「住宅新産業研究会」とは

HOME'S PRESSでも、住宅をとりまく問題として日本の人口減少および少子高齢化の加速が引き起こすであろう様々な問題を取り上げてきた。労働人口の減少は、日本経済や人々の暮らしに大きな影響を及ぼすことは様々な専門家により報告されている。多くの人々がローンを組みながら住宅を取得する状況を考えると、上記のような環境は、最も大切な資産のひとつである住宅の価値が暴落してしまうのではないか、ということが懸念される。

2014年7月、上記のような問題解決のために“これから起こりうる社会の変化に対応した不動産業のあり方”を再度見つめ直し、生産性の高い新しい産業としての不動産業への成長を促進するための提案を行うことを目的に業界有志の私的研究グループとして、「住宅新産業研究会」が起ち上げられ、2015年10月まで7回にわたる議論を重ねてきた。

研究会のメンバーは、座長のシンガポール国立大学教授 清水千弘氏、早稲田大学客員教授 赤井厚雄氏、YKKAP株式会社リノベーション事業部営業統括部統括部長 山中智氏、日本レジデンシャル・セールスプランナーズ協会理事長 近藤紀一氏、ロイヤルハウジング株式会社代表取締役社長 木島寛氏、ソニー不動産株式会社代表取締役社長 西山和良氏、大和ハウス工業株式会社 マンション事業推進部業務管理部次長 安光哲夫氏、株式会社ザイマックス不動産総合研究所常務取締役 中山善夫氏、株式会社リクルート住まいカンパニー代表取締役社長 野口孝広氏、執行役員 関俊修氏、株式会社ネクスト代表取締役社長 井上高志氏、取締役 山田貴士氏、執行役員 田村剛氏、執行役員 伊東祐司氏。オブザーバーとして、あらた監査法人クライアント・マーケット・マネジメント 高橋諒氏、株式会社野村総合研究所上級研究員 谷山智彦氏、上級コンサルタント 金惺潤氏というメンバーが参加している。

そして、2015年11月11日、住宅新産業研究会による提言がまとめられ、発表された(※発表された提言は、こちら「透明で中立的な不動産流通市場の条件~情報流通整備と新産業の重要性」を参照)。
HOME'S PRESSではその提言内容を6回にわたり、おとどけしたいと思っている。その前に再度、提言の目的とその背景について、本研究会の座長でありHOME'S PRESSのオピニオンリーダーである清水千弘氏にインタビューを行った。

住宅新産業研究会の目的

今回、住宅新産業研究会で座長を務めたシンガポール国立大学教授 清水千弘氏今回、住宅新産業研究会で座長を務めたシンガポール国立大学教授 清水千弘氏

-あらためて、住宅新産業研究会の目的について教えてください。

「日本の人口減少および少子高齢化の加速により、労働人口の減少が日本経済や人々の暮らしに大きな影響を及ぼすことは様々な専門家により報告されています。このような中で、国民の最も大切な資産である住宅の価値が暴落してしまうのではないかということがささやかれています。そのような問題に対応するために、国家戦略としては2020年までに既存住宅流通市場とリフォーム市場を20兆円まで成長させるという目標が掲げられていますが、現在の状況ではきわめてその達成が困難であるといわざるを得ません。

一方で国民生活に目を向ければ、住宅ストック市場と家計との間に、資源配分の不一致が起こっていることも否定できません。具体的には、空き家が大量に発生するとともに、最も住宅需要が大きな世代に十分な住宅ストックが配分されることなく、また逆に大きな住宅需要を持たない世代に利用され続けられる、というようなことも続いています。

そのような資源配分の不一致が解消されれば、国民の社会厚生が大きく改善されるだけでなく、住宅市場が発生することが予見されているアセットメルトダウンを、抑制・緩和させることができるものと考えます。この問題を解決していくためには、住宅産業が果たすべき役割は極めて大きいと言えます。また、既存の住宅産業だけでは、この問題を解決することができない可能性もあります。このような問題に対応していくためには、一層強固な住宅市場を再構築し、家計・地域社会にとって重要な資産を守り続けることができるような社会インフラを整備していくことが急務です。具体的には、透明で中立的な住宅市場を構築する必要があります。

そこで、この問題を解決するために、既存住宅市場・リフォーム市場だけでなく新築市場・賃貸市場も含めて、住宅市場を適正な規模までに成熟させていく指針と、それを実現することを妨げている規制を改善するような政策要望をしていくことをしたいと考えました。それが、『住宅新産業研究会』を発足した目的です。」

情報流通整備と新産業における売り手・買い手の責任の重要性

-提言の核となるメッセージとは何でしょうか?

