活環境にも決して良い影響は与えない。また老朽化した住宅がそのまま放置されていれば、景観の面でも衛生面でも、当然のことながら地域全体の地価推移を含めた経済的な側面においてもプラスに働くことはない。

2014年に「空家対策特別措置法」が制定された。空き家の除却を含めた対応や、空き家所有者を調査するための固定資産税納税者情報の活用などの法的枠組みも整備され、さらに2018年には「全国版空き地・空き家バンク」も運用が開始されている。空き家対策については、着々と新たな取り組みによって数を減らし、転用や受け皿をつくることが進められている。

しかし、根本課題としての「空き家にならないための方策」については所有権という強い権利を遵守し尊重する慣習・風土があるため、前出のように急速な少子高齢化と相続の発生が主な原因であるとの知見を公表しながら、現在のところ空き家になる前に何らか対策を講じるという状況には至っていない。

空き家をこれ以上増やさず、さらに有効活用するためにはこれまでの対策で十分なのか、果たしてドラスティックな方策が講じられる可能性はあるのか、空き家問題に詳しい専門家に聞いた。

地価は都市圏で回復基調、地方圏では空き家が増加する二重構造

「自分の実家問題」から考える「空き家問題」~村島正彦氏

<b>村島正彦</b>:有限会社studio harappa代表取締役。佐賀県生まれ。都市計画コンサルタント。著書に「自分スタイルの住まいづくり コーポラティブハウス体験記」廣済堂、「最強の住宅相談室」監修・ポプラ社、「実家の片づけ 活かし方」共著・日経BP社など。日経アーキテクチュアなど建築専門誌に住宅から建築構法、都市計画など幅広く執筆している村島正彦:有限会社studio harappa代表取締役。佐賀県生まれ。都市計画コンサルタント。著書に「自分スタイルの住まいづくり コーポラティブハウス体験記」廣済堂、「最強の住宅相談室」監修・ポプラ社、「実家の片づけ 活かし方」共著・日経BP社など。日経アーキテクチュアなど建築専門誌に住宅から建築構法、都市計画など幅広く執筆している

これから急激な人口減少社会を迎えるわが国において「空き家問題」について、俯瞰的に基礎的なフレーム・視座を示したのが、この「土地白書」ということになるだろう。
ただ、一方で、「空き家問題」についてはごく卑近な「私は何ができるのか」という個人の視点で考えてみるのも、もう一つの拠り所としてあり得るだろう。この分野に関わる専門家であれば、なおのことだ。
さて、私は現在52歳。大学進学を機に佐賀県武雄市から上京し、以来東京都に暮らしている。私が3人兄妹の長子で、2人の妹は神奈川県と佐賀県に暮らしている。老父母はともに今年83歳で、3人の子を育てた在来木造住宅(1975年建築)、つまり「実家」に暮らしている。私にとって目先の「空き家問題」とは、近い将来、親が亡くなると空き家化する「実家の問題」だ。

長くなるが、当面のところ辿り着いた「実家への処方箋」の経緯を紹介させていただく。
両親はともに公立学校の教員で、60歳の定年まで勤め上げ、定年後も週数日の軽い学務などを70歳くらいまで任されていた。
築年で分かるように、旧耐震で、冬には屋内でも吐く息が白くなるような無断熱の住宅だ。寒いのを理由に、私は年に一度程度の帰省は冬を避けがちだったほどだ。
両親が70歳前後の頃には、さかんに「耐震+断熱改修」を勧めた。地元で改修の経験も豊富な建築士に来てもらい、両親を引き合わせるなど、その気にさせるのに躍起になったものだ。しかし「これくらいの寒さは我慢できる」「お前たちは東京に出てしまったし、俺たちが死ぬまで持てばいい」と、その気のない両親を動かすには力不足だった。
健康的にあまり問題なかった両親も、後期高齢者となる75歳頃を境に、父は病気がちに、母には軽い認知症との診断が下された。この頃から、われら兄妹(この頃は妹ふたりとも神奈川在住)は、ローテーションを組んで頻繁に帰省し、様子を見守ることになる。以後5年は、両親を首都圏の介護付きホームなどに呼び寄せることも視野に入れて、年に一度くらい兄妹会議を持った。施設のパンフレットなども取り寄せ、入居条件などを吟味したものだ。
状況が変わったのは、下の妹が両親の面倒をみるために佐賀に帰る決断をし、実行に移したことからだ。この頃には、クルマの運転がおぼつかなくなり父は自主的に免許を返納、母も認知症で受診する医師に返納を勧められていた。最寄りのスーパーまで約5kmと、市街地から外れた集落の一角にある実家ではクルマのない生活は不可能に近い。(早く、自動運転が実現することを!)
妹が同居するようになり、約1年経過し、これは高齢に加え病気の影響もあるのだろうが、両親共にひとつしかないトイレ争奪問題が勃発した。これに対処するため、最初はトイレ増設改修など限定的リフォームの着想から、これは私の説得も功を奏し、10年前に構想した「耐震+断熱改修」を含む「水回り改修、模様替え」つまり、全面リフォームに結びつけることができた。
1,000万円超えの改修費、リフォーム前の膨大な家財・ゴミ処理、病気・認知症両親を抱えての2ヵ月の仮住まい…大小の課題があったが、妹の尽力もありこれを成し遂げた。
全面リフォームを終えて、1年半を経過した。地震に備え、全室冬は暖かく、夏も冷房の効きやすい快適な家となった。段差のないヒートショックの心配ない浴室、争わずに済む2つのトイレ(!)にはみなが満足している。いまのところ両親の介護度は低いが、居宅での生活を長くする可能性も高められた。そして、同居する妹にとってはインテリアも刷新した自室を得られ、気分一新したことだろう。
住宅としての性能向上、長寿命化を行えたことで、適切に維持管理すればさらに30〜40年は使えそうだ。仮に、将来、妹が住まなくなったとしても、中古市場での流通も見通せる。
それには、武雄市のこの10年程のまちづくり(TSUTAYA運営の「武雄市図書館」やICT教育改革などもあり「住みたい田舎」の上位に)や交通利便性(九州自動車道武雄ICや長崎新幹線開通予定、LCCの成田〜佐賀空港への就航など)も、このように考える背景としては大きい。
また、武雄市は2019年8月末に豪雨による広域浸水で激甚災害の指定を受けたことも記憶に新しい。幸い実家の場所は、市がつくるハザードマップでは浸水域ではなく、浸水被害は私の半世紀の記憶にもない。このような立地によっても、大規模リフォームなど空き家予備軍への追加投資の判断は分かれるところだろう。

