2015年9月3日HOME'S総研が発表した“新たな都市データ”

1971年に来日したセルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンが表紙となっている1971年に来日したセルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンが表紙となっている

2015年9月3日、HOME'S総研は新しい調査報告書を発表した。
タイトルは、「SensuousCity[官能都市]-身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング」。

調査プロローグの「本プロジェクトの動機と調査設計の思想」の一部に今回の調査の動機を表す言葉が述べられている。『都市計画のいうまちの活気とはなんなのか。良好さとはいったいなんなのか。都市の魅力とはどのようなものなのだろうか。都市に生きる生活者として心地よい・楽しいと思えるまちと、都市計画や資本が考える良いまちの間に、埋めがたい大きなギャップがあるように思う。』とあるように、今までのまちや都市をはかる軸ではない、新たな都市への物差しを提示した調査データとなっている。

表紙に使われた写真は、1971年に来日したセルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンが東京のまちを楽しんでいる様子。生活者の実感として、“心地よい・楽しいと思えるまち”をどうはかったのか?

今回発表した都市をはかる新しい調査データについて、HOME'S PRESSオピニオンリーダーでもあるHOME'S総研所長 島原万丈氏にインタビューを行った。

生活者の実感値・体感値を入れた新しい物差しを提示

一年をかけて完成させたという調査データ。今回は、都市を題材に調査を行った一年をかけて完成させたという調査データ。今回は、都市を題材に調査を行った

-何故、今回都市をテーマとしたのですか?

「前職であるリクルート住まい研究所の時代から、一貫して“住宅”というところに向き合ってきました。2008年に『既存住宅流通活性化プロジェクト』、2010年には『愛ある賃貸住宅を求めて NYC, London, Paris & TOKYO 賃貸住宅生活実態調査』を手掛け、2014年HOME'S総研として発表した初の調査データは『ストック&リノベーション2014』をリリースしました。今回は、個人的にも初の挑戦でしたが都市をとりあげた調査を行うことにきめました。

その理由としては、住宅に向き合い住まいそのもののあり方を追求し続けてきましたが、かたや"どんなまちに住むか"ということについても住まいと非常に大きな関連性があると考えています。特に3.11の東日本大震災ではコミュニティなど地域の大切さについて見直しがされ、人口減少を背景に地方創生という言葉が注目されるなど、地域や都市に対する社会的関心が高まってきていると感じます。また株価があがりオリンピックも決まったころから、バブル期以来となる都市の再開発がまた随所で見られるようになってきました。都市の再開発については、様々な法律や規制もあるのですが、生活のにおいのあったところを更地にし、高層の建物を建て、同じような近代都市が造られている。それは、見慣れた愛着のある魅力的なまちがなくなりつつあるということでもあり、個人的にもおもしろくないなあ、と(笑)。

一方で海外の都市では、ジェイン・ジェイコブズの1961年の著書『アメリカ大都市の死と生』を機に近代的な都市計画に対しての見直しがされています。日本が現在推し進めようとしている都市計画との間に少なからず差が生まれている、と感じました。

住宅と都市の間は、きってもきれない深い関係があります。私は都市の専門家ではありませんが、今回は一つの挑戦として都市に対する魅力を生活者の実感値・体感値を入れた新しい物差しを提示してみよう、という初の試みを行いました。」

都市における人と人との関係性・身体性を"動詞"ではかる

-新たな都市をはかる基準となった調査項目について教えてください。

「いままで、行政や調査会社が行う“住みやすい街”の基準は、人口当たりの商業施設の数や世帯当たりの新設住宅着工戸数などではかっており、これは“より多く、より大きく”という成長時代の価値観ではかられています。また、多くのメディアが行う“人気の街ランキング”や“住みたい街ランキング”などは、“住みたい”“好き”というアンケート対象者の主観的なデータです。いずれも本当のまちの魅力からは多少ずれているのでは、という感覚がありました。今回は、そういった軸でなく“都市に人が生きている”ことを考え、その都市が人と人との関係性・身体性にどうかかわっているか、を調査しました。

