3年連続して中古マンション成約戸数が新築マンション供給戸数を上回る

2016年に首都圏で新規供給された新築マンション戸数は3万5,772戸、対する中古マンションの成約戸数は3万7,108戸だった。戸数にして1,336戸(3.7%)とごくわずかではあるが、中古成約戸数が新築供給戸数を上回ったのは、マンション市場始まって以来のエポックメイキングな出来事だった。

この逆転現象は翌2017年も続き、新築3万5,898戸に対して中古3万7,329戸、2018年には新築が3万7,132戸と前年から3.4%増加したものの、中古も3万7,217戸と前年並みの成約戸数(前年比99.7%)を維持したため、3年連続の“異常事態”が発生している。

この逆転現象の要因を新築マンション価格の急騰とする意見は多い。この3年間、確かに立地条件の良い都心~近郊の地価は上昇しており、建築費も人件費と資材価格の高値安定によって“適正価格”で分譲できる状況になかったのは事実である。

しかしながら、この間の中古マンションの成約価格は2016年3,049万円、2017年3,195万円、2018年3,333万円と上昇しているのに対して、2018年の新築マンション価格は5,871万円(前年比99.4%:単価は上昇)とわずかに下落している。つまり新築価格が下がって中古価格が上がったのにもかかわらず、戸数は中古が上回っているのだ。価格水準が違うものの、中古は価格が上がったのに成約戸数が増えるという「売り手市場」に変化しているように見える。
また、2000年以降大量供給されたマンションが十数年を経て「売却適齢期」を迎え、立地や広さ、利便性などのスペックにおいて現在分譲される新築マンションより優れていることが逆転現象の原因との指摘もある(2018年に新築価格が下がったのは供給立地の郊外化が指摘されている)。

さらに東京・晴海では三井不動産、三菱地所レジデンスなど11社のジョイントベンチャーで約13haに5,632戸の分譲・賃貸マンションと商業施設全24棟を建築する「HARUMI FLAG」構想が進んでおり、再び新築マンション大量供給の兆しも現れている。

果たして国土交通省の提唱するフローからストックへという住宅市場の転換が始まったのか、それとも新築価格が落ち着きを取り戻し、消費増税に伴う購入支援策の助けを借りて再び供給に弾みがつくのか、さらには市場構造が変化するのか、マンション市場動向に詳しい専門家に展望を聞く。

※首都圏(1都3県)の新築供給戸数および平均価格は不動産経済研究所、中古成約戸数および平均価格は東日本レインズの公表資料による。

3年連続して中古マンション成約戸数が新築マンション供給戸数を上回る

しばらく「逆転現象」は続きそう。これを不動産業の将来性の証と捉えたい ~吉野 薫氏

<b>吉野 薫</b>:一般財団法人日本不動産研究所 不動産エコノミスト。日系大手シンクタンクのリサーチ・コンサルティング部門を経て、2011年から現職。現在、国内外のマクロ経済と不動産市場の動向に関する調査研究を担当している。2016年度からは大妻女子大学非常勤講師を兼務。著書に「これだけは知っておきたい『経済』の基本と常識」(フォレスト出版)など吉野 薫:一般財団法人日本不動産研究所 不動産エコノミスト。日系大手シンクタンクのリサーチ・コンサルティング部門を経て、2011年から現職。現在、国内外のマクロ経済と不動産市場の動向に関する調査研究を担当している。2016年度からは大妻女子大学非常勤講師を兼務。著書に「これだけは知っておきたい『経済』の基本と常識」(フォレスト出版)など

良好なマクロ経済環境を背景に、新築マンションの分譲単価が高止まりしている。東京都心部の好立地物件では、富裕層や高所得者層などの需要が価格を下支えしている。また首都圏郊外部や地方中枢都市においても、特に「駅直結」などの特性を持つ物件については、従来の相場感を超える単価水準であっても売れ行きが好調な物件がみられる。
もっとも、多くの家計が緩和的な金融環境と雇用・所得環境の改善を享受しているとはいえ、一般実需層の住宅購入予算の伸びが新築マンション単価の上昇に見合っている訳ではない。相対的に単価の低い中古マンションや分譲戸建市場に向かって実需が染み出していることは致し方なく、またこのことは住宅市場が健全であることも示している。