いち私の経験の紹介ではあるが、空き家対策は、総合的でありつつ個別性も高い地域を含む家族問題に行き着く。
こうしたところから「空き家問題」を考える意味も決して小さくないように思われる。

空き家問題、多面的に分析しエリアに寄り添う対策を~篠木美由紀氏

空き家問題は、全国一律の対策ではなく、より多面的な分析をしたうえでのきめ細かい対策が求められる。

総務省が発表した平成30年度の土地・住宅統計調査から都道府県別の空き家率をみると、首都圏では空き家率の下落がみられた。東京都の空き家率は前回(平成25年度調査)11.1%に対して今回は10.6%で、埼玉県は前回10.9%、今回10.2%、神奈川県は前回11.2%、今回10.8%、千葉県は前回12.7%、今回12.6%と、いずれのエリアも前回の空き家率を下回った。
こうした大都市部の空き家の減少は、母数の住宅総数の伸びが鈍化したことに加え、人口流入で賃貸住宅の空きが埋まったためだと考えられている。
地方は、西日本での空き家率上昇が目立つ。特に全県で人口減少が進んでいる四国では、軒並み空き家率が上昇し、徳島県は前回の17.5%から19.5%に、香川県は17.2%から18.1%、高知県17.8%から19.1%、愛媛県17.5%から18.2%になっている。人口の増減と空き家率には明確な相関関係がある。
一方、賃貸・売買市場にある空き家と、マーケットに入ってこない本当に放置されている空き家とでは、これもまた対策は異なるはずだ。平成30年の調査では、空き家総数846万戸のうち、別荘や賃貸用・売買用の空き家を除いた「その他空き家」は全国に約347万戸ある。国土交通省は、この「その他空き家」のうち、木造の一戸建て住宅にいま焦点を当てている。その他空き家のうちの木造一戸建ては、前回調査の約220万戸から、今回調査で約239万戸となり、19万戸も増えた。その他空き家の木造一戸建ての流通を促進させようと、予算要求も行って、本格的な調査研究・モデル事業などを来年度から始める方針だ。

一般に空き家問題といってイメージされるのは「その他空き家」だろう。しかし、検討者にそっぽを向かれてしまうようなマーケット価値がなくなった空き家も、何もしなければ将来の「その他空き家予備軍」になってしまう。エリア性、市場性など多層な切り口で分析して、それぞれがリンクするような有機的対策を練る必要がある。同時に、新たな需要の掘り起こしとそれを支援する政策を進めることも重要だ。二地域拠点生活を支援し、1人の所有する住宅を増やすことも有効だろう。

篠木美由紀:不動産業界専門紙「日刊不動産経済通信」記者。同紙にてマンションデベロッパー、不動産流通業界などの分野担当を経て、2019年から行政担当。国土交通省の建設専門紙記者会に常駐し、不動産政策を中心に取材を行っている。税務専門紙記者を経験後、2011年株式会社不動産経済研究所入社。1977年生まれ、東京都出身。

外国人の住居問題の解決策として、空き家の利活用に期待~𠮷田 資氏

<b>𠮷田 資</b>:ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員。三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など𠮷田 資:ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員。三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など