『人間の街: 公共空間のデザイン 』を著したヤン・ゲールが都市の魅力を構成する要素は何か、ということについて触れています。根本には、ヒューマンスケールがあって、人がもつ五感のための街づくりがあり、それが人間にとって安全で魅力的な街に繋がるということが書いてあるのですが、そういったことをまちではかってみる試みをしています。

今回は、関係性と身体性を軸に8指標を調査をしました。それは、1)共同体に帰属している 2)匿名性がある 3)ロマンスがある 4)機会がある 5)食文化が豊か 6)街を感じられる 7)自然を感じられる 8)歩ける です。さらにその項目について、『~をしたことがある』という動詞ではかっています。」

-今回の調査で一番、苦心したところはどこでしたか?

「8項目を効果的にはかるための選択肢項目でしたね。プラン段階では、それこそ多くの選択肢がでましたが、予備調査では60個に絞り、さらに結果をみてわかりにくさやダブりを鑑み、最終的には32個に選択肢をしぼりました。」

都市の関係性をはかった指標項目(他に身体性をはかった項目もある)都市の関係性をはかった指標項目(他に身体性をはかった項目もある)

「愛する人に接するように、都市に接するべき」

-今回の調査データでご協力いただいた方について教えてください。

「冒頭にもお話したように、わたしも都市研究や都市工学の専門家ではありません。そのあたりは、現場や現実感をもって都市と向き合ってこられた大学教授の方々やまちづくりを推進されてきた方々をオファーしました。また、今回は都市と人と人の関係性・身体性というところで、社会デザインの研究者の三浦展さんと実際に街を歩いてみたり、文筆家の方に銭湯を通じてのまち視点を述べてもらったりと調査データをより実感化できる方法も取り入れています。」

-どんな方々に見ていただきたいですか?

「今回は、ランキングをつくりたかったわけではありません。より人間が、実感をもてる魅力のある都市とはどのようなものなのか…都市を見る価値や軸をずらしたかった。そういう意味では、実務として現在都市に向き合い関わっている方々、行政やまちづくりに携わる方々、少なからず都市計画に影響を与える不動産・デベロッパーの方々などに見ていただきたいと思っています。」

-最後に…今回の調査データ発表の感想とメッセージをお願いします。

「はじめて都市というテーマに挑戦をして、個人的には再デビューのような感覚です(笑)。自分なりに“まちを見続けてきた”つもりではあったものの、この調査を通じてまだまだ粗雑に扱っていたかな、と思い直しました。もっと感性を豊かにしなければと感じています。

この調査データの表紙を考えたときに、まっさきにセルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンが東京のまちを歩いている写真が思い浮かびました。この写真しかない、と思い事務所に交渉して写真の使用許諾を受けました。セルジュ・ゲンズブールを選んだのは、まさに人間の本能を体現したような存在だと思ったからです。

先ほど実務に関わる方々に見てほしいと言いましたが、住まいを考える多くの方々にも、ぜひ見ていただきたいと思っています。調査データではありますが、“もっと都市を愛でてほしい…愛する人に接するように、都市に接するべきだ”というのが込められたメッセージです。

この調査データから、少しでも“実感をともなった都市との向かい合い方”が生まれるとよいと思っています。」

写真左上)9/3に品川フロントビルのネクスト本社で行われた記者発表の様子。</br>記者発表会のパネラーの方々 右上)社会デザイン研究家であり株式会社カルチャースタディーズの三浦展氏</br>左下)株式会社メゾン青樹代表の青木純氏 右下)明治大学客員教授でハーツ環境デザインの鈴木俊治氏写真左上)9/3に品川フロントビルのネクスト本社で行われた記者発表の様子。
記者発表会のパネラーの方々 右上)社会デザイン研究家であり株式会社カルチャースタディーズの三浦展氏
左下)株式会社メゾン青樹代表の青木純氏 右下)明治大学客員教授でハーツ環境デザインの鈴木俊治氏

2015年 09月07日 11時05分