一方、昨今の首都圏における新築マンションデベロッパーの動きを見てみると、立地条件の優れた物件を選別的に供給し、サイズをコンパクトにまとめながら総額を抑えつつも、決して売り急がず単価を維持する、といった戦略が垣間見える。
以上のとおり、需給両面の状況に照らして、首都圏マンション市場における新築と中古の「逆転現象」はしばらく持続する可能性が高い。
従来、政府は「既存住宅・リフォーム市場の活性化」に向けた取組みを進めており、住宅市場を巡る昨今の状況はその実現の追い風になっている。この潮流は社会厚生の面からも望ましいことであり、短期的なブームに終わることなく中長期的に定着するものと期待したい。ただし、新築住宅市場が将来的に縮小するはずだ、あるいは縮小すべきだ、との主張は不適当である。我が国の人口動態が変化し人々のライフスタイルが多様化する中、住宅に求められる立地、広さ、設備等々の諸条件も時代と共に変化している。これまでにない商品設計の新築住宅を供給することにより新たな需要に応えることもまた、社会厚生の増進にとって望ましいのである。

結局のところ、新築・中古を問わずとも、住宅市場に投資機会・事業機会を見出すことが不動産事業者の腕の見せどころであるとともに、そこには社会的な意義が確実に存在する。今般の「逆転現象」を単なるサプライズと捉えるのではなく、我が国の住宅市場には将来的な発展の余地があるという大きな命題を示す一つのエピソードであったと解釈したい。

首都圏の新築マンションの価格高騰は継続、当面大きな変化はないと見る ~松田忠司氏

<b>松田忠司</b>:株式会社不動産経済研究所企画調査部主任研究員。1974年生まれ、福岡県出身。東京理科大学理学部卒。2004年8月に株式会社不動産経済研究所に入社。以降、一貫して新築分譲マンションの調査に携わり、首都圏マンション・建売市場動向を毎月発表している。2012年10月から現職松田忠司:株式会社不動産経済研究所企画調査部主任研究員。1974年生まれ、福岡県出身。東京理科大学理学部卒。2004年8月に株式会社不動産経済研究所に入社。以降、一貫して新築分譲マンションの調査に携わり、首都圏マンション・建売市場動向を毎月発表している。2012年10月から現職

首都圏の新築マンションの発売はここ数年3万戸台の供給が続いている。2014年以降、建築技能労働者の不足などによって建築費が上昇したことでマンションの販売価格が高騰して2016年に3万戸台に落ち込むと、以後は3年連続で4万戸を下回っている。今のところ人手不足が解消する気配はなく、マンション価格は依然として高止まりの状態で再び下落する見込みは無い。それどころかターミナル駅の駅近など人気エリアの用地費の上昇によって、価格はさらに上がる可能性さえある。実際のところ、2017年に7,000万円を超えた東京23区の価格は2019年に入ってさらに上昇傾向にある(1~3月の平均価格は7,752万円)。

そしてこの価格高騰が続く限り、再び新築の供給が4万戸を超えることは考えにくい。湾岸エリアなどでの大量供給などによって一時的には4万戸を超える可能性はあるものの、それはあくまでも一時的な増加であり、すぐに3万戸台の供給に戻ることになるだろう。

4万戸を超える供給が長く続かないだろうという見方は、供給社数の減少を見るとより強いものになる。首都圏の新築マンションの供給社数は1994年に500社以上あったものの、大量供給期が終わりリーマンショックのあった2008年には227社とピークの半分弱にまで落ち込み、さらに直近10年間でも激減し、2018年には121社にとどまっている。今の首都圏の新築マンション市場は大手のシェアが非常に高くなっており、その大手が発売戸数を急増させるような動きは見られない。選手村跡地の注目物件「HARUMI FLAG」も周辺の物件の販売に影響が極力出ないよう、販売スケジュールは入念に調整することになるはずだ。