総務省「住宅・土地統計調査」によれば、全国の「空き家数」は、1998年(394万戸)から2018年(849万戸)の30年間で約2倍以上増加した。空き家率(空き家戸数が総住宅戸数に占める割合)は上昇し続けており、2018年の空き家率は13.6%に達した。
「空き家数」を住宅の種類別に分けてみると、「戸建て」の「空き家数」は318万戸であったのに対し、「共同住宅等」の「空き家数」は530万戸となり、戸建てと比べて高い水準にある。
空き家対策に関して、2014年11月に「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下、「空家法」)が成立し、2015年5月に全面施行された。「空家法」では、各自治体が「空家等対策計画」を策定し、空き家対策に取り組むことを求めている。国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」によれば、2019年3月31日時点で60%の市区町村が「空家等対策計画」を策定済みとのことであり、「空家法」に基づく空き家対策は着実に進んでいる。しかし、建築物全体が空き家ではない「共同住宅等」は、空き家が多いのにも関わらず、「空家法」の対象に含まれていない。「共同住宅等」の空き家対策では、行政主導による解体等は難しいことから、「利活用」(空き家の利用および有効活用)を中心に検討しなければならない。

こうした中で、近年、急増している外国人をターゲットとした空き家の「利活用」が注目を集めている。マーチャント・バンカーズ(株)は、空き家を外国人就労者向けの社宅に開発して提供する事業を開始した。また、京浜急行電鉄(株)、横浜市金沢区、横浜市立大学は共同で、空き家となっていたアパートを大規模改修し、2017年に留学生向けのシェアハウスを開設している。

総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態および世帯数」によれば、日本人は減少し続けているのに対し、外国人が急速に増加している。このうち、若年層(15 歳~29 歳)と中壮年層(30 歳~64 歳)に着目すると、2013 年度を100 とした時、2018 年度の外国人の若年層は159、中壮年層も121 となり、特に若年層が大きく増加している。2019年4月に出入国管理法等が改正され、外国人労働者は更なる増加が見込まれている。
一方、「住居」に関する外国人受け入れの体制は、仲介の現場における言語対応等、不十分な部分も多い。外国人の住居問題の解決策の1つとして、空き家の「利活用」は有効と思われる。

空き家対策と「空家等対策特別措置法」について~国土交通省 石井企画専門官に聞く

「空家等対策特別措置法」制定を契機として特定空家等への対応が加速、相続時の税制特例も活用が進む

空き家総数が年々増加する傾向にあることが懸念されているが、数字だけで空き家はいけないものと考えるのは早計だ。例えば、一時的に居住者がいない状況になることは特に問題がなく、有効活用が可能な空き家は、むしろ資源・資産である。使えるものは使い、壊すべきものは壊すという見極めが重要だ。
一方で、問題視されるべきは、「空家等対策特別措置法」で規定された「特定空家等」に該当するような空き家。これは「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等」のことだ。周辺の生活環境を阻害する、言い換えれば近隣住民の迷惑になるような空き家。例えば、長年放置され壊れかけた空き家をイメージすればわかりやすい。
いずれにしても、使うか壊すかをして、「放置」をしないことが肝要だ。一般に、放置された空き家は、物理的な傷みが早いといわれており、特定空家等化を促しかねない。同時に、所有権の「放置」も課題。特に、相続時に放置をすると、法定相続で親族の共有財産となり、除却などの処分に合意形成が必要なほか、所有意識の希薄さから空き家の維持管理が疎かになる可能性も高まる。また、空き家になってから時間が経つほど、物置としか使われていない現状もあり、もはや有効活用は困難となる。

重要なのは、相続時に速やかに賃貸・売却をするか、相続人が居住するか、特定空家等など社会に迷惑をかける存在とならないよう放置をしないという当事者意識を持つことだろう。
とはいえ、処分や有効活用を考える時間的余裕がない、処分することには心理的な抵抗が強いなど、相続人にも放置をしてしまう事情が様々見受けられる。そこで、国では、相続時に「放置」しないインセンティブとして、相続時に速やかに空き家や除却後の更地を譲渡した場合に、譲渡所得を3,000万円まで控除する税制特例を設けている。その実績は、2019年度で関連手続きの件数が7000件を超え、この数は年々増加している。

また、有効活用に関しては、近年ではリフォーム、リノベーションの進展によってか、既存住宅志向も徐々に高まるなど、購入者マインドは大きく変化している。国の施策が既存住宅向けを充実させてきていることも、現状を後押ししているかもしれない。

「空家等対策特別措置法」の制定によって、全国の自治体が空き家対策に本腰を入れる契機となり、全国1000以上の自治体が既に法に基づく「空家計画」を策定し対策に乗り出している。
実際に法に基づいて助言・指導、命令、代執行などを行うケースは年々増えており、4年間で、助言・指導は、15,000件超、代執行(行政・略式)は165件に上っている。現状放置されている空き家への対応は、確実に進んでいる。
この法律も2020年で制定5年を迎える。市町村の意見などを踏まえて検討し、より実態に即した空き家対策を今後も実施していきたい。

■取材協力
石井 秀明:国土交通省 住宅局住宅総合整備課 住環境整備室 企画専門官。2019年4月より現職

2019年 12月02日 11時00分