「研究会の目的でも少し触れましたが、既存の住宅産業のあり方や枠組みだけでは、この問題を解決することができない可能性について述べました。

提言の中では、9つの提案をしています。
提案1:不動産取引価格情報の整備と適切な開示
提案2:売り手・買い手・仲介業者の責任を明確にすると共に、インスペクションに代表される品質情報を生産する仕組みの一層の普及
提案3:製造段階、保有段階、流通段階など様々な局面で蓄積される情報を製造者、所有者、売り手のそれぞれの責任を明確にした上で情報を生産し、蓄積する社会システムの構築
提案4:開示が必要とされる地域情報を地域単位で定義し、それを整備すると共に消費者に対して提供する仕組みを創設する
提案5:低価格物件、無価値化物件が流通できるように、手数料体系の抜本的見直しを行うと共に、CtoC 市場の創設の阻害要因となっている制度改正を進める
提案6:海外からの投資、またはB&B(ベッド・アンド・ブレックファースト:朝食付きの宿泊施設)などに代表される新しい利用方法、リノベーションなどによる建物利用転換などを含む、住宅需要を拡大させる市場育成に努める
提案7:ビッグデータの活用と市場変革、生産性を向上させるために、データ間の融合が可能になるような情報流通の制度を設計する
提案8:不動産価格指数、リスク評価ができる情報インフラなどが開発できる環境を整備し、市場リスクを評価できる技術開発を進めることで、新しい金融市場が創設できるような情報インフラを整備
提案9:高度不動産人材の育成

どれも情報の整備や開示、情報インフラなど、他の産業構造の中でもイノベーションを起こしてきたものを提案に込めていますが、その中でも市場に対して不動産ならではの変革を起こす示唆として入れたのは、消費者、つまり売り手と買い手の責任について述べたことです。

日本の不動産市場は宅建業者の責任が大きく、今後インスペクションや不動産価格指数、リスク評価などを考えるとそれぞれのプロフェッショナルが市場で登場し、今まで以上に活躍していかなければならないことは必然です。ただ、不動産業に関わるプレイヤーだけでなく、そこに本来の意味での"資産を守る"視点でも売り手・買い手の責任を明確化し、消費者自体が育てていく成熟した市場を目指さなければ意味がないと感じています。

市場の主役はあくまで、消費者であるべきです。そのためにも情報を整備や開示はもちろん、消費者自身の意識や知識の向上・関与が、責任と共に今まで以上にあるべきだと思っています。」

「透明で中立的な不動産流通市場の構築」のために

-研究会において、複数回の議論を重ねてきた提言が及ぼす効果への期待を教えてください。

「研究会で発表した提言は、7回にわたる研究会での議論を踏まえて整理したものです。まだまだ、研究会の議論の中でも残された課題も多いのも事実です。まずは、研究会では問題の構造を明らかにすることに焦点を当てて、具体的な施策については、公的部門への要請を除いて、参加者を含む民間部門がそれぞれが考え実践していくことを促すことにとどめています。これからは、先に述べた9つの提案を実践するあらゆる機会が必要だと考えています。

実は、この提言の基本的な考え方については、2000年代初頭内閣府の総合規制改革会議の取りまとめをしていた時から提案していたものです。タイミング…という点では、中古住宅流通の活性化や空き家対策など、ようやく国としても本腰をいれて様々な改革に向けて動き出してきたこともあり、今を逃すといっそう日本の不動産業は山積みの課題を解決しないまま迷走することが懸念されます。

提言の内容を実践するためには、行政を含めた公的機関、民間、一般消費者すべてがこの課題に真摯に向き合い、課題解決に向けて協力しながら動くことが必要です。透明で中立的な住宅市場を構築していくためには、本研究会への参加者だけでなく、多くの方々が実践者となっていくことを期待したいと思います。」

※住宅新産業研究会 提言:「透明で中立的な不動産流通市場の条件~情報流通整備と新産業の重要性」

透明で中立的な住宅市場を構築していくためには、この提言にある提案内容を吟味し、</br>多くの方々が実践者となっていくことを期待したい透明で中立的な住宅市場を構築していくためには、この提言にある提案内容を吟味し、
多くの方々が実践者となっていくことを期待したい

2016年 01月12日 11時06分