今年3月末が消費税増税の経過措置のリミットだったものの、駆け込みの動きはほとんど見られなかった。住宅ローン減税の拡充やすまい給付金の創設などが効いており、消費増税後の落ち込みも大きなものにはならないだろう。首都圏の新築マンションの供給は、当面のところ現状からそう大きな変化なく推移することになりそうだ。

この先も新築マンションと中古マンションの逆転が続く可能性は大 ~大久保恭子氏

<b>大久保恭子</b>:株式会社風 代表取締役、住生活コンサルタント。1977年日本女子大学家政学部住居学科卒、1979年株式会社リクルート入社。1987年「週刊住宅情報」編集長、2000年執行役員を経て2003年日立キャピタル株式会社入社、執行役員マーケティング担当、日本住宅ローン株式会社取締役兼務。2005年 株式会社風を設立し、住み手の視点から住宅・不動産メディアのプロデュース、マンション・戸建ての商品開発コンサルタントなどを手がける。2007年日本初の中古マンションの調査・評価情報サービス「マンション評価ナビ」を立ち上げ、国土交通省「長期優良住宅先導的モデル事業」に採択、都市住宅学会「業績賞」受賞。2011年住まいづくりナビセンター理事就任。公務として、国土交通省社会資本整備審議会委員、財務省財政制度等審議会国有財産分科会委員、東京都住宅政策審議会委員などの公務を歴任。
 主な著書に、『マンション選びは「立地」がすべて』(河出書房新社)など。その他、オールアバウトにて「賢いマンション選び」のガイドも務める大久保恭子:株式会社風 代表取締役、住生活コンサルタント。1977年日本女子大学家政学部住居学科卒、1979年株式会社リクルート入社。1987年「週刊住宅情報」編集長、2000年執行役員を経て2003年日立キャピタル株式会社入社、執行役員マーケティング担当、日本住宅ローン株式会社取締役兼務。2005年 株式会社風を設立し、住み手の視点から住宅・不動産メディアのプロデュース、マンション・戸建ての商品開発コンサルタントなどを手がける。2007年日本初の中古マンションの調査・評価情報サービス「マンション評価ナビ」を立ち上げ、国土交通省「長期優良住宅先導的モデル事業」に採択、都市住宅学会「業績賞」受賞。2011年住まいづくりナビセンター理事就任。公務として、国土交通省社会資本整備審議会委員、財務省財政制度等審議会国有財産分科会委員、東京都住宅政策審議会委員などの公務を歴任。 主な著書に、『マンション選びは「立地」がすべて』(河出書房新社)など。その他、オールアバウトにて「賢いマンション選び」のガイドも務める

基調原稿についての私の考えを、まず、買い手の視点から述べさせていただく。

昨今の買い手の住宅選択の優先項目は、広さ・設備・デザインより立地・アクセスとなっている。これは、仕事と子育てにおける利便性を重視してのことだ。加えて、老後の暮らしを支える資産としての価値が低下しないことも重視しての、立地・アクセスなのだろう。
「職育住近接」こそが、買い手の最大の選択基準なのだ。
したがって、まず職育住近接で住宅を選択するならば、多くの買い手は郊外より都心、一戸建てよりマンションを選ぶということになる。

次に都心のマンションに絞って検討するならば、新築か、中古か、の比較になる。この段階での選択の基準は価格だ。2018年の中古マンションの成約価格は上昇したとはいえ、3,333万円。対する新築の平均価格は5,871万円である。東京都の40代製造業の平均年収は714万円(平均年収.jpより)なので、中古は年収の4.6倍、新築はなんと8.2倍になってしまう。年収の4~6倍が無理せず買える価格水準だとすれば、庶民が中古を選択するのは理にかなっている。一方で新築マンションは、高年収の共働き夫婦・親からの贈与が期待できる日本人、富裕な外国人といった限られた人たち向けの高嶺の花となりつつあるのではないだろうか。

このように一般的な買い手の実感をつきつめていけば、この先も中古マンションの成約件数は新築を凌駕する可能性が高いといえるだろう。
それでは、新築マンションが値下がりすれば逆転もあるのでは?という声が聞えてきそうだ。
しかし、私は年収の4~6倍の水準まで都心の好立地・アクセスの新築マンションの価格が、値下がりすることはないように思う。その理由を売り手の視点から考えてみたい。

現在のマンション市場は、大手デベロッパー中心の寡占化状態になっている。が、かつては中小のマンション専業デベロッパーも入り乱れての競争原理がはたらく市場だった。中小のなかには、大手が見向きもしない変形、小規模の土地を取得し、特色ある商品企画のマンションを、割安感のある価格で販売して、買い手をつかむ兵たちが存在していた。大手と伍しての競争こそが、買い手が良い商品を安く買える市場を形成する原動力になっていたのだ。
ところが残念なことに、バブルの崩壊により多数の中小デベロッパーが倒産。生き残ったところもリーマン・ショック後には更に倒産、他社への身売りなどで、ほとんどが姿を消してしまった。その結果、発売戸数上位5社のシェアは、リーマン・ショック後の2009年25%、2012年40%、2017年45%(不動産経済研究所より)と寡占化が一気に進むことになった。この間、平均価格は2012年まではほとんど変わらず、2013年以降は上昇を続けた。2018年はわずかに下落したものの、以前高水準であることに変わりはない。寡占化が価格下落を抑制していることは否めないのではないだろうか。

寡占化した大手は資金力と政治力を活かして共同事業体を結成し、大規模な複合開発による高付加価値、高価格の新築マンション供給で市場を先導し続けている(それはそれで意味のあることだが)。
販売不振による多少の価格調整はあったとしても、高価格の水準はこの先も継続していくと考えられる。
ということで、新築と中古の逆転現象は、この先も続く可能性が大と考える。

4,000万円未満の新築マンション供給戸数の回復がポイント ~酒造 豊氏

<b>酒造 豊</b>:(株)長谷工総合研究所 取締役市場調査室長。1986年4月 長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。分譲マンション市場動向の調査・分析を担当。1994年7月長谷工総合研究所に配属。首都圏・近畿圏における分譲マンション市場動向中心に、住宅市場、不動産市場全般の調査・分析を担当。2001年6月より、不動産関連情報誌「CRI」の編集人を務めている酒造 豊:(株)長谷工総合研究所 取締役市場調査室長。1986年4月 長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。分譲マンション市場動向の調査・分析を担当。1994年7月長谷工総合研究所に配属。首都圏・近畿圏における分譲マンション市場動向中心に、住宅市場、不動産市場全般の調査・分析を担当。2001年6月より、不動産関連情報誌「CRI」の編集人を務めている

全国における分譲マンションストック数は2017年末で644万戸、そのうち半数以上は首都圏に存在していると思われる。分譲マンションのストック数は新築マンションの竣工によって、全国では毎年10万戸/年程度、首都圏でも2~4万戸/年積み上がっている。ストック数が増加すれば、中古マンションの発生率が一定としても、中古マンションの市場規模は拡大する。さらに、中古住宅・マンションに対する政策的な支援やリノベーション住宅に対する評価の高まりなどもあって、中古マンションの市場規模は順調に拡大しているといえる。
その一方で、新築マンション市場においても構造変化が起こっている。価格帯別の新規供給戸数をみると、4,000万円未満の一次取得者層向け住戸の供給戸数が大幅に減少している。2000年代前半には5万戸を上回る供給が行われていたが、2016年には1万26戸に減少し、さらに2017年は7,709戸、2018年は8,698戸と1万戸を下回る水準にまで減少している。新築マンション供給戸数の減少は4,000万円未満の供給戸数の大幅減が主因といえる。

近年、マンション購入者の意識も変化し、交通利便性や生活利便性を重視するようになり、用地取得競争も激化し、用地取得費も上昇している。加えて、建築費をみても資材価格や労務費などの高値安定といった状況を考慮すると、好立地での4,000万円未満の新築マンションの供給戸数が短期間で回復することは難しいと思われる。

大規模物件の供給等によって新築マンションの供給戸数が増加する可能性はある。しかし、4,000万円未満の新築マンションの供給戸数が本格的に回復しなければ、中古マンションに対する需要も根強いと思われ、中古マンション成約戸数が新築マンション供給戸数を上回る状況が継続する可能性は高いと思われる。

2019年 06月24日 11